あなたのタマシイいただきます!

さくらんこ

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isc(裏)生徒会

負けられない

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【日当瀬 晴生】


麻酔弾が直ぐに効かず一瞬焦ったがどうやらちゃんと効いた様子で丸田は眠りについた。

熊かこいつは…。

俺は内心途方にくれそうになるがそんな時間は無い。
こちらに向かう千星さんと合流するために歩み寄るが…


ガラガラガラガラ―――!!!!


瞬く間に床が崩れて行く。床だけじゃなく壁も天井も、丸田が暴れすぎたせいで建物が崩れだしたようだ。 

「千星さんッ!!」

俺は慌てて千星さんに手を伸ばし、片腕でこちらに引き寄せていると足場がなくなった。
俺たちはそのまま頭から地面に向かって落ちて行く、空中でしっかりと千星さんを抱きしめながら片手でカートリッジを交換する。 

「―――おおおお!!」

地面に向かって数発空気砲をぶっ放す、その風圧を利用して俺たちは無事に地面に着陸する、
その後もすかさず上から落ちてくる岩を空気砲で逸らして行く。


ズドー――――ン。


けたたましい音を立てて建物が崩壊した。
どうやら、半壊で済んだようだが、丸田や他の二人がどうなったかは既に分からなかった…。
砂煙が舞い起こる中、俺たちは崩れた建物を見上げた。 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


崩れ落ちる足元には床が無くなり、身体は落下していく。
晴生に腕を引かれ離れないようにしがみ付いたが、俺の頭は落ちることにパニックに陥り真っ白になっていた。

恐怖なんか感じる暇もなく頭から高速で落下しているのがわかった。
意識が飛びそうになるのを必死でこらえ、目を瞑り身を縮める。


もう絶対ダメだ―――――!!!


そう思った瞬間に落下先に空気が破裂するような音が数発起きる。

「!?」

その音は晴生の空気砲で、その威力によって、俺と晴生の身体は舞い上がり、地面へと無事に着地した。
頭上から落下してくる瓦礫を晴生が逸らすように撃っている間、俺は晴生にしがみついたまま落下していた時の恐怖を消し去るように肩で息をしていた。 

もうマジ…こういうのは勘弁してください…。


上を見上げると見事に建物は半壊し、そこら中に砂埃や瓦礫が散乱している。
丸田たちはどうなったんだろうか…。
そんなことを考えながら辺りを見回していると、頭上で何か声が聞こえた気がした。
更に上を見上げると、逆光でうまく見えないが誰かが壊れた建物の上の階にいる気がする。
俺はその人影を見て、身体が強張った。



――――――巽だ。




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【三木 柚子由】


ここは…。私は確か、天夜君に首を絞められて…。

私が目を開けると其処は天蓋つきの真っ白なベッドだった。
古びてはいてけれど手入れがされていたのか埃はほとんどなかった。
ゆっくりと私の意識は覚醒していく、同時にハッとなって、布団を握り締める様にして起き上がり辺りを見渡した。 


「やっと、目覚めたのか?」

「…っ!!あなたは…どうして…」


目が覚めて直ぐそこにいたのは、意識を失う前に見た、青山先生だった。
彼は覇気の無い瞳で片手に蝋燭を持ちながらゆっくりと近づいてくる。
その姿に正気は無かったので、私は恐怖に唇が震え、少しでも隠れたいという人間の本能を隠せずに、
布団を握り締めたまま、ベッドヘッドまで後ずさる。

「だめじゃないか、三木。君には制裁を受けてもらうよ。ほら、もうすぐ正午だ。
三木の仲間はどうやら、間に合わなかったみたいだ」

「……あれは、学校のお金を勝手に使った、あなたが悪かったんです。(裏)生徒会は何も悪いことはしていな―――」 

「だまれ!!!!だまれだまれだまれだまれ!!
オマエのせいで、俺は!!おれはっ!!!かみさんにも逃げられたんだ!!
生徒のくせに生意気な口をきくな!!」


「きゃぁぁぁぁぁ!!」


その瞬間に蝋燭から炎が飛んできた。
白く綺麗だったベッドはみるみる内に炎に包まれる。
私の服も少し焦げてしまったけど、引火はしなかった様子。
私は慌ててベッドから降りると部屋の扉に向かって逃げ出した。 




