パーティーを追放されてもふもふを拾ったら魔王に溺愛されました

吉桜美貴

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本編

33. それから、約二週間後

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 それから、約二週間後。
 ルビウスはライラとの暮らしにも慣れ、少しずつ魔力を蓄えていった。
 そして、満月の夜。
 ルビウスは満月の神秘の力を借り、発育段階を進めた。魔獣の赤ちゃんから、いわゆる若獣といわれる子供に変化したのだ。体は少し大きくなり、ツノも伸びて歯もちゃんと生えてきた。チャームポイントである、ふわふわした毛は失われていない。
 成長した姿を見せても、ライラは特に不審がる様子もなく、こうコメントした。
「オオカミの子供によく似てるかな。けど、ルビちゃんが一番可愛いよ! ルビちゃん最高ナンバーワン!」
 ライラはまだルビウスの正体には気づいていないようだ。ルビウスが実は太陽の遺跡で遭遇した魔王だと知れば、さぞかし驚くことだろう。
 その日が来るのが、ルビウスは少しだけ楽しみだ。
 ライラの献身的なヒールのおかげでルビウスの傷はだいぶよくなっていた。
 そして、ルビウスはライラのヒールを好んでやまないのだ。

 ルビウスの朝はライラのキスから始まる。
 ライラはいつも唇をルビウスのおでこに押しつけてきた。
「おはよう、ルビちゃん。よく眠れたかにゃ?」
 ルビウスがまぶたを開けるといつもライラの満面の笑顔がある。
「わー、相変わらずの塩対応でちゅね、ルビちゃん。可愛いでちゅね~! チュッ、チュッ」
 こうしてライラは耳だの鼻だの背中だの尻尾だの、体中にキスしてくる。
 ちなみに、赤ちゃん言葉は気にならなくなった。
「ふふ、今日も一日頑張るね」
 最後にライラはそう言って、背中を優しく撫でてくれる。
 そうされるのは、悪くない気分だった。
 ルビウスは若獣に変化したおかげで視野が広がり、知能も高くなり、今の状況をより詳しく認識できるようになった。
 ライラは毎日忙しそうだ。ルビウスの面倒を見つつ、日中は術の診療所を営み、夜は術の研究に励んでいる。診療も術研究も、誰の指導もあおがず、すべて我流らしい。
 そういう独立独歩な姿勢をルビウスは気に入っていた。
 ……器用だな。よく学び、よく働く。頑張っている。
 ライラはあまり俗世や時事に興味がないらしい。かといって、孤立しているわけではなく、世間とは細く繋がっている。
 ライラは患者を選ばなかった。貧しき者、老いた者、深く病んだ者、罪を犯した者、ルビウスの目から見ても素行の悪い者や荒くれ者にも門戸を開き、広く受け入れた。
 ルビウスのような魔獣も受け入れているわけだから、その懐の深さは推して知るべしである。
 ライラは人気や金を得ようと愛想を振りまいたり媚びを売ったりせず、愚直に治癒に専念していた。
 治癒行為に患者の属性は関係ない。
 老若男女、思想宗教問わず、富める者も貧しき者も、動物だろうが魔物だろうが、等しく治癒されるべきだ。
 というのが、ライラの信念であり、目指す理想であるらしい。
 最近、ライラはよくルビウスに胸のうちを語るのだ。
「けどね、ここからが一番大事なんだけど……」
 ライラはこう言い足した。
「私の出来る範囲で、ってことなの。キャパを超えて治癒しようと欲張っちゃダメだって。キャパを超えると自分に重い負担がかかって、重い負担がかかると他人を大事にできなくなるって。しかも、誰かの助けが必要になっちゃうから、己の力を過信するなって……ジェマイマがよく言ってたな」
 ジェマイマというのは、親代わりにライラを育てた師匠らしい。森の魔女だったらしく、診療所のノウハウもジェマイマに教わったんだとか。
 門戸を広く開くことにトラブルはつきものだ。ならず者が診療所で暴れ、襲いかかってきたら、毎回ライラは術で難なく抑え込んでいた。
 ならず者は目玉が潰れるほどのまばゆい閃光を喰らい、網漁みたく光の網に捕らわれて気の毒ではあるが、「自業自得でしょ」とライラは鼻息荒く言う。
 彼女の言葉通り、手に負える範囲で出来ることをしているらしい。門戸を広く開いていいのは、ならず者を成敗できる実力がある者だけだ。
 人間界において術師は最強なんだろう。どれほど腕力があっても術師には敵わない。
 このように、ライラは世間とうまく折り合いをつけながら、独力で築いた小さな世界を一生懸命に生きていた。
 ライラを知れば知るほど応援したくなる。生きかたもルビウスの好みだ。己の魂を磨き続ける者こそ信用に値する。
 少しヴィアゴに似ているな……
 ルビウスは懐かしさに包まれた。
 振り返れば、これまでの人生、ルビウスに害をなした人間は貴族や特権階級ばかりだった。それもそのはず、魔王討伐に関わるものといえば王権に近しい貴族か、その手先である勇者ぐらいしかいない。
 いつの時代であれ、金も権力も地位もあり、働かないで暇な奴ほど厄介なものはない。ヴィアゴやライラのように、生活に追われて必死に生きる庶民のほうがマシである。
 ルビウスはさんざん見てきた。貴族たちが金と権力にモノを言わせて女を犯し、子供を買い、弱い者をいたぶる姿を。魔物憑き狩りも魔王討伐も、王宮と神殿の連中の仕業ではないか。
 しかも、自分は地位の高いちゃんとした人間だから、それぐらい許されて当然だと勘違いしている。
 人命よりも優先して地位と財産を守り、無自覚に暴力を娯楽にして楽しむのだ。
 楽しむのは結構だが、巻き込まれるほうは堪ったものじゃない。
 王宮や神殿の中心では、金と欲にまみれた馬鹿騒ぎが日夜開催されている。
 一方、世界の隅っこでは華やかな贅沢とは無縁な、世のため人のために実直に働いているものがいる。ヴィアゴやライラのように。
 二人の生きかたは理想的だと、ルビウスは思う。俗世から隔絶され、世間と折り合いをつけつつ、術の研鑽に励んで生きていくのはいい。
 己の魂を磨くとはまさにこのことではないか。
 よかった、ヴィアゴみたいな人間もまだいるんだな、とうれしい発見だった。
 考えてみれば魔族も様々な者がいる。ずる賢い者もいれば正直者もいる。誠実だったり軽薄だったり、遊興にふける者や研鑽に励む者、様々な性格の違いがある。一括りにして魔族はこうだと断言はできない。
 人間にされた卑劣な仕打ちを忘れることはないが、一考の余地はあるかもしれない。
 ルビウスは人間に対する認識を改めつつあった。
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