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★★本編★★元戦闘奴隷なのに、チャイニーズマフィアの香主《跡取り》と原住民族の族長からの寵愛を受けて困っています

2★戦闘奴隷を恋人にするまでの夜這いの回数は?

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2★戦闘奴隷を恋人にするまでの夜這いの回数は?

▲▽狂愛の本質▽▲

▽▽ KUKI side ▽▽

アァ。まどろっこしい。
何がって、ナニが。全てが。どうせ全人類ほっっっっとんどがボクに頭を垂れるしか脳の無い低俗な人種ばかりなのに、ナンデこんな無駄な闘い〈あらそい〉をするかが理解できない。
そして、ボクもボクでこんなくっっっそみたいな愉しくない闘いを父親からの命令で仕方なくこなしていることすらも──低欲だ。

殺す時は見せしめに。派手に惨たらしく残酷に。時と場合によっては音もなく静かに。敵対組織と関係がある者は女子供容赦なく。

「この、……ば、はけものめ……ッッ!」

香主シャン ジュゥ(跡継ぎ)──二番手って言っても、ボクのいるチャイニーズマフィア・龍鬼頭《ロングゥイトウ》はボスであるボクの父親、漆鬼チーグゥイに全ての決定権がある。ボクは父がくたばった時、もしくはトップから降りるときに跡を継ぐだけの駒だ。産まれた時から父に決められた未来に特に何も感じてはいない。ボクならサラッとこなせると思うし、望んでやりたいかと問われれば答えはノーである。人が敷いたレールなんかに興味はナイが龍鬼頭《ロングゥイトウ》は一子相伝なのでボクがやらない選択をすれば、殆ど全ての技術承継され終わっているボクを待ち受けているのは〝死〟のみである。今のこの状態でやらない選択肢を選ぶほどボクもバカじゃない。
「……詰まってるようで、ツマラナイ人生」
心が踊らない闘いはツマラナイ。ただ自分だけが赤く染まって、他の全てが無意味なものになっていくだけである。他のニンゲンなんてゴミにも思えないので死んでも何の感慨も沸かない。快楽すらもない。そう、ボクがココロオドルのは左千夫クンに関する事だけ。戦闘中なのに今、日本にいる彼の事を思い浮かべただけで歓喜に口角が歪んだ。
アァ、早く食べたい。帰りたい。ひとつになりたい。
思考は完全にイってるけど、身体は殺戮の手段を覚えているので目の前の醜い人の面をした肉の塊を破壊した。
「ぎゃぁあああああああっ!やめ!やめ…………ぐぁぁあ…………ぁ…………あ」
「何だ、あいつは、……あんな、あんな若造一人に……!!」
「アレ?ボクの事知らないの~?まぁ、影武者はいっぱい居るしね♪ま、覚えてくれなくてもいいヨ……どうせキミも死ぬ……から♪」
「待て!俺は……俺の親は…………ぎゃあああああっ!!」
「知ってるよ~♪ユナイテッド・グラスの幹部だよネ。因みにボクも龍鬼頭《ロングゥイトウ》の頭首の息子なんだよネ~ってもう、聞こえない……か。あー……興味なさ過ぎて殺しちゃったけど生け捕りだったっけ?ま、いっか。どーせ先に殺されるか、後に殺されるかだろうし、次の火種にはどっちにしても充分だし。逆に捕まって拷問されなかった事を喜んで……」
「───ッッリーダー!?」
似ていた。
少し若いけど、透き通るような声が。目の前に現れた男は来る前にザッと目を通させられた幹部リストには居なかった。要注意人物にも。
今日の戦闘に心躍る事なんて無いと思ってたケド……見つけた。今日のボクの細やかなタノシミ。残念ながら容姿は似ていなかった。細身で質素な顔立ちのオトコノコ。ただ声だけが左千夫クンに似ていた。
「う、むごい。あんたは……ッ……龍鬼頭《ロングゥイトウ》の……ッッ!」
アァ。バカ息子と違ってお利口さんなんでちゅね~」
「ふ、ふざけるなッッ!!」
「……ッと、血気盛んな割に正確に急所狙い……ネ。はぁ……すっごく好みなタイプ」
ボクに向かって飛んできたのは拳銃の弾では無かった。そうなると実力者や能力者である事がほぼ決まりだ。近距離タイプなのだろう警棒のようなものをボクに向かって突き込んできた。手の甲のグローブの出っ張りで受け止めるとバチバチバチと空気中に放電されたが、ボクが受け止めたグローブは特注なのでちゃんと受け止めると電気は通さない。
「……なっ!?」
「ざんねーん。雷系の能力者……ネ」
「く、流石。龍鬼頭《ロングゥイトウ》の後継者、一筋縄ではいかないか」
「……!」
今日は火種を作るだけの予定だった。が、思わぬ隠し玉を引いてしまったみたいだ。
左千夫クンに似た声の男の警棒とボクの拳が拮抗する。普通は初撃が効かなければ次の策を考える為に身を引く者が多い。引かないということは……と考えている間にドロっとボクが受け止めていたグローブの一部がジュッ……と嫌な音を立てた。直ぐ様、体を捻って相手を投げ飛ばすと距離を保てたが既にグローブにはまっていた特注の金属は溶けて無くなっていた。
「なーるほど。ユナイテッド・グラスはキミみたいなの、まだ何人も囲ってるの?」
「……く。そんな事言うわけない……ッ!」
「その声。凄くイイネ……、ボクともっとおしゃべりしよっか♪」
左千夫クンに似た声で能力者。かなーり興奮するシチュエーションだ。受け止めた警棒が異様な熱を発していたので、電気を熱に変換しているのだろう。アース切断に近いものか。となると、武器の力なのか、属性化とは別の能力の効果なのか。そんな事を考えながら相手の追撃を躱す。その辺にあるもので絶縁体の物質を創り上げて電流を防いで、耐熱素材で熱も防ぐ。
「ふん。おまえに話すことなんてない……ッ!とっとと焼き切れろ!」
「……罵られても最高だよネ。その声……ホントにいいな」
「バカにするのも大概にし……ろっ!」
「……わぉ♪変幻自在~」
ヴィンッ……!と耳障りのする音を立ててから警棒が発光してビームソードのように伸びてきた。間一髪で躱したのだけど、高熱の範囲が思ったよりもかなり広くボクの腹部が右脇腹から左脇腹へと大きく一文字に切り裂かれた。ブシュッと、皮膚が裂ける音とともに血は吹き出したが傷は深くないので気にせず攻める。
一応死戦と呼べるものを繰り広げているのに頭の片隅には左千夫クンがずっといる。敵からの警棒の突きを躱して、相手の腕をグローブの絶縁体の部分で掴んでぶん投げて、アァ、左千夫クンにもこうやって触れたい。
腕をギュッてして、抱き寄せて、口づけして、チンコ捩じ込んでひとつになって。早く恋人になりたい……。
そんな邪な考えが四六時中頭の中を占領してる事もあり、せっかくの遊び相手と長く楽しみたくて生きたまま捕まえようと思ったのが……まーちょっと興奮し過ぎててボクらしくも無く。いや、一周回ってボクらしくもあり、捕縛するのにかなーり時間がかかった。くらってしまった一撃はキズは深くないものの出血が収まる気配がないので布でキツく縛っていると部下たちが到着した。話すのも面倒なので「じゃ、あとよろしく~」と、捕まえた能力者を部下へと放り投げてから次の火起しへと向かう。龍鬼頭《ロングゥイトウ》へと歯向かった相手の末路は決まっている。ボクの父は容赦も情けもない男だからだ。

