あなたのタマシイいただきます!

さくらんこ

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isc(裏)生徒会

三人の幻術師

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【神功 左千夫】


晴生君の能力の開花に伴い必要な情報は僕に伝えて貰った。

敵側は一悶着は有ったようだが特に罰などは与えられていないようだ。
そもそも、彼は罰を与えるのも面倒だと思う人種だろう。
そう考えながら九鬼を見た。

正直、彼の顔を見るだけで僕は吐き気がする。
あれだけ好き勝手やられて恨むなと言う方が難しい。
涼しげな顔をして僕に話しかけてくるその精神を疑う。

「そちらで、どうぞ。」

九鬼が投げたサイコロの目は『二』だった。
そうなるとあの、ローレンツと言う男が間違いなく出てくる。


「さて、柚子由行きますよ。」

僕はアプリを展開させると、槍を真ん中で二つに外す。
更にそれの柄の部分を通常のサイズになるまで伸ばし、三叉は僕が持ち、双槍となった槍を彼女に差しだす。 

「会長!俺まだ、戦えますよ。」

那由多くんが後ろから声を掛けてきてくれた。
確かに僕の腕章が奪われると終わってしまうので願い出は嬉しいが彼はまだ、幻術に対する耐性が低すぎる。 

「那由多くんは、晴生くんや巽くんの手当を。
次はローレンツと言う幻術使いが出てくるでしょう。今の君では戦力にならない。
それよりもその後の九鬼戦に備えて、体力を温存していてください。」

「でも……」

那由多くんが僕の四肢に嵌められたリングに視線を向ける。
確かにこれは厄介な代物だが、先ほど晴生くんが打開策を示してくれたし、その成分を含みそうな岩も教えて貰っている。
僕は彼を安心させるようにいつもの笑みを湛えた。

「心配ありがとうございます。
それに、僕はただ一番の特等席で試合を見に行くだけですよ。
彼の相手は柚子由で十分です。」

そう告げて柚子由に視線を移すと緊張した面持ちだが、ゆっくりと深く頷いた。

「……えっと……千星君達みたいに、うまくできるか分からないけど、行ってくる…、休憩してて…?」 


彼女はそう、那由多くんに告げると闘技場へと降りていく。
それを追うように僕も闘技場へと飛び降りた。 


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【ローレンツ】


「じゃ、ローレンツとフリーデル、次よろしく」

クキはワタクシとフリーデルにそう言って笑った。

「クキは出ないのデスカ…?」

てっきりワタクシは次はクキと出場すると思っていたので、思わず顔を顰めながらフリーデルへと顔を向けた。
傷は回復はしているようで、特に目立った疲れもないコトはオーラでわかるが…この女と出るのはあまり気が進まない。

「うん、ボクはまだ出るつもりないヨ。
それにあっちも女副会長を出してくるみたいだしネ。
フリーデルは大丈夫でショ?」

クキの言葉にフリーデルは大きく頷いたようだった。
彼の命令に反論する理由もないワタクシは、深くため息を付くとフリーデルを置いて先に闘技場の中へと降り立った。 

あちらは先に闘技場で待ち構えていた。
対戦相手はジングウと、ミキという女副会長。
調度いい、クキにジングウとの勝負を見てもらういい機会だ。 


「コチラはフリーデルがリーダーだ」

フリーデルはまだ来てはいなかったが先にそう言うと、相手からはジングウの声で「僕がリーダーです」という声が聞こえた。 

クキは彼に入れ込んでいる。
ワタクシも同じ幻術師として、あまりいい気はしないし、ヤツの事は好きではない。
ジングウの落ち着き払っているオーラがまた苛立ちを掻き立てる。
そんな事を考えていると、フリーデルも中へと入ってきたのか、後ろに気配を感じる。

「精々回復に専念しておケ」

彼女にそう言い放った後、両ヒューマノイドの声の合図が場内に響き渡った。


『リコール決戦、プランダーバッチ2回戦
「イデア」「エイドス」
ここで見届ける。』


『強奪許可!!!』


ワタクシはすぐに本の1ページを破き、それを無数のナイフへと変化させた。
まずは、小手調べと行きましょう。 


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【三木 柚子由】


『強奪許可!!!』


イデアちゃんともう一人のヒューマノイドの機械音が木霊する。
いつもは後ろで見てばかりだったので緊張で足が震える。
手汗も凄いことになってる。

でも、傷だらけの左千夫様を戦わせる訳にはいかないので、ここはなんとか私が食い止めないと。 

千星君達には見えていないけど、左千夫様はリングを付けられているだけじゃなく負傷をしている。
それを自分に幻術を掛けることによって隠している。
きっと、立ってるのも辛い筈。

