北大陸のアーヘルゼッヘ

ふみはなえ

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87.はた迷惑だ

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「弟の偏愛を嫌って眠りについたへそ曲がりの年長者に、はた迷惑だと知らしめるのは、きっと一族に生まれた私の使命でしょう」
と皮肉を言った。すると、
「なら、その使命、はっきりと果たすがいい」
チウはぶぜんとした声で言う。
「私は起こされて機嫌が悪い。この結末を拭ってやるような気にはなれない。おまえは成鳥にあった。私という成鳥にな。よくぞ真っすぐ、あの大樹の町にやって来れたものだ。北の主の育て方か」
そう言って、アーヘルゼッヘがちょっと得意そうな顔をしたのを見ると、チウは口の端を上げて、
「おかげで、おまえには、南の大陸に深い縁ができた。この結末は、自分でしっかり締めくくるがよい。じっくり見させてもらおうぞ」
と言った。そして、チウは軽く欠伸をした。寝足りない、というような顔をして、意地悪そうな顔をした。

その時だった。轟音とも言えそうな時の声が全身を打った。はっと顔を上げると、テンネが大声で前へ出ようとしていた。力を使えばすぐなのに、長い年月人間の中にいたせいか、すっかり忘れているようだった。

そのテンネの動きを誤解して、将兵たちが兵士へ指示を繰り出した。帝都の街壁には、押し寄せた諸島の兵士が群がって、きらびやかな色に変わり、街壁の上にいた兵士たちは慌てたように弓を打つ。

下から、兵士が駆けあがり、仕掛けた石籠を下へ落とし、壁の内では、弓の補給に走り回る。また、駆けあがってきた兵たちが、下から梯子をかけて登る敵へ、棒を繰り出し防戦する。

アーヘルゼッヘは呆然とした顔のまま、血の気がさっと落ちた。自分が始めた戦争だった。人と北との大戦を止めるために、帝都で眠る北の者を起こそうとして、逆に人々の間に騒乱を引き起こしていた。

彼らは攻めてくるはずがなかったのだ。ここに、帝都の大軍を見て、テンネの指示で引き上げるはずだったのだ。見たかったのは、その中にいる、アーヘルゼッヘの姿だったからだ。人間側についたアーヘルゼッヘを北の者達に見せたかっただけだ。次の大乱を生むために。そう危機感をあおって北の者達に見せつける為に。眠るチウに見せるために。

アーヘルゼッヘは慌てた。前に出て、諸島の兵士を止めようとした。と、後ろからトローネの兵が羽交い絞めにしてアーヘルゼッヘを止めにかかった。しかし、そんな力技に負けているわけにはいかなかい。

これでは、テンネの思い通りになってしまう。自分が戦闘の中心にいて人間に手を貸せば、これを見ている北の誰かが、噂を流す。幼子は、人の主をもったらしい、と言うかもしれない。そうすれば、数千万年後の恐怖が生まれ、本当に、人類滅亡のとろこまで追い込もうと思う者もでるかもしれない。仲間の愛情は絶対だった。

アーヘルゼッヘは顔色を真っ青から真っ赤に変えて、羽交い絞めにした兵たちを、頭で殴って払い落して、壁の淵の際へ立った。恐ろしい数の弓が飛ぶ。が、今度はどれも当たらなかった。空気の層を作ったせいでよけていく。それを見て、トローネ達は少しは安心したらしい。それどころか、自分達も参戦しようと、兵たちの間に指示を出しに飛び出して行った。

アーヘルゼッヘは、縁に立って両手を上げた。兵達は目の前のことで手いっぱいで気づかなかった。しかし、テントの傍で震える声を上げていたテンネの目には留まったらしい。元気に、街壁の上に立って両手を上げる、その姿に、遠目で小さいと言うのに、大きな姿を見たように、四肢が緩んだ。そして、その場でどっと後ろへ腰をおろした。几帳に座ったらしい。アーヘルゼッヘは、壁の上で声を上げた。
「兵を引かれよ! 今、すぐに」
声は、兵隊たちの時の声にかき消された。しかし、
「兄上の伝言を聞きたかったら兵を引かせよ!」
というアーヘルゼッヘの声に、テンネはぱっと反応した。
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