その後も数カ所、全面抗争の為の火種、……いや火起こしをしてきた。これだけオオゴトになると向こうも黙ってる事は出来ず、ファミリー同士の全面抗争に発展するだろう。そして後は相手に敗北を突き付けて、地位財産名誉……全てを略奪すれば、父からの任務は終了だ。モチロン、数学のテストみたいに簡単じゃないし、100点取れば満足してもらえるものでもないが、時間を掛ければ余裕なミッションだ。
だけど、時間は掛けたくない。ツマラナイ事よりも詰まった事をしたいカラ。上層部が集まるアジトへと戻るとすっかり真っ赤に染まった包帯を巻き直した。いつもならもう止血している頃なのに流血は止まっていなかったが、龍鬼頭《ロングゥイトウ》には知らせていないがボクは体液を司る能力者なので、きちんと食事をしていればこの程度の出血で死ぬ事は無い。
「自分を治せないっていうのはこういう時は不便だネ~、白い服着れないじゃん」
ボクは自分の体液を用いて他人の肉体を〝創造〟する事はできるが自分の肉体は創造できない。ボクの表向きの能力である物を創る〝創造〟の能力もガス欠になると不発に終わるので色々制限はあるが、こんなに使い勝手のいい能力はナカナカ無いので気に入っている。