私が左千夫様を庇うように前に出ると、ローレンツさんから無数のナイフが飛んできた。
幻術とは思えないクオリティーで私は少し怯んでしまった。

「柚子由、落ち付きなさい。特訓の通りに。」

左千夫様の声がする。
私にはこれが何よりも精神安定剤になる。
辺りを見渡すと無数の石が転がっていた。
ローレンツさんは目が見えないみたいだけど、私は見える。
なので、実際に有るものの方が動かしやすい。

私は周りの石を持ち上げると、こちらに飛んでくるナイフにぶつける。
ナイフは一つ残らず、落ちて行った。
うまくいったことに大きく息を吐く。

私がその攻撃をした時、敵の眉がピクンと動いたのが分かった。

「オマエも幻術を使えるのか…?」 

ローレンツさんがそう呟く。
ちょっと聞き取りづらかったけど私はコクンと頷いた。
それから、彼が目が見えてないことに気付き慌てて言葉を繰り出した。 

「あ、…このまえ…その、使えるようになったの。
だから、今回、貴方の相手は私。」 

それだけ告げると萎縮しながら槍をギュッと握り締めた。
その緊張をほぐす様に左千夫様が背中を軽く叩いてくれた。 


「そうです、今回の君の相手は、彼女です。
君程度なら、……僕が出るまでも無いでしょう。」


左千夫様がわざと相手の逆鱗に触れるようなことを言う。
相手からの殺気が強くなった。
作戦だと分かっているけど、やっぱり怖いな。 


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【ローレンツ】


無数のナイフが全て撃ち落とされたのがわかった。
そしてそれはジングウでは無く、女副会長のミキのオーラを纏ったものに妨害されたという事実に片眉が動いた。 

どうやら彼女も幻術を使えるようになったみたいだ。
エイドスのデータではミキはただのお飾り的存在だと聞いていたので、彼女だけなら容易く葬れるかと思ったが。
まぁ、ここ最近使えるようになった初心者にワタクシが負けるわけがない。
厄介なのはジングウがいること。

だがしかし、ワタクシの相手はミキだと言う。
……完璧に舐めている。
ジングウまでも自分が出る幕ではないと言い放った言葉に全身に怒りが増幅していくのがかわった。
顔の筋肉が歪んでいくのを冷静に抑え込みながら、不自然な笑みを浮かべる。

「…舐められたモノですネェ…」

フリーデルが前に出ようとするのを制止して、ワタクシは数枚のノートを一気に破り取り片手を横に振りきると、宙に全てが浮いた。
それをいくつもの巨大な火柱に変化させると、辺りすべてに異常なほどの熱気か漂った。

「そんなヨユウ、一気に薙ぎハラッテやりマスよ…!」

そう言って腕をミキの方へと振りかざした。
全ての火柱が彼女を目がけて飛んで行く。


「身を焼かれモガキ苦しみナサイ!」 


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【三木 柚子由】


次は火の柱……! 


火には水。

ローレンツさんは完全に怒ってしまったみたい。
そんなに左千夫様と戦いたかったのかな?
左千夫様は負傷してて戦える状態じゃないんだけど。 

私は自分の身の回りに水の塊を幾つも作って浮かべる。
それを冷静に撃ち込まれていく火柱を撃墜するためだけに飛ばした。 

ジュウっと、音を立てながら炎が消えていく。
今のところうまく出来ているとホッと息を吐いたところで、ローレンツさんから、直ぐに第二打が貫くように飛んできた。 


まずいッ。


私は慌てて又、水の塊を作って火柱を撃ち落としていくが一つだけ、私の水を蒸発させ貫通するようにしてこちらに飛んできた。 


「きゃぁああああ!!!」


熱い!熱い!
その炎は私の左手から全身へと燃え広がった。
慌てて槍を振り回すけどなかなか消えない。
しかし、それも直ぐに透き通ったきれいな水が私を包むことで沈下された。
水に包まれているのに息が出来る。
これは、左千夫様の幻術。


『柚子由。落ち着きなさい。どうやら自然エネルギーでは相手の方が上みたいですね。
…気にすることは有りません。それに、後手に回っているだけでは勝てませんよ。
貴方の体術を披露してあげなさい。』

