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ハジメユキノ

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ハルの春

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ハルは、あのまま家を出るときに「行ってきます」だけ言って学校に行ってしまった。
「からかい過ぎたかな…」
「大丈夫でしょ。恥ずかしいだけだよ」
「じゃあやっぱり…」
「それしかないでしょ(笑)」
二人の頭の中には、昨日の式典で隣に座っていた可愛い女の子が浮かんでいた。
「でもさ、何となく聞いてたけど、名前聞いてたよね」
「…ハルは下の名前しか聞いてなかったし、自分も陽斗としか名乗ってなかったでしょう?」
「なるほど」
それから周作も出かける時間になり、行ってきますのキスをして出ていった。雪は後で奏に話しておこうと思っていた。

ハルはお父さんとお母さんにバレバレだったのが不思議だった。何で分かっちゃったんだろ…。何にも言ってないのにな…。
授業中もずーっと考えていたから、先生に指されたときも気付かなくて叱られた。叱られてもあまり気にならず、帰ったら奏さんに電話させてもらおうと思っていた。

雪は奏にラインをしておいた。ハルが後で聞きたいことがあるんですと。するとすぐ電話がかかってきた。
「雪さん、昨日はありがとうございました。ハルくんは大丈夫でしたか?」
「何だかやり切った顔で帰ってきて、一緒に美味しいすき焼き食べて大満足だったみたい。でも、夜はあっという間に寝ちゃったの(笑)」
「頑張ったんでしょうね…」
「…。奏さん、ありがとうございます」
「えっ?私は何も…」
雪は奏のこういう無意識の優しさが大好きだった。
「あなたがいたから出来た事なのよ。あの人もこれで救われたでしょう?」
「…。ホッとしてました。会ってくれる訳ないと思っていたんでしょうね」
「私もほんとは五分五分だと思ってたの。でも、私がぶれたらうまくいかなくなると思って言わなかったの(笑)」
「!え~…。綱渡りでしたか…」
「いいの!結果オーライよ(笑)」
電話の向こうで奏が笑っていた。
「ところで、ハルくんが私に聞きたいことがあるって…。何でしょうか?」
「実はね…」

学校から帰ってくると、まだお母さんは帰ってなかった。いつものようにハチが玄関で迎えてくれた。
「ただいま!ハチ」
「ンニャ!」
頭をポンと叩くと、足許にまとわりつきながらリビングまで付いてきた。ハルが帰ってくるとおやつかな?と張り付いてくる。テーブルには、メモが置いてあった。
見るとハルとハチのおやつの事と、奏の携帯電話番号が書いてあった。ハチのおやつのチュールをお皿に載せていつもの定位置に持って行くと、匂いを嗅ぎつけてぴったり後ろを付いてきた。
「はい、おやつだよ(笑)」
例のごとく前足を膝にのせてから、5秒もかからずチュールは消えてしまった。
「早っ!」
ハチは満足したようで、前足を綺麗に舐めていた。
ハルはおやつよりも奏に電話する方を選んだらしく、電話の前で考え込んでいた。意を決して電話をかけようと、番号を間違えないように慎重に押していった。

「はい、羽田です」
「あの、僕、陽斗です。今大丈夫ですか?」
奏は、ハルがしっかりしていて微笑ましかった。
「大丈夫ですよ。ハルくんが聞きたいことがあるって雪さんに聞いてたの」
「ごめんなさい。忙しい時に」
「いいの!ところで聞きたいことってなんですか?」
ハルは急に恥ずかしくなった。
「いえ、あの…。あ…。昨日…」
「うん。昨日?」
「昨日…僕の隣の子の…」
奏は微笑まし過ぎて、笑わないようにするのに必死だった。
「隣の?」
「…隣に座ってた子の名前、知りたいんです!」
おー!男らしい!
「うん、分かりました。すぐには答えられないけど、いい?」
「はい!」
「じゃあ聞いてみます。一応個人情報なので、相手の子に聞いてからになるからね」
「はいっ!」
いい返事(笑)
「あとは大丈夫?」
「あの…。奏さんはあの…」
「うん?」
「奏さんは今…幸せですか?」
奏は今、浩介の隣にいた。浩介の顔を見て、微笑んだ。
「ええ、今すごく幸せですよ」
隣の浩介は黙って微笑んだ。
「良かった…。じゃあ、ありがとうございました。失礼します」
「はい、じゃあまた」
電話が終わると浩介は笑っていた。
「隣に座ってた子。可愛かったよ」
「見てたんですか?」
「うん(笑)」
「加賀美室長に活躍してもらいましょうか?(笑)」
「そうだな(笑)」

