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isc(裏)生徒会
金髪男子
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【千星 那由多】
その日俺は変な夢を見た。
瓦礫の山に佇む自分、遠くを見つめているようだ。
周りには人っ子一人いない。
まるで俺は誰もいない世界でひとりぼっちのよう。
夢の中の俺に近づこうとするが、うまく距離を保てない。
ぬるりとした重い感触を振り払って、夢の中の俺にあと少し・・・あと少し・・・。
その時夢の中の俺が突然振り向く。
手には、あのコーヒーカップが握られていた・・・。
「うわあああああっ!!!!」
目覚ましのアラームと同時に俺は叫びながら飛び起きた。
こんな目覚めの悪い朝は久しぶりだ。
「おにーちゃーん!うるさい!!」
隣の部屋から妹の声が聞こえる、俺は目覚ましのアラームを切り、深いため息をついた。
・・・きっと昨日のことは夢ではないだろう。
「夢だと思いたいけど・・・」
俺はぽつりと一人ごとを呟いて学校へ行く準備を始める。
制服に着替えながら、昨日のことを思い出していた。
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「えっと…その…簡単に説明すると…」
「ここは(裏)生徒会。表の生徒会では片付けられない仕事を秘密裏に片付けている組織。」
副会長のしどろもどろな言葉をイデアが遮って説明を始めた。
副会長はそのことを全く気にしていない様子でまだおどおどとしながら俺と少女の様子を見つめている。
「まぁ、体のいいナンデモヤだ。
他の生徒の認識は、(裏)生徒会があると言う噂が広まっている程度で構成員は全く知られてイナイ。
柚子由だけは表の生徒会や委員長と連絡を取るため知られてイル。
オマエもこれ以上厄介事に巻き込まれたくナイなら一般生徒にはばれないようにするんだナ。
メンバーの構成員は会長、柚子由、会計、オマエ。
後、男の副会長がもう一人イルがコイツとは組織形体が違うからな、気にしなくてイイ。
オマエが信頼できると分かれば挨拶位はしにくるダロウ。」
イデアの機械的なマシンガントークが炸裂した後、一息入れたようなしぐさを見せ俺に手を差し伸べた。
「?」
意味がわからずその手を見つめる。
「後、最後に携帯を貸セ」
「ええ!?なんで!?」
俺はポケットの携帯を守るように身を引いた。
「また後日返してヤル。従わないト、ワカッテイルな?」
その言葉の裏にはまたあの恐怖が待ち構えているのかと思うと、俺は大事な携帯を差し出すしかなかった。
ポケットからゆっくり取り出し、イデアに手渡す。
「ヨシ。後、会計はオマエと同じ一年ダ。すぐ会えるダロウ」
イデアは俺の携帯をワンピースのポケットにしまい込んだ後、質問はないかと尋ねてきた。
質問なんてしだしたら止まらない気がしたので、特にないです。と呟きうな垂れる。
そんな俺を見たイデアは「ソウカ」と一言つぶやいた後、「デハ帰れ」と容赦なく俺を部屋からつまみ出したのだった。
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「あーなんかすっごい昨日は疲れた・・・」
支度を終えると朝食を摂るためにリビングへと向かう、忙しない朝、変わらないのは目の前の風景だけだった。
変わったのは俺の状況・・・。
そんなことを考えながらだらだらと朝食を済ませた。
俺の通っている愛輝凪高校へは歩いて15分ほどで着く。
けっこう有名な私立高校で偏差値はそれなりに高い。
俺が入れたのは親友の巽のスパルタ教育のおかげであったが、入れたら入れたでラッキーと思っていた俺は、
これからの高校生活がどうなるのかなど、ついこの間まではあまり考えもしなかった。
けれど、昨日のあの出来事があってから、俺はこの高校へ入ったのは間違いだったのではないだろうかと本気で考えてしまっていた。
あの、(裏)生徒会という変な組織に無理やり入れられて、俺の青春はすでに散ったも同然だった。
「ああ、考えたくない・・・」
普段からあまり物事を考えない体質だったので、昨日からのできごとは本当に頭が痛くなった。
学校の校門をくぐる。
たくさんの生徒が校舎へと吸い寄せられていくのを目で追いながら。
「・・・さらば青春」
と、気の抜けた声で呟いた。
その時だった。どこからか怒鳴り声が聞こえてくる。
周りの生徒達も不思議そうに辺りを見渡しているが、どこから聞こえるのかわからない。
すぐ近くか?俺は多目的広場の方へと目をやった。
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【三木 柚子由】
「大変!!プールの裏で不良が争ってる!!誰か、先生呼んできて!!」
今の私の仕事は情報操作。人に見られるとまずいので物影から少し声を変えて、間違った情報を流した。
そうすると、正義感のある人は先生を呼びに行き、好奇心のある人は間違った情報を信じてプールの方へと。
今、本当に裏生徒会が動いてるのは多目的広場裏の今は使われてない焼却炉なんだけど。
そうしていると、登校している千星君を見つけた。彼も(裏)生徒会の一員なので、お仕事に誘ったほうがいいかと思い、
そっと彼の背後に近づくと多目的広場の方に押しやった。
「おはよう、千星君。そっちに行ってもらって良いかな?」
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【日当瀬 晴生】
「おお!!てめぇ、今なんつった!!!」
声がでかい。
ったく、毎回毎回イデアさんから秘密裏に動けつっわれてんのにあっちはそんな事関係ねぇから困る。
今回のターゲット三人組。一人は今、俺の胸ぐら掴んでいるチビ。
こいつは、俺がデータとして渡されていた、壊れた焼却炉の鍵に付いた指紋に一致しなかった。
そうしている間に、腹を殴られ、俺は壁にスッ飛ぶ。
勿論殴られた振りなのだが実際背中は壁に当たってるからいい加減にして欲しい。
座り込んだ俺の胸ぐらを掴みに来たのは二人目のひょろ長い奴。
胸ぐらを捕まれる瞬間に特殊シートで指紋を取ってみたがこいつもハズレだった。
「ちっ。」
「おい、今こいつ、舌打ちしやがったぜ!!立場わかってんのか!?」
どうやら俺の舌打ちが気に食わなかった様子で、胸ぐらを掴んだ手を更に上に持ち上げられた。
自然と体は宙に浮き、俺の苛々もMAXに近づいたところで三人目のゴリラみたいな奴が近づいてきた。
「まぁ、落ち着けって。なぁ兄ちゃん、オレらも悪者じゃねぇ。
ぶつかった分の慰謝料さえ払ってやったら見逃してやるよ」
いかにも低俗。こんな奴らに触れさせていると思うだけで眉間に皺は寄りっぱなしだろうが、任務だからここは我慢する。
そういいながら俯いている俺の前髪を掴み顔を上げさせようとしてきた、その時に採取出来た指紋に、俺の口角は思わず上がった。
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【千星 那由多】
怒鳴り声は多目的広場の奥の方から聞こえる。
その時、ひとりの女生徒の声がした。
「大変!!プールの裏で不良が争ってる!!誰か、先生呼んできて!!」
なんだ、プールか。
俺はその怒鳴り声の原因がわかればよかったので、その女生徒の声を聞いた後、そのまま校舎へと向かう。
数人の野次馬生徒はプールへ向かっているが、俺は朝からみんな元気だなーとその光景を目で追うだけだった。
少し校舎へと足を運んだところで、副会長が後ろからいきなり現れた。
「おはよう、千星君。そっちに行ってもらって良いかな?」
突然のことだったので俺は拒否することができず、ぐいぐいと多目的広場の裏の方へと押しやられて行った。
「ちょっと・・・またどっか変なとこ連れてくんですか・・・」
そのまま押しやられて行く俺はもうどうにでもなれと、自分から進んで多目的広場の裏へと向かっていた。
少し歩いて角に差し掛かったとき、怒鳴り声が大きくなっていることに気が付いた。
?・・・あれ?プールじゃなかったのか?