左千夫様が直接頭に語りかけてくる。
その言葉を聞いた私は深く頷き、槍を片手に持ったまま走り出した。
ローレンツさんからは、また火の柱が飛んできたけど今度はそれを自分が作った水の塊と足を使って避ける。
きっと彼は接近戦には慣れていない。
左千夫様のように肉弾戦慣れしてる幻術師は珍しいみたい。 

彼の近くまで距離を詰めた私は槍を繰り出す。
彼はそれを避けてしまったけど、私にも戦える自信がこれでついた。 

そのまま私達の戦いは均衡状態に入る。 


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【ローレンツ】


ミキの身体に燃え広がった炎の感触に口端をあげて笑う。
どうやら自然エネルギー系はワタクシの方が上のようだ。 

しかし、それはいとも簡単にジングウの力によって消されてしまった。 

「チッ…」

やはり身体は弱っているとは言えど、彼はワタクシの上を行くのか…。
眉間に皺を寄せながら苛立っていると、ミキがこちらへと移動してくるオーラを感じた。 

「ローレンツ!来る」

「言われなくても分かってイル」

フリーデルの言葉に更に苛立ちながらも身を引きながらこちらへ向かって来るミキに火を繰り出した。
しかし当たった感覚はない。
そのまま近づいてきたミキのオーラは、殺意のまったく篭っていない槍のようなモノでワタクシへと攻撃をしかける。
体術も備わっているとは、中々やるではないか。
が、まだこの女程度のモノであれば避けることは可能だ。 

ミキのオーラを感じながら繰り出される槍を避けていく。

実のところワタクシは体術には長けていない。
幻術師の誇りがあるからだ。

そのままミキの攻撃を避けながら、ワタクシは幾度となく炎や水の幻術を繰り出した。

暫くその状態が続いた後、フリーデルのオーラが動いたのがわかった。
それはワタクシの援護ではなく、ジングウの方へと向かっている。

ジングウを相手したいのは山々なのだが、いかんせんこの女をどうにかしないといけない。
休むことなく降り注いでくる諦めの悪い攻撃に、ワタクシは舌打ちをした。 


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【フリーデル】


ディータの糸が無ければ、私はローレンツの回復役にしかならないだろう。
この幻術の中に飛び込んでも、きっと彼の足を引っ張るだけだ。 

後ろで見ているしかないのは歯痒い。
ジングウはあの状態でも幻術を使えるようだが彼は四つもフィデリオのリングが嵌っている。
きっと、立っているだけでもいっぱいいっぱいな筈だ。

彼の腕章を取れば全てが終わる。
そうでなくても、彼にダメージを与えることは九鬼サマの手助けになる。
ゆっくりと私はリングの端を伝うように動き始めた。 

相変わらず、ジングウは真っ直ぐにミキを見つめたまま動かない。 


『止めておいたほうがいい。』 


ディスプレイからジングウの声が響き渡る。
そして、彼はミキから視線を外しこちらを見た。

ゾッとした。
その綺麗に整った笑顔、そこから発せられる殺気。
今日の彼は初めて会ったときとは異なりコンタクトを嵌めていなかった。
その瞳すら赤く輝いている気がした。


地面に足を縫いつけられたかのようにそこから一歩も動けず、汗だけが噴き出した。


「止めて置きなさい。
いくら僕が負傷しているからと言って、君に腕章を取られるほど落ちぶれては居ない。
殺されたくなければそこから動かないことだ。
今回のリーダーは君なんですからね。」


ジングウは小首を傾げるように笑んだ。
しかし、私にはそこに死神が佇んでいるようにしか見えなかった。 


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【ローレンツ】


ジングウの元へと向かったフリーデルのオーラが死を目の前にしたような反応を示す。
それと共にジングウの凄まじい殺気にこちらで闘っている私までも全身に身の毛がよだった。

その瞬間を狙われ、ミキの槍がワタクシの頬を掠めた。


「…ッ!!」


本当に中々やるみたいだが、兎に角うっとおしい。
先ほどから間合いも詰められていて、思うように攻撃もできない。
ミキとの距離を置くためにワタクシは破り裂いたノートを自分の周りに円を描くように放った。
それが地面に突き刺さると、地面は真上へと登っていく。

