19 / 47
19. 本当に監禁されるところ
しおりを挟む
日が暮れるまで執務室に拘束されたミレーユは、夕食の席についても食事が喉を通らなかった。
どうしよう……。早く……早く、エドガールに伝えないと……
気ばかり焦るのに、一族の監視の目がうるさく、単独行動が取れない。
今すぐエドガールの元へ馳せ参じ、急を知らせたいのに!
夕食の席にエドガールの姿はなかった。それとなくメイドに確認したところ、体調が悪く寝込んでいるらしい。夕食を部屋まで運ばせたそうだ。
待って、まだ時間はある。決行は今夜じゃない。早くて明日、もっと遅くなる可能性もある。それまでに彼をここから脱出させることができれば……
ミレーユはやきもきしながらも、冷静さだけは失わないよう努めた。
窓の外はふたたび強風が吹き荒れていた。今朝、天気のよいうちに数名が帰っていったが、招待客の多くはまだ城に留まり、このいつ果てるとも知れぬ豪奢な饗宴に耽っている。
ミレーユは隙を見て席を立ち、足早にダイニングルームを出た。
酔っぱらって騒ぐ招待客たちを尻目に、急いでサロンを横切り、上階にいるエドガールの客室へ向かおうと、階段に足を掛けた……
そのとき。
ガシッ、と強い握力で腕を掴まれた。
「っ!?」
息が止まり、とっさに振り向く。
「そんなに急いでどこへ行こうとしているんです? ミレーユ」
「大叔父様……」
腕を掴んでいたのは、シャロワ伯爵の実弟ヴィクトルだった。
ミレーユが内心、中身カラッポな優等生と呼んでいる一族の中でも力のある筆頭だ。
伯爵よりも情け容赦がない性格のヴィクトルは、ミレーユが最も恐れている人物だった。
「あのー、ちょ、ちょっと、疲れたので部屋に戻ろうかと……」
そう誤魔化すと、ヴィクトルは握力を弱めずに問い詰める。
「部屋に? あなたの部屋はこっちじゃないでしょう?」
「あっ。そうでしたそうでした。すっかり勘違いしちゃって……」
ヴィクトルは疑り深そうに、目を光らせた。
「おかしいですね。この階段の先には、招待客の客室しかありません。まさか……」
しまった。とっさにうまい言い訳が思いつかなかった……
ミレーユの背中をつつ、と一筋の汗が滑り落ちる。
そのとき、上階から能天気な声が響き渡った。
「おーい、ミレーユ! こっちこっち。こっちだよ!」
声のほうを振り仰ぐと、階段の上でピエールが笑顔で手を振っている。
隣にはなぜかカスティーユ伯爵夫人が連れ添っていた。
「ピエール!」
驚いていると、ピエールは足取り軽やかに下りてきて、ヴィクトルとミレーユを見比べた。
「どうした? おまえを待ってたんだ。さあ、夫人と三人で古城探検としゃれこもうじゃないか」
ピエールの言葉に、ヴィクトルは「探検?」と訝しそうな顔をする。
「あっ……そうなんです。ピエールと一緒にカスティーユ伯爵夫人を案内しようって約束してたんです」
機転を利かせてミレーユが言うと、ピエールも「そうそう」と調子を合わせた。
「この城はいろいろと見どころが多いからね。お客さんたちもそろそろ賭け事には飽きてきただろうし。なにか新しい遊びを提供しようかと思ってね」
ピエールが言うと、上階のカスティーユ伯爵夫人が叫んだ。
「ピエール? まだなの? そんなところでぐずぐずしてないで早く行きましょうよ~」
ヴィクトルはニコリともせず、ガラス玉のような目でピエールを見て言った。
「……なるほど。ミレーユが城内をうろつくのは許可できません。夫人を案内するのはピエールだけで行きなさい」
そう言われるとわかっていたけど、ミレーユはあえて不満の声を上げた。
「ええー。そんなー! 城内探検、行きたかったのにぃ」
「まあまあ、しょうがない。今は大事な身だ。おまえはサロンでおとなしくしてろよ」
ピエールはそう言ってミレーユの肩を叩き、左目でパッとウィンクする。
……あっ。左目ウィンク! 礼拝堂に来いという合図だ……
とっさに察知するも、ヴィクトルに気づかれないよう平静を装った。
けど、ここまで監視の目が厳しいと落ち合うのは無理だろう。
ピエール、どういうつもりなの……?
「探検は楽しいぞ、ミレーユ! 子供の頃を思い出すだろう? 一人でも行けばわかるさ。ま、僕は夫人とともに行くけどね……」
ピエールがなにか暗号を伝えてきているとわかった。
一人でも行けばわかる……? 一人で礼拝堂に行けば、なにかわかるってこと?
ピエールに詳細を問いただす猶予はなかった。
ヴィクトルと二人で、ピエールとカスティーユ伯爵夫人が去っていく背中を見送る。
「……あまり、妙な真似はなさいませぬよう。さもなくば、あなたを東の塔に閉じ込めなければならなくなります」
ヴィクトルは抑揚のない声で言った。
「もちろん、わかってる。ちょっと退屈してただけよ」
そう答えながら、危なかった、と安堵する。
ピエールが助けてくれなければ、それこそ本当に監禁されるところだった。
よし。まずは礼拝堂に行こう。ピエールがなにか話があるらしいから。
「大叔父様。自由に動き回れないのはわかっているんですけど、大叔父様同伴でしたら、礼拝堂へ行ってもいいですか?」
「礼拝堂へ? なにしに?」
「なにしにって……。祈るに決まってるでしょう? それ以外になにをするんです?」
どうしよう……。早く……早く、エドガールに伝えないと……
気ばかり焦るのに、一族の監視の目がうるさく、単独行動が取れない。
今すぐエドガールの元へ馳せ参じ、急を知らせたいのに!