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【日当瀬 晴生】


「また凄いこと、してくれたね。」


そう言って頭上から降ってきたのは天夜の声だった。
俺は一気に眉間に皺を寄せそちらを見上げるが、あいつは事もあろうか、七階から飛び降りる。
その光景に目を瞠るがあいつは瓦礫や、崩壊での出っ張りを器用に伝い俺たちの元まで降りてくる。

前に戦ったときからアイツの身体能力は目を瞠るものがあったがどうやらそれが更に強化されているようだ。
横にいる千星さんが小さく震えているのが分かった。
無理もない、まだ、千星さんはトラウマを克服したわけではないんだ。 

俺は残りの残弾と、自分の体力を考えると自然に険しい表情になるが、千星さんを後ろに隠す様にして前にでた。 


「それは、てめぇんとこの、筋肉バカに言えよ!
危うくこっちまで巻き込まれるとこだっただろうが!!」


そういって、俺は巽に向かって銃を構える。

「天夜、あくまでも邪魔をするなら、俺が相手だ。
千星さん、少し休んでいてください。」

俺は背後にいる千星さんに視線と共に肩越しに髪を向ける。
そろそろ煙草が吸いたくて仕方がない、そんな思いを抱きながら着崩した制服を風に靡かせ巽の前にと立ちはだかる。 


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【千星 那由多】


巽が器用に瓦礫を伝い飛び降りてくるのがわかった。

その声と姿を見ただけで自分がまた怯えてしまうのがなんとも情けなかった。
あいつをぶっ飛ばしに来たんじゃないのかよ。
頑張れよ俺!!!


そうは言ってもすぐに身体の震えはすぐに治まるわけがない。
そんな俺に気づいたのか、晴生は俺を庇うように前へと出た。 

…また守られてしまう。


きちんと決意したじゃないか。
俺だって対等に戦いたい。
守られてるばっかりはイヤだって。
巽とちゃんと向き合うって。
周りに迷惑かけまくって、ちゃんと自分で決めたんだろ! 


身体はかなり疲れてはいるが、それはきっと晴生も同じだ。
この戦いですっかり汚れてしまった晴生の白い制服の後ろ姿を見ながら、俺は震えを止めようと左手で自分の右腕に爪を立てた。 


----------------------------------------------------------------------- 


【日当瀬 晴生】


正直俺の残弾と残りの体力から考えて、今こいつを相手にするのは非常に辛い。
この前の身体能力が向上していなかった時すらこいつの運動神経は異常だった。
それに加えて今の俺にはもう殆どカートリッジが残っていなかった。

残り五本のカートリッジをどう使おうかと視線を落としていると巽の奴がこっちに歩いてくる。

「それはこっちの台詞だよ日当瀬。
那由多は返してもらう。また、俺と一緒に普通の学園生活を送るんだ。」


そう言った瞬間ヤツがこちらに向かって走り出した。


速い―――!!!!


さっきの女はきっと身体能力向上のアビリティを使ってあの速さだった筈だ。
しかし天夜はその能力なしにあの女と同等、いや、それ以上に速く感じる。
それは、スピードだけでなく、脚力、腕力等の身体能力が全て向上しているからかも知れないが。 

俺は夏岡さんに何度も修行を付けてもらっているので何とか目では終えるがそれで精一杯だ。
天夜が繰り出す蹴りを銃の腹で受け止める。

それだけで後ろにぶっ飛ぶ故トリガーを引けないほど手指が一瞬痺れてしまう。


「く―――!!!」


後ろに飛んだ勢いを殺す様に足裏で地面を滑る。
ここは中庭の様子で幸いなことに木々が生い茂っていた。
また、瓦礫も俺が身を隠すのには最適で、俺は地の利をいかすべく、木の陰に身を潜め呼吸を整える。 

その時、曇天であった空からポツリポツリと雨が降り始めた。 


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【天夜 巽】


あの少年の能力か、俺の身体は活性化している。
それは少しずるい気もしたがどうやら(裏)生徒会も同じ能力を有しているようなので、
これでやっと同じ土台に立てたと考えるべきだろう。


