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8.不法侵入者だ! とらえよ!
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恐怖に満ちた町の人々のまなざしは、アーヘルゼッヘには恐ろしすぎた。
心の声に耳を澄ませば、彼らの恐怖が凶器になって襲ってくる。無の闇で眠る人々は、大戦の中、世界に溢れる人間の怨嗟の声を聞きすぎて、発狂から逃れるために、地下へもぐって行ったという。
男は悲しい顔をした。アーヘルゼッヘの恐怖は感じていないようだ。それどころか、苦々しく感じたらしい。舌打ちを打ちたいような顔をしている、とアーヘルゼッヘは思った。その途端、周囲を慌てて見回した。
広場を見下ろす建物に人々が満ち溢れている。窓から顔を出してはいないが、こちらに耳をすませている。号令一下、アーヘルゼッヘへ恐怖の武器をたたきつけようと狙っている。と、男が、杖をさっと振り上げた。アーヘルゼッヘは、喉の奥で息をすった。すると男は、大声で、
「不法侵入者だ! とらえよ!」
と警邏達に命じた。広場を見下ろす人々からは、固唾をのんだような気配が降ってくるだけだった。期待や珍しい事件に好奇心丸出しの高揚した空気が、頭上を流れているだけだった。アーヘルゼッヘは気が抜けたように男を見た。
制帽達が、棒を手に駆け出してくる。二人ほど銃を構えているのだが、仲間に当たらないように威嚇のためか、上へ向けて構えている。
「罠?」
と言う疑問に満ちた問いかけに、
「人間の群れが憎悪に満ちていて厭だと言うなら、とっとと北へお帰りなさい。ここはあなたの来るところではない」
と穏やかな声が返った。命じた時の意志の力は全くない。やさしいともいえる声音だった。制帽のために一歩下がった。下がりながら、
「この時期、不安要素は、私もありがたくない。さあ、転移をすれば、逃げれるでしょう。さあ、行かれよ!」
と声を張った。最後の部分は、アーヘルゼッヘが思わず転移したくなるような、不思議な語調だった。
しかし、アーヘルゼッヘは男を睨んだまま、立ち尽くしていた。北の館を飛び出した時に転移を使った。そうやって、月夜の間に三度の転移で場所を変え、日のある場所に現れたのだ。追っ手はいない。まだ、いない、と言うのが正しいのかもしれないが、日のある場所で見つからないのは奇跡と言える。今動いたら、まる見えだった。
太陽は、光を大地にたたきつけ、アーヘルゼッヘの姿を反射させ、空へ映す。空に姿を探す者がいれば、否でも見つかってしまうだろう。アーヘルゼッヘは耀すぎるのだと言う。さらに、力を使えば影はゆがむ。歪みは、北の者の存在となり、空をかけて北の館へ伝わっていく。
そうやって、北の主は、世界の動きを見ているのだから。アーヘルゼッヘはここにいます。今の今、南の大陸で力を使っているんです。と知らせることになってしまう。
男は怪訝そうな顔をしていた。アーヘルゼッヘは、制帽の男たちが棒を振りかざすのを眺めていた。振り下ろされてよける。しかし逃げ切れなくて額に当たる。男の顔が驚愕で歪む。その間、腕をたたかれ、肩を押された。重さにしゃがむと背中をたたかれ、そこでやっと男が正気付いたような顔になり、
「止めろ! 捕縛だ。たたくな! 無抵抗だぞ」
と叫んでいた。叫びながら、二歩で近寄って、飛びつくように隣にしゃがむ。怒った声で、
「なぜ逃げないんだ。人間につかまるレヘルゾンなんて聞いたことがないぞ」
と叱りつけるように言った。
心の声に耳を澄ませば、彼らの恐怖が凶器になって襲ってくる。無の闇で眠る人々は、大戦の中、世界に溢れる人間の怨嗟の声を聞きすぎて、発狂から逃れるために、地下へもぐって行ったという。
男は悲しい顔をした。アーヘルゼッヘの恐怖は感じていないようだ。それどころか、苦々しく感じたらしい。舌打ちを打ちたいような顔をしている、とアーヘルゼッヘは思った。その途端、周囲を慌てて見回した。
広場を見下ろす建物に人々が満ち溢れている。窓から顔を出してはいないが、こちらに耳をすませている。号令一下、アーヘルゼッヘへ恐怖の武器をたたきつけようと狙っている。と、男が、杖をさっと振り上げた。アーヘルゼッヘは、喉の奥で息をすった。すると男は、大声で、
「不法侵入者だ! とらえよ!」
と警邏達に命じた。広場を見下ろす人々からは、固唾をのんだような気配が降ってくるだけだった。期待や珍しい事件に好奇心丸出しの高揚した空気が、頭上を流れているだけだった。アーヘルゼッヘは気が抜けたように男を見た。
制帽達が、棒を手に駆け出してくる。二人ほど銃を構えているのだが、仲間に当たらないように威嚇のためか、上へ向けて構えている。
「罠?」
と言う疑問に満ちた問いかけに、
「人間の群れが憎悪に満ちていて厭だと言うなら、とっとと北へお帰りなさい。ここはあなたの来るところではない」
と穏やかな声が返った。命じた時の意志の力は全くない。やさしいともいえる声音だった。制帽のために一歩下がった。下がりながら、
「この時期、不安要素は、私もありがたくない。さあ、転移をすれば、逃げれるでしょう。さあ、行かれよ!」
と声を張った。最後の部分は、アーヘルゼッヘが思わず転移したくなるような、不思議な語調だった。
しかし、アーヘルゼッヘは男を睨んだまま、立ち尽くしていた。北の館を飛び出した時に転移を使った。そうやって、月夜の間に三度の転移で場所を変え、日のある場所に現れたのだ。追っ手はいない。まだ、いない、と言うのが正しいのかもしれないが、日のある場所で見つからないのは奇跡と言える。今動いたら、まる見えだった。
太陽は、光を大地にたたきつけ、アーヘルゼッヘの姿を反射させ、空へ映す。空に姿を探す者がいれば、否でも見つかってしまうだろう。アーヘルゼッヘは耀すぎるのだと言う。さらに、力を使えば影はゆがむ。歪みは、北の者の存在となり、空をかけて北の館へ伝わっていく。
そうやって、北の主は、世界の動きを見ているのだから。アーヘルゼッヘはここにいます。今の今、南の大陸で力を使っているんです。と知らせることになってしまう。
男は怪訝そうな顔をしていた。アーヘルゼッヘは、制帽の男たちが棒を振りかざすのを眺めていた。振り下ろされてよける。しかし逃げ切れなくて額に当たる。男の顔が驚愕で歪む。その間、腕をたたかれ、肩を押された。重さにしゃがむと背中をたたかれ、そこでやっと男が正気付いたような顔になり、
「止めろ! 捕縛だ。たたくな! 無抵抗だぞ」
と叫んでいた。叫びながら、二歩で近寄って、飛びつくように隣にしゃがむ。怒った声で、
「なぜ逃げないんだ。人間につかまるレヘルゾンなんて聞いたことがないぞ」
と叱りつけるように言った。
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