パーティーを追放されてもふもふを拾ったら魔王に溺愛されました

吉桜美貴

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本編

9. 夜になると

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 夜になると、ライラはベッドに入り、ルビウスを抱きしめて眠る。
 というのが、ここ最近の習慣になっていた。
「ルビちゃん、君はほんとにもっふもふで可愛いなぁー」
 ライラは鼻先をルビウスのお腹に押しつけ、スーハーした。
 あぁ……。ふわっふわでお日さまと森林のいい匂いがする……
 ちなみにルビウスは定期的にお風呂に入れてシャンプーしている。
 ライラがスーハーしている間、ルビウスは迷惑そうな顔をしているけど、抵抗はしない。
「はー、ルビちゃんはきっと森の妖精なんだね。すっっっごくいい匂いがする。今夜も私と一緒にねんねしようね」
 微笑みかけると、ルビウスは冷ややかに見返す。
 こうなったのも、カゴの寝床が狭くなってしまったルビウスが、我が物顔でライラのベッドにふんぞり返っていたからだ。ここを俺の寝床とする、とでも言いたげに。
 追い出すわけにもいかず、かといって床に寝るわけにもいかないので、その夜はとりあえずルビウスと同じベッドで一緒に寝た。すると、ルビウスはあったかくてほわほわで抱き心地がよく、熟睡できた。それ以来、ライラはルビウスを抱っこして眠るようになったのである。

『天暦五〇二五年十月二十八日 弓張月
 最近、夢が一つかなった!
 なにを隠そう、動物を飼うのが子供の頃からの夢。
(ジェマイマが動物嫌いだったから、飼えなかったのだ)
 まぁ、魔獣なのが難点だけど……
 獣の一種なのは間違いないし、ふわふわもふもふで文句なし。
 ツンツンした性格も可愛いし、ルビウス大好き!
 しかも、ルビウスは魔力干渉してこない。
 魔力干渉されると、魔力を吸い取られたりうまく術が使えなくなったりする。
 人々が魔物を恐れる理由の一つだ。
 魔族は基本的に魔力干渉するもんだと信じてたけど、個体によるのかも。
 皆が恐れるほど危険ではないのかも。
 そういえば昔、魔族と共存する集落があったらしい。(現代では到底考えられない!)
 魔族と約定を結び、魔族が集落を襲わない代わりに、集落の民は生贄いけにえを差し出してたそうだ。
 この生贄ってのが、若い生娘きむすめ限定だったらしい。
 選ばれた生娘が集落のために犠牲になった……って謎すぎない?
 なぜ娘なの? 男ではダメなの? 
 なぜ若者なの? 熟女ではダメなの?
 なぜ処女なの? 既婚じゃダメ?
 ダメな理由はわからない。魔族が要求したんだから、そういうものなんだろうけど。
 昔の田舎にありがちな恐ろしい因習。
 すでにこういう因習はすたれ、現代に生まれてよかった。
 今となっては魔族と共存なんて到底考えられない。
 ルビウスと暮らすことに後ろめたさを感じる』

 夜が深まると、うつせみの森は冷たい星明かりに照らされる。
 一斉に虫の音が響き、ホウ、ホウ、とフクロウが鳴く。野鳥とも魔鳥ともつかない奇声が空気を裂き、遠くからオオカミとも魔獣ともつかない遠吠えが聞こえてくる。
 森の夜は無数の生き物の気配で騒々しい。人の住む世界ではないと思い知らされる。自然と魔境が入り混じったような領域だ。
 独りで息を潜めていると、大自然に対する敬虔な気持ちと、深い孤独感が湧き上がってくる。
 もう私には誰もいない。ジェマイマもいなくなってしまった。私を心配して、私を思い出してくれる人は、もうこの世に一人もいないんだ……
 なんて残酷で容赦のない世界だろう。こうして家に帰ってきて、人生が振り出しに戻り、無力感に襲われる。これからも、この脆くて頼りない命を生きなければならないのだ。たった独りで。
 そんな中、ルビウスを抱きしめていると、ふわふわで暖かくて癒された。小さなぬくもりが折れそうな心を支えてくれる。
 トクン、トクン……という規則正しい心音を聞いていると安心できた。まるで安全地帯に逃げ込むように、ルビウスの毛皮に鼻を埋めた。
 抱っこした当初、ルビウスは手足をジタバタさせて嫌がったけど、今ではすっかり慣れっこだ。
 最後は、ライラがルビウスを胸に抱きしめる。
 ルビウスはライラの胸の谷間に鼻先を埋め、赤ちゃんみたいに甘えてくる。そうしているうちに、ルビウスはすやすやと眠ってしまう。安らいだ寝顔は天使みたいに愛らしい。
 ルビちゃん、まだ子供だもんね。甘えたいよね……
 ルビウスの背中を優しく撫でているうちに、いつのまにかライラも眠りに落ちるのだった。

