僕の背中

ハジメユキノ

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風邪引きさん~秀人の場合~

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年が明けて寒さが厳しい如月に突入しようとする月末、秀人が体調を崩した。
「熱出すのなんていつぶりだろう…」
秀人は3月にある音楽堂のコンペの為に、ここしばらく毎日9時過ぎまで事務所にこもり、所員の二人とミーティングを重ねていた。家に帰ってからもパソコンに向かって仕事していたから、智也は注意して秀人の体調を見ていたのだけれど、とうとう心配していた事が現実になってしまった。
「う~ん…。38℃超えたね」
「そっか…」
秀人は普段びくともしないくらい健康そのものな分、風邪を引いたり、お腹を壊したりすると、こっちがびっくりするくらい落ち込むので、智也は熱も大体の所しか言わないようにしていた。
「死んじゃうかも…」
智也はこれだから秀人には熱が39℃あるとは言わなくてよかったと思っていた。言ったらもっと大騒ぎになるのが分かってたから…。
「とにかくあったかくして、クスリ飲んで寝なさい」
おでこに冷えピタを貼ってあげてから、キッチンで氷枕を作りながら言い聞かせた。
「は~い…」
大きな体で、ちょっと情けないくらい声が小さかったので、智也は笑ってしまった。
「ふふっ(笑)」
布団にくるまって寝ようとしていた秀人が智也の小さな笑い声を聞き逃さなかった。
「何で笑ってるの?」
「ん?」
「僕がへこんでるから?」
秀人も自覚はあるらしい。
「ていうか、声が小っさくて(笑)」
「だって病人だもん…」
いつも格好いいのに、ちょっと熱が出ると子供みたいになる。智也は可愛いなと思っていた。
「だもんって(笑)」
「智也嫌い…」
すねて智也に背中を向けたので、からかいすぎたと智也は秀人のおでこに優しく触った。
「ごめんて…」
すると智也が当ててくれたおでこの手を秀人が急に握った。
「ダメ。許さない」
「今日はダメだよ」
「添い寝は?」
「ん。いいよ。でもちょっと待ってね」
夜中に汗かいてもいいように、秀人の替えのパジャマと下着、タオルなんかをベッドサイドに用意してから秀人の隣に潜り込んだ。
「秀人熱いね」
「ごめんね。熱なんか出して…」
わがまま言って添い寝させたことをちょっと後悔しているようで、うつさないように壁の方を向いてマスクを外さなかった。
「疲れたんだよ。別に謝る必要ない」
「でも、僕がわがままで添い寝させてうつしちゃったら…」
「いいよ。うつしたら早く治るよ(笑)」
「…。やだよ。智也にはうつさないようにする」
頑なに壁の方を向いているのが可愛くなって、智也は背中に抱きついた。
「早くよくなるといいね」
自分の胸に回された手を握って秀人はあっという間に眠りに落ちた。秀人の規則正しい寝息を聞いている内に、智也もいつの間にか夢の中に旅立っていた。

翌朝、外は澄んだ空気が氷のように冷たくて、でも秀人の為に空気を入れ換えてあげようと思い切って窓を開けた。
「さむっ!」
熱い身体に冷たい外気が気持ちいいのか、秀人はスウスウ寝息を立てていた。
「昨日よりは下がったかな?」
おでこの熱は昨日ほどの猛烈な熱さはなく、でもまだ俺よりあったかいなと思っていた。すると布団から手がにゅっと伸びてきて、智也の手が捕獲された。
「わっ!びっくりした!」
秀人がニヤッと笑った。
「だって狙ってたんだもん」
「子供か!」
秀人が智也をベッドに引き込んだ。
「まだ寝てて」
「…。秀人、可愛いね」
可愛いって言われるのが癪に触るのか、秀人はムッとした。
「僕が可愛い?」
「知らないんだ。秀人は可愛いんだよ(笑)」
「可愛くない!僕は格好いいの」
「自分で言う?」
「だって智也が言ってくれたんじゃないか!」
ほんとに可愛い…。なにこの子供みたいな秀人!
「ちゃんと治したらご褒美あげるからね」
智也はこんな秀人、誰にも見せたくないって思っていた。
「ご褒美って?」
「それはちゃんと治ってからのお楽しみ♡」
「え~…。先に下さい…」
「何言ってるの!俺今日仕事だもん。早めに帰ってくるから、今日はクスリ飲んで寝てて」
「…。休めないの?」
うわっ!可愛い!何この上目遣い!やばい、休みたくなった!
「ん~…。無理」
「え~!」
まじで今日は休めなかった。俺も社内コンペの発表があるんだよな…。
「コンペの発表したら、残業しないで定時にあがれるから…」
「何時に帰ってくる?」
「うんとね。6時くらい」
「長いな~」
「ごめんね。休めなくて…」
秀人はいつもの魅力的な笑顔を見せた。
「嘘だよ。困った顔見たかったの」
そして、俺の頬をスルッと撫でた。
「いい子で待ってるから、早めに帰ってね」
俺の一番好きな秀人の綺麗なウインクを浴びて、頬が熱くなった。
「はい!ご飯用意しといたから、食べられそうなら食べてね!俺、そろそろ行ってきます!」
「いってらっしゃい(笑)」
赤くなった俺を見て、秀人はクスクス笑いながら送り出してくれた。