アジトの入口から更に地下へと潜ると普通の牢屋や拷問部屋、調教部屋が並んでいる。昔は入り浸りだったけど今はもう余り来ることは無い。ある一室の扉を開くと酷く蒸せた血生臭いにおいがした。何万人という者の体液が染み付いたこの部屋のにおいは消えることは無いだろう。軍人には似つかわしくない派手な装飾、目立つチャコールグレーの長髪、そして褐色の肌の男がボクに一番に声をかけてくる。

「珍しいな、ジゥ。お前がここにくるなんて」
「ヤッホー、ムーニス。どう、その子?」
「聞くまでもなく、お前が一番分かっているだろう?このタイプはどんな拷問をしても話さないと」
「さっすが拷問部隊特攻隊長~♪わかってるー!」
「ん゙ー!!ん…………ん!!?」
彼はムーニス。ボクの中国での世話係であり、父の片腕だ。ボクが性の技術を教わったのも彼である。主に人を堕落させる為の技術だけど。
そしてその横には赤い糸によって産婦人科の診療台のような開脚椅子に足を開いた状態で拘束されている男が居た。猿轡をかまされ自害できないようにされて素っ裸で色んなところを弄ばれているのは言わずもがなボクが今日捕まえてきた左千夫クンに似た声の持ち主である。
普通なら問答無用にいったーい拷問になるんだけど後から使えそうなタイプはキモチいー拷問になる。チンコ縛られて、ムーニスの能力によって最大限まで感度を上げられて、ひたすら絶頂止め。くだらなければ絶対に気持ちよくなれないってやつだけど。目隠しまでされている男のくぐもった声は品はないが、やはりどこか左千夫クンに似ていてボクのボルテージも上がり始める。

「んっ!?んー!!んーッッッッ!!っ、!?ん、ぐんんんおおっん!!」

ムーニスの部下達が縛られて鬱血しているチンコを扱いたり、アナルに棒を突っ込んで前立腺のみを狙い打ちして抜き差ししている。とっっっても気持ちよさそうなので今度左千夫クンにもしてあげたいな……と、思ったら股間のイチモツが勃起した。

「絶頂は出来ない神経接続にしてある。挿入したければ自由にしていいぞ」
「わーい……と、言いたいとこだケド。それよりも楽な方法があるかもなんだよネ~」

ムーニスからのお誘いは全くそそらなかった。残念ながら左千夫クンを再び見つけてからボクは他の奴には性的興奮はしない。左千夫クンに似た声の男に近づくと目隠しと猿轡を外した。モチロン直ぐに舌を噛もうとしたけどそれよりも先にムーニスの赤い糸が針のように顎に刺さって神経を狂わせる。すると顎の力が入らなくなったようで、舌に歯を当てるだけになってしまっていた。

「ッ殺せ!!俺は何があっても情報を売ったりはしない!」
「お、こっわーい!忠犬だね~、ワンワンって鳴いてみなヨ~」
「そんなことするくらいなら死ぬ……!」
「なっるほど~。確かにこのタイプは無理そうだネ♪でもさ……」
「……ッ」

ボクは嗤っただけなのに相手の表情が恐怖に満ちた。ホント失礼だと思う。こんなにかわいーく笑ってやってるのに。まぁ、それは置いといて。
こういった忠誠心が高いタイプは色んなやつがいる。本当にファミリーのボスを慕ってる信者タイプが一番メジャー。一番崩しやすいのが忠誠を貫く自分に酔い痴れているパターンだけど、今回はそれじゃなさそうだ。……後は他の条件が絡んでるパターン。そんな事を考えているとバタバタと廊下が騒がしくなった。
「やめて!何するの!!いや、離して!……っ、……ハジュン?」
女性の悲鳴が部屋の中に響き渡る。そしてその女性は左千夫クンの声に似た男を見た瞬間、男の名前を呼んだ。モチロン、ハジュンと呼ばれた男の顔が僅かに歪んだ事をボクもムーニスも見逃す筈もなくて、愉悦に狂った笑みのまま女性に魔の手が伸びる。