副会長が立ち止まったので俺も立ち止まる。
そして、角の向こうを副会長が指さした。
覗けと言う意味なのがわかったので、俺はゆっくりとバレないように角の向こうを覗き込む。
一人、二人、三人、そして一方的にやられている方の生徒が目に入る。
というより、彼の綺麗な金髪と端整な顔立ちに目を奪われてしまった。
一瞬女か?と思ったが、男子の制服だったのですぐに違うことはわかった。
俺は顔を引っ込めて副会長に静かに尋ねた。
「一体なんなんスか・・・あれを俺に止めろとでも?」
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【日当瀬 晴生】
「止める必要は…ない、です」
近くでそんな女の声が聞こえた気がしたがそれと同時に俺の拳がゴリラ顔を殴り飛ばす。
「がはっ!」
いきなりの事で胸ぐらを掴んでいるひょろ長い奴も驚いたようだが、俺には関係無いとばかりに、
宙に浮いた状態でそいつの横面にも蹴りを入れてやる。
「ぐぅぅっ!!!!」
悲鳴すらきたねぇな。そんな事を思っていた俺にチビも殴り掛かってくるが、そもそも俺の敵じゃねぇんだよな。
そのチビも返り討ちにし、三人並べて焼却炉の前に飛ばしてやった俺はゆっくりと近づいていく。
「ひぃぃぃ!!お助けを!!!」
「一つ教えろ、最近この使用禁止になった焼却炉を利用して、襲った女子の制服を燃やした奴はてめぇらか?」
「な、なんのこと―――ひぃ!!!」
「死ぬか?」
まだ、しらばっくれるゴリラの頭を目がけて見えない位置で携帯を変形させた銃「形状」を突き付けた。
そうすると目を白黒させながら何度も頷きやがったので、更に険しく眉間に皺を寄せた。
「はい!俺たちがしました!正直に言ったんだからもういいだろ?もう、しないから…許し…!??」
「許す?…許せる訳ねぇだろ?」
「なら、女、おまえに回してやるから!!今日のとか結構上玉だったぜ?」
べらべらと下衆い言葉を並べる口、それを黙らせる為に、ガスン!!!とけたたましい音を立てて焼却炉を蹴り付ける。
そこに足を置き、銃口を向けたまま、ゆっくりと内ポケットからタバコを取り出すとライターで火をつけ、
今回の任務は抹殺では無いため何とか落ち着こうと紫煙をくゆらす。
不意に、三人組の後ろの焼却炉を見ると中には今日の成果だろう女物の制服がご丁寧に入っており、それを見た瞬間、俺の中で何かが壊れた。
くわえていたタバコを焼却炉の中に放り込むと油を染み込ませてあったのか勢いよく燃え始め、
俺はそれを良いことに、不良の胸ぐらを掴むとその中に押し込もうと力を加え始めた。
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【千星 那由多】
止める必要はない?どういうことだ?
じゃあなんで俺はここに連れてこられたんだ?
それと同時だった気がする。
向こうの状況が変わる鈍い人体を殴るような音がした。
「!?」
やばそうな音だったのはすぐにわかった。
さっきの男子生徒が殴られているのかもしれない。あの体格差だ、すっ飛ばされて大ケガでもしてたらたまったもんじゃない。
すぐに再び向こう側を覗き込むと、さっきの金髪の男子生徒が・・・
ゴリラのような男子生徒を殴っていた。
ついでに周りの奴を蹴り飛ばしていた。
相手を体ごとぶっ飛ばしていた。
「・・・ええ~・・・・・・」
俺は顔を引き攣らせながらその光景を見つめる。
後ろを振り向くと副会長が控えめに笑った気がした。
いやいやいや、これどうしたらいいんですか。
金髪の男子生徒めっちゃ強いじゃないですか。
ゴリラ三人衆が超かわいそうなんですけど。
もう一度身を潜めつつ覗いた時には、金髪の男子生徒はタバコをふかしていた。
「どっちが不良かわからなくなった・・・」
高校って怖い。中学に戻りたい。
一部始終を黙視していた俺であったが、金髪の男子生徒がタバコを焼却炉に放りこんだ時、何かおぞましい殺気を感じる。
ゴリラを掴んだ彼の手に力が入っていくのがわかった。
勢いをつけて、ゴリラの頭を焼却炉側に向ける。
ぶっ倒れてる二人が慌てて静止しようとするが、体は動かないようだった。
そう、金髪の男子生徒は煙草の火が引火した、燃え盛る焼却炉にゴリラをぶち込もうとしているのだ。
非 常 に ま ず い 。
「ちょっとまったあああああああああ!!!!」
この時の俺はさすがに大声を出して止めるしかなかった。
ボコってハイおしまい。であれば、このまま見過ごすこともできただろうが、さすがに目の前でゴリラ…じゃなく、人が燃えていくのを見るのは嫌だった。
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【日当瀬 晴生】
「死ね、一回死ねッ―――。」
「ちょっとまったあああああああああ!!!!」
まさに焼却炉にゴリラもとい人間の頭を突っ込もうとしたその時、けたたましい程の声が聞こえ、俺はその行動を押し留まった。
……前髪くれぇは燃えたかも知れねぇが。
声のするほうを見ると、見たことねぇ一般生徒とその後ろに三木が居たため片眉を上げる。
「おい、なんだよ三木。一般生徒の誘導はテメェの仕事だろ?まぁ、いい。…イデアさん、終わりましたよ。」
怒りがどこかに霧散してしまった俺は、ドサリと既に気絶しちまったゴリラを床へと放ち、
また手元の見えないところで拳銃を携帯へと戻し、それをポケットに放り込む。
どうせ誰かに見られたとしてもイデアさんか会長がどうにかするだろう。
三人を後ろ手に(裏)生徒会から支給されている手錠で拘束しながら、どこかで見ているであろうヒューマノイドに声を掛けた。
それが終わると、取り敢えずこの青年をここに留める為に指を指しながら睨みをきかせる。
「テメェはここにいろ。いいか、逃げんなよ。逃げたらぶっ殺すからな。三木、見張っとけよ。」
なんの取り柄も無さそうな、…まぁ、俺を止めに入ったのは称賛に値するが、
男子生徒と何か言いたそうにしている三木に指図してから、煙草を唇に挟み直し、多目的広場の更に裏の茂みへと脚を進めた。
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【千星 那由多】
俺の間抜けな大声で、金髪の男子生徒はなんとか暴走を止めてくれた。
彼が気絶したゴリラを手離してから、俺は体の力を抜き大きくため息をついた。
そして金髪の少年は、副会長に話かける。
「おい、なんだよ三木。一般生徒の誘導はテメェの仕事だろ?」
この内容からすると、もしかしてこいつ(裏)生徒会のメンバーか?
だから俺もここに連れて来られたのか?
それにしても、明らか暴力振るいまくって暴れてるように見えたんだが・・・。
(裏)生徒会とやらはこんなに血の気の多い仕事をしなければならないのだろうか?
