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5.老紳士は苦笑した
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「軍の方ですか」
とアーヘルゼッヘは聞いた。情報を集めるのは、商人と政治家と軍人だ、と言う話を聞いていたからだ。北の者について、男は大変詳しそうだ。
「こちらに駐屯して、町を守っておられる?」
と聞くと、男は顎をさすって自分の顔を、彫刻家ができの悪い作品をなでるような仕草でなでた。
「それほど、きな臭い顔をしていましたか」
と老紳士は苦笑した。すると、ずいぶん若く見えた。人間の年齢は、アーヘルゼッヘには分からない。人間は、あまりに早く年をとり、消えていく。だから、目の前の人間も、老人ではなく、白髪の人物かもしれないと思えてきた。壮年の男か、と思った。すると、
「軍人の守る町ですか」
と呟いて、アーヘルゼッヘは周囲を見回した。
石畳の広場の周囲をぐるりと煉瓦造りの背の高い建物が囲っている。細い小道の奥には、ところどころ緑が見える。大きな町で、建物の向こうに鬱蒼とした森が広がっている。水の香りが風に吹かれて流れていく。乾いた風の間に、まるで縞模様のようだ。砂漠にあるオアシスだった。
人間にとっては重要な拠点かもしれない。と、アーヘルゼッヘは考えた。歩きか、馬か、馬車しか、移動手段がない。海や川があれば、船を浮かべることもできるが、基本は地道に大地を行くしかない。それが人間の性だと言う。
ここは、山脈へ続く道、大陸中央部と沿岸の帝国部とを結ぶ要所かもしれない、と地図を頭の中に思い浮かべた。
そんなアーヘルゼッヘに、
「人間を守るのが私の仕事ですが、退役していますよ。軍人じゃない」
と男は言う。そして、
「それより、あなたです。まだ質問に答えていませんよ。なぜ、ここにいるのです? もしや迷子? それとも、社会見学ですか?」
アーヘルゼッヘは気の抜けた顔をした。銀の正装の者が、人間の町に現れる理由は、社会見物が普通なのだろうか、と思ってしまった。そんなことがあるはずがないのに、そう思えるほど、男は当たり前のような顔をしていた。
「いえ。そうじゃなく」
「では、家出?」
と言った。アーヘルゼッヘの顔を覗き込む姿は、真剣そのものだ。それが却ってうそくさい。しかし、アーヘルゼッヘは警戒した。人探しはうそじゃない。しかし、確かに、北の館を飛び出して来たわけだ。この格好は、そんなあからさまにわかるのだろうか、と不安になった。
とアーヘルゼッヘは聞いた。情報を集めるのは、商人と政治家と軍人だ、と言う話を聞いていたからだ。北の者について、男は大変詳しそうだ。
「こちらに駐屯して、町を守っておられる?」
と聞くと、男は顎をさすって自分の顔を、彫刻家ができの悪い作品をなでるような仕草でなでた。
「それほど、きな臭い顔をしていましたか」
と老紳士は苦笑した。すると、ずいぶん若く見えた。人間の年齢は、アーヘルゼッヘには分からない。人間は、あまりに早く年をとり、消えていく。だから、目の前の人間も、老人ではなく、白髪の人物かもしれないと思えてきた。壮年の男か、と思った。すると、
「軍人の守る町ですか」
と呟いて、アーヘルゼッヘは周囲を見回した。
石畳の広場の周囲をぐるりと煉瓦造りの背の高い建物が囲っている。細い小道の奥には、ところどころ緑が見える。大きな町で、建物の向こうに鬱蒼とした森が広がっている。水の香りが風に吹かれて流れていく。乾いた風の間に、まるで縞模様のようだ。砂漠にあるオアシスだった。
人間にとっては重要な拠点かもしれない。と、アーヘルゼッヘは考えた。歩きか、馬か、馬車しか、移動手段がない。海や川があれば、船を浮かべることもできるが、基本は地道に大地を行くしかない。それが人間の性だと言う。
ここは、山脈へ続く道、大陸中央部と沿岸の帝国部とを結ぶ要所かもしれない、と地図を頭の中に思い浮かべた。
そんなアーヘルゼッヘに、
「人間を守るのが私の仕事ですが、退役していますよ。軍人じゃない」
と男は言う。そして、
「それより、あなたです。まだ質問に答えていませんよ。なぜ、ここにいるのです? もしや迷子? それとも、社会見学ですか?」
アーヘルゼッヘは気の抜けた顔をした。銀の正装の者が、人間の町に現れる理由は、社会見物が普通なのだろうか、と思ってしまった。そんなことがあるはずがないのに、そう思えるほど、男は当たり前のような顔をしていた。
「いえ。そうじゃなく」
「では、家出?」
と言った。アーヘルゼッヘの顔を覗き込む姿は、真剣そのものだ。それが却ってうそくさい。しかし、アーヘルゼッヘは警戒した。人探しはうそじゃない。しかし、確かに、北の館を飛び出して来たわけだ。この格好は、そんなあからさまにわかるのだろうか、と不安になった。
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