「や、やめろっ!!なんでも、……なんでも話すからそいつには手を出すなッ!」

左千夫クンだったらどうするんだろう。
頭の中を占めるのはそんな考えばかりだったが、目の前の現実は進んでいく。ボクが部下に指示して探させた女はハジュンの〝弱点〟で間違い無かった。そこからは簡単だ、啜り泣く女の横でハジュンの呼ばれた左千夫クンの声に似た男がユナイテッド・グラスの情報を話し始める。
本拠地、構成員の所在、能力者の数。恥ずかしい格好で洗いざらい話し終わる頃には泣いていた女も俯いて静まり返っていた。そしてその女よりも紅潮しているのに蒼白い顔をした、ハジュンに一歩近づく。放心状態の彼の尻の穴に埋まっているディルドで前立腺を執拗に掻き回してやった。
「お゙!?♡あ゙!!あー!!゙あぁ゙あー!!!はぁ♡あ゙あぁ゙♡あ゙あぁ♡」
「ちゃんと言えたからご褒美ネ~♡気持ちよくなっちゃえー!」
「お゙!?おっ!!こわれっ!?おおおおおおおおおおっっっっっっんんんん!」
すっかり興味が失せたからか、左千夫クン似てると思っていた声は全く別物になっていたが、戦意喪失させてやる必要があったので、彼女か、姉か、妹かわからない女の前で盛大に射精させてやった。ムーニスが神経を弄ってイけなくして散々焦らした後だった事もあり、ションベンかのように精液が飛び散って目の前にいた女に掛かった。
すると再び女が声を上げて泣き始めたが、既にハジュンには聞こえていないようだった。

「はっ…………ははは、きもちぃ、……きもちぃれ……す、尻がッ!穴がっ……♡」
「気持ちいいの好きデショ?もう何も考えなくてもいいからネ~」
「あいっ!好きれす、すき……あー!あー!!」
「やっぱムーニスの能力って調教向けだよネ~」
「今回はお前の手柄だろ?ジゥ
「まー、そうだけど♪じゃ、このまま快楽漬けにして龍鬼頭《ロングゥイトウ》のコマに変えちゃおうかなっ♪」
敗北と快楽。
同時にぶち込んだから精神がイったようだった。精神崩壊しても能力の兵士、ただの駒として使い道が残っているのでとことん落としてやろうと手を早めようとしたが…………。
「何を言ってるんだジゥ
「あああああっー!!!あ!…………………………あ゙!?─────────────、─────」

ムーニスの武器である赤い糸がハジュンと呼ばれた男の眼球に突き刺さり、そのままその男は絶命した。
理由は簡単。ボクは相変わらず左千夫クンにしか目が無いのでちゃんと見ていなかった。……赤い糸が突き刺さる前から彼の瞳は血のように赤かったのだ。
龍鬼頭《ロングゥイトウ》にとって赤目はタブーである。占いババアが「朱の目の色をしたものが龍鬼頭に災いを齎す」なんてお告げを出したからだ。

「ハ、ハジュン……!?うわぁあああああああああん」

耳に入ってくるのは女の悲鳴だけになった。人質を取って、情報まで吐かせたのに酷いなぁ。とか、そんな普通の感情は沸き上がらない。
それにボクにとっての〝赤〟は左千夫クンのあの宝石みたいなきれいな瞳の朱〈あか〉なので似ても似つかないその瞳が赤いと称される事が気分が悪いとすら思った。完全にこの状況に興味が失せると踵を返そうとしたがムーニスによって捕まった。

「ナニ?次のとこ潰しに行きたいんだケド?」
「熱心なのは良い事だ。ただ、何をそんなに急いでるんだ?日本に帰りたくて仕方が無いのか?」
「んー、そんなこと無いケド。ここで父上に言われるまま人殺ししてるよりは愉しいカナ♪」
「フッ。お前も言うようになったな。
ところでジゥ。その腹の傷、血が止まってないなら医務室にいくんだぞ」
「え~。やだヨー。あそこいったら薬中オンナに治されるンでしょ?嫌なんだよネ~」
「仕方ないだろ。治癒能力は飼い殺すのがセオリーだ」
「ま。そのうち治るカラいいや。じゃ、ボクは行くネ~」
「……ジゥ。もう一つ。お前ならどうする?」
「ん?なんの事?じゃ、ボクいそいでるから~」

