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本編
10. 翌朝、ライラはルビウスの
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翌朝、ライラはルビウスの体をブラッシングしてあげた。
「ルビちゃん、すっかり大人になったね。やっぱりオオカミとか山犬によく似てる。まさか、これ以上大きくならないよね……?」
一抹の不安がライラの胸をよぎる。魔獣ゆえにその可能性は否定できない。岩山みたく巨大な魔獣もいるのだ。
ルビウスは我関せずで気持ちよさそうにブラッシングされている。
「このサイズならまだ家の中にいても大丈夫だけど。ただ、このツノがなぁ……。患者さんが見たらびっくりしちゃうかも」
細く尖ったツノに触れると、ツルツルした感触だった。
ルビウスはもの言いたげにこちらをじっと見つめている。
「ちょっとね、魔獣ってバレるとまずいんだよね。あんまり快く思わない人もいるから。このツノ、なんとか隠せないかなぁ……?」
ライラがツノに触れながら考えあぐねていると、ルビウスは突然、ぷるぷるっと首を振った。
「おおっ? なんだなんだ?」
微細な魔力発動を探知し、ライラは驚く。
次の瞬間、ルビウスのツノが忽然と消えていた。
「うわっ! 消えたっ! あれっ? ツノどこ行った……?」
びっくりしてルビウスの額に触れて確かめると、目に見えない硬いものに手が当たる。握ってみると、それはツノの形をしていた。
「ん? んん?? あっ、まさか……これって、変化の幻術!? 今変化の幻術でツノ隠したでしょ?」
ルビウスは、えっへんと得意げな顔をしている。どうやら、ルビウスが幻術を使ってツノを消してみせたらしい。
もちろん傍からそう見えるだけで、実際に消えたわけではない。幻術というのは文字通り、幻を見せる術だ。そこに存在しないものを見せたり、自分や相手の見た目を変えたりすることもできる。
「ルビちゃん、すごいねー! 君、幻術なんて使えるんだ……」
驚くと同時に感心してしまう。さすが魔獣。術も操れるわけだ。
ちなみに幻術とは闇術の亜流で、ライラの扱う光術とは対立するエレメントだ。火と水、風と土、光と闇がそれぞれ対立し、術師は基本的に片方しか扱えない。
魔族は闇術を得意とするものが多い。ルビウスも闇術が使えるんだろう。
「まー、でもでも。これで問題解決だわ。これならどう見てもオオカミか山犬にしか見えないしね。動物を飼ってる分にはうるさく言われないから」
ライラはよしよしとルビウスの体を撫でた。
「ルビちゃんはお利口さんだな、ほんとに。こうやって日中はツノを隠しておこうね。夜になったら解いていいから。誰も来ないし」
たぶん言葉は通じているはずだ。ふわふわした首周りを掻いてやると、ルビウスはくすぐったそうにしている。
これ……次の満月が来たら、ルビちゃんどうなるんだろ? もっと巨大化するのかな?
素朴な疑問がライラの脳裏をよぎる。
そして、事件が起きたのは次の満月の夜だった。
うつせみの森はすっかり冬支度を終え、霜が地面をびっしり覆い、暖炉には火が入れられた。
ライラはポーション作りに没頭し、疲れを覚えて気づいたら夜が更けていた。そろそろ寝ようと席を立つ。
そういや今夜は満月だっけ、などと考えながら、ルビウスを探して寝室エリアに足を踏み入れた、そのとき。
目の前に人影が見え、飛び上がった。
「きゃっ! だっ、誰っ!?」
侵入者? とっさに身構える。
数歩先の人影は窓とベッドを背に立っている。よく見ると、体が小さくて子供のようだ。
「えっ……子供? 君、誰? どこから来たの?」
四歳か五歳ぐらいの男の子だろうか。なにも答えない。
変な違和感があると思ったら、男の子は裸だった。下着もなにも着けていない。
「大変! こんなに寒いのに、風邪引いちゃうじゃない。服はどうしたのよ服は……」
ライラは取るものもとりあえず、ベッドから毛布を引き剥がし、男の子の体を包んであげた。
「ねぇ、君。どうやってここに来たの? パパとママはどこにいるの?」
男の子はこちらをじっと見たまま黙っている。
ライラはふと、どこかで会ったことがあるような、妙な既視感を覚えた。よく知っている人物のような……
月が逆光になってよく見えなかったけど、賢そうな瞳はルビーのように赤い。
「……っ! ちょ、ちょっと待って! ちょっとごめんね」
ライラはとあることに思い当たり、男の子のおでこの上を撫でてみる。
「……やっぱり!」
そこには小さなツノがあった。
『天暦五〇二五年十二月六日 立待月
とんでもない事件が起きた!
