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19. 本当に監禁されるところ
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日が暮れるまで執務室に拘束されたミレーユは、夕食の席についても食事が喉を通らなかった。
どうしよう……。早く……早く、エドガールに伝えないと……
気ばかり焦るのに、一族の監視の目がうるさく、単独行動が取れない。
今すぐエドガールの元へ馳せ参じ、急を知らせたいのに!
夕食の席にエドガールの姿はなかった。それとなくメイドに確認したところ、体調が悪く寝込んでいるらしい。夕食を部屋まで運ばせたそうだ。
待って、まだ時間はある。決行は今夜じゃない。早くて明日、もっと遅くなる可能性もある。それまでに彼をここから脱出させることができれば……
ミレーユはやきもきしながらも、冷静さだけは失わないよう努めた。
窓の外はふたたび強風が吹き荒れていた。今朝、天気のよいうちに数名が帰っていったが、招待客の多くはまだ城に留まり、このいつ果てるとも知れぬ豪奢な饗宴に耽っている。
ミレーユは隙を見て席を立ち、足早にダイニングルームを出た。
酔っぱらって騒ぐ招待客たちを尻目に、急いでサロンを横切り、上階にいるエドガールの客室へ向かおうと、階段に足を掛けた……
そのとき。
ガシッ、と強い握力で腕を掴まれた。
「っ!?」
息が止まり、とっさに振り向く。
「そんなに急いでどこへ行こうとしているんです? ミレーユ」
「大叔父様……」
腕を掴んでいたのは、シャロワ伯爵の実弟ヴィクトルだった。
ミレーユが内心、中身カラッポな優等生と呼んでいる一族の中でも力のある筆頭だ。
伯爵よりも情け容赦がない性格のヴィクトルは、ミレーユが最も恐れている人物だった。
「あのー、ちょ、ちょっと、疲れたので部屋に戻ろうかと……」
そう誤魔化すと、ヴィクトルは握力を弱めずに問い詰める。
「部屋に? あなたの部屋はこっちじゃないでしょう?」
「あっ。そうでしたそうでした。すっかり勘違いしちゃって……」
ヴィクトルは疑り深そうに、目を光らせた。
「おかしいですね。この階段の先には、招待客の客室しかありません。まさか……」
しまった。とっさにうまい言い訳が思いつかなかった……
ミレーユの背中をつつ、と一筋の汗が滑り落ちる。
そのとき、上階から能天気な声が響き渡った。
「おーい、ミレーユ! こっちこっち。こっちだよ!」
声のほうを振り仰ぐと、階段の上でピエールが笑顔で手を振っている。
隣にはなぜかカスティーユ伯爵夫人が連れ添っていた。
「ピエール!」
驚いていると、ピエールは足取り軽やかに下りてきて、ヴィクトルとミレーユを見比べた。
「どうした? おまえを待ってたんだ。さあ、夫人と三人で古城探検としゃれこもうじゃないか」
ピエールの言葉に、ヴィクトルは「探検?」と訝しそうな顔をする。
「あっ……そうなんです。ピエールと一緒にカスティーユ伯爵夫人を案内しようって約束してたんです」
機転を利かせてミレーユが言うと、ピエールも「そうそう」と調子を合わせた。
「この城はいろいろと見どころが多いからね。お客さんたちもそろそろ賭け事には飽きてきただろうし。なにか新しい遊びを提供しようかと思ってね」
ピエールが言うと、上階のカスティーユ伯爵夫人が叫んだ。
「ピエール? まだなの? そんなところでぐずぐずしてないで早く行きましょうよ~」
ヴィクトルはニコリともせず、ガラス玉のような目でピエールを見て言った。
「……なるほど。ミレーユが城内をうろつくのは許可できません。夫人を案内するのはピエールだけで行きなさい」
そう言われるとわかっていたけど、ミレーユはあえて不満の声を上げた。
「ええー。そんなー! 城内探検、行きたかったのにぃ」
「まあまあ、しょうがない。今は大事な身だ。おまえはサロンでおとなしくしてろよ」
ピエールはそう言ってミレーユの肩を叩き、左目でパッとウィンクする。
……あっ。左目ウィンク! 礼拝堂に来いという合図だ……
とっさに察知するも、ヴィクトルに気づかれないよう平静を装った。
けど、ここまで監視の目が厳しいと落ち合うのは無理だろう。
ピエール、どういうつもりなの……?
「探検は楽しいぞ、ミレーユ! 子供の頃を思い出すだろう? 一人でも行けばわかるさ。ま、僕は夫人とともに行くけどね……」
ピエールがなにか暗号を伝えてきているとわかった。
一人でも行けばわかる……? 一人で礼拝堂に行けば、なにかわかるってこと?
ピエールに詳細を問いただす猶予はなかった。
ヴィクトルと二人で、ピエールとカスティーユ伯爵夫人が去っていく背中を見送る。
「……あまり、妙な真似はなさいませぬよう。さもなくば、あなたを東の塔に閉じ込めなければならなくなります」
ヴィクトルは抑揚のない声で言った。
「もちろん、わかってる。ちょっと退屈してただけよ」
そう答えながら、危なかった、と安堵する。
ピエールが助けてくれなければ、それこそ本当に監禁されるところだった。
よし。まずは礼拝堂に行こう。ピエールがなにか話があるらしいから。
「大叔父様。自由に動き回れないのはわかっているんですけど、大叔父様同伴でしたら、礼拝堂へ行ってもいいですか?」
「礼拝堂へ? なにしに?」
「なにしにって……。祈るに決まってるでしょう? それ以外になにをするんです?」
どうしよう……。早く……早く、エドガールに伝えないと……
気ばかり焦るのに、一族の監視の目がうるさく、単独行動が取れない。
今すぐエドガールの元へ馳せ参じ、急を知らせたいのに!