ムーニスの言葉は拷問執行人らしいイヤらしいものだった。いつもなら「そんな相手居ないけど(笑)」で、サラッと返せる内容だったのに。
ボクならどうするだろうか。敵に捕まって、拷問されて。僕が香主シャン ジュゥ〈後継〉と言っても、龍鬼頭《ロングゥイトウ》に対して有力な情報なんて持ってないに等しいんだケド。幹部の名前とか能力なんて聞かれたら言っちゃうし~。お金欲しいならあげるし~。
ただ、もしどうしてもバラしたくないものがあるとして、そこに左千夫クンが囚われて連れて来られたら──。
……完膚なきまで拷問されたらいいと思う。ボクに見せ付けるように惨たらしいことを目の前でされるなんて、考えるだけで最高潮だ。こっそりされてしまうのはイヤだけど、ちゃんと目の前でシてくれるならボクは構わない。肉が裂けようが、腕がもげようが、血が飛び散ってボクにかかろうが最高に興奮する。
ただ、やはり殺されてしまうのは困るので、そういう意味なら弱点と言えるのかもしれない。もし、そうなったらどうするか。ボクが死んでも彼を助けたい……なーんて、ナイト気質は持ち合わせて居ない。……もし、二人で助かれないなら。
「左千夫クンを殺して、ボクも死ぬ……カナ」
二回目に出会ったとき、彼の能力で作り上げた偽物の肉体だったけど、刺殺してやった。
温かい血に包まれて、収縮した内臓で僕の腕を抱かれた感触は今もまだ消えては居ない。
「まぁ、でも。彼に至っては捕まえるのがまず難しいし。ボクと繋がってるなんてわからないと思うけどネ~」
きっとそんなシチュエーションになってボクの前で拷問されても左千夫クンは顔色一つ変えないんだろうな。すかした顔で、侮蔑を含んだ瞳でボクを見つめてるところを想像したら勃起した。
更に有り得ないパターンだけど、もしも、……もしも、左千夫クンが、ボクに助けを求めるようなアクションを、「九鬼、僕、もう無理です。助けて……」なんて言われたら。何がなんでも助ける自信はある。愛の力って偉大だ。
残念ながらそんなシチュエーションは未来永劫来ることはないケド。あ、後、モチロン散々甚振られるのをボクが愉しんだ後にはなるけど。
「まー……結局はそんなヤワじゃないんだよネ~、ボクも彼も」
一番リアルなルートは連れて来られた左千夫クンは捕まったフリをしていただけで、逆に全員が彼からお仕置きされて「何やってるんですか、帰りますよ」って言われるパターンである。スマート過ぎるその手腕に惚れないヤツは居ないだろう。

「あー、会いたーい。帰りたーい!イチャイチャしたーい。もう、人殺しも飽きてきたんだよネ~。次のトコ潰したら時間無いけど一回遊びに行こうかな♪そうと決まればイノッチに電話して~。ん♡やっぱり愛の力って偉大だよネ。ヤル気出る~」

出血の止まらない腹部の包帯をキツく巻き直して、ボクには似合わないくっっっろい服を着てから先程手に入れた敵部隊の治癒能力者の元へと急いだ。ヒーラーから倒すのはセオリーだからだ。だからどこの組もヒーラーの存在はひた隠し。そして、大体が薬か能力で洗脳済み。それもあってボクの目覚めた新しい能力〝体内の創造〟は大っぴらにはしていない。モチロン幹部にも。狂わされるのもイヤだし。お姫様みたいに大事にされたくもない。ボクは誰の指示も受けない。逆にボクに関われたことが霊験あらたかだ。それにボクの声に逆らえるものなんて居ない。今はまだ自己陶酔だとしても……だ。

久々の心の奥底からの昂りに口角が持ち上がる。漏れ出す殺気を消せないまま敵地へと侵入すると警報は鳴り響き、次から次へと衛兵がわいてきた。
〝ビー!ビー! 侵入者!侵入者!!直ちに撃退せよ〟

アァ。たっのし……ィ」

能力の属性化が流行りだしてから遠距離主流の能力者が増えた。空気中に様々なエネルギーが飛び交う。放電、鎌鼬、火柱、石礫、鉄砲水
主である本来の能力もロクに使えない奴らがいくら流行りに乗ろうともボクの能力の前にすると赤子にすらなれない。
身を縮めるようにしてから両手を広げると、バサッと大きな音と共に天使の羽がボクの背中からはえる。純白の羽の化身は本来なら天からの使いであるが、残念ながらボクはそんなにきれいなモノじゃない。
豪華な建物の庭にうじゃうじゃとわいてきたウジ虫が一望できる高さまで上昇すると一面を見渡した。そして差し伸べるように掌を上に向けて、ぐいっと二本指を折り曲げる。まぁ、モーションはいらないんだけど♪その瞬間、一つの火の玉がボクに直撃して火柱に包まれる。昔こんな事もあったな……ァ。