(そのせいで昨晩は日記を書き忘れた)
なんとルビウスが人間になった!
昨晩は満月。また成長するのかと思ったら、まさか人間になるなんて……
例の変化の幻術かと思ったけど、違った。
だから、つまり獣人ってこと? 魔獣だから、魔獣人?
獣人なんておとぎ話でしか見たことない。
人型の魔族、獣型の魔族はいるけど、どちらも兼ね備えた魔獣人なんて聞いたこともない。
実は存在した? 私が知らないだけ?
さらにびっくりなのは、夜が明けたらルビウスは元の獣の姿に戻っていた。なんで? 謎すぎる……
魔獣人は人になったり獣になったりするとか……?
これはかなり興味深い研究材料だ。魔物の生態の真相に大きく一歩近づいたかも。
にしても、なぜ魔物研究は禁じられてるんだろう?
生態がわかれば討伐もしやすくなるし、ポーション作りや術研究に必要なのに。
まったく変な世の中だ。
ちなみにルビウスの件、神殿か警備隊かギルドか、しかるべき機関に届け出ようか考えたけど、やめた。
たぶん魔物として扱われるし、そうなったら殺処分は必至。
殺させるわけにはいかない。
ルビウスは私が守らなくちゃ。これまでと変わらず』
「ルビちゃん、すっかり大人になったね。やっぱりオオカミとか山犬によく似てる。まさか、これ以上大きくならないよね……?」
一抹の不安がライラの胸をよぎる。魔獣ゆえにその可能性は否定できない。岩山みたく巨大な魔獣もいるのだ。
ルビウスは我関せずで気持ちよさそうにブラッシングされている。
「このサイズならまだ家の中にいても大丈夫だけど。ただ、このツノがなぁ……。患者さんが見たらびっくりしちゃうかも」
細く尖ったツノに触れると、ツルツルした感触だった。
ルビウスはもの言いたげにこちらをじっと見つめている。
「ちょっとね、魔獣ってバレるとまずいんだよね。あんまり快く思わない人もいるから。このツノ、なんとか隠せないかなぁ……?」
ライラがツノに触れながら考えあぐねていると、ルビウスは突然、ぷるぷるっと首を振った。
「おおっ? なんだなんだ?」
微細な魔力発動を探知し、ライラは驚く。
次の瞬間、ルビウスのツノが忽然と消えていた。
「うわっ! 消えたっ! あれっ? ツノどこ行った……?」
びっくりしてルビウスの額に触れて確かめると、目に見えない硬いものに手が当たる。握ってみると、それはツノの形をしていた。
「ん? んん?? あっ、まさか……これって、変化の幻術!? 今変化の幻術でツノ隠したでしょ?」
ルビウスは、えっへんと得意げな顔をしている。どうやら、ルビウスが幻術を使ってツノを消してみせたらしい。
もちろん傍からそう見えるだけで、実際に消えたわけではない。幻術というのは文字通り、幻を見せる術だ。そこに存在しないものを見せたり、自分や相手の見た目を変えたりすることもできる。
「ルビちゃん、すごいねー! 君、幻術なんて使えるんだ……」
驚くと同時に感心してしまう。さすが魔獣。術も操れるわけだ。
ちなみに幻術とは闇術の亜流で、ライラの扱う光術とは対立するエレメントだ。火と水、風と土、光と闇がそれぞれ対立し、術師は基本的に片方しか扱えない。
魔族は闇術を得意とするものが多い。ルビウスも闇術が使えるんだろう。
「まー、でもでも。これで問題解決だわ。これならどう見てもオオカミか山犬にしか見えないしね。動物を飼ってる分にはうるさく言われないから」
ライラはよしよしとルビウスの体を撫でた。
「ルビちゃんはお利口さんだな、ほんとに。こうやって日中はツノを隠しておこうね。夜になったら解いていいから。誰も来ないし」
たぶん言葉は通じているはずだ。ふわふわした首周りを掻いてやると、ルビウスはくすぐったそうにしている。
これ……次の満月が来たら、ルビちゃんどうなるんだろ? もっと巨大化するのかな?