「テメェはここにいろ。いいか、逃げんなよ。逃げたらぶっ殺すからな。三木、見張っとけよ。」
さっきゴリラたちに向けていたような睨みを今度は俺の方へ向けた。
そんなに眉間に皺寄せてたら幸せ逃げるぞ・・・俺は身震いをしながらそんなバカなことを考えていた。
副会長に目をやると、おどおどと「言いそびれてしまった・・・」と言った表情をしている。
いつもこの人はタイミングを逃している気がするんだが・・・。
頑張れ副会長…。
俺は金髪の男子生徒に言われたように、その場から動かなかった。
というか動いたらマジで殺されそうな雰囲気だったので、動くことができなかった、が正しい。
「・・・副会長、どうしたらいいですか?絶対あの人俺のこと勘違いしてますよ・・・」
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【三木 柚子由】
彼が、(裏)生徒会「会計」の日当瀬晴生くん、こっちが新しく入った「書記」の千星那由多くん―――――って言いたかったんだけど……。
私の思いを余所に不良を燃やそうとした彼は早々と行ってしまった。
千星くんからも頑張れって視線で言われている気がする。
「ワタシから伝えてオク、なので動いても大丈夫ダ」
多目的広場の壁の一部が開き、いつものようにイデアちゃんが姿を現した。
その言葉にほっと息を吐いてから、小さくイデアちゃんに頭を下げた。
その後直ぐに二人揃って追い払われてしまった。
「さぁ、早く行け、遅刻スル。二人とも放課後、生徒会室に来るヨウ。会長からダ。」
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【日当瀬 晴生】
俺はあの三人組によって被害に有っただろう女を探しに多目的広場の裏を歩いている。
俺の想像通り、服を剥かれ、きっと暴行されたのだろう無惨な女がそこに居た。
まだ気絶していたのが救いかも知れねぇ女に自分のカッターシャツを掛けているとイデアさんが姿を現した。
「お疲れさんです。あの一般人はちゃんと居ましたか?」
「アア、彼なら大丈夫ダ。」
「…この女の記憶は消せないんスか?」
「ワタシが消せるのは(裏)生徒会についての事ダケ。」
「そうっスよねぇ。……保険医に連絡しときます。それじゃあ、俺はこれで。」
「ハルキ。放課後、生徒会室に来るように次の任務ダ」
「はい。了解です。」
もう少し到着が早かったら、昨日のうちに見つけれたら、とか余計な思考が働くが、起こってしまった事は消せない、それが事実。
どんな事でも起きてしまえば、後戻りは出来ない、後はどう歩んで行くか、だ。
勿論、こんなことで感傷に浸っているとここ「(裏)生徒会」ではやっていけないので、クラスに向かいながら俺は携帯を手にした。
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【千星 那由多】
イデアの登場には度肝を抜いたが、突っ込むとまたややこしくなりそうだったので、俺は素直に副会長と校舎へと向かっていた。
愛輝凪高校はムダに広い。
校舎は本舎と実習棟に別れており、グラウンド、多目的広場、学食、体育館、プール・・・他にも花園や水上公園までもある。
勉学以外にも生徒が伸び伸びと育つようにと、色んな施設を建てた、らしい。
もちろんそんなだから校門から校舎までの距離もムダに長い。
その間俺が喋らないと副会長は喋りそうになかったので、俺から話題を振ることにした。
「本当に大丈夫ですかね?」
突然の問いかけに、横を歩く副会長がはっと顔を上げる。
「大丈夫!」
なんだか副会長の大丈夫は当てにならない気もするが、まぁ大丈夫・・・と思っておこう。
「あの金髪の男子って(裏)生徒会のメンバーなんですよね?」
続けて問いかけると、副会長は頭を小さく何度か縦に振り
「そう、会計の子だよ。あんな感じで怖いけど・・・とっても優しい子だから・・・えっと・・・だから・・・」
優しい?どこがだ!?
あんな暴力が正義と思ってるような奴のどこが優しいんだ?
あれが副会長の中の「優しい」レベルであるなら、俺の優しさで地球が救えてしまいそうだ。
俺はますます副会長も(裏)生徒会のこともわからなくなった。
「仲良く・・・あっ!そう!千星くんと同じクラスだったはず!」
「えええ!?あんな奴クラスにいませんよ!?」
確かにまだ入学したてでクラスメイトの名前や顔はきちんと覚えてはいないが、
金髪碧眼であの容姿ならクラスで確実に目立つ存在なはずだ。
そもそも絶対に一度見たらあの目つきは忘れない。
思い出すだけでも死を覚悟してしまいそうな目だ。
「ああ・・・夏岡先輩いなくて・・・元気ないのかも」
「夏岡先輩?」
また聞きなれない名前が副会長の口から浮上した。
今度も(裏)生徒会関連の人物だろうか。
「あっ夏岡先輩は・・・」
俺の問いかけに副会長がそう続けたところで予鈴のチャイムが鳴る。
遅れて来た周りの生徒も走り始めた。
「やっべ!遅刻!すいません副会長!俺走りますんで!」
「あっえっわかった!」
副会長に軽く会釈をしてから、俺は校舎へと駆け込んでいく。
その時後ろで誰かが盛大にこけたような音がしたが、そのまま後ろは振り向かずに走った。
まさか、副会長では・・・ないよな?
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【日当瀬 晴生】
かったりぃ……授業なんて聞かなくても分かるし、この数学の先公の話は面白みも無い。
生れ付きの金髪碧眼で目立つ故に、席はいつも一番後ろの窓際を選んでいる。勿論、くじ引きの時にズルして。
夏岡さんが一緒の時は、夏岡さんの後ろの席だったけど…。
まぁ、この席に居たら男は無視出来る、つーか気付かねぇみたいだ。
問題は女、奴らはどこにいたってピーピーキャーキャー騒ぎやがるから睨みを利かせて、無視する事に決めた。
今日の宿題になるだろう場所まで全て解き終わってしまった俺は、もうやることが無くなって、窓からそとの晴天を眺めた。
空が余りにも綺麗で不意に元(裏)生徒会長だった夏岡陣太郎さんの顔が浮かんだ。
俺が慕っている夏岡さんは元(裏)生徒会長。
人望も正義感も実力もあってパーフェクトな御方だ。
平和主義者で今の(裏)生徒会長とは正反対の人。
つーか、俺は今の会長が嫌いだ。人を嘲け笑うようなあの口、小馬鹿にしたような視線、おまけに俺に催眠術まで掛けてきやがる。
しかも、掛けられた間の事、覚えてねーんだよな…。
実はもう「会計」も、やる気ねぇーんだけど、「会計」を続けるように言ったのは夏岡さん。
俺には反発する余地なんかなくて、ダラダラ続けてるけど――――。
色々余計な考え事をしたけど、今日も1日つまらなかった学生生活を終え、
掃除当番だったため少し遅れて、イデアさんに言われた通りに準備室から通じる(裏)生徒会室に赴いた。
扉を開くとそこには見慣れた副会長と、もう一人見慣れない人物が座っていて自然に俺の眉は皺を刻んだ。
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【千星 那由多】
俺は遅刻ギリギリのところで教室に駆け込み、事なきを得た。
前の席の巽に「今日は遅かったねー」といつものようにニコニコ話しかけられたが、走ってきた疲れと今朝の騒動で、
そっけない返事しか返せなかった。
そしてあの金髪の男子生徒。
奴は1時限目を終えた休憩時間にふつーに教室に入ってきた。
本当にいたんだ・・・。
奴は一番後ろの窓際の席だった。俺の席の列の一番後ろ。
俺の位置から見えにくいのは確かだったが、あの金髪で目立つはずなのに、生気を感じないというか・・・存在感がまったくない。
それにプラスしてあいつの睨みで誰も周りに近寄らないでいる。
空気の読めない女子でさえ距離を取って奴を見ていた。
それに奴自体も俺に気付いていないようだった。
というより、周りの生徒のことなどまったく気にも止めていないようだった。
放課後、俺は巽の誘いを断り、(裏)生徒会室へ行く事にした。
本当はめーーーーーーーっちゃくちゃ気が乗らないし帰りたい気分だったけど、
行かなかったら多分イデアに酷い目に合わされるに決まっている。
コーヒーかけらるだけじゃ済まされないぞ・・・。
脳から体までめんどくさがっていたが、俺はずるずると重い足取りで(裏)生徒会室へと向かった。
実習棟へと足を向けると、副会長が入り口の前で待っていた。
どうやら時間外にここから入るのは教師や生徒会の鍵がないと無理らしい。
また相鍵渡すねと言われ、その相鍵という言葉に少し胸が高鳴ったが、平静を装う。
そして俺は副会長と一緒に(裏)生徒会室へと向かった。
中に入るとすでにイデアが椅子に座って待ち構えていた。
「キタカ」
今朝見たばっかりなのに、この顔見るだけで昨日の恐怖が蘇る・・・。
しばらくはトラウマ決定だな。
俺は副会長に促されるまま昨日腰掛けた椅子に座った。
「もうすぐハルキも来ル」
イデアがそう口にした時、さっき閉まったはずの壁が再び開く。
そこにはあの金髪の男子生徒が怪訝な顔で立っていた。
「・・・ど、ども~・・・」
俺は反射的に金髪の男子生徒に向かって挨拶をしていた。
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【日当瀬 晴生】
「あん?…なんでテメェがここにいんだよ。」
「説明する。ハルキ、座レ」
よく見るとそこにいた男は今朝、俺の仕事の邪魔をした一般生徒だった。
ヌけた挨拶を仕掛けてきやがったからには買わずにはいられないと思ったらイデアさんに止められてしまった。
イデアさんはヒューマノイド。俺を夏岡さんに会わせてくれた存在だから無下には出来ない。
それに逆らうと怖い一面もある。
仕方なく俺は入って直ぐのソファーに腰を下ろす。
二人はゆうに座れるそれに深く腰掛け、向かって右のイデアさん、正面の副会長、左の朝の男にゆっくりと視線を流していった。
「アト会長が来れば、全員ダガ、どうやらまだ信用されてないみたいダ。」
そう言うとイデアさんは、朝の男の方に視線を向けた。
だろうな、俺も見るからにやる気の無さそうなこんな男信用できねぇし。
それから、きっと身の無いだろう自己紹介が始まる事になった。
「デハ、自己紹介シロ。」
「会計の日当瀬晴生(ひなたせはるき)1のE。以上」
「……え!ぁ……あのッ、三木柚子由(みきゆずゆ)、一年A組です。役職は副会長してます。」
俺の端的な自己紹介に三木は驚いたようだったが直ぐに自己紹介を始めた。
この女に特に感情は持っていないが、なんたってあの会長の回し者である。用心することに越したことは無い。
そんなことを考えていると朝の男はどうやら別の事に驚いたようだった。
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【千星 那由多】
俺の気の抜けた挨拶が気に食わなかったのか、金髪の男子生徒の眉間の皺はもっと深くなった。
そんなつもりで言ったのではなかったが、訂正しようと思った時イデアがすぐに奴に座れと指示を出していた。
どうやらこいつもイデアには逆らえないみたいだ。
さすがヒューマノイド・・・。
そしてイデアは俺を見ながら「会長に信用されていない」という言葉を口にした。
やる気のないのバレバレですか・・・って俺まだ会ってもないのになんでわかるんだ?
