北大陸のアーヘルゼッヘ

ふみはなえ

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11.北の館で

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北の館で、
「成鳥にならない者もレヘルゾンには多い。おまえもその一人だと思えばよいのだ」
と館の主は言った。

焦燥と愛情にあふれた空気をまとっていた。何も、成鳥になれないのを悲しんでいたのは自分だけではなかった、とアーヘルゼッヘは思い出す。あの時の、館の主の声は、一生忘れられないかもしれない。戻ったら、そう伝えよう、アーヘルゼッヘは心に誓う。誓いながら、痛い言葉を思い出す。

「私に幼生のままで生きよと? 大人になるなとおっしゃるのですか!」

館で大声を出したのは、アーヘルゼッヘがはじめてだったかもしれない。透明な光を反射し、隅々まで清浄な光で満ちた館がびりっと震えた。館の奥にいるはずの、ボゾローネ達が顔色を変えて、飛び出してきた。小柄な、北の者達に使える彼らは、北の者の気配には敏感だ。きっと雷が鳴ったように感じたはずだ。

「アーヘルゼッヘ様、何事です?!」
と低い声で、咎めるような声で言ったのは、テローノだった。呆れていたのかもしれない。館の主の前で出すような声ではない。もちろん、北の館で出すような声でもなかった。しかし、アーヘルゼッヘは止められなかった。

「あなたに仕える為だけに、この百年と言う歳月を過ごして来たのです。あなたにとっては幼き者の短き年月かもしれませんが、私にとっては人生の全てです。それを、成人させるための成鳥がいないから、あきらめよ、とおっしゃるのですか? 私が打ちひしがれた時には、成鳥になるためだからと、励まされたあなたが?」

「アーヘル。何も道は一つではないと申しているのだ。館で私に使えるだけが、私への奉仕ではない」

「そんなことは存じています! 北に住むすべてのもが存じています。そうして、あなたに仕えています。でも、私はあなたの側で仕える為に人生をささげてきたのです! なのに、遠くから、あなたの存在を時折、楽の音色に聞き耳を立てて感じるような、そんな存在になり下がれとおっしゃるのですか!」

「なり下がるとは、他者を見下した言い方だ」
「ええ、そうですとも。本当に頑張っている者だけが、ここであなたに仕えることができるのですから!」

「おまえには、もともと向かないのかもしれない」
「ここまで来てそれをおっしゃるのですか。もともと向かない?」
「だからこそ、このタイミングで、成鳥が北の館にいないのだろう」
「あなたがそこまでおっしゃるのですか…」

「北の者に身分の上下は存在しない。それをわかる者でなければ、館に住まうことはできない」
「わかっています」
「外へ下ることが、なり下がるのだと思う者が、わかっているとは言えない」
「あなたは、あなたと言う存在のために全力を尽くす者の心をおわかりでない」

「私に尽くすということは、世界に尽くすということだ。それが分からなければ、結局、アーヘルよ、おまえはここにいていないのと同じだ。それはあまりに哀れである」
「私は、成鳥になり、ここであなたにお仕えします。そのために、選ばれ、能力を磨き、力を育て、技術を身に着け、ここにいるのですから」
「本当の資質は、こうゆう危機に対してあらわれるものだ」
「私の資質は、ここでのレヘルゾンのはずです!」

あの方の悲しみに満ちた顔は生涯忘れられないだろう。アーヘルゼッヘは苦い気持ちでうつむいた。思い出が苦い。あれほど楽しい時を過ごした館なのに。あの方は、
「おまえを、そばに置こうと思った私への戒めかもしれない。これは、おまえのせいではない。アーヘル、もう充分です。下がりなさい」
と言った。
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