闘技場の中間辺りまできたところでそれは止まり、ミキたちは真下でワタクシを見上げていた。 

「チョロチョロとうっとおしいんデスよ…」

ため息を吐き見下しながらミキへとそう言い放ち、再びノートを破り取る。
それは氷を圧縮した細かい針のようなものへと変化する。

下にはフリーデルもいるが…死なない程度に避けてくれればイイ。
ニタリと笑いながら手を真下へかざすと、氷の針は雨のように真下へと無数に降り注いだ。 


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【神功 左千夫】


ローレンツが上空へと上がっていく。
どうやら彼は全ての事象をあの本を媒体にして行っているようだ。
本を壊すと威力が半減するのか、または……。
どちらにせよ上から見下されるのは気分が悪い。

そう思っているとかなりの数の氷柱が空中へと現れた。
一瞬だけ体が萎縮するその後直ぐに槍を上空へと掲げる。 

「柚子由、防御に徹しなさい。」

「はい。あ。…でも。」

彼女はチラチラとフリーデルを見ていた。
彼女は甘い。
僕は別にそれを正そうとは思わないが時と場合は考えて欲しいかもしれない。
柚子由は彼女の元へ走った。
その行動は彼女を傷つけたくないと言う意味では正解だろう。 

仕方ない。
そう思った瞬間に四肢のリングが青白く閃光する。
体に流れる電流に喉が詰まる。

「―――――ッ!!」

声を上げることはしなかったがこんな悪趣味なことをするのは彼しかいない。
僕が九鬼の方を見上げると彼は楽しそうに笑んでいた。
全く、本当に、面倒なことばかりだ。

その電流を岩をタッチすることで一瞬だけ逃がすと柚子由の後を追うように走る。 

柚子由はフリーデルの直ぐ側で槍を頭上に掲げていた。
フリーデルは驚いているようだった。

「じっと、してて下さいね。」

柚子由は背後に居るフリーデルにそう告げる。

「それは、僕がします。柚子由はフォローを。」

そういうと柚子由は槍を引いた。
彼女より僕の方が長身なので、迷い無く槍を頭上へと突き出す。 

全てを貫くかのように氷の針が降り注ぐ、それを僕は槍をプロペラのように大きく回転させることで薙ぎ払っていく。
柚子由がフォローするように僕の槍の前に炎を繰り出した。 

電流を受けながら槍を回していたため少し精度が劣り、二、三本僕の体を掠めて行った。
柚子由の炎と氷がぶつかった為、辺りに水蒸気が広がる。
真っ白なそれに包まれると、辺りが見えなくなった。


その瞬間フリーデルの手が柚子由の腕章へと伸びる。
柚子由が無防備だったと言うこともあるが、敵ながらこの精神には尊敬する。
僕は槍の柄の方を使って、フリーデルを掬うように放り投げる。


「やれやれ。本当に面倒ですよ、プランダーバッチ。
誰ですかね、このルールを考えたのは。」


嫌味っぽく告げてやる。
勿論視線は九鬼の方を向けて。
それから槍を岩に刺す様にしてまた電流をそちらへと逃がした。

「そう言えば、シッターは本当に裏切られたのですかね。」

僕は意味深なことを呟く。
視線だけローレンツに向けながら。
勿論、全て僕が仮定した話だが、オースタラでの出来事に僕は違和感を抱いていた。 



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【ローレンツ】


無数の雨のような氷を防ぐとは余裕な奴だ。
いや、余裕などないだろう。
オーラは変わりないと言えど、やはりジングウの傷は深いようだ。
数本はジングウの身体をかすめたようだったが、それは決定打にはならない。

いけすかないのはミキも同じだ。
フリーデルを庇うなどどうかしている。
揃いも揃って愛輝凪高校の(裏)生徒会は甘い奴ばかりなのであろう。 


ああ、嫌な奴のコトを思い出した。
オースタラの(裏)生徒会にも、そんな奴がいたな。
奴は死んでしまったが。


フリーデルが放り投げられるのを視線で追い、役立たずめ、とため息をついた時、ジングウがシッターという名前を出した。
奴の名前を聞くだけでも虫唾が走るというのに、本当に裏切られたのかなど…。

「なぜ、今その話をスル必要がある・・・」

ワタクシが小さく囁いた声は、頭上のモニターから大きく響き渡った。

「ソモソモあの男が甘かったのがゲンインだろう?
ディータ達にしろ、今更過去をホリサゲたって、何も変わりはシナイ」 

眉間に皺を寄せながらジングウの方へと顔を向けた。
実のところ、この話はあまり掘り下げられたくはなかった。


ワタクシが少なからず…いや、大きく関与していることを彼らには今まで隠し通してきたのだから。 


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【三木 柚子由】


私が余計なことをしたせいで、左千夫様が傷付いてしまった。
その後も助けて貰うはめになって本当に私が必要なのか分からなくなって謝ろうとしたけど、それは左千夫様の手によって制された。
それから左千夫様はローレンツの方へと視線を向ける。
私の肩を掴んだ瞬間、地面がメキメキと突出していき、ローレンツと並ぶ高さまで二人一緒に上がっていく。 