どっかで俺のこと見られてる?
まだ会長を見たことがない俺は、もしかしたらどこかですれ違ったり監視されたりしているのかもしれない。
・・・怠慢な態度がバレたらやばそうだ・・・。
ここの会長だぞ?絶対鬼みたいに怖い人に決まってる。
でも俺のやる気が無いのは事実だから仕方がないっちゃ仕方がなかった。 それに無理やり書記に推薦したのは会長みたいだし・・・。
そんなことを考えていると、いつの間にか自己紹介の流れになっていた。
金髪の男子生徒は日当瀬晴生というらしい。
容姿は日本ではなさそうだが、ハーフか?短すぎる自己紹介。E組なのは知ってるっつの!
次いで副会長が自己紹介をした。
三木柚子由、名前は巽に聞いたから知っている。
一年なのも・・・
「ええ!?副会長1年だったんですか!?」
俺の見当違いな反応に、イデア以外の二人は呆気に取られたような顔をしている。
日当瀬のは「こいつバカか?」みたいな表情だが。
「先輩だと思ってた・・・」
(裏)生徒会ではない、普通の生徒会の方の副会長だったので、すでに二年生だと思っていた俺は変なところに食いついてしまった。
驚きながらも副会長は「そうだよ」と控えめに返事をした。
1年生で生徒会に選ばれるんだ、きっとこの人はちょっとドジだけどすごい人なんだろう。
俺の中で副会長像が勝手に創造された時、イデアに「次はオマエだ」とあの赤い瞳で見据えられる。
「あ、えーと千星那由多です。1年E組・・・。特技は・・・風船を早く膨らませること・・・です。書記がんばります・・・」
なにか付け足した方がいいかと思った俺は、唯一の特技である「風船早膨らまし」を付け加え、
それなりに頑張りますアピールもしておくことにした。
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【三木 柚子由】
千星君が自己紹介をしている間、さっき彼に学年の事を食い付かれて驚いてしまった心臓が落ち着くのを待つ。
折角の自己紹介なのに日当瀬くんはもう半分以上聞いていない様子。
千星君の特技、少し興味があったけれどそれより伝えたい事があったので久々に自分の意志を言うことにした。
「あの…千星君…名前で呼んでくれていいよ?
私、副会長って言っても(裏)生徒会の会長に選ばれたから、表でも副会長してるだけだから。」
「生徒会のリボンって学年ライン入って無いから分かりにくい…ね。」
表向きは投票や自己推薦以外の意見を取り入れるため、教師達の推薦と抽選で決まるとされている二人目の副会長枠、
全く自分に合っていない事を伝え、ほんのちいさく苦笑を浮かべた。
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【千星 那由多】
副会長は俺に名前で呼んでもいいと言ってくれたが、今更ながら名前で呼ぶのは失礼な気がした。
同学年と言っても表でも裏でも副会長だし、馴れ馴れしくするのもどうかなと思った。
けれど自信無さそうな副会長が折角自分の意思を告げてくれているんだ。
「じゃあ、三木・・・さんで・・・たまに副会長とか言っちゃうかもしれないけど、すいません」
俺は少しためらいながらも慣れない名前を呼んだ。
横にいる金髪の・・・いや、日当瀬はそんな俺達のやり取りにも興味が無さそうだった。
こいつほんと態度悪いな。
なんか俺すっごい嫌われてるっぽいし。
ちらっと日当瀬に目をやると、小さく舌打ちをされる。
こいつにはここでもクラスでも、できるだけかかわらないでおこう・・・。
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【日当瀬 晴生】
副会長が「三木さん」の言葉に無表情ながらも少し嬉しそうにも見える顔で頷く様は益々自分に取ってどうでもよく思えた。
その後に自分の方にも視線を向けてきた千星に自分にも同じやりとりがあるのかと思い、考えただけで面倒さが先立ち、繰り出した舌打ち。
そうすると、奴はそれ以上なにも喋る事は無かった。
――――逆にそれが気に食わない。
「なんだよてめぇ!!!見ただけかよ!見るからにはなにか――――!!!!???」
「オギャアアアアアー――――!!」
俺が声を張り上げた、まさにその時だった。
仮眠室からとんでもない程のガキの声が響いてきた。
勢いよく椅子から立ち上がった俺がそのまま固まっていると、イデアさんが仮眠室からおくるみに包まれた赤子を抱いてきた。
「……会長からダ。」
そういったイデアさんはまだ、ハイハイもできるかどうかの赤子を無造作に机の上に置いてしまった。
勿論泣き止む筈もなく生徒会室に響き渡る悲鳴じみた泣き声。
まだおくるみに包まれて全体像もはっきり見えないが、この手の生物が大の苦手な俺はその場に固まる事になる。
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【千星 那由多】
突然の赤ん坊の叫びに似た泣き声で、突っ掛かってきた日当瀬が固まってるのを見てバレないように少し笑う。
こいつ、こども苦手だな・・・。
どちらかと言うと、俺は子供が好きだ。
無邪気で悪意のかけらもなくすごいことやっちゃう子供が何故か憎めない。
大人にはできないことを自分ルールでやってしまうから、子供は人類最強だとも思っている。
いや、そんなことよりも、この赤ん坊、なんだ?
