黒ギャルとパパ活始めたら人生変わった

Hatton

文字の大きさ
36 / 51

32

しおりを挟む
「ごめん、遅くなった」

約束の時間をだいぶ過ぎてから、彼はやってきた。

相変わらず社畜してるな。

でも、出会ったときと比べて、変わったところもある。

例えば、しっかりとセットされている髪の毛とか。きちんとアイロンのかかった服とか。

ジャケットはアタシが選んだやつだけど、下にきてるストライプのシャツや、シワひとつない黒のスラックスは知らないやつだ。

がんばってお洒落してるんだな。かんしん、かんしん。

自覚は薄いみたいだけど、今の岩城さんはけっこーイイカンジだ。

もしかしたら、職場で誰かの好きピになってたりするかも。

なにより、もう、の目をしてなかった。

だから、きっと、アタシがいなくても大丈夫だと思う。

アタシは今日、岩城さんにバイバイする気で来た。

この一週間、電話で言っちゃおうかだいぶ悩んだ。

でも、ちゃんと会って言おうと思ったから、我慢した。

「帰り際にお客さんからの電話に捕まっちゃってさ、参ったよ」

ほんとは会ってすぐ言うつもりだったけど、息をはずませて、でも少しハシャイでる岩城さんを見たら、言えなくなっちゃった。

彼に連れてこられたレストランは、いい店だった。

メニューが、パイとか、ピザとかハンバガーとか、アタシが好きなモノばっかり。

「いや俺もはじめてだよ、食べログ見てたらたまたま目に止まって、なんとなく気になってね」

嘘ばっかり、アタシが好きそうな店を頑張って探したくせに。

店のシステムとかメニューとかにやたらと詳しかったから、下見くらいしたのかも。

なんでだろ?いつもはそこまでしないのにな。

あいつのことがあってから、あんまり食欲が湧かなかったから、食べ放は正直キツイ

でも、せっかく連れてきてもらったのに悪いし、変に心配されるのもイヤだから、ヤケクソで注文しまくる。

そしてお店のウリだっていうアップルパイをひとくち食べたら、止まらなくなった。

無理矢理でもヤケクソでもなく、ひたすら食べた。

岩城さんに会ったら、なんか安心して、食欲がもどったみたい。

夢中になって食べるアタシを、岩城さんは嬉しそうに眺めてる。

自分もちゃんと食べろっての。そうでなくても、へたすりゃアタシより体重軽そうなのにさ。

そんな顔されたら、ますます言いにくいじゃん。

でも、言わなきゃダメだから、食べ終わって、会計を済ませて、外に出て、今度こそと思った。

「ご馳走様、いろいろありがとね、岩城さん」

「いえいえ」

「あと…」

「うん?」

「ううん、やっぱいいや」

店の前は違うか。ほかのお客さんに見られるのもアレだし。

歩道はハロウィンに染まってた。あのカボチャのお化けのやつ、なんていうんだっけ?

辺りは暗くて、人もそれなりに歩いているけど、誰も他人のことなんて気にしてない。

言うなら、たぶん今しかない。

アタシは足を止めた。そしたらなんでか、岩城さんも同じタイミングで止まった。

そして必死に言葉を探しているあいだに、彼は言った。

「17歳の誕生日、おめでとう」

赤いリボンがついた茶色い巾着袋を渡す手は、ほんの少し震えている。

そうだった。昨日はアタシの誕生日だ。

スマホのカレンダーが目にはいったときに、「ああ、今日か」って思い出すだけの日。

いまはもう、誰もアタシの誕生日なんて祝わないから。アタシも含めて。

だから、びっくりして、ドーヨーして、アタシの頭の中はぐちゃぐちゃになる。

変なの。メチャクチャ混乱すると、人って固まっちゃうんだ。

もう十分びっくりしてたけど、包みを開けたら、心臓が止まりそうになった。

「これ」

「知ってるだろうけど、香水だよ」

「どうして…これにしたの?」

「杏子のスマホケースに似てたからだけど、あれ?違った?」

「ううん…これだよ。たしか廃盤…だよね?どうやって?」

もう手に入らないから、せめてと思って、わざわざオーダーメイドでスマホケースにしてもらったんだ。

アタシの大好きな香り。ママの香りだ。

高い香水だから、特別な時にしかつけなかったけど、これをつけているママはいつも綺麗で、キラキラしてて、可愛くて、憧れてた。

だからアタシは、ママを思い出すとき、いつもこの香水の匂いとセットで思い出す。

「み、店の在庫でたまたま見つけて、でも未使用品だから!」

「ふふふ…そういう問題じゃなくね?」

でも、もちろん、岩城さんはそんなこと知らない。

この香水がママのお気に入りだったことも。パパとの初デートのとき、プレゼントされた香水だから、好きだったことも。

もしかしたら、これがアプリコットの香りだってことも、アプリコットがあんずのことだってことも、知らないかもしれない。

たまたま、ほんとに偶然、岩城さんはコレを選んだってこと?

ーー人との出会いは神様のお導きなの

ママ、やっぱりそういうことなの?こんなのって無くない?

もう無理じゃん、バイバイなんて言えないじゃん……いや、どっちにしろ、かな。

岩城さんがアタシの誕生日なんて知らなくても、たぶん言えなかったか。

だって、この一週間、そして今日、アタシは理由ばっか探してたから。

「まったくもー、しょーがないなあ岩城さんは」

しょーがないのはアタシもだけど。

「めんもくない」

「ふつーの女なら、下手すりゃガチギレ案件だよ」

「ごもっともです」

あーもう、最低だ。いつもの感じで軽く済ませようとしてるのに。

アタシの気持ちと裏腹に、いや、どっちかっていうと気持ちに素直になのかな?意味わからん、とにかく涙がとまらない、人間の体って不便だ。

「だから他の女にはやっちゃダメだよ」

「こんなの泣いて喜ぶの、アタシくらいなんだかんね」

岩城さんは、きっと、アタシがいなくなっても大丈夫。おいおい泣くかもだけど、なんだかんだで、生きていくと思う。

でも、認めたくないけど、ムカつくけど、もう認めるしかないな。

アタシが、岩城さんがいないと無理なんだ。

でもこのままだと、岩城さんに迷惑がかかる。というか迷惑どころじゃ済まないかも。

「どうしよう?もうわかんないよお…」

「杏子?」

あーあ、声に出ちゃったよ。

でも、ここまでみっともないとこ見せたんだから、もういいや。

アタシは岩城さんの胸に飛び込んで、薄い胸板に顔を押し付けた。

「助けて」

こんなこと、絶対に言いたくなかった。岩城さんにだけじゃなく、誰にも。

アタシに抱きつかれて、硬直した岩城さんの体が、フッと緩んだ。両肩に、彼の手が添えられる。

「なんでもするよ、だから話してごらん」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...