   ◇ ◇ ◇

 ルビウスを拾ってから、約二か月が経った。
 気温はぐっと下り、木々は赤や黄に色づいた葉をハラハラと落とし、もうすぐ冬がやってくる。
 診療所も少しずつではあるけど、患者が増えつつある。幸いなことに、街の薬局がポーションを定期仕入れ販売してくれることになり、ライラは休日返上で材料集めと生産に追われた。
 ルビウスはすっかり元気になり、植物採集や狩猟なんかをちょこちょこ手伝ってくれている。
 そんな、ある夜。
 この日は満月で、雲一つない空の上、淡い水色の月が森を煌々こうこうと照らしていた。
 ライラはベッドサイドのカーテンを開け、窓辺に体を横たえた。こうすると全身にくまなく月光が当たる。
 あー……。疲れた体に月光が沁み渡るぜ……
 月の光には魔力が多く含まれている。月光浴をすることにより術師は魔力が回復する。特にライラのような光の術師は月と太陽との親和性が高く、月光や日光からより多くの魔力を摂取できる。
 毎日ヒーリングで結構な魔力を消費しているので、夜はなるべく月光浴するようにしていた。もちろん日光浴でもいいし、川や湖で水を飲んだり水浴びしたりしても魔力は回復するし、森の大気にも魔力は含まれるし、食事から魔力は摂れる。けど、ライラは個人的に月光浴が一番好きだ。
 ぐったりと脱力していたライラは、なにかの気配を感じて目を開けた。
 あっ、そういえばルビちゃん……。夕方出かけていったけど、もう帰ってきたのかな?
 出入り口の扉が開閉する音が聞こえ、ライラは身を起こす。
 そこに立っていたものの姿を見て、ライラは目を丸くした。
「ルビちゃん……? どうしたの……?」
 ルビウスは一回りも二回りも大きくなり、立派な成獣の姿に変わっていた。
 中型のオオカミぐらいのサイズで、全身艶やかな銀の毛皮に覆われ、鼻はにゅっと突き出て大人の顔立ちになり、ほっそりしたツノは美しく伸びている。まるで森のヌシのような、神々しい気高さがあった。
 ルビウスはひたひたとやってくると、ひらりとベッドに飛び乗り、ライラの隣に伏せて寝た。大きな前足には爪も生えている。
「ルビちゃん、随分大きくなったね? あっという間に成長しちゃうんだなぁ」
 ライラが言いながら背中を撫でてやると、ルビウスは心地よさそうにまぶたを閉じた。体毛は少ししっかりしたけど、ふわふわ感は失われていない。背骨に沿ってしなやかな筋肉の弾力があった。
 ふと、あることに気づき、ライラは手をとめる。
 ……待って。もしかして、満月? 満月が来るたびにルビウス変化してない?
 ライラはガバッと起き上がり、日記を確認した。光の術は月光の力を借りるし、月光浴は欠かせないゆえ、基本的には月齢を気にして生活している。
 まずは最初の変化。今から約二か月前、ルビウスが昏睡から目覚めた日。次の変化は約一か月前、ルビウスの体が大きくなったとき。そして、成獣になったのが今夜。
 ライラはページをめくって確信した。

『天暦五〇二五年十一月五日 満月
 満月だ!
 すべては満月の夜に起こっている!
 月が欠けていって満ちてくるとルビウスは変化するのだ。
 ちょうど二十九日周期で。
 これは大きな発見ではないだろうか?
 人間も女性の生理は月齢と関連してるし、当然妊娠出産にも関わってくる。
 人が死ぬときも月齢と関係があるらしい。
 満月の夜は肉食動物も荒ぶるし、魔物が凶暴化するのも有名な話。
 だから、発見と呼ぶには大げさかもしれない。
 皆が薄っすら知っていることなのかも。
 ルビウスは相変わらず愛想はないけど、そばにいてくれる。
 少しは好意を抱いてくれている気がする。なんとなく。
 ルビウスは愛情表現が苦手なのかも。あんまり表に出さないタイプ?
 このまま何事もなく、二人で平和に暮らしていけるといいな。
 とにかく、満月の夜はルビウスに注目』
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