ハルはしばらく電話の前で放心状態だった。電話を見つめるハルに、ハチが遊んでくれと寄ってきた。
「ハチ…。僕、ケイちゃん好きみたいだ」
ハチはそれより遊べ!とおもちゃをグイグイすねに当ててきた。
「また会えるかな…」
一向に遊んでくれないハルに愛想を尽かし、ハチは一人で遊び始めた。

次の日、加賀美は友人の先生に尋ねてくれた。先生がその子に聞いてみると、ハルに教えてもいいと言ってくれた。そして、ついでに一つ頼まれ事があった…。

「羽田くん?ちょっといいですか?」
加賀美が羽田に声をかけた。
「はい、何でしょうか?」
「例の件、大丈夫でした。それでですね、向こうからも頼まれたことがあるんです…」

雪に奏からラインが入った。
「もしもし?奏さん。今大丈夫?」
「はい!彼女が教えてもいいと言ってくれたので、今夜ハルくんに電話しますね」
「そう!良かったぁ…」
「それでですね、電話するのは私じゃないんです…」

「ハル!ハルに夕方電話くれるみたいよ」
お母さんがおやつを食べてる僕に言ってきた。
「何時に?」
「あと少しよ」
「ふ~ん…」
プルルルル、プルルルル…電話が鳴った。
「ハル!出てくれる?」
ハルが電話をとった。
「はい、永田です」
「もしもし?私、ケイです。ハルくんですか?」
「!」
ハルは驚きすぎて口をパクパクしていた。
「ハルくん?」
「は、はい!僕です!」
電話の向こうでケイちゃんが笑っていた。
「急に電話してごめんね。わたしがお願いしたの」
何でケイちゃんがお願いしてるの?
「う、うん」
「ハルくんが私の苗字を知りたいって聞いたから、自分で言おうと思って…ダメだった?」
ダメな訳ないじゃん!
「ダメだなんて…僕が聞いたのに」
「良かったぁ(笑)」
ケイちゃんがホッとしたように笑った。
「私の苗字はね、榛名(はるな)だよ」
「どっちも名前みたいだね(笑)」
「そうなの!面白いでしょ?」
ケイちゃんは楽しそうに笑っていた。僕は控えめに言っても、すごくすごく嬉しかった。
「ねえ、ハルくんは永田さんなのね?」
「うん、永田陽斗です(笑)」
「へえ~良い名前だね」
「ありがとう(笑)」
僕の後ろでお母さんと、いつの間にか帰ってきてたお父さんがニコニコして見ていた。僕がにらむと、二人して手を合わせてごめんごめんと退散した。
「ハルくん?」
「わっ!ごめんね。後ろにお父さんとお母さんがいたの…」
「あはは(笑)もうそろそろ切る?」
「そうだね…。あのさ、また電話してもいい?」
「うん!いいよ!うちの電話番号はね…」
じゃあまたねと電話を切った。顔がニヤけるのをごまかすように、自分の部屋に駆け込んだ。

雪と周作は顔を見合わせて微笑んだ。
「よかったな」
「よかったですね」
ハモっていた。
「青春ですな(笑)」
「ねっ♪」
「今夜はごちそうかな?」
「今夜は餃子です!」
「いいねぇ!じゃあ…ビール飲んでいいですか?」
最近休肝日を設けられている周作は雪にお伺いを立てた。
「特別に許可しましょう(笑)」
「やった!ありがとう、雪」
ほっぺにチュウされた。
「もう💢」
嬉しいくせに(笑)

顔がようやく普通に戻ったハルにも手伝ってもらい、朝のうちに仕込んでおいた餃子のたねを3人で皮に包んでいった。
「何個つくるの?」
「100個」
「え?そんなに?!」
「意外と食べちゃいますよ。それに、冷凍出来るから、余ったら水ギョーザにも出来ますよ(笑)」
効率いい…。雪とハルは慣れた様子でどんどん包んでいったが、周作は手こずっていた。
「お父さん、僕が教えてあげる!」
「ありがとう、ハル…」
「そうそう!上手です!その調子」
雪は、大きな手で丁寧に包んでいる周作が可愛いく見えた。二人の様子に雪は嬉しくてニコニコして見ていた。
「お母さん、何ニコニコしてるの?」
「ん?幸せだなぁって思って(笑)」
「早く食べたいなぁ」
「じゃあ、二人が包んでくれてる間に焼き始めちゃうね!」
「待ってました!」
嬉しそうな周作とハルの姿に、雪はニコニコが止まらなかった。

~fin~
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