俺が蹴り飛ばした日当瀬はどうやら茂みに隠れてしまったようだ。
そんなことしても無駄なのに、と、俺は思ったが彼は口で言ったことを聞くようなタイプではないだろう。 

圧倒的な敗北、今の彼に必要なのはそれだ。

俺はゆっくりと中庭の木々が生い茂っている場所へと歩みを進めて行った。


どうやら完全に気配を消しているらしく、日当瀬の姿は見つからない。
そう思って歩いていると茂みから急に空気砲が飛んできた。

「―――っ。」

俺は地を蹴り飛びあがることでそれを避ける。
すかさず俺の後ろに日当瀬の姿があった。
どうやら、前回と同様俺の行動が読めるようだがそれは今の俺にとっては取るに足らないことだった。 

そのまま身を返して、相手を下から蹴りあげると、
日当瀬は俺の身体能力に驚いたように目を丸くしながらまた、銃で俺の蹴りを防ぎながら茂みの中へと飛んで行った。 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


巽は昔から身体能力はかなりいい。
柔道、剣道、空手、なんであっても真面目に部活やってる奴等より上だったのを覚えてる。
誰かとこうやって拳を交えている風景を見るのはもちろん初めてだった。


「那由多は返してもらう」という言葉に背筋に悪寒が走った。
こいつの正義は、俺を普通の生活に戻すこと。


普通の生活。
そりゃあ最初は(裏)生徒会に入って普通の高校生活が送れなくなることが嫌だと思っていた。
きっと今までの俺なら戻りたいと思っていただろう。
巽も多分それを見越して俺を(裏)生徒会から救い出したいと思っているはずだ。 

だけど、違うんだ巽。


吹っ飛ばされた晴生を見てごちゃごちゃと考えていた思考が止まり、我に返る。

「晴生…!」

俺は声にならない声をあげた。
あの晴生でも今の巽には勝てる気がしない。
俺だってもちろん勝てるなんてことは思っていない。
だけど…俺がどうにかしないといけないだろ…!!


いつの間にか空を一面に覆っていた黒い雲から雨が静かに降り始め、髪や服を濡らす。
それはすぐにバケツをひっくり返したような大雨になり、俺はずぶ濡れになりながら二人をただただ見つめるしかなかった。 


----------------------------------------------------------------------- 


【日当瀬 晴生】


俺の攻撃は見事に天夜によって防がれてしまった。
いくら先を読んでも、天夜のスピードが勝ってしまって俺の攻撃を当てることができない。 

酷くなった雨で俺は既にビショビショで、火薬を使用しているわけではないので銃が湿気るなんてことは無いが、それでも動作は鈍くなる。
あれから数回奇襲を仕掛けてみたが結果は同じだった。
余り弾を使用できないのでそろそろ確実に仕留められる手段が欲しい。


泥濘に足を取られながら中庭を走る。
不意に閃いた作戦を決行する為俺はまた茂みへと隠れた、天夜を誘導する為に態と殺気を消さずある場所へと誘い込む。


雨の中、俺は木に隠れて呼吸を整える。
それにしてもおかしい、俺の攻撃が効かないにしても、アイツは丸田のように筋肉が壁となっている訳でも無いし、
手ごたえがあった攻撃もあった。
それでも、結果、俺はアイツに傷一つ付けることが出来ていない。
蹴る足も殴る拳もこの銃で全て防いでいる。
それなのに全くアイツは手足を痛めているようすは無い。

確かに身体能力は上がっているがいきなりそんな神業まで出来るものなのだろうか。


答えが出ないまま天夜の足音が聞こえる。

「日当瀬。殺気が丸わかりだよ。
そろそろ、疲れてきた?それとも何か考えてる?
考えたって同じだよ、君の攻撃は俺には当たらない、それが全てだ。」

雨音の中冷たい天夜の声が響く。

「けっ、んなのやってみねぇと、わかんねぇだろ!!!」

俺はまた跳弾を利用して日当瀬に背中を向けさせる。
相手がこちらに背中を向けた瞬間にそこから飛び出す。


さっきまでと変わらない一打、しかし先ほどと違うことが一つ。
ここの足場は沼地のように雨のせいでぬかるんでいた。 


----------------------------------------------------------------------- 


【天夜 巽】


彼はこの状況で全く諦めては居ないようだった。
一気に降り注ぐ雨、このままじゃ、那由多の身体が冷えてしまうな、と、思ったが今は敵であるためその考えはすぐに霧散した。 