「……会長からダ。」と、イデアが無造作に赤ん坊を机の上に置いた。
固く冷たい机の上に置かれ、泣き叫ぶ赤ん坊を俺は反射的に抱き上げてしまった。
「泣いてんのに無造作に机なんかに置くなよ!あぶねーなあ・・・」
赤ん坊を抱いたことは数回あったので、思い出しながらうまく抱きかかえた。
いつかどこかの母親がやっていた様に、赤ん坊をあやす様に体を揺らす。
「もーだいじょぶだぞー」
徐々に赤ん坊の豪火の様な泣き声は鎮火していき、色んな水でぐしゃぐしゃになった顔が穏やかになっていく。
副会長は横で慌てていたが、泣き止んだことにほっと胸をなでおろしていた。
日当瀬というと、相変わらず固まっている。
俺はまた顔を日当瀬に見せないように笑った。
「んで、この子どうしたんだよ?」
イデアに尋ねると、イデアはビッと赤ん坊を指差し
「コドモを母親の元へ連れてイケ」
「はあ!?」
俺と日当瀬がハモる。
思わず日当瀬を見ると、またお得意の舌打ちをして俺を睨んできた。
すぐに視線をイデアに戻して再度尋ねる。
「母親って・・・どこにいるかわかってんの?」
「場所はメモに書イタ。さっさと連れていけ」
メモを副会長に半ば無理やりに手渡したイデアは、椅子に座り次は俺の方をビッと指差した。
「ナユタ、初メテの任務ダ。がんばるンダナ」
その言葉の後に腕の中の赤ん坊が笑いながら両腕をばたつかせた。
その日俺は変な夢を見た。
瓦礫の山に佇む自分、遠くを見つめているようだ。
周りには人っ子一人いない。
まるで俺は誰もいない世界でひとりぼっちのよう。
夢の中の俺に近づこうとするが、うまく距離を保てない。
ぬるりとした重い感触を振り払って、夢の中の俺にあと少し・・・あと少し・・・。
その時夢の中の俺が突然振り向く。
手には、あのコーヒーカップが握られていた・・・。
「うわあああああっ!!!!」
目覚ましのアラームと同時に俺は叫びながら飛び起きた。
こんな目覚めの悪い朝は久しぶりだ。
「おにーちゃーん!うるさい!!」
隣の部屋から妹の声が聞こえる、俺は目覚ましのアラームを切り、深いため息をついた。
・・・きっと昨日のことは夢ではないだろう。
「夢だと思いたいけど・・・」
俺はぽつりと一人ごとを呟いて学校へ行く準備を始める。
制服に着替えながら、昨日のことを思い出していた。
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「えっと…その…簡単に説明すると…」
「ここは(裏)生徒会。表の生徒会では片付けられない仕事を秘密裏に片付けている組織。」
副会長のしどろもどろな言葉をイデアが遮って説明を始めた。
副会長はそのことを全く気にしていない様子でまだおどおどとしながら俺と少女の様子を見つめている。
「まぁ、体のいいナンデモヤだ。
他の生徒の認識は、(裏)生徒会があると言う噂が広まっている程度で構成員は全く知られてイナイ。
柚子由だけは表の生徒会や委員長と連絡を取るため知られてイル。
オマエもこれ以上厄介事に巻き込まれたくナイなら一般生徒にはばれないようにするんだナ。
メンバーの構成員は会長、柚子由、会計、オマエ。
後、男の副会長がもう一人イルがコイツとは組織形体が違うからな、気にしなくてイイ。
オマエが信頼できると分かれば挨拶位はしにくるダロウ。」
イデアの機械的なマシンガントークが炸裂した後、一息入れたようなしぐさを見せ俺に手を差し伸べた。
「?」
意味がわからずその手を見つめる。
「後、最後に携帯を貸セ」
「ええ!?なんで!?」
俺はポケットの携帯を守るように身を引いた。
「また後日返してヤル。従わないト、ワカッテイルな?」
その言葉の裏にはまたあの恐怖が待ち構えているのかと思うと、俺は大事な携帯を差し出すしかなかった。
ポケットからゆっくり取り出し、イデアに手渡す。
「ヨシ。後、会計はオマエと同じ一年ダ。すぐ会えるダロウ」
イデアは俺の携帯をワンピースのポケットにしまい込んだ後、質問はないかと尋ねてきた。
質問なんてしだしたら止まらない気がしたので、特にないです。と呟きうな垂れる。
そんな俺を見たイデアは「ソウカ」と一言つぶやいた後、「デハ帰れ」と容赦なく俺を部屋からつまみ出したのだった。
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「あーなんかすっごい昨日は疲れた・・・」
支度を終えると朝食を摂るためにリビングへと向かう、忙しない朝、変わらないのは目の前の風景だけだった。
変わったのは俺の状況・・・。
そんなことを考えながらだらだらと朝食を済ませた。
俺の通っている愛輝凪高校へは歩いて15分ほどで着く。
けっこう有名な私立高校で偏差値はそれなりに高い。
俺が入れたのは親友の巽のスパルタ教育のおかげであったが、入れたら入れたでラッキーと思っていた俺は、
これからの高校生活がどうなるのかなど、ついこの間まではあまり考えもしなかった。
けれど、昨日のあの出来事があってから、俺はこの高校へ入ったのは間違いだったのではないだろうかと本気で考えてしまっていた。
あの、(裏)生徒会という変な組織に無理やり入れられて、俺の青春はすでに散ったも同然だった。
「ああ、考えたくない・・・」
普段からあまり物事を考えない体質だったので、昨日からのできごとは本当に頭が痛くなった。
学校の校門をくぐる。
たくさんの生徒が校舎へと吸い寄せられていくのを目で追いながら。
「・・・さらば青春」
と、気の抜けた声で呟いた。
その時だった。どこからか怒鳴り声が聞こえてくる。
周りの生徒達も不思議そうに辺りを見渡しているが、どこから聞こえるのかわからない。
すぐ近くか?俺は多目的広場の方へと目をやった。
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【三木 柚子由】
「大変!!プールの裏で不良が争ってる!!誰か、先生呼んできて!!」
今の私の仕事は情報操作。人に見られるとまずいので物影から少し声を変えて、間違った情報を流した。
そうすると、正義感のある人は先生を呼びに行き、好奇心のある人は間違った情報を信じてプールの方へと。
今、本当に裏生徒会が動いてるのは多目的広場裏の今は使われてない焼却炉なんだけど。
そうしていると、登校している千星君を見つけた。彼も(裏)生徒会の一員なので、お仕事に誘ったほうがいいかと思い、
そっと彼の背後に近づくと多目的広場の方に押しやった。
「おはよう、千星君。そっちに行ってもらって良いかな?」
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【日当瀬 晴生】
「おお!!てめぇ、今なんつった!!!」
声がでかい。
ったく、毎回毎回イデアさんから秘密裏に動けつっわれてんのにあっちはそんな事関係ねぇから困る。
今回のターゲット三人組。一人は今、俺の胸ぐら掴んでいるチビ。
こいつは、俺がデータとして渡されていた、壊れた焼却炉の鍵に付いた指紋に一致しなかった。
そうしている間に、腹を殴られ、俺は壁にスッ飛ぶ。
勿論殴られた振りなのだが実際背中は壁に当たってるからいい加減にして欲しい。
座り込んだ俺の胸ぐらを掴みに来たのは二人目のひょろ長い奴。
胸ぐらを捕まれる瞬間に特殊シートで指紋を取ってみたがこいつもハズレだった。
「ちっ。」
「おい、今こいつ、舌打ちしやがったぜ!!立場わかってんのか!?」
どうやら俺の舌打ちが気に食わなかった様子で、胸ぐらを掴んだ手を更に上に持ち上げられた。
自然と体は宙に浮き、俺の苛々もMAXに近づいたところで三人目のゴリラみたいな奴が近づいてきた。
「まぁ、落ち着けって。なぁ兄ちゃん、オレらも悪者じゃねぇ。
ぶつかった分の慰謝料さえ払ってやったら見逃してやるよ」
いかにも低俗。こんな奴らに触れさせていると思うだけで眉間に皺は寄りっぱなしだろうが、任務だからここは我慢する。
そういいながら俯いている俺の前髪を掴み顔を上げさせようとしてきた、その時に採取出来た指紋に、俺の口角は思わず上がった。
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【千星 那由多】
怒鳴り声は多目的広場の奥の方から聞こえる。
その時、ひとりの女生徒の声がした。
「大変!!プールの裏で不良が争ってる!!誰か、先生呼んできて!!」
なんだ、プールか。
俺はその怒鳴り声の原因がわかればよかったので、その女生徒の声を聞いた後、そのまま校舎へと向かう。
数人の野次馬生徒はプールへ向かっているが、俺は朝からみんな元気だなーとその光景を目で追うだけだった。
少し校舎へと足を運んだところで、副会長が後ろからいきなり現れた。
「おはよう、千星君。そっちに行ってもらって良いかな?」
突然のことだったので俺は拒否することができず、ぐいぐいと多目的広場の裏の方へと押しやられて行った。
「ちょっと・・・またどっか変なとこ連れてくんですか・・・」
そのまま押しやられて行く俺はもうどうにでもなれと、自分から進んで多目的広場の裏へと向かっていた。
少し歩いて角に差し掛かったとき、怒鳴り声が大きくなっていることに気が付いた。
?・・・あれ?プールじゃなかったのか?