いつもより急いで帰ろうとする俺を見て、隣のデスクの瀬名が声をかけてきた。
「何?デート?」
ニヤッと笑いながら、慌てて帰ろうとする俺をからかってきた。
「違うよ。熱出して寝てるから心配で…」
瀬名は呆れた顔で、
「それはそれは…。お大事に」
「ありがと!じゃね!」
「ラブラブだなぁ…。くやしっ!」
瀬名は笑いながら手を振っていた。俺もつられて手を振った。

家に着くと、寝ているのかすごく静かだった。
「秀人?」
寝室のドアを開けると秀人の寝息が聞こえた。近づいておでこに触れるともう平熱に戻っていた。
「よかった…。治ってる」
その時、秀人の両手がにゅっと伸びて智也は捕獲された。
「やっぱり起きてた」
「バレてた?」
上着脱いでおいてよかった。しわくちゃにされちゃうもんな。
「昼間ずっと寝てて、汗かいて起きたら熱下がってたみたいで、気持ち悪かったからシャワー浴びてご飯食べた」
一日の報告までしてくれて、秀人は回復をアピールしてきた。
「治ったよ!ご褒美、何?」
「ん?何がいい?」
「え~…。智也が言い出したんでしょ?」
「…。俺?」
「いただきます!」
昨日まで高熱にうかされてた人とは思えないくらい元気だった。むしろいつもより元気?
美味しい唇を味わうようにペロッとなめて、思いっきり吸われた。欲しくてしかたないって言うかのように、深く舌を絡ませて上顎を責められて、智也は頭がボーッとしてきてしまった。
「ん…。智也、美味しい」
「俺、食べられちゃうの…?」
「据え膳我慢しちゃもったいないでしょ」
弱いところを指で弄られて、後ろが疼いてきた。
「智也も欲しかったんでしょ?」
その言葉に違わず、固くなったものを秀人はくわえて舌でいじめた。一緒に後ろも弄られてもう我慢出来そうもなかった。
「ね、もう…」
「もう…、何かな?」
「ねえ!意地悪言わないでよ」
「だって智也、僕のこと可愛いってからかったでしょ」
「も、入れて…」
秀人は俺が言い終わらないうちに俺の中に入ってきた。
「智也、可愛い…」
「意地悪だ…」
「違うよ。ほんとに可愛い!」
ゆっくり抜いてぐちゅんと深く入ってきた。
「あっ!ダメだ…俺」
「いいよ。イっても」
気持ち良すぎて息を飲んでしまった。目の前に星が飛ぶようにチカチカする…。
「智也…。ありがと」
秀人は愛しくてたまらないと智也の体を抱きしめた。智也はくったりと秀人に体を預けて放心していた。
「智也?大丈夫?」
「ん。秀人…。ほんとに病み上がり?」
「何で?」
「気持ち良かったけど…。意識飛ぶかと思った…」
「激しすぎて?」
智也は顔を真っ赤にして頷いた。
「だって欲しかったから…。好きだよ、智也」
「うっ、ずるい…」
秀人はおかしくてたまらないといった顔で笑っていた。智也は秀人には勝てないなと思っていた。
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