さっきまでは殺気すらも消していた、日当瀬の殺気が駄々漏れだ。
態とか、疲労で隠せなくなったか。
どちらにしろ俺には関係ない、さっさと倒して那由多を取り戻すだけだ。 


「日当瀬。殺気が丸わかりだよ。
そろそろ、疲れてきた?それとも何か考えてる?
考えたって同じだよ、君の攻撃は俺には当たらない、それが全てだ。」

「けっ、んなのやってみねぇと、わかんねぇだろ!!!」


俺の掛けた声に彼の言葉が返ってくると同時に飛んでくる空気砲。
同じ手段が俺に効く訳がない。
その後の銃で殴りかかってくるスピードが徐々に上がってきていることは称賛に値するが。 

俺はその空気砲をかわした後、身体を回転させ足を泥濘に取られてしまった。


「な―――に!!!?」


どうやら日当瀬はこれを計算していたようで、ニヤリと口角を上げるのがこちらから見えた。
本当にこの狡賢さだけは認めてもいいが、今回は俺もこれが全てでは無かった。
俺は腰に隠してあった三本の鉤爪が付いた鉤縄を取り出し、日当瀬のほうを見ることもせず鉤爪を投げる。 


それは、シュッと、空気を切る様にして日当瀬の頬を割いたようだ。
どうやら致命傷には至らなかった様子で、すかさず縄を引くようにすると日当瀬の拳銃を持っている方の手に絡みつかせ、グッとこちらに引きつける。 


----------------------------------------------------------------------- 


【日当瀬 晴生】


どうやら俺の目論み通り天夜は泥濘に足を取られてくれた。
そこまでは良かったのだが。


「―――――っ!!!」


アイツはまだ武器を隠し持っていた。
他のメンバーが武器を所持していたことを考えると当たり前なのだが今の俺はそこまで考える余裕は、いや、きっと考えたくなかったのだ。

持ち前の動体視力でも避けきることが出来ず俺の頬に三本の傷を割くようにして残して行った。
それだけではなく、縄が引くのと同時に俺が拳銃を持っている方の手に絡みつき、引っ張られる。

「くっ!!!」

まずい、このまま引っ張り合っても俺が確実に負ける。
今銃を撃つことに集中した瞬間に俺は天夜の間合に引き摺り込まれるだろう。

「はん、ほんと、汚ねぇ野郎だぜ。まだ、隠し持っていたなんてな。」

「お前に言われたくない。策を弄さないと俺に勝てない癖に。たまにはまっすぐ向かってきたら?
……と、残念だけどタイムリミットだね。ほらみて。君の仲間が見えるよ。」


そう言った天夜は俺の後ろを指差した。
指されるまま見上げた無事だった建物の最上階近く、
そこに三木は佇んでいたまるで逃げ場がなく怯えたような表情をしてこちらを見下ろすその姿に俺は息をのむ。 


「三木!!てんめぇ!!!」


俺は覚悟を決めてそのまま、天夜に縄が絡まっていない左手で殴りかかる。
これは最後の手段だったので出来ればなるべく使いたくなかった。
勿論その左手にはカートリッジを握り締め、相手と交錯するその瞬間に圧縮させた空気を解き放ち大きな爆発を起こす。 


----------------------------------------------------------------------- 


【天夜 巽】


三木の姿を見て動転したのか、日当瀬がこちらに向かって走りこんでくる。
しかし、俺は彼を甘く見ていたようだ。

そのまま返り打ちにしてやろうと拳を構えるがその瞬間に俺の目に入ったのは圧縮された空気の塊が爆発する瞬間だった。 


ドォォォォンン!!