副会長が立ち止まったので俺も立ち止まる。
そして、角の向こうを副会長が指さした。
覗けと言う意味なのがわかったので、俺はゆっくりとバレないように角の向こうを覗き込む。
一人、二人、三人、そして一方的にやられている方の生徒が目に入る。
というより、彼の綺麗な金髪と端整な顔立ちに目を奪われてしまった。
一瞬女か?と思ったが、男子の制服だったのですぐに違うことはわかった。
俺は顔を引っ込めて副会長に静かに尋ねた。
「一体なんなんスか・・・あれを俺に止めろとでも?」
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【日当瀬 晴生】
「止める必要は…ない、です」
近くでそんな女の声が聞こえた気がしたがそれと同時に俺の拳がゴリラ顔を殴り飛ばす。
「がはっ!」
いきなりの事で胸ぐらを掴んでいるひょろ長い奴も驚いたようだが、俺には関係無いとばかりに、
宙に浮いた状態でそいつの横面にも蹴りを入れてやる。
「ぐぅぅっ!!!!」
悲鳴すらきたねぇな。そんな事を思っていた俺にチビも殴り掛かってくるが、そもそも俺の敵じゃねぇんだよな。
そのチビも返り討ちにし、三人並べて焼却炉の前に飛ばしてやった俺はゆっくりと近づいていく。
「ひぃぃぃ!!お助けを!!!」
「一つ教えろ、最近この使用禁止になった焼却炉を利用して、襲った女子の制服を燃やした奴はてめぇらか?」
「な、なんのこと―――ひぃ!!!」
「死ぬか?」
まだ、しらばっくれるゴリラの頭を目がけて見えない位置で携帯を変形させた銃「形状」を突き付けた。
そうすると目を白黒させながら何度も頷きやがったので、更に険しく眉間に皺を寄せた。
「はい!俺たちがしました!正直に言ったんだからもういいだろ?もう、しないから…許し…!??」
「許す?…許せる訳ねぇだろ?」
「なら、女、おまえに回してやるから!!今日のとか結構上玉だったぜ?」
べらべらと下衆い言葉を並べる口、それを黙らせる為に、ガスン!!!とけたたましい音を立てて焼却炉を蹴り付ける。
そこに足を置き、銃口を向けたまま、ゆっくりと内ポケットからタバコを取り出すとライターで火をつけ、
今回の任務は抹殺では無いため何とか落ち着こうと紫煙をくゆらす。
不意に、三人組の後ろの焼却炉を見ると中には今日の成果だろう女物の制服がご丁寧に入っており、それを見た瞬間、俺の中で何かが壊れた。
くわえていたタバコを焼却炉の中に放り込むと油を染み込ませてあったのか勢いよく燃え始め、
俺はそれを良いことに、不良の胸ぐらを掴むとその中に押し込もうと力を加え始めた。
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【千星 那由多】
止める必要はない?どういうことだ?
じゃあなんで俺はここに連れてこられたんだ?
それと同時だった気がする。
向こうの状況が変わる鈍い人体を殴るような音がした。
「!?」
やばそうな音だったのはすぐにわかった。
さっきの男子生徒が殴られているのかもしれない。あの体格差だ、すっ飛ばされて大ケガでもしてたらたまったもんじゃない。
すぐに再び向こう側を覗き込むと、さっきの金髪の男子生徒が・・・
ゴリラのような男子生徒を殴っていた。
ついでに周りの奴を蹴り飛ばしていた。
相手を体ごとぶっ飛ばしていた。
「・・・ええ~・・・・・・」
俺は顔を引き攣らせながらその光景を見つめる。
後ろを振り向くと副会長が控えめに笑った気がした。
いやいやいや、これどうしたらいいんですか。
金髪の男子生徒めっちゃ強いじゃないですか。
ゴリラ三人衆が超かわいそうなんですけど。
もう一度身を潜めつつ覗いた時には、金髪の男子生徒はタバコをふかしていた。
「どっちが不良かわからなくなった・・・」
高校って怖い。中学に戻りたい。
一部始終を黙視していた俺であったが、金髪の男子生徒がタバコを焼却炉に放りこんだ時、何かおぞましい殺気を感じる。
ゴリラを掴んだ彼の手に力が入っていくのがわかった。
勢いをつけて、ゴリラの頭を焼却炉側に向ける。
ぶっ倒れてる二人が慌てて静止しようとするが、体は動かないようだった。
そう、金髪の男子生徒は煙草の火が引火した、燃え盛る焼却炉にゴリラをぶち込もうとしているのだ。
非 常 に ま ず い 。
「ちょっとまったあああああああああ!!!!」
この時の俺はさすがに大声を出して止めるしかなかった。
ボコってハイおしまい。であれば、このまま見過ごすこともできただろうが、さすがに目の前でゴリラ…じゃなく、人が燃えていくのを見るのは嫌だった。
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【日当瀬 晴生】
「死ね、一回死ねッ―――。」
「ちょっとまったあああああああああ!!!!」
まさに焼却炉にゴリラもとい人間の頭を突っ込もうとしたその時、けたたましい程の声が聞こえ、俺はその行動を押し留まった。
……前髪くれぇは燃えたかも知れねぇが。
声のするほうを見ると、見たことねぇ一般生徒とその後ろに三木が居たため片眉を上げる。
「おい、なんだよ三木。一般生徒の誘導はテメェの仕事だろ?まぁ、いい。…イデアさん、終わりましたよ。」
怒りがどこかに霧散してしまった俺は、ドサリと既に気絶しちまったゴリラを床へと放ち、
また手元の見えないところで拳銃を携帯へと戻し、それをポケットに放り込む。
どうせ誰かに見られたとしてもイデアさんか会長がどうにかするだろう。
三人を後ろ手に(裏)生徒会から支給されている手錠で拘束しながら、どこかで見ているであろうヒューマノイドに声を掛けた。
それが終わると、取り敢えずこの青年をここに留める為に指を指しながら睨みをきかせる。
「テメェはここにいろ。いいか、逃げんなよ。逃げたらぶっ殺すからな。三木、見張っとけよ。」
なんの取り柄も無さそうな、…まぁ、俺を止めに入ったのは称賛に値するが、
男子生徒と何か言いたそうにしている三木に指図してから、煙草を唇に挟み直し、多目的広場の更に裏の茂みへと脚を進めた。
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【千星 那由多】
俺の間抜けな大声で、金髪の男子生徒はなんとか暴走を止めてくれた。
彼が気絶したゴリラを手離してから、俺は体の力を抜き大きくため息をついた。
そして金髪の少年は、副会長に話かける。
「おい、なんだよ三木。一般生徒の誘導はテメェの仕事だろ?」
この内容からすると、もしかしてこいつ(裏)生徒会のメンバーか?
だから俺もここに連れて来られたのか?
それにしても、明らか暴力振るいまくって暴れてるように見えたんだが・・・。
(裏)生徒会とやらはこんなに血の気の多い仕事をしなければならないのだろうか?