「敵は一人だ!捨て身か?捨て駒か?」
「やりぃ!直撃…………?……あれ、きいて……」
「な、なんだこの地鳴りは!?」
「ぎゃあああああ!な、地面が!隆起して……!石の針がッッいぎぃぃ!!」
「おい、地の能力部隊!?何をやって」
「お、俺達は何も………ッなにも、して、ぎぃあああああああっ!!!」
「ぁああああああああ!!!!足がァァァァ!!」
「ぎゃぁぁあああああああああああ!!!!」

断末魔は火柱越しにも聞こえた。あの時身を焼いた業火は左千夫クンのまやかしの炎であったが今は敵の能力で作られた本当の炎である。普通なら肉体が焼失してしまうところだが……。
ボクの周りから湯気が立ち込める。そして、ジュッ!!!と、言う音と共に炎が消え去り黒煙がボクよりも更に頭上に立ち込めた。その後シトシトと地獄絵図となった敵地の庭へと雨が降り注いだ。ボクの属性化の能力は〝水〟相性が悪いこんなちっぽけな赤い炎じゃ服すら焼くことは不可能である。
そして同時に〝創造〟の能力を使い、視線を向けた庭の地面を針のように突出させてしまえば衆合地獄の出来上がりである。鋭いもので貫かれて絶命したり、手足が損傷してうめき声をあげる見張り番を一瞥していると更に奥から他の部隊が姿を表した。一か所からではなく四方八方から出てきたメンツは精鋭部隊だ。情報なくここに自ファミリーの歩兵をブツケると人数的な損害を被るけど、今回はラッキーな事に先に情報を得た。なーんて、戦術的な難しい事はどーでもイイよね。ソレよりも……ボクが愉しいか否か。
まずは背後。空を駆ける能力者。青い髪の寡黙な男。

「能力の種類は〝摩擦〟あらゆる面において摩擦を生じる事ができる能力者。属性は雷。特技は空中闊歩」
「……な!?なぜ」
「摩擦をゼロにする事によりスピードアップが可能。そして消音機能。ただ、気配は消せてないよねぇ~♪能力に頼り過ぎ」

ひらりと大きく白い羽を動かして、背後に立った男の更に背後に立ってやる。背中を蹴りつけてやると逆に大きな摩擦を作って直ぐに空中で体勢を整える……と、思ったのでそのまま追いかけて驚く男の喉仏を握り込んだ。

「ぬぁああああああっ!!!ぁ、あ!あー……あ゙……!?………………っ」

バチバチバチバチ……ッッッッ!!と全身から放電されたがソレよりもボクが首をへし折るのが速かった。全身に痺れるような快感を感じながら手を開くと肉塊となったものがボクの作った針山へと堕ちていく。能力者の勝負では相手に手の内を知られていると言う事はかなり不利であるということ。特にこういう隠された精鋭部隊なら知られていない事が普通だからだ。

「ばいばーい。……ッ!」

直ぐ様落ちていくものの影から第二の気配を感じたと思ったのにそれは背後に変わった。そして逃げ遅れた羽根が無残にも切り裂かれて白いフワフワの毛が辺り一面に舞う。

「ケケケケケッ!大したことねぇな!そんな的になりやすいもん背負ってるからそうなるんだぜぇ!け、けけけけっ!!」
「あーあ。コレ一応神経繋げてるから痛いんだよネ~」
「け?……け?」
「蛇みたいな目をした包帯男。能力は〝停止〟男の目に3分の2が映り込むとコンマ1秒間全てが停止する。停止と再生が交互に繰り広げられるため止まっていると認識できず先読みの能力者として認識される……だったかなぁ?あ、なーんで、キミ能力が効いてないかっていうと~」
「ぎやぁ!…………ぎ、ぎ……ぎ……ぎ」
「そのコンマ1秒単位でキミの目の前に瞬間的な壁を〝創造〟して能力に掛かる時間を大幅に減らしてるんだよネ♪ボクって天才でしょ?」
「ぁ゙あ゙ああああああああ゙ああああああ!?!?」
「っと……後は~」