「ぅああああ!!!!!」


中庭一面に竜巻の様な空気の嵐が起きる。
俺の身体は無数のかまいたちに切り刻まれたような状態で出血も酷い。
勿論、それは俺から少し離れたところに蹲る、日当瀬も同じようだ。
しかし、彼はまだ、立ち上がろうとしているのか震える手足を踏ん張っている。 


負けた…。


本当にこの根性といい、戦略と言い、そういう気持ちはきっと彼には適わないだろう。
だが、この勝敗は譲る訳にはいかなかった。


俺は先ほどから勝手に発動していた能力を全開にする。
それは自然治癒力の力。俺が武器を渡されるのと同時に開花させられたアビリティだった。
俺の身体は黄色い光に包まれると共に立ち上がる。
その姿を見て日当瀬は驚愕に目を見開くが、俺は容赦せず、鉤縄を自分の手元で数回転させてから日当瀬に向かって投げつけた。 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


目の前で激しい戦いが繰り広げられ、爆発が起きた時は何が起きたのかわからなかった。
その光景を息を飲みながら眺めていた俺は、雨で身体は重くなり、余計に身動きがとれなくなっていた。 

煙が風に流され、目に映ったのは二人が倒れている光景だった。


「…!」


相打ちか?
そんなことを思うと同時に、巽は黄色い光を纏いながら立ち上がったのがわかった。
なぜかいたる所から流れていた血は引いていき、最初と同じように巽の身体は傷ひとつなくなっている。 

「なんで…」

そして地面へと倒れている晴生へと鉤縄を投げつけた。


「!!!!」


まずい、このままじゃ身動きも取れずに倒れている晴生に命中する。
もうあいつは動けそうにない、やめろ、やめてくれ…本当に…!!
助けなきゃ、俺が助けなきゃいけない!!

動け、動け動け動け!!!!!
俺の足!!!!!!



気づけば俺は晴生の元へと全速力で走っていた。

「やめろおおおおおおおお!!!!」


泥濘に滑りそうになる足をしっかりと保ち、鉤縄が晴生のすぐ側まで来た時、剣を振りかざして向こう側へと軌道を逸らす。
甲高い金属音は雨の音の中に消えた。

「…はっ…はぁっ…」

視界が大雨で見づらい中、俺は巽を見据えながら晴生を守るようにして立つ。
空には雷鳴が轟いていた。 


----------------------------------------------------------------------- 


【日当瀬 晴生】


「終わりだ。」


天夜からそんな言葉が聞こえた瞬間、アイツは光に包まれた。
俺が感じていた違和感、まさにそれが姿を現す。
そう、こいつは自分で自分の身体の傷を再生していたんだ。
それを理解した瞬間には、俺に向かって鉤縄が飛んできていた。
避けることも撃ち返すことも出来ずに、俺はギュッと目を瞑った。 


その時千星さんの声がこだました。


「千星さん……。」


俺を守る様に立つ千星さん。
天夜と対峙するだけでも怖い筈なのに身を呈して俺を守ってくれた。

情けねぇ…。


こんなところで寝ている場合じゃないと、俺は無理やり身体を起こす。
勿論、泥や血液で見れたもんじゃないが、まだ残弾は残っている。
ふらつく足で何とかぬかるんだ地面を踏みしめ、天夜に対峙する。
しかし、もう、ヤツの関心の対象は俺ではなく、千星さんに向かったようだ。


「那由多。……あくまでも邪魔するんだね。
少し痛い目を見ないと分からない?
あれじゃ、足りなかったかな?」

そう言って冷めた笑みを浮かべながらゆっくりと近づいてくる。 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


巽はこちらへ近づきながら、背筋が凍るような笑顔で言葉を投げかける。
一歩一歩進んでくる巽に息が荒くなり、たじろいでしまうが、震える身体に言うことをきかせるように、ぐっと剣を握りしめた。 


考えろ…巽を倒せる方法を。
俺は、晴生を、みんなを、自分を守れる力が欲しい。

ここに来る前、(裏)生徒会室を出ようとした時にかけられたイデアの言葉を思い出す。 


『特殊能力は潜在意識だ。
自分が欲しいと願っているものや、要らないと思っているもの、得意不得意分野、全てが能力となりうる。
それだけを頭にいれておけ』


潜在意識…欲しいもの、要らないもの…得意分野…。

俺が今まで誰にも負けないって思ったことはなんだ?
一歩一歩近づく巽を見据えながら唇を噛みしめ思考を巡らせる。



…字?