夕食の席にエドガールの姿はなかった。それとなくメイドに確認したところ、体調が悪く寝込んでいるらしい。夕食を部屋まで運ばせたそうだ。
待って、まだ時間はある。決行は今夜じゃない。早くて明日、もっと遅くなる可能性もある。それまでに彼をここから脱出させることができれば……
ミレーユはやきもきしながらも、冷静さだけは失わないよう努めた。
窓の外はふたたび強風が吹き荒れていた。今朝、天気のよいうちに数名が帰っていったが、招待客の多くはまだ城に留まり、このいつ果てるとも知れぬ豪奢な饗宴に耽っている。
ミレーユは隙を見て席を立ち、足早にダイニングルームを出た。
酔っぱらって騒ぐ招待客たちを尻目に、急いでサロンを横切り、上階にいるエドガールの客室へ向かおうと、階段に足を掛けた……
そのとき。
ガシッ、と強い握力で腕を掴まれた。
「っ!?」
息が止まり、とっさに振り向く。
「そんなに急いでどこへ行こうとしているんです? ミレーユ」
「大叔父様……」
腕を掴んでいたのは、シャロワ伯爵の実弟ヴィクトルだった。
ミレーユが内心、中身カラッポな優等生と呼んでいる一族の中でも力のある筆頭だ。
伯爵よりも情け容赦がない性格のヴィクトルは、ミレーユが最も恐れている人物だった。
「あのー、ちょ、ちょっと、疲れたので部屋に戻ろうかと……」
そう誤魔化すと、ヴィクトルは握力を弱めずに問い詰める。
「部屋に? あなたの部屋はこっちじゃないでしょう?」
「あっ。そうでしたそうでした。すっかり勘違いしちゃって……」
ヴィクトルは疑り深そうに、目を光らせた。
「おかしいですね。この階段の先には、招待客の客室しかありません。まさか……」
しまった。とっさにうまい言い訳が思いつかなかった……
ミレーユの背中をつつ、と一筋の汗が滑り落ちる。
そのとき、上階から能天気な声が響き渡った。
「おーい、ミレーユ! こっちこっち。こっちだよ!」
声のほうを振り仰ぐと、階段の上でピエールが笑顔で手を振っている。
隣にはなぜかカスティーユ伯爵夫人が連れ添っていた。
「ピエール!」
驚いていると、ピエールは足取り軽やかに下りてきて、ヴィクトルとミレーユを見比べた。
「どうした? おまえを待ってたんだ。さあ、夫人と三人で古城探検としゃれこもうじゃないか」
ピエールの言葉に、ヴィクトルは「探検?」と訝しそうな顔をする。
「あっ……そうなんです。ピエールと一緒にカスティーユ伯爵夫人を案内しようって約束してたんです」
機転を利かせてミレーユが言うと、ピエールも「そうそう」と調子を合わせた。
「この城はいろいろと見どころが多いからね。お客さんたちもそろそろ賭け事には飽きてきただろうし。なにか新しい遊びを提供しようかと思ってね」
ピエールが言うと、上階のカスティーユ伯爵夫人が叫んだ。
「ピエール? まだなの? そんなところでぐずぐずしてないで早く行きましょうよ~」
ヴィクトルはニコリともせず、ガラス玉のような目でピエールを見て言った。
「……なるほど。ミレーユが城内をうろつくのは許可できません。夫人を案内するのはピエールだけで行きなさい」
そう言われるとわかっていたけど、ミレーユはあえて不満の声を上げた。
「ええー。そんなー! 城内探検、行きたかったのにぃ」
「まあまあ、しょうがない。今は大事な身だ。おまえはサロンでおとなしくしてろよ」
ピエールはそう言ってミレーユの肩を叩き、左目でパッとウィンクする。
……あっ。左目ウィンク! 礼拝堂に来いという合図だ……
とっさに察知するも、ヴィクトルに気づかれないよう平静を装った。
けど、ここまで監視の目が厳しいと落ち合うのは無理だろう。
ピエール、どういうつもりなの……?
「探検は楽しいぞ、ミレーユ! 子供の頃を思い出すだろう? 一人でも行けばわかるさ。ま、僕は夫人とともに行くけどね……」
ピエールがなにか暗号を伝えてきているとわかった。
一人でも行けばわかる……? 一人で礼拝堂に行けば、なにかわかるってこと?
ピエールに詳細を問いただす猶予はなかった。
ヴィクトルと二人で、ピエールとカスティーユ伯爵夫人が去っていく背中を見送る。
「……あまり、妙な真似はなさいませぬよう。さもなくば、あなたを東の塔に閉じ込めなければならなくなります」
ヴィクトルは抑揚のない声で言った。
「もちろん、わかってる。ちょっと退屈してただけよ」
そう答えながら、危なかった、と安堵する。
ピエールが助けてくれなければ、それこそ本当に監禁されるところだった。
よし。まずは礼拝堂に行こう。ピエールがなにか話があるらしいから。
「大叔父様。自由に動き回れないのはわかっているんですけど、大叔父様同伴でしたら、礼拝堂へ行ってもいいですか?」
「礼拝堂へ? なにしに?」
「なにしにって……。祈るに決まってるでしょう? それ以外になにをするんです?」
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる