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14. 手に武器らしきもの
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ミレーユを強引に引き入れたものの、思いがけず抱き合う形になり、エドガールは頭が真っ白になってしまった。
あ……。や、柔らかい……
華奢な体は頼りなく、ふにゃっとしたものがみぞおちに当たり、エドガールの心拍は一気に上がる。
「え……? エドガール……?」
腕の中のミレーユはこちらを見上げ、目を丸くしている。
ミレーユ、こんなに冷えて可哀そうに……。って、待て待て待て。今それどころじゃないぞ!
鬼の心で彼女の体を引き剥がし、「ここは寒いから」と彼女をかばうように室内へ招き入れ、暖炉の前まで引っ張っていった。
出入口のドアを施錠するとき、回廊に人がいないことを確認する。
「え……。ま、まさか、私、部屋を間違えてしまった?」
ミレーユは困惑し、親指の爪を噛んでいる。
そんな子供みたいな仕草が可愛いなとときめき、直後に今それどころじゃないと打ち消した。
彼女はレースのあしらわれた薄いネグリジェをまとい、厚手の毛皮のショールを羽織り、手に武器らしきものは持っていない。
……なぜ丸腰なんだ? ダスブリア子爵を殺しにきたんじゃないのか……?
やはり、彼女と兄のピエールは殺害を阻止する側の勢力なんだろうか……?
あれこれ洞察しつつ、エドガールはとりあえず言った。
「……いや。ここはダスブリア子爵の部屋で合ってるよ」
「えっ?」
聞き返すミレーユに対し、さらに補足する。
「夜会のとき子爵に頼んでね、今晩だけ部屋を交代してもらったんだ」
「交代……?」
意味がわからないらしく、ミレーユは訝しそうな顔をする。
そんな彼女を見つめながら、腕を組んで壁に寄り掛かり、どこまで話すべきか思案した。
彼女が子爵を助けるなら、人狼一族の計画を阻止する側であり、すなわち僕の味方ということになる。しかし、真偽をたしかめるには、僕が黒煙騎士団の末裔だということを打ち明けなければならないが……
万が一、彼女が人狼側の人間なら、ここでのカミングアウトは早計すぎる。
このまま僕は朝日を拝めず、惨殺死体となって床に転がり、すべては隠蔽されるだろう。
本当に彼女は人狼でありながら、人狼一族に敵対しようとしているんだろうか?
盗み聞いた礼拝堂のやり取りだけでは断片的すぎる。本音を話していたとは限らないし、彼女の真意はわからないが……
「エドガール。あなたは、まさか……」
彼女は蒼白な顔でつぶやいた。
「……ミレーユ。こんな時間に、子爵になんの用があったんです?」
そう問うと、彼女は答えずに目を伏せた。
こうなったら揺さぶりをかけるしかない。
「おかしいですね。僕は関係を疑ってしまいますよ。夜中に若い女性が一人、部屋に忍んで来るとはまさか……」
彼女はさっと顔を上げ、こちらをきっと睨みつけた。
「そんなんじゃありません! そんないかがわしい理由でここに来るなんてあり得ない! 子爵に大事な話があったんです」
「ほう。……大事な話?」
揶揄するようにわざと片眉を上げ、ここでたっぷり間を取ってから、畳みかけた。
「話をするなら、夜が明けて明日の朝にすればいいじゃないですか。夜にしなければならない話なんてありますか? ってことは、やはり男女の……」
「違いますってば! 子爵とそんな……汚らわしい」
彼女は悪寒でもするように自らの体を抱え、言葉を続ける。
「子爵の生命に関わる、ものすごく大切な至急の用件があったんです!」
吐きやがった、とエドガールは内心手を打った。
「生命に関わる? 至急の用件? それは気になりますね。そんなものが本当にあるなら、僕にもぜひ聞かせて頂きたいが……? なにか、子爵の命に関わる事件が起こるとでも? 子爵が誰かに襲撃されるとか?」
彼女は言葉に詰まり、唇を噛んでうつむく。
「あなたこそ……。あなたこそ、いったいなんなんですか?」
うつむいたまま、彼女は声を震わせた。
「なぜ、子爵と部屋を入れ替わったりしたんですか? なぜ、コソコソ嗅ぎ回るんです? まるで今夜ここに私が訪れることも、あらかじめ知っていたみたい。今朝、書庫にいらしたのも、私から情報を聞き出すためですよね? あんなに親しそうにしてくださったのも……」
おっと。彼女はこちらが思っている以上に、勘が鋭いらしい。
思わず組んでいた両腕をほどくと、彼女は上目遣いで睨んできた。
「エドガール・ドラポルト男爵。あなたこそ何者なんですか? なぜ、ここにいるんです?」
とっさに答えられないでいると、彼女は致命的なワードを口にする。
「あなた……黒煙騎士団のかたじゃないんですか?」
思わず、ギクッとしてしまった。
その直後、こんなリアクションをしてしまってはもう誤魔化せないと悟る。
「そう聞くってことは、君は人狼なのか? ミレーユ」
そう問うと、彼女は身じろぎもせず、強い眼差しでこちらを見ていた。
なにも言わずとも、お互いの答えは明白だった。
人狼でなければ、黒煙騎士団の存在は知り得ない。
黒煙騎士団でなければ、人狼の存在は知り得ない。
双方の勢力はその存在を人々に知られることなく、長きに渡り潜伏してきたのだから。
「なら、あなたは……私を殺すためにここにきたの?」
今、それを見極めようとしているところだよ。君を本当に殺すべきかどうなのか……
紺青色の瞳はなにかを強く訴えるようにきらめいている。
無言で見つめ返すと、彼女はふっと息を吐き、弱々しく視線を逸らした。
あ……。や、柔らかい……
華奢な体は頼りなく、ふにゃっとしたものがみぞおちに当たり、エドガールの心拍は一気に上がる。
「え……? エドガール……?」
腕の中のミレーユはこちらを見上げ、目を丸くしている。
ミレーユ、こんなに冷えて可哀そうに……。って、待て待て待て。今それどころじゃないぞ!