蛇男の狙いは羽を失ったボクを墜落させて針山で突き殺す事。なーので逆に両足に服を絡めつけて串刺しにしてやってそこを足場にボクは地面へと降り立った。情報によると残るは……

「…………ッ!?」

地中から急に伸びた手によって、ずっ!と地面に引きずり込まれる。首から下が地面に埋まって身動き取れなくなったところで目の前に二人のオンナノコがでっかい尻と乳を誇張しながら仁王立ちしていた。

「あー、キミが通称モグラ女?モグラと人間のキメラで、視力を失っている代わりに聴力が発達、鋭い爪で両足を引き裂きながら地中に人間を引き込んで窒息させちゃう♪だっけ?」
「な、なんなのこの男!?どうして私達の能力を知っているの?」
「落ち着きましょう。知っていたとしてもこうしてしまえばもう動く事はできませんわ。後は私の能力で……」
「そうですわ。お姉様の能力は分かっていたとしても不可避ですわ」
「そう、私の顔を見たものは都合のいいリアルを見続ける。そしてその間肉体は私の操り人形。死ぬまで私が遊んであげるわぁ♡」
「オネエサン美人だネ~。この後ボクと遊ぶ?もったいないよネ、仮面で隠してるなんて」
「な、なんなの、この男!?この状況で」
「気が触れたのでしょう。それよりも私と契りを……」
「…………っ、アレ……これ……な、…………ん、か、キモチイイ~」
「ふっ、フフフフフフフフ♡さぁ、今度は逆に洗いざらい龍鬼頭《ロングゥイトウ》の能力者情報を吐いてもらいましょうか!」
「ふふ、流石お姉様。いつもながら惚れ惚れしますわぁ♡」

と。まぁ、そんな幸せな夢を目の前でラリっているモグラちゃんはみてるだろう。

現状はというと、その〝容姿〟見ると〝ラリって操り人形になると言う能力者〟を創造で作った布で雁字搦めにしている。そして、その女の能力にかかってしまったモグラのキメラのオンナは「流石お姉様~」と甘い声を上げながらラリっている。
「どうして!彼女は目が見えないから私の能力には掛からないはず……!それにどうして貴方は私を見ても平気……な……の」
ボクの表情がつまらな過ぎて消失してしまったからか、操作系の女の喉が恐怖に震えた。
「ボクの精神はボクだけのモノだからネ~」
「そんな、そんなの……こんな、こんな事って」
「お姉様~♡お姉様~♡」
カラクリは簡単だ。
地中に沈められた瞬間。モグラちゃんの爪がボクの足を引き裂き流血した血液が彼女の手を汚す。それを基点にボクの〝体内の創造〟が人知れず発達する。血液の中のボクの細胞でモグラちゃんの瞳の中の網膜、水晶体、視神経を人間のと同じ構造にしてやる。それもモグラちゃんが操作系のオンナの顔見た瞬間に。するとオートで発動する能力である為モグラちゃんは夢の中へと一瞬にして落ちる。落ちた瞬間に操作系オンナを捕縛すれば終了だ。操作は彼女の指先を用いて行うのはリサーチ済みだからだ。
さらーに、〝創造〟の能力のボクに取っては地中から這い出すなんて造作もない……!ちょっと油断して足を怪我した訳じゃなくてこれは演技!
と、いつもみたく気持ちは乗り始めていたのに。

ドォォォォォォォォォン!!!
そんなけたたましい音共に敵の拠点が爆発した。


「げほ、げほっ……あー……ヤラレタ」

咄嗟にモグラちゃんが掘った地中の穴に逃げたので事なきを得たが地上に戻ると辺り一面焼け野原で何も残っては居なかった。こうなると治癒能力者共々拠点を爆発させたのか、逃してから爆発させたのか分からなくなってしまう。またイチカラダ。モチロン、爆乳のモグラちゃんも仮面のデカ尻の操作系ちゃんも真っ黒焦げで既に原型は無かった。

急に襲い来る虚しさは何なのか理解は出来ない。少なくとも(裏)生徒会のメンバーと関わるまではこんな気持ちにはならなかった。
色んな感情が渦巻いて、呼吸がハァハァ言い始めて、闇落ちしそうになったところで。
「九鬼さぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーん!こんなとこに!迎えに来いつーから来たのに本部に居ねぇし。つーか、なんで若頭一人でこんな敵地ど真ん中に突っ込むんスかぁぁぁぁぁ!どーなんってんだよ中国の本部ぅぅぅぅ!!」

