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73.人間に刃を向けることができない
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テンネは人間に刃を向けることができない。力を使うこともできない。しかし、画策することも罠を張ることも包囲網を敷くことも、簡単にできる。それこそ、知恵と知識と謀略と根気と、人間が持つのと同じ力を使って、力の限り戦えば。つまり、同じ力でアーヘルゼッヘも戦うことができるのだ。
アーヘルゼッヘが、チウの横をすり抜けた。と同時にチウの姿は消えていた。移動は自由なのだろうか、と思いながら、アーヘルゼッヘは降りてきた兵士に向かって片手をあげた。何をするつもりもなかった。
しかし、真っ暗闇からランプの明かりで白く浮き上がった背の高いものが、突然彼らに向かって動いたのだ。彼らは剣をとろうと下がりながら、階段の狭さのせいで、お互いにぶつかった。アーヘルゼッヘは彼らの手のランプの中にガラスを砕いて手を突っ込んで芯をつまんだ。
真の闇ができあがり、洞窟の宮殿に慣れているはずの彼らがパニックになり、一時周囲が分からなくなる。そのすきに、脇をすり抜け階段を駆け上がった。
謁見の間の入口にたたずんでいた兵士は、ぶつけ合っていた槍を跳ね上げて人が通り抜けたのを感じた。しかし、人影を見る前に、槍の反動が大きすぎて壁に背中を強くぶつけた。目を見開いて周囲を見た時には、中二階に浮かび上がるようにして飛び上った青年の後姿が見えただけだった。もちろん、青年でなく女性だったのだが。
兵士は、驚いて立ち上がって、中二階に駆け上がろうと階段へ向かった。すると、廊下の奥からか細いうめき声が聞こえてきてた。ランプを消され、暗さに方向を忘れた二人が、額をぶつけあった時の声だったのだが。兵士はあわてて奥へ入って行った。戻ってよかったのだろう。アーヘルゼッヘは中二階に立つや、あの、年老いた皇帝を探した。心の目を使って、四方へ手足を触手を伸ばすような、感覚を爆発させて老人を探した。
と、その瞬間、アーヘルゼッヘの体は白く淡く輝きだし、次の瞬間、光が爆発した。獏風ともいえる、光の波が広間に溢れ膨れ上がり、建物の窓という窓から染み出してたわんだかと思ったら、宮殿から四方へ、丘から街へ、大通りから東部の町や南の館や北の建物へと広がった。
波打ち際で、テンネが立ち止まって頭上を見上げた。諸島国家と言うより、巨大海洋国家でもある、今回の将兵とともに、打ち合わせをしながら浜辺を歩いていたのだが、岩の手前で足を止め、振り返って帝都のある方向の崖を見つめた。
将兵はテンネの動きを見て、何事かと言うように顔を上げると、目もくらむような白い光が崖から四方へ広がって、目に痛みのような透明な気配が突き抜けた。無言で帝都の方向をにらみ上げる。テンネは低い声で言った。
「急いだ方がよさそうですな」
「ええ。兵の様子が心配です。これが、我らの敵だとすると、まるで、北大陸との戦じゃないか」
と最後の部分は震えるような声だった。テンネを従え、崖下の坂へ歩きだした。テンネは、と言うと、少し離れたところを歩きながら、
「北大陸なら、まだましなのですがね。北の主はおひとよしでしたから」
とつぶやいたのだが、幸いなことに将兵には聞こえなかった。
アーヘルゼッヘが、チウの横をすり抜けた。と同時にチウの姿は消えていた。移動は自由なのだろうか、と思いながら、アーヘルゼッヘは降りてきた兵士に向かって片手をあげた。何をするつもりもなかった。
しかし、真っ暗闇からランプの明かりで白く浮き上がった背の高いものが、突然彼らに向かって動いたのだ。彼らは剣をとろうと下がりながら、階段の狭さのせいで、お互いにぶつかった。アーヘルゼッヘは彼らの手のランプの中にガラスを砕いて手を突っ込んで芯をつまんだ。
真の闇ができあがり、洞窟の宮殿に慣れているはずの彼らがパニックになり、一時周囲が分からなくなる。そのすきに、脇をすり抜け階段を駆け上がった。
謁見の間の入口にたたずんでいた兵士は、ぶつけ合っていた槍を跳ね上げて人が通り抜けたのを感じた。しかし、人影を見る前に、槍の反動が大きすぎて壁に背中を強くぶつけた。目を見開いて周囲を見た時には、中二階に浮かび上がるようにして飛び上った青年の後姿が見えただけだった。もちろん、青年でなく女性だったのだが。
兵士は、驚いて立ち上がって、中二階に駆け上がろうと階段へ向かった。すると、廊下の奥からか細いうめき声が聞こえてきてた。ランプを消され、暗さに方向を忘れた二人が、額をぶつけあった時の声だったのだが。兵士はあわてて奥へ入って行った。戻ってよかったのだろう。アーヘルゼッヘは中二階に立つや、あの、年老いた皇帝を探した。心の目を使って、四方へ手足を触手を伸ばすような、感覚を爆発させて老人を探した。
と、その瞬間、アーヘルゼッヘの体は白く淡く輝きだし、次の瞬間、光が爆発した。獏風ともいえる、光の波が広間に溢れ膨れ上がり、建物の窓という窓から染み出してたわんだかと思ったら、宮殿から四方へ、丘から街へ、大通りから東部の町や南の館や北の建物へと広がった。
波打ち際で、テンネが立ち止まって頭上を見上げた。諸島国家と言うより、巨大海洋国家でもある、今回の将兵とともに、打ち合わせをしながら浜辺を歩いていたのだが、岩の手前で足を止め、振り返って帝都のある方向の崖を見つめた。
将兵はテンネの動きを見て、何事かと言うように顔を上げると、目もくらむような白い光が崖から四方へ広がって、目に痛みのような透明な気配が突き抜けた。無言で帝都の方向をにらみ上げる。テンネは低い声で言った。
「急いだ方がよさそうですな」
「ええ。兵の様子が心配です。これが、我らの敵だとすると、まるで、北大陸との戦じゃないか」
と最後の部分は震えるような声だった。テンネを従え、崖下の坂へ歩きだした。テンネは、と言うと、少し離れたところを歩きながら、
「北大陸なら、まだましなのですがね。北の主はおひとよしでしたから」
とつぶやいたのだが、幸いなことに将兵には聞こえなかった。
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