素朴な疑問がライラの脳裏をよぎる。
そして、事件が起きたのは次の満月の夜だった。
うつせみの森はすっかり冬支度を終え、霜が地面をびっしり覆い、暖炉には火が入れられた。
ライラはポーション作りに没頭し、疲れを覚えて気づいたら夜が更けていた。そろそろ寝ようと席を立つ。
そういや今夜は満月だっけ、などと考えながら、ルビウスを探して寝室エリアに足を踏み入れた、そのとき。
目の前に人影が見え、飛び上がった。
「きゃっ! だっ、誰っ!?」
侵入者? とっさに身構える。
数歩先の人影は窓とベッドを背に立っている。よく見ると、体が小さくて子供のようだ。
「えっ……子供? 君、誰? どこから来たの?」
四歳か五歳ぐらいの男の子だろうか。なにも答えない。
変な違和感があると思ったら、男の子は裸だった。下着もなにも着けていない。
「大変! こんなに寒いのに、風邪引いちゃうじゃない。服はどうしたのよ服は……」
ライラは取るものもとりあえず、ベッドから毛布を引き剥がし、男の子の体を包んであげた。
「ねぇ、君。どうやってここに来たの? パパとママはどこにいるの?」
男の子はこちらをじっと見たまま黙っている。
ライラはふと、どこかで会ったことがあるような、妙な既視感を覚えた。よく知っている人物のような……
月が逆光になってよく見えなかったけど、賢そうな瞳はルビーのように赤い。
「……っ! ちょ、ちょっと待って! ちょっとごめんね」
ライラはとあることに思い当たり、男の子のおでこの上を撫でてみる。
「……やっぱり!」
そこには小さなツノがあった。
『天暦五〇二五年十二月六日 立待月
とんでもない事件が起きた!
(そのせいで昨晩は日記を書き忘れた)
なんとルビウスが人間になった!
昨晩は満月。また成長するのかと思ったら、まさか人間になるなんて……
例の変化の幻術かと思ったけど、違った。
だから、つまり獣人ってこと? 魔獣だから、魔獣人?
獣人なんておとぎ話でしか見たことない。
人型の魔族、獣型の魔族はいるけど、どちらも兼ね備えた魔獣人なんて聞いたこともない。
実は存在した? 私が知らないだけ?
さらにびっくりなのは、夜が明けたらルビウスは元の獣の姿に戻っていた。なんで? 謎すぎる……
魔獣人は人になったり獣になったりするとか……?
これはかなり興味深い研究材料だ。魔物の生態の真相に大きく一歩近づいたかも。
にしても、なぜ魔物研究は禁じられてるんだろう?
生態がわかれば討伐もしやすくなるし、ポーション作りや術研究に必要なのに。
まったく変な世の中だ。
ちなみにルビウスの件、神殿か警備隊かギルドか、しかるべき機関に届け出ようか考えたけど、やめた。
たぶん魔物として扱われるし、そうなったら殺処分は必至。
殺させるわけにはいかない。
ルビウスは私が守らなくちゃ。これまでと変わらず』
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