と、いつもと変わらないイノッチの声が聞こえてハッとした。アブナイアブナイ。父の思い通りになるところだった。色んな教育を受けてると言ってもボクもまだガキだと……言うか、問答無用にイノッチがボクの耳を引っ張って引き摺っていく。

「イタタただただただただ……イノッチ、ボク一応怪我してるんだケド?」
「んなもんツバつけときゃ治るやつですよネ?つーか、もう飛行機無いんスよ!ほぼとんぼ返りになるのに帰れなかったら、帰れなかったで八つ当たりされる俺の気持ち考えた事ありますか?」
「ん?あるわけ無いジャン♪」
「……っ、分かってた。分かってるんスけど……クソぉぉ!さっさと行きますよ!俺、今日は自宅に帰りたいんス!」
「じゃ、仮眠取るから後ヨロシク~」
「ちょ!こんな体勢で!?俺の能力無駄遣いさせないで下さいよぉぉぉぉ!!!」

騒然と現れたのは井上竜司《いのうえ りゅうじ》 ボクの日本での世話係である。情に熱く涙脆い。チャイニーズ・マフィアにはこんなタイプのニンゲンは居ないので飽きないけど、たまーにメンドイ。能力は何でも持ち上げれる。……だ。いや多分本当はもっときっちりしたカラクリがあるケド本人は分かっていない。耳を引っ張られて引き摺られていたら普通は痛い筈だがイノッチが能力を発動するとボクの体はその引っ張る力だけで宙に持ち上げられる。エアーベッドだと思えば寝れないこともないので数日間寝ていないし、昂っている気持ちも少し抑えようとボクは瞼を落とした。因みに既に頭の中は左千夫クンの事でいっぱいである。今日も沢山イかせて発散してあげたい。


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数十分で起きて、いのっちに駄々こねて寄り道して左千夫クンへのお土産を買ってから帰ろうと思ってたのに起きたら日本だった。しかもほんっっっっとうに時間がない。40回位イかせたら帰らないといけないぐらい時間が無い。出来れば100回はイかせてあげたいのに。
お土産は高価な役立つものが良かったが探している時間が無い為、ブラックバカラと呼ばれる黒薔薇の花束にした。
まー、全く喜ばないだろうケド。貢物でなびく相手なら苦労はしない。贈り物は全てボクが贈りたいから渡しているに過ぎない。龍鬼頭《ロングゥイトウ》の継承リングもそうだ。ボクのパートナーがつける予定のリングは左千夫クンのペンダントトップに嵌っている。ボク的には左千夫クンにあげたものなので指に嵌めてほしいところなんだケド。特殊な素材だし、なんだかんだ言いながらも手放さないところを見ると案外気に入ってるのかもしれない。
左千夫クンのいる神功家本邸が近づくにつれ足取りが速くなる。息遣いも荒くなり、早く逢いたくて心音も大きく高鳴る。今日は窓からじゃなくて普通のルートにした。ただ、左千夫クンには驚かせたいからと秘密にしてもらって廊下を通って彼の部屋の前まで来る。
するといつもとは違って凄くあまーい匂いがした。ボクのダイキライな甘い匂い。でも、なぜかこの甘さはキライじゃない。ノックなんかせずにバンッ!!といつもみたいに左千夫クンの部屋の扉を破壊する勢いで開いた。

「ヤッホー♪左千夫クン、ひっさしぶり~!……あれ、居ない」

扉を開いてすぐの部屋に左千夫クンは居なかった。気配を探るとどうやらバスルームのようだ。彼は無類の風呂好きなのでどうせならバラ風呂にしてあげよう♪と花束を手に浴室へと向かうと、調度脱衣所に出て来ようとした左千夫クンと鉢合わせた。ブワッと甘い匂いが充満する。

あまいあまい、クラクラする、美味しそうな酔いそうな匂い。

ムラっとボクの本能が燻る。
アァ……喰いたい、骨の髄まで貪りつきたい。髪の毛の一本一本まで愛して、臓器も血液も体液も全てボクのモノにしたい。
隠しきれない本能に自然とボクは殺気立ってしまった。だって仕方ないほんの数時間前まできれいな花束を持っているこの手は赤く染まっていたのだカラ。
いつも通りだ。いつも通りの変態的欲求。ただ、左千夫クンがいつも通りでは無かった。
なぜならボクを見た彼の朱い瞳が、恐怖に揺れた──────。









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