北大陸のアーヘルゼッヘ

ふみはなえ

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7.これが、罠…。

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アーヘルゼッヘは噴水広場にいた。
噴水の前を通りかかった四台の馬車が四台とも、黒い塗が剥げかかった箱馬車だった。御者が、庇の下でマントで体をしっかりくるんでうずくまるようにして座っていた。四台は、パレードのようにぴたりと止まり、男たちが飛び出してきた。

小さな唾の帽子をかぶった、銀の鎖を腰につけ、肩には階級章と紋章の飾りをつけた、警棒を手にした男たちだった。

「これが、罠…」
とアーヘルゼッヘがつぶやいた。人間はいともたやすく心の緩みを突いてくる、と言う話を思い出した。

「いいえ。これほど町がざわめいていれば、警邏隊が出張ってくるのは当たり前です」
「どこがざわめいているんです?!」
と声を荒げた。がらんとした噴水広場に二人が立っているだけだ。
「普段」
と男はおごそかに話し出した。

「ここは、人であふれているんです。雑踏で、人にぶつからずには通れないほど賑やかな広場です。なのに今は、人っ子一人いないんです。つまり。いつもはここにいる人々がいったいどこに行っているとお思いか? 家で騒ぐか、市場で盛り上がるか。あなたも良い耳をお持ちでしょう。北の方を探した耳で、人々の心の声に耳を澄ましてみればいい」
と、最後の部分は突き放したような言い方だった。
「そんなばかげたことはしない」
とつぶやいた。気配を探るだけで十分だった。耳まで使いたくはない。

馬車から飛び出した、つばのある制帽をまっすぐ被った男達が、一瞬きれいに立ち止まる。先頭の馬車に乗っていた御者が、その瞬間に降り立った。

マントをはじいて中の金の鎖をあらわにする。と、制帽の男たちが噴水の周囲へ散った。警邏隊の指揮者だった。馬車の脇で、腕を組んむ。茶の絹のベストの上にビロードの襟の上着を着ている。警邏隊の隊長と言うより、地方豪族や育ちのいい役人に見えた。

しかし、人間をよく知らないアーヘルゼッヘにはよく分からない。顎を上げて立つ姿が傲慢そうに見えただけだ。男が腕をあげると、制帽達が、噴水を囲むように動きを止めた。

そんな中、杖の男は、相変わらず、立ったまま、杖を軽く浮かせて、アーヘルゼッヘへ問いかけた。

「ばかげたことですか? 人間の心に耳を澄ますことが?」
「悪意に満ちた人間の心に耳を澄ましても、我々が壊れるだけです」
と返す。
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