鬼の心で彼女の体を引き剥がし、「ここは寒いから」と彼女をかばうように室内へ招き入れ、暖炉の前まで引っ張っていった。
出入口のドアを施錠するとき、回廊に人がいないことを確認する。
「え……。ま、まさか、私、部屋を間違えてしまった?」
ミレーユは困惑し、親指の爪を噛んでいる。
そんな子供みたいな仕草が可愛いなとときめき、直後に今それどころじゃないと打ち消した。
彼女はレースのあしらわれた薄いネグリジェをまとい、厚手の毛皮のショールを羽織り、手に武器らしきものは持っていない。
……なぜ丸腰なんだ? ダスブリア子爵を殺しにきたんじゃないのか……?
やはり、彼女と兄のピエールは殺害を阻止する側の勢力なんだろうか……?
あれこれ洞察しつつ、エドガールはとりあえず言った。
「……いや。ここはダスブリア子爵の部屋で合ってるよ」
「えっ?」
聞き返すミレーユに対し、さらに補足する。
「夜会のとき子爵に頼んでね、今晩だけ部屋を交代してもらったんだ」
「交代……?」
意味がわからないらしく、ミレーユは訝しそうな顔をする。
そんな彼女を見つめながら、腕を組んで壁に寄り掛かり、どこまで話すべきか思案した。
彼女が子爵を助けるなら、人狼一族の計画を阻止する側であり、すなわち僕の味方ということになる。しかし、真偽をたしかめるには、僕が黒煙騎士団の末裔だということを打ち明けなければならないが……
万が一、彼女が人狼側の人間なら、ここでのカミングアウトは早計すぎる。
このまま僕は朝日を拝めず、惨殺死体となって床に転がり、すべては隠蔽されるだろう。
本当に彼女は人狼でありながら、人狼一族に敵対しようとしているんだろうか?
盗み聞いた礼拝堂のやり取りだけでは断片的すぎる。本音を話していたとは限らないし、彼女の真意はわからないが……
「エドガール。あなたは、まさか……」
彼女は蒼白な顔でつぶやいた。
「……ミレーユ。こんな時間に、子爵になんの用があったんです?」
そう問うと、彼女は答えずに目を伏せた。
こうなったら揺さぶりをかけるしかない。
「おかしいですね。僕は関係を疑ってしまいますよ。夜中に若い女性が一人、部屋に忍んで来るとはまさか……」
彼女はさっと顔を上げ、こちらをきっと睨みつけた。
「そんなんじゃありません! そんないかがわしい理由でここに来るなんてあり得ない! 子爵に大事な話があったんです」
「ほう。……大事な話?」
揶揄するようにわざと片眉を上げ、ここでたっぷり間を取ってから、畳みかけた。
「話をするなら、夜が明けて明日の朝にすればいいじゃないですか。夜にしなければならない話なんてありますか? ってことは、やはり男女の……」
「違いますってば! 子爵とそんな……汚らわしい」
彼女は悪寒でもするように自らの体を抱え、言葉を続ける。
「子爵の生命に関わる、ものすごく大切な至急の用件があったんです!」
吐きやがった、とエドガールは内心手を打った。
「生命に関わる? 至急の用件? それは気になりますね。そんなものが本当にあるなら、僕にもぜひ聞かせて頂きたいが……? なにか、子爵の命に関わる事件が起こるとでも? 子爵が誰かに襲撃されるとか?」
彼女は言葉に詰まり、唇を噛んでうつむく。
「あなたこそ……。あなたこそ、いったいなんなんですか?」
うつむいたまま、彼女は声を震わせた。
「なぜ、子爵と部屋を入れ替わったりしたんですか? なぜ、コソコソ嗅ぎ回るんです? まるで今夜ここに私が訪れることも、あらかじめ知っていたみたい。今朝、書庫にいらしたのも、私から情報を聞き出すためですよね? あんなに親しそうにしてくださったのも……」
おっと。彼女はこちらが思っている以上に、勘が鋭いらしい。
思わず組んでいた両腕をほどくと、彼女は上目遣いで睨んできた。
「エドガール・ドラポルト男爵。あなたこそ何者なんですか? なぜ、ここにいるんです?」
とっさに答えられないでいると、彼女は致命的なワードを口にする。
「あなた……黒煙騎士団のかたじゃないんですか?」
思わず、ギクッとしてしまった。
その直後、こんなリアクションをしてしまってはもう誤魔化せないと悟る。
「そう聞くってことは、君は人狼なのか? ミレーユ」
そう問うと、彼女は身じろぎもせず、強い眼差しでこちらを見ていた。
なにも言わずとも、お互いの答えは明白だった。
人狼でなければ、黒煙騎士団の存在は知り得ない。
黒煙騎士団でなければ、人狼の存在は知り得ない。
双方の勢力はその存在を人々に知られることなく、長きに渡り潜伏してきたのだから。
「なら、あなたは……私を殺すためにここにきたの?」
今、それを見極めようとしているところだよ。君を本当に殺すべきかどうなのか……
紺青色の瞳はなにかを強く訴えるようにきらめいている。
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