戦いの途中なのに私の心臓は高鳴るばかりだ。 


「そうですね。過去は何も変わらないかもしれないが、
それを知ることによって変わる未来はあるかもしれませんよ。」

左千夫様が何もかも見透かしたようにローレンツを見つめる。
そして、すらすらと言葉を並べていった。

「オースタラがそこまで追い詰められた要因は二つ。
一つは外部的要因、これは話を聞いただけでは何もわかりませんでしたがね。
そしてもう一つは、内部的要因。
そう、君ですよローレンツ。」 


左千夫様は人差し指と中指を二本立てる。
それから、一本に戻した後、再び二本指を立てた。
その時嘲笑うかのように相手を見下し、さも、真実と言うかのように言葉を突き付ける。 

「まさか、他校にオースタラを売った。そんなことまでしているとは思いたくはありませんが。
少なくとも、貴方達は他校から届いたSOSが罠だと知っていた。
いや、…罠だと内密に伝えに来た他校の生徒を葬った、と言う方が正しいでしょうか。」 

左千夫様の口から綴られる仮定。
ゾクゾクと背筋に寒気が走った。
もしそうだとしたら、シッターさんはローレンツさんのせいで亡くなったことになる。
同じ仲間なのに、そんなことするなんて信じられない。

私は家族との縁が希薄。
でも、その代わりに仲間との絆は深い。
それは、この(裏)生徒会においても言えることで、裏切るなんて考えられない。
更に左千夫様は言葉を続ける。


「シッターは聞くところによると情が深い人間です。
そういう人間を疎ましく思う輩は沢山居ます。しかし、逆にそれを慕う人間も居る筈です。
そんな人望が厚い会長が務める生徒会が潰されたとなると、外部的な圧力があったと考えます。
先ほども言ったようにこれは僕には詳しくは分かりません。
そして、もう一つは身内の裏切り。これは組織に取っては一番の痛手です。
…それを行ったのがローレンツ。君でしょう?」


ゆっくりと霧が晴れていく中。
左千夫様の声音は何も変わらず淡々と言葉を繋げていき、最後に相手を槍で指し示したけど、
これが事実なら私はローレンツを許せないかもしれない。
いつもの優雅な笑みを湛える左千夫様と一緒にローレンツをじっと見つめた。


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【ローレンツ】


ジングウが岩を使って同じ位置までやってくると、オースタラ高校が裏切られた原因をまるで答え合わせをするかのように話し始める。 

「…ワタクシがオースタラを裏切った…ネェ…」

ワタクシは微笑みを向けながら、鼻で笑うと大きくため息をついた。


「マァこの際なので、名探偵サンに答えを教えてオキマショウ。
ほぼ正解、イエ、貴様が言っているコトがシンジツだ」


その言葉に遠くからディータの声がしたのがわかった。
オーラの色が怒りへと変わっている。もちろんワタクシに対してだろう。
フリーデルのオーラは、怒りと絶望が入り混じったものであった。
本当にウザったい奴らだ。
何がいけないと言うのだ。

「…ワタクシは一度もオースタラの奴等を仲間だと思ったコトなどない。
だからコレは裏切りだトハ思ってイマセン。
会長と副会長は相容れぬ存在ダトいうコトは、ジングウもジュウブンにワカルのデハ?
まァ…シッターのコトを会長ダト思ったコトは一度もアリマセンがネ」 

ワタクシは本のページを破り、それを一枚一枚円にする様につなげていく。
それが円状の炎の輪になると、ブーメランを投げるような構えを見せる。 

「ソモソモ、欲のナイ奴等が悪いのダ。
セッカク(裏)生徒会に入り、特殊能力まで手に入れ、なのに地区聖戦には出ないとヌカス…。
地位、権力、ワタクシが欲しいものを奴等はイラナイと言った…バカげてイル!!!
ただのお遊びごっこで、何が手にハイルと言うのダ!!!」
ぐっと眉間に皺を寄せると、ワタクシは火の輪をジングウ達の方へと投げつけた。 


