黒ギャルとパパ活始めたら人生変わった

Hatton

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SS 猫カフェ(後編)

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そんなこんなで、猫カフェを堪能すること数十分。

ロクくんはいまだに杏子のそばを離れず、彼女がスマホ操作の片手間で適当に振り回す、猫じゃらしと戯れていた。

猫も人間も変わらんのだな、男って生き物は。

いっぽう俺の推しであるニイナはというと、おやつを食べ終えたらもう用済みと言わんばかりに俺の元から去った。

いまは学生カップルと思しき二人組に愛でられている。

これがNTRってやつなのか…まったく女ってやつは…

失恋のような感覚に浸っていると、ポケットのスマホが震えた。

ホーム画面を見た瞬間

「ゔぅぅ」

変な声が出た。今日は珍妙なリアクションがよく出る日らしい。

「どしたの?だれから?」

「お、お袋から…」

「なんでそんな渋い顔になんのさ?」

「実は、仕事辞めたこと言ってないんだけど…」

だが妹にはつい数日前に、電話で話したときに言った。

妹は実家と目と鼻の先に住んでいて、頻繁に帰っている…ということは…

「もしかしたら妹経由でバレたのかも」

「だから?別によくね?」

「いや、まあね…いいんだけどね…」

田舎の母親に、心配させるようなニュースが伝わるというのは、面倒ごとの種を巻いて肥料までどっさりとくれてやるようなものなのだ。

いっそこのままシカトしようかとも思ったところで、ちょうどコールが止んだ。

「話してやんなよ、可哀想じゃん」

彼女はスマホから視線を離さず、さりげなく言った。なるべくさりげなく言おうとしている感じがした。

そっか、彼女には心配してくれる母親がもう…

「ああ、そうするよ」

「別にここで電話してもいいよー」

「…かんべんしてくれ」

俺は席を立って、店員に「外で電話します」とジェスチャーで告げ、店の外に出て、喫煙所に足を運んだ。

タバコに火をつけ、着信履歴から母親にリコールした。

心配してくれる母親がいることに感謝しなきゃだよな、とコール音を耳にしながら、ひっそりと自分の子供じみた態度を反省した…


……なんて思ってた時期が、私にもありました。

「い、いまはそういう時代じゃ、はい、すいません、うん、うん」

案の定、お袋には仕事を辞めたことがバレていた。あのお喋りな妹め。

母親世代からすれば、正社員の職を手放すことは一大事なようで、さんざんっぱら心配という名目のお説教を聞かされる羽目になった。

「うん、次決まったら連絡するから、だからもう…はい、それはもちろん、うん、うん」

こうして俺は、仕事を辞めたことを責められ、ついでにいい年して独身なのを皮肉られ、中学時代の同窓に3人目の子供ができたことを知らされ、孫の顔を見せない親不孝な長男であることを嘆かれ…etc

かれこれ20分近くは話したところで、ようやく解放された。

疲れた、せっかくの癒しがリセットされてしまった。

また猫ちゃんセラピーが必要となり、足早に店に戻った。

店内に入り、さっきの席に目を向けたら、杏子の姿がない。店内に目配せして探すと、奥のフリースペースの角付近に、しゃがんでいる銀髪の後ろ姿が目についた。

何してるんだ?

とにかく近づいて声をかけようとしたのだが。

「たのちい?良かったねえ?」

母性に溢れた、文字通りの猫撫で声が、俺の耳を貫いた。かけようとした声が喉奥にヒュっと引っ込む。

なんとなく辺りを見渡すが、どう考えても杏子の方から聞こえた声だ。

「かわちいねえロクくん、ほらこっちむいて~」

少し横にズレで見てみれば、どうやら遊具で遊ぶ猫をスマホで撮っているらしい。

シャシャシャシャと、連写音が響く。そこでロクくんは、カメラに近づき、かまって欲しそうに脚をバタバタさせた。

「にゃにゃにゃにゃ~」と、杏子はスマホを床に置き、猫語を発し、両手でロクくんをもみくちゃに撫でた。

彼女の顔は見えないが、どんな表情なのか容易に想像できる…いや、こんなデレデレになっている杏子は見たことないので、やっぱり想像できん。

そうか、さっきの険しい顔は、緩みそうになる表情筋を引き締めるためだったのか。

でも今はきっとフニャフニャに溶けていることだろう。ぶっちゃけ、めちゃくちゃ見たい。

でもどう考えても、杏子は今の自分を俺に見られたくないはずだ。

ここは、そっと踵を返し、ソファ席に戻り、「あ、おわったのー?」と何食わぬ顔で戻ってくる杏子を、「いやあ、こってり絞られたよー」と何食わぬ顔で迎えるべきだろう。

よし、台本ほんは書き終えた。あとは演じるだけだ。

ブロードウェイの舞台に立つ意気込みで、踵を返そうとしたのだが。

「お客様、どうかされましたか?」

猫と遊ぶでもなく、呆然と突っ立っていたのが不自然だったようだ。台本にない店員役のアドリブに、フリーズする俺。舞台は生き物だ。

そして無情にも、その声は杏子に届き、パッと彼女は振り向いた。

交差する視線。沈黙する男女。異様な雰囲気に戸惑う店員。

「なー?」

何が起きているのか理解できるはずもなくず、不思議そうに鳴く三毛猫。

「い、いやあ、こってり絞られたよー」

とりあえず用意していた台本を読み上げる俺。

だが基本は棒読みで、そのくせ所々でイントネーションが跳ねるように上擦っていた。

口の端がヒクヒクと痙攣しているのも実感した。

さようなら、ブロードウェイ。

絵に描いたような大根演技は、かえって俺の動揺を露わにし、何を見て何を聞いたのかを、かえって明確に伝えてしまったようだ。

「しね!」

YouTubeなら規制がかかりそうな文言を、真っ赤な顔で、プルプルと震えながら、杏子は言い放った。

「これはこれで良いな」

なんて言ったら本当に殺されそうだから、もちろん口にはしなかった。


「あの、杏子さん?」

「うっさい」

「ドリンクのお代わりはいる?」

「だまれ」

席に戻ってからずっとこの調子である。

でも冷静に考えたら、べつに俺悪くなくね?

でもまあ、気持ちは理解できる。

とにかくしばらくは機嫌が治りそうもないな。

ただ杏子は不機嫌になりつつも、半分は開き直っているようで、その手は今日一日でメロメロに懐柔した三毛猫を愛でていた。

可愛いな、両方とも。

なんだかんだで、たっぷり癒された俺だった。
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