「テメェはここにいろ。いいか、逃げんなよ。逃げたらぶっ殺すからな。三木、見張っとけよ。」
さっきゴリラたちに向けていたような睨みを今度は俺の方へ向けた。
そんなに眉間に皺寄せてたら幸せ逃げるぞ・・・俺は身震いをしながらそんなバカなことを考えていた。
副会長に目をやると、おどおどと「言いそびれてしまった・・・」と言った表情をしている。
いつもこの人はタイミングを逃している気がするんだが・・・。
頑張れ副会長…。
俺は金髪の男子生徒に言われたように、その場から動かなかった。
というか動いたらマジで殺されそうな雰囲気だったので、動くことができなかった、が正しい。
「・・・副会長、どうしたらいいですか?絶対あの人俺のこと勘違いしてますよ・・・」
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【三木 柚子由】
彼が、(裏)生徒会「会計」の日当瀬晴生くん、こっちが新しく入った「書記」の千星那由多くん―――――って言いたかったんだけど……。
私の思いを余所に不良を燃やそうとした彼は早々と行ってしまった。
千星くんからも頑張れって視線で言われている気がする。
「ワタシから伝えてオク、なので動いても大丈夫ダ」
多目的広場の壁の一部が開き、いつものようにイデアちゃんが姿を現した。
その言葉にほっと息を吐いてから、小さくイデアちゃんに頭を下げた。
その後直ぐに二人揃って追い払われてしまった。
「さぁ、早く行け、遅刻スル。二人とも放課後、生徒会室に来るヨウ。会長からダ。」
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【日当瀬 晴生】
俺はあの三人組によって被害に有っただろう女を探しに多目的広場の裏を歩いている。
俺の想像通り、服を剥かれ、きっと暴行されたのだろう無惨な女がそこに居た。
まだ気絶していたのが救いかも知れねぇ女に自分のカッターシャツを掛けているとイデアさんが姿を現した。
「お疲れさんです。あの一般人はちゃんと居ましたか?」
「アア、彼なら大丈夫ダ。」
「…この女の記憶は消せないんスか?」
「ワタシが消せるのは(裏)生徒会についての事ダケ。」
「そうっスよねぇ。……保険医に連絡しときます。それじゃあ、俺はこれで。」
「ハルキ。放課後、生徒会室に来るように次の任務ダ」
「はい。了解です。」
もう少し到着が早かったら、昨日のうちに見つけれたら、とか余計な思考が働くが、起こってしまった事は消せない、それが事実。
どんな事でも起きてしまえば、後戻りは出来ない、後はどう歩んで行くか、だ。
勿論、こんなことで感傷に浸っているとここ「(裏)生徒会」ではやっていけないので、クラスに向かいながら俺は携帯を手にした。
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【千星 那由多】
イデアの登場には度肝を抜いたが、突っ込むとまたややこしくなりそうだったので、俺は素直に副会長と校舎へと向かっていた。
愛輝凪高校はムダに広い。
校舎は本舎と実習棟に別れており、グラウンド、多目的広場、学食、体育館、プール・・・他にも花園や水上公園までもある。
勉学以外にも生徒が伸び伸びと育つようにと、色んな施設を建てた、らしい。
もちろんそんなだから校門から校舎までの距離もムダに長い。
その間俺が喋らないと副会長は喋りそうになかったので、俺から話題を振ることにした。
「本当に大丈夫ですかね?」
突然の問いかけに、横を歩く副会長がはっと顔を上げる。
「大丈夫!」
なんだか副会長の大丈夫は当てにならない気もするが、まぁ大丈夫・・・と思っておこう。
「あの金髪の男子って(裏)生徒会のメンバーなんですよね?」
続けて問いかけると、副会長は頭を小さく何度か縦に振り
「そう、会計の子だよ。あんな感じで怖いけど・・・とっても優しい子だから・・・えっと・・・だから・・・」
優しい?どこがだ!?
あんな暴力が正義と思ってるような奴のどこが優しいんだ?
あれが副会長の中の「優しい」レベルであるなら、俺の優しさで地球が救えてしまいそうだ。
俺はますます副会長も(裏)生徒会のこともわからなくなった。
「仲良く・・・あっ!そう!千星くんと同じクラスだったはず!」
「えええ!?あんな奴クラスにいませんよ!?」
確かにまだ入学したてでクラスメイトの名前や顔はきちんと覚えてはいないが、
金髪碧眼であの容姿ならクラスで確実に目立つ存在なはずだ。
そもそも絶対に一度見たらあの目つきは忘れない。
思い出すだけでも死を覚悟してしまいそうな目だ。
「ああ・・・夏岡先輩いなくて・・・元気ないのかも」
「夏岡先輩?」
また聞きなれない名前が副会長の口から浮上した。
今度も(裏)生徒会関連の人物だろうか。
「あっ夏岡先輩は・・・」
俺の問いかけに副会長がそう続けたところで予鈴のチャイムが鳴る。
遅れて来た周りの生徒も走り始めた。
「やっべ!遅刻!すいません副会長!俺走りますんで!」
「あっえっわかった!」
副会長に軽く会釈をしてから、俺は校舎へと駆け込んでいく。
その時後ろで誰かが盛大にこけたような音がしたが、そのまま後ろは振り向かずに走った。
まさか、副会長では・・・ないよな?
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【日当瀬 晴生】
かったりぃ……授業なんて聞かなくても分かるし、この数学の先公の話は面白みも無い。
生れ付きの金髪碧眼で目立つ故に、席はいつも一番後ろの窓際を選んでいる。勿論、くじ引きの時にズルして。
夏岡さんが一緒の時は、夏岡さんの後ろの席だったけど…。
まぁ、この席に居たら男は無視出来る、つーか気付かねぇみたいだ。
問題は女、奴らはどこにいたってピーピーキャーキャー騒ぎやがるから睨みを利かせて、無視する事に決めた。
今日の宿題になるだろう場所まで全て解き終わってしまった俺は、もうやることが無くなって、窓からそとの晴天を眺めた。
空が余りにも綺麗で不意に元(裏)生徒会長だった夏岡陣太郎さんの顔が浮かんだ。
俺が慕っている夏岡さんは元(裏)生徒会長。
人望も正義感も実力もあってパーフェクトな御方だ。
平和主義者で今の(裏)生徒会長とは正反対の人。
つーか、俺は今の会長が嫌いだ。人を嘲け笑うようなあの口、小馬鹿にしたような視線、おまけに俺に催眠術まで掛けてきやがる。
しかも、掛けられた間の事、覚えてねーんだよな…。
実はもう「会計」も、やる気ねぇーんだけど、「会計」を続けるように言ったのは夏岡さん。
俺には反発する余地なんかなくて、ダラダラ続けてるけど――――。
色々余計な考え事をしたけど、今日も1日つまらなかった学生生活を終え、
掃除当番だったため少し遅れて、イデアさんに言われた通りに準備室から通じる(裏)生徒会室に赴いた。
扉を開くとそこには見慣れた副会長と、もう一人見慣れない人物が座っていて自然に俺の眉は皺を刻んだ。
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【千星 那由多】
俺は遅刻ギリギリのところで教室に駆け込み、事なきを得た。
前の席の巽に「今日は遅かったねー」といつものようにニコニコ話しかけられたが、走ってきた疲れと今朝の騒動で、
そっけない返事しか返せなかった。
そしてあの金髪の男子生徒。
奴は1時限目を終えた休憩時間にふつーに教室に入ってきた。
本当にいたんだ・・・。
奴は一番後ろの窓際の席だった。俺の席の列の一番後ろ。
俺の位置から見えにくいのは確かだったが、あの金髪で目立つはずなのに、生気を感じないというか・・・存在感がまったくない。
それにプラスしてあいつの睨みで誰も周りに近寄らないでいる。
空気の読めない女子でさえ距離を取って奴を見ていた。
それに奴自体も俺に気付いていないようだった。
というより、周りの生徒のことなどまったく気にも止めていないようだった。
放課後、俺は巽の誘いを断り、(裏)生徒会室へ行く事にした。
本当はめーーーーーーーっちゃくちゃ気が乗らないし帰りたい気分だったけど、
行かなかったら多分イデアに酷い目に合わされるに決まっている。
コーヒーかけらるだけじゃ済まされないぞ・・・。
脳から体までめんどくさがっていたが、俺はずるずると重い足取りで(裏)生徒会室へと向かった。
実習棟へと足を向けると、副会長が入り口の前で待っていた。
どうやら時間外にここから入るのは教師や生徒会の鍵がないと無理らしい。
また相鍵渡すねと言われ、その相鍵という言葉に少し胸が高鳴ったが、平静を装う。
そして俺は副会長と一緒に(裏)生徒会室へと向かった。
中に入るとすでにイデアが椅子に座って待ち構えていた。
「キタカ」
今朝見たばっかりなのに、この顔見るだけで昨日の恐怖が蘇る・・・。
しばらくはトラウマ決定だな。
俺は副会長に促されるまま昨日腰掛けた椅子に座った。
「もうすぐハルキも来ル」
イデアがそう口にした時、さっき閉まったはずの壁が再び開く。
そこにはあの金髪の男子生徒が怪訝な顔で立っていた。
「・・・ど、ども~・・・」
俺は反射的に金髪の男子生徒に向かって挨拶をしていた。
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【日当瀬 晴生】
「あん?…なんでテメェがここにいんだよ。」
「説明する。ハルキ、座レ」
よく見るとそこにいた男は今朝、俺の仕事の邪魔をした一般生徒だった。
ヌけた挨拶を仕掛けてきやがったからには買わずにはいられないと思ったらイデアさんに止められてしまった。
イデアさんはヒューマノイド。俺を夏岡さんに会わせてくれた存在だから無下には出来ない。
それに逆らうと怖い一面もある。
仕方なく俺は入って直ぐのソファーに腰を下ろす。
二人はゆうに座れるそれに深く腰掛け、向かって右のイデアさん、正面の副会長、左の朝の男にゆっくりと視線を流していった。
「アト会長が来れば、全員ダガ、どうやらまだ信用されてないみたいダ。」
そう言うとイデアさんは、朝の男の方に視線を向けた。
だろうな、俺も見るからにやる気の無さそうなこんな男信用できねぇし。
それから、きっと身の無いだろう自己紹介が始まる事になった。
「デハ、自己紹介シロ。」
「会計の日当瀬晴生(ひなたせはるき)1のE。以上」
「……え!ぁ……あのッ、三木柚子由(みきゆずゆ)、一年A組です。役職は副会長してます。」
俺の端的な自己紹介に三木は驚いたようだったが直ぐに自己紹介を始めた。
この女に特に感情は持っていないが、なんたってあの会長の回し者である。用心することに越したことは無い。
そんなことを考えていると朝の男はどうやら別の事に驚いたようだった。
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【千星 那由多】
俺の気の抜けた挨拶が気に食わなかったのか、金髪の男子生徒の眉間の皺はもっと深くなった。
そんなつもりで言ったのではなかったが、訂正しようと思った時イデアがすぐに奴に座れと指示を出していた。
どうやらこいつもイデアには逆らえないみたいだ。
さすがヒューマノイド・・・。
そしてイデアは俺を見ながら「会長に信用されていない」という言葉を口にした。
やる気のないのバレバレですか・・・って俺まだ会ってもないのになんでわかるんだ?
