北大陸のアーヘルゼッヘ

ふみはなえ

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65.神殿へ続く門がある

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門は破られ、官庁街に、中央の大通りに人々があふれ始める。通りには、警邏ではなく、兵士が出てきた。剣を見せ、槍で押して、馬で廻って押し返している。しかし、民を門へ押し戻すような力はない。官庁街の建物に入らないようにふさぐぐらいしかできない。

「誰が先導しているのだろう」
アーヘルゼッヘはつぶやきながら、群衆を見下ろした。

すぐそこに神殿へ続く門がある。門柱が高くそびえるようにあるだけで、扉はない。その向こうに南門があり、門の内側には、家具や荷車が引っぱり出されて積み上げられる。中にいる商人達が、門を破られないようにと固めはじめた。

次から次へときらびやかな服の男達が積み上げられた荷車や家具を飛び越え出ていく。剣を手に、軽やかに、商人の抱える私兵らしい。さらに向こう、遠く、東の通りの鉄門はしっかりと閉められていた。この内側に、さらに内門があるのだが、今まさに、衛兵らしい男達が数人で閉め始めていた。

群衆は、神殿の前を素通りした。群衆の先頭には、布のよれた帽子をかぶったほっそりした男がいた。肩をいからせた大男の横で、両手をこまめに動かしながら話ながらついて行く。

「セノ卿だ」

アーヘルゼッヘがつぶやくと、ゼ大臣補佐が怒りのうめき声をあげた。アーヘルゼッヘが振り返ると、
「あの船は偽物ですわい。この群衆をあおるために作った、単なる雇われ商船ですわい」
とアーヘルゼッヘへ口早に説明し、その口で、大声をあげて、
「誰ぞ! 群衆を止めるぞ。後ろから少しずつ切り離せ。建物の中にでも少しずつひっぱりこんでしまえ。法務局の判事部屋でも構わん。中の方が安全だからとささやいて、片っぱしから中へ入れよ!」

ゼ大臣補佐の家人が飛び出していく。神殿の白いローブを着た者達も、同じように飛び出して行く。

いつの間にか、アーヘルゼッヘの後ろに控えていたソンが、
「先頭集団はいかがいたしましょうか?」
と聞くと、ゼ大臣補佐は、
「後ろが来なくなってから、馬で追いたてればよい。おまえさんは、姫巫女と北の方をお守りいたせよ」
そう言って、ソンがうなずくのを待たずに、石段を一段一段飛びながら降り出した。アーヘルゼッヘが後を追う。すると、気が付き、ぱっと後ろを振り返り、
「そこでお待ちになられよ!」
と命じた。アーヘルゼッヘが首を横に振ると、
「神が一方の見方をしたという事実は避けていただきたい」
と言った。アーヘルゼッヘが眉間にしわを寄せて怪訝な顔になると、イライラしたように、
「北から来た神であられましょう。姫巫女が、あなたの言葉を王宮へ伝えよ、とおっしゃられたのを聞かれなかったのか? あなたは、あの瞬間から我らが神になられたのよ」
と言ってから、息を吸った。そして、
「もしかしたら、その前から神であられたのかもしれないが。今は、人間のことは人間にまかせて、静観していただきたい」
と言って、動こうとするアーヘルゼッヘを両手を上げて手のひらを向けて押しとどめ、
「あの声は、わたしの芯に響いていますぞ。『人を救うために、人を殺すのか。それが正義か』というあの言葉。あれは終世忘れられない言葉になる。痛い事をおっしゃる神だ」
そう言って、神だと持ち上げているくせに、
「参られるなよ。北の方が騒動に関わったとなれば、やっと終わった終戦の協定が、全てふいになって消えてしまう。北は戦は二度としないとおっしゃるが。人間はそうはいかないんのですわい。噂だけで、南の大陸で、大騒乱が勃発しましょう。内乱か、悪くすれば大戦ですわい!」
と言ったかと思うと、周囲に向かってどなりながら駆け下りていく。

大声を上げ、
「南も東も守備は堅い。しかし、東の壁は薄っぺらな紙のようなものだ! 乗り越えられるし、荷車の体当たりで穴が開くぞ。その先はだだっ広い森があるだけだ。森を超えたら宮殿になる。彼らもそれを知っているはずだ。この人数で森に入られたら、宮殿を守るにも守れなくなる。それ、上に白い服を着ろ。ローブだローブ。神殿の者の方が、耳を傾けやすいだろう。何を剣を振っている。そんなものは捨ててしまえ」
声はどんどん小さく遠く離れていった。

見ていると、本当に後ろから、少しずつ建物に吸い込まれるように人が消え、群衆は小さく穏やかになって行く。後ろから追い立てる者がいないと、どこか不安になるらしい。徐々に立ち止まっては周囲を見回し、いつもとは違った見上げるような回廊や、大きな窓の建物に戸惑ったような顔を見せる。

「参ります。彼らになら、穏やかな声が届きます」
そう言って、パソンは神殿の者を促して、石段を降りはじめた。アーヘルゼッヘも、と足を踏み出すと、パソンはきっぱりした声で、
「申し訳ございません。先ほどの奇跡を見ていないものには、その髪は、やはり」
と言った。フードをかぶってと言おうとしたが、パソンはきっぱり首を左右に振った。戦の恐怖の真っただ中に、戦の生々しい記憶になった北の方が来るなんて、収まるものも収まりません。と、心の声が聞こえてきそうな身振りを見せた。
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