そう言えば字を書くことは昔から好きで、特に習ったりもしてなかった割に周りに褒められることも多かった。
そんなこと、だけど、俺にとってはこれが一番の得意分野と言ってもいいかもしれない。

その時、巽の後方にあった大きな木に、雷が激しい音を立てて落ちる。
空気が揺れ、地面が振動し身体に軽い衝撃が走る。
こんな大雨にも関わらず落ちた雷のせいで木は燃え始めた。


…火。


火を出すことなんて可能か?
どうやって?
……字を書いて?

俺は剣先に映る自分の顔を見つめた。


そんなこと、俺にできるのか? 


----------------------------------------------------------------------- 


【天夜 巽】


那由多は俺が近づくと震え始める。

やっぱり怖いんだ、それなのに日当瀬を助けようとするから…。
お仕置きが必要だね。 


日当瀬はチラチラと那由多の様子を窺ってる。
那由多に期待しているのか?
那由多に俺を倒すことなど出来ない。
だって俺は那由多を守るんだから、那由多より弱い筈がない。
しかし、那由多は俺を倒すことばかりを考えているようだ。

また、その瞳を恐怖に染めれば、もう少し従順になるだろうか。

俺は殊更優しい声でゆっくりと那由多に言葉を掛ける。


「見てみなよ、那由多。上、三木が居るよ。
彼女はこれから何をされるんだろうね?
那由多にされたことと同じことかな?
でも、あの、青山って男は(裏)生徒会にすごい恨みがあるみたい。
もしかしたら、裸にされるだけじゃ、済まされないかもね?」


その間に三木は後ろから来た青山によって髪の毛を掴まれまた、廃墟の中に引きずられていった。
雷鳴の轟く中、那由多の記憶を蘇らせる様に、呪文のように言葉を綴りながら俺は近づいていく。


「那由多。
今から俺は那由多を殴るよ、勿論無事では済まないほど強くね。
でも、避けないで俺の暴力を正面から受け止めれたらこれで許してあげる。
……もし、まだ俺にたてつこうって言うなら…分かっているよね?」


俺の表情はきっと冷めていただろうしかし、その中にも怒りを含んだ射抜くような瞳で那由多を睨みあげた。
そして、俺は鉤縄を那由多に向かって一直線に投げつける。 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


俺は巽の言葉で剣を見つめていた視線をハッと巽の方へ向ける。


三木さん…!


上を見上げると三木さんらしい人影が何者かに引きずられるように奥へと入っていった。 
それを見た俺は、捕らえられた時の光景がフラッシュバックする。
だめだ、やめてくれ、三木さんにそんなことするな。
フラッシュバックとともに発作のようにガチガチと身体が震えだし、剣を持つ手さえぶれ始める。

目を瞑って何も見たくない、考えたくない。
でも今目を閉じてしまったらだめだ。全部、諦めてしまう。

乱れる視界を巽の方へと向けた時、巽の冷めた表情が目に焼き付いた。


殴る?巽が俺を?
そんなことお前しないだろ?したくないんだろ?
どうしてそこまでして俺を突き落すんだよ?
どこまで追いかけてくんだよ?
戦うこともできなければ、逃げることさえ許されないのか?



目の前の巽が怖い――――。



巽が鉤縄をこちらへ向かって投げつけたのが見えた。
けれど、俺の身体は完全に恐怖で動かなくなっていた。 


----------------------------------------------------------------------- 


【日当瀬 晴生】


「千星さん!!千星さん!!」

だめだ、今の千星さんには俺の声は全く聞こえていない。
俺はさっきの爆発で左手は使いもんになんねぇし、右手だって照準を合わせられる状態じゃねぇ。 


「おい、天夜、てめぇ!!!」


「相手の弱点を突くのは定石だよ?」

相変わらず冷たい声で天夜は言葉を落とす。
千星さんはもう、どこも見ていない。

こんなの、親友がすることじゃない。
こんなの、友達同士でするこじゃない。



俺は、俺は…。
本当に天夜が羨ましかったのに。



咄嗟のことで俺はもう、何も考えていたなかった。
きっと身体が勝手に動くとはこういうことだろう。

俺は千星さんをかばうように抱きしめる。
容赦なく飛んできた天夜の鉤爪は俺の背中を上から下へと切り刻んでいく。
到底、立ってることなどできず、そのまま千星さんを押し倒す様にして泥濘に沈んでいく。 



ああ……ダッセェ…な。 



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