どっかで俺のこと見られてる?
まだ会長を見たことがない俺は、もしかしたらどこかですれ違ったり監視されたりしているのかもしれない。
・・・怠慢な態度がバレたらやばそうだ・・・。
ここの会長だぞ?絶対鬼みたいに怖い人に決まってる。
でも俺のやる気が無いのは事実だから仕方がないっちゃ仕方がなかった。 それに無理やり書記に推薦したのは会長みたいだし・・・。
そんなことを考えていると、いつの間にか自己紹介の流れになっていた。
金髪の男子生徒は日当瀬晴生というらしい。
容姿は日本ではなさそうだが、ハーフか?短すぎる自己紹介。E組なのは知ってるっつの!
次いで副会長が自己紹介をした。
三木柚子由、名前は巽に聞いたから知っている。
一年なのも・・・
「ええ!?副会長1年だったんですか!?」
俺の見当違いな反応に、イデア以外の二人は呆気に取られたような顔をしている。
日当瀬のは「こいつバカか?」みたいな表情だが。
「先輩だと思ってた・・・」
(裏)生徒会ではない、普通の生徒会の方の副会長だったので、すでに二年生だと思っていた俺は変なところに食いついてしまった。
驚きながらも副会長は「そうだよ」と控えめに返事をした。
1年生で生徒会に選ばれるんだ、きっとこの人はちょっとドジだけどすごい人なんだろう。
俺の中で副会長像が勝手に創造された時、イデアに「次はオマエだ」とあの赤い瞳で見据えられる。
「あ、えーと千星那由多です。1年E組・・・。特技は・・・風船を早く膨らませること・・・です。書記がんばります・・・」
なにか付け足した方がいいかと思った俺は、唯一の特技である「風船早膨らまし」を付け加え、
それなりに頑張りますアピールもしておくことにした。
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【三木 柚子由】
千星君が自己紹介をしている間、さっき彼に学年の事を食い付かれて驚いてしまった心臓が落ち着くのを待つ。
折角の自己紹介なのに日当瀬くんはもう半分以上聞いていない様子。
千星君の特技、少し興味があったけれどそれより伝えたい事があったので久々に自分の意志を言うことにした。
「あの…千星君…名前で呼んでくれていいよ?
私、副会長って言っても(裏)生徒会の会長に選ばれたから、表でも副会長してるだけだから。」
「生徒会のリボンって学年ライン入って無いから分かりにくい…ね。」
表向きは投票や自己推薦以外の意見を取り入れるため、教師達の推薦と抽選で決まるとされている二人目の副会長枠、
全く自分に合っていない事を伝え、ほんのちいさく苦笑を浮かべた。
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【千星 那由多】
副会長は俺に名前で呼んでもいいと言ってくれたが、今更ながら名前で呼ぶのは失礼な気がした。
同学年と言っても表でも裏でも副会長だし、馴れ馴れしくするのもどうかなと思った。
けれど自信無さそうな副会長が折角自分の意思を告げてくれているんだ。
「じゃあ、三木・・・さんで・・・たまに副会長とか言っちゃうかもしれないけど、すいません」
俺は少しためらいながらも慣れない名前を呼んだ。
横にいる金髪の・・・いや、日当瀬はそんな俺達のやり取りにも興味が無さそうだった。
こいつほんと態度悪いな。
なんか俺すっごい嫌われてるっぽいし。
ちらっと日当瀬に目をやると、小さく舌打ちをされる。
こいつにはここでもクラスでも、できるだけかかわらないでおこう・・・。
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【日当瀬 晴生】
副会長が「三木さん」の言葉に無表情ながらも少し嬉しそうにも見える顔で頷く様は益々自分に取ってどうでもよく思えた。
その後に自分の方にも視線を向けてきた千星に自分にも同じやりとりがあるのかと思い、考えただけで面倒さが先立ち、繰り出した舌打ち。
そうすると、奴はそれ以上なにも喋る事は無かった。
――――逆にそれが気に食わない。
「なんだよてめぇ!!!見ただけかよ!見るからにはなにか――――!!!!???」
「オギャアアアアアー――――!!」
俺が声を張り上げた、まさにその時だった。
仮眠室からとんでもない程のガキの声が響いてきた。
勢いよく椅子から立ち上がった俺がそのまま固まっていると、イデアさんが仮眠室からおくるみに包まれた赤子を抱いてきた。
「……会長からダ。」
そういったイデアさんはまだ、ハイハイもできるかどうかの赤子を無造作に机の上に置いてしまった。
勿論泣き止む筈もなく生徒会室に響き渡る悲鳴じみた泣き声。
まだおくるみに包まれて全体像もはっきり見えないが、この手の生物が大の苦手な俺はその場に固まる事になる。
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【千星 那由多】
突然の赤ん坊の叫びに似た泣き声で、突っ掛かってきた日当瀬が固まってるのを見てバレないように少し笑う。
こいつ、こども苦手だな・・・。
どちらかと言うと、俺は子供が好きだ。
無邪気で悪意のかけらもなくすごいことやっちゃう子供が何故か憎めない。
大人にはできないことを自分ルールでやってしまうから、子供は人類最強だとも思っている。
いや、そんなことよりも、この赤ん坊、なんだ?
「……会長からダ。」と、イデアが無造作に赤ん坊を机の上に置いた。
固く冷たい机の上に置かれ、泣き叫ぶ赤ん坊を俺は反射的に抱き上げてしまった。
「泣いてんのに無造作に机なんかに置くなよ!あぶねーなあ・・・」
赤ん坊を抱いたことは数回あったので、思い出しながらうまく抱きかかえた。
いつかどこかの母親がやっていた様に、赤ん坊をあやす様に体を揺らす。
「もーだいじょぶだぞー」
徐々に赤ん坊の豪火の様な泣き声は鎮火していき、色んな水でぐしゃぐしゃになった顔が穏やかになっていく。
副会長は横で慌てていたが、泣き止んだことにほっと胸をなでおろしていた。
日当瀬というと、相変わらず固まっている。
俺はまた顔を日当瀬に見せないように笑った。
「んで、この子どうしたんだよ?」
イデアに尋ねると、イデアはビッと赤ん坊を指差し
「コドモを母親の元へ連れてイケ」
「はあ!?」
俺と日当瀬がハモる。
思わず日当瀬を見ると、またお得意の舌打ちをして俺を睨んできた。
すぐに視線をイデアに戻して再度尋ねる。
「母親って・・・どこにいるかわかってんの?」
「場所はメモに書イタ。さっさと連れていけ」
メモを副会長に半ば無理やりに手渡したイデアは、椅子に座り次は俺の方をビッと指差した。
「ナユタ、初メテの任務ダ。がんばるンダナ」
その言葉の後に腕の中の赤ん坊が笑いながら両腕をばたつかせた。
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