夕食の席にエドガールの姿はなかった。それとなくメイドに確認したところ、体調が悪く寝込んでいるらしい。夕食を部屋まで運ばせたそうだ。
待って、まだ時間はある。決行は今夜じゃない。早くて明日、もっと遅くなる可能性もある。それまでに彼をここから脱出させることができれば……
ミレーユはやきもきしながらも、冷静さだけは失わないよう努めた。
窓の外はふたたび強風が吹き荒れていた。今朝、天気のよいうちに数名が帰っていったが、招待客の多くはまだ城に留まり、このいつ果てるとも知れぬ豪奢な饗宴に耽っている。
ミレーユは隙を見て席を立ち、足早にダイニングルームを出た。
酔っぱらって騒ぐ招待客たちを尻目に、急いでサロンを横切り、上階にいるエドガールの客室へ向かおうと、階段に足を掛けた……
そのとき。
ガシッ、と強い握力で腕を掴まれた。
「っ!?」
息が止まり、とっさに振り向く。
「そんなに急いでどこへ行こうとしているんです? ミレーユ」
「大叔父様……」
腕を掴んでいたのは、シャロワ伯爵の実弟ヴィクトルだった。
ミレーユが内心、中身カラッポな優等生と呼んでいる一族の中でも力のある筆頭だ。
伯爵よりも情け容赦がない性格のヴィクトルは、ミレーユが最も恐れている人物だった。
「あのー、ちょ、ちょっと、疲れたので部屋に戻ろうかと……」
そう誤魔化すと、ヴィクトルは握力を弱めずに問い詰める。
「部屋に? あなたの部屋はこっちじゃないでしょう?」
「あっ。そうでしたそうでした。すっかり勘違いしちゃって……」
ヴィクトルは疑り深そうに、目を光らせた。
「おかしいですね。この階段の先には、招待客の客室しかありません。まさか……」
しまった。とっさにうまい言い訳が思いつかなかった……
ミレーユの背中をつつ、と一筋の汗が滑り落ちる。
そのとき、上階から能天気な声が響き渡った。
「おーい、ミレーユ! こっちこっち。こっちだよ!」
声のほうを振り仰ぐと、階段の上でピエールが笑顔で手を振っている。
隣にはなぜかカスティーユ伯爵夫人が連れ添っていた。
「ピエール!」
驚いていると、ピエールは足取り軽やかに下りてきて、ヴィクトルとミレーユを見比べた。
「どうした? おまえを待ってたんだ。さあ、夫人と三人で古城探検としゃれこもうじゃないか」
ピエールの言葉に、ヴィクトルは「探検?」と訝しそうな顔をする。
「あっ……そうなんです。ピエールと一緒にカスティーユ伯爵夫人を案内しようって約束してたんです」
機転を利かせてミレーユが言うと、ピエールも「そうそう」と調子を合わせた。
「この城はいろいろと見どころが多いからね。お客さんたちもそろそろ賭け事には飽きてきただろうし。なにか新しい遊びを提供しようかと思ってね」
ピエールが言うと、上階のカスティーユ伯爵夫人が叫んだ。
「ピエール? まだなの? そんなところでぐずぐずしてないで早く行きましょうよ~」
ヴィクトルはニコリともせず、ガラス玉のような目でピエールを見て言った。
「……なるほど。ミレーユが城内をうろつくのは許可できません。夫人を案内するのはピエールだけで行きなさい」
そう言われるとわかっていたけど、ミレーユはあえて不満の声を上げた。
「ええー。そんなー! 城内探検、行きたかったのにぃ」
「まあまあ、しょうがない。今は大事な身だ。おまえはサロンでおとなしくしてろよ」
ピエールはそう言ってミレーユの肩を叩き、左目でパッとウィンクする。
……あっ。左目ウィンク! 礼拝堂に来いという合図だ……
とっさに察知するも、ヴィクトルに気づかれないよう平静を装った。
けど、ここまで監視の目が厳しいと落ち合うのは無理だろう。
ピエール、どういうつもりなの……?
「探検は楽しいぞ、ミレーユ! 子供の頃を思い出すだろう? 一人でも行けばわかるさ。ま、僕は夫人とともに行くけどね……」
ピエールがなにか暗号を伝えてきているとわかった。
一人でも行けばわかる……? 一人で礼拝堂に行けば、なにかわかるってこと?
ピエールに詳細を問いただす猶予はなかった。
ヴィクトルと二人で、ピエールとカスティーユ伯爵夫人が去っていく背中を見送る。
「……あまり、妙な真似はなさいませぬよう。さもなくば、あなたを東の塔に閉じ込めなければならなくなります」
ヴィクトルは抑揚のない声で言った。
「もちろん、わかってる。ちょっと退屈してただけよ」
そう答えながら、危なかった、と安堵する。
ピエールが助けてくれなければ、それこそ本当に監禁されるところだった。
よし。まずは礼拝堂に行こう。ピエールがなにか話があるらしいから。
「大叔父様。自由に動き回れないのはわかっているんですけど、大叔父様同伴でしたら、礼拝堂へ行ってもいいですか?」
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