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【フリーデル】


なんてことだ……。
ローレンツはあの地区聖戦の闇討ちを知っていたと言う。
そんなこと考えもしなかった。
彼も私とは違うが、副会長と言う立場ながら私達に協力してくれているものだと。 


もし、ローレンツが居なければ、シッターは死ななくて済んだのか。 


茫然とローレンツを見上げる。
いや、あの場は助かったかもしれないが、きっとシッターは殺されていただろう。
彼の甘さがこれくらいのことで変わるとは思えない。 

ローレンツは裏切りではないと言う。
確かに副会長は会長を止める為に居るのだ。

私達もクキ様に見方をして、愛輝凪(裏)生徒会の会長を攻めているではないか。

でも…。
でも……。
他に、方法は無かったのか…。


「……そんなの勝手だと思う。」


頭上から女の声が響き渡る。
彼女、ミキはローレンツが繰り出した炎の輪を二又の槍で掻き消した。

そのまま、ジングウの造り出した岩を蹴り、ローレンツの元に舞う。
先程までとは違う意思を持った突きにローレンツは虚をつかれたのか武器の本を真っ二つに引き裂かれてしまった。 

ジングウがローレンツの向こう側にすかさず、同じ様に地面を持ち上げて、三木の足場を造る。
彼女は蝶のように舞い、ジングウが作った岩に着地する。


「(裏)生徒会はあなたの為にあるんじゃない。生徒の生活を守るためのもの。
結果的にあなたはオースタラの生徒の生活を脅かした。
それは許されるものじゃない。」


彼女は真っ直ぐに、ローレンツを見つめながら告げた。
それは私欲が全く含まれていない、純粋な副会長としての言葉だった。 


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【千星 那由多】


俺達からは会長達は立ったまま喋っているだけのように見えた。
闘技場内の四人にだけ幻術の効力があるのか、時折目に見える傷が付いたりしているだけで何が起きているのかはわからない。
だけど、話の内容だけはきちんと俺達には伝わっている。 

ローレンツはオースタラ高校の皆をだまし続けていた。
いや、奴はだましているなんて思っていないのかもしれない。
けれど、結局はローレンツのせいでシッターが死んでしまったのは間違いなかった。 


そんなのアリかよ…。


俺は唇を噛み締め、拳を強く握った。
九鬼の方へと視線を向けると、ディータが暴れているのをフィデリオが止めているのが見えた。
九鬼は相変わらずの笑顔だったが、もしかしたらコイツも知っていたのかもしれない。 

あいつらは敵だけど、ローレンツの裏切りや考え方には怒りの気持ちしか出てこない。
それ以上にディータ達の憤りは計り知れないだろう。
そんな時、ローレンツの持っていた本が真っ二つに引き裂かれたのが見えた。

そして、三木さんの言葉に、ローレンツの表情は歪む。


『ふっ…ワタクシにお説教デスカ…笑わせてクレル。
それに、こんな思想のニンゲンはワタクシだけではナイと思いますヨ。
ワタクシはワタクシのために生きる、ただそれだけ。
オースタラ高校の生徒がどうなろうが、知ったコトじゃナイ』 

引き裂かれた本をローレンツは要らないと言ったような仕草で地面へと落とした。 

『調度武器も壊れたコトですし、本気をミセマショウか』

そう言ったローレンツは眉間に指先で触れた。 


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【三木 柚子由】


自分の為に……。


確かにそういう人もいるのかもしれない。
でも、私は左千夫様の考えが絶対だ。 

左千夫様も欲が無いわけでは無いのかもしれないけど、愛輝凪高校のことをきちんと考えて行っている。
それに仲間を傷つけるなんて許せない。


彼の武器はこの本。
なので、この本を引き裂くときっと攻撃力が鈍る。 

しかし、それは間違いだった。
彼は、今までの比にならない冷気を集めていく。
本は無くとも幻術は操れるみたい。
それは、見たことも無い位大きな氷の柱を作りあげていき、私の息は白く染まり、小さく唇が震えた。 

それと同時に足場の岩が崩れた。
左千夫様がわざと崩したと気づくまでに時間は掛らなかった。


‘少し、下がってなさい。
どうやら、一筋縄ではいかないみたいですね、作戦通りに行きます。’ 


直接彼の声が頭に響いていく。
それと同時にローレンツさんの向こう側に居た左千夫様が私の前に来た。
槍を前面に突き出し防御の構えを取った。

そちらに視線を奪われそうになったけど、真っ直ぐにローレンツを見つめる。


「会長、副会長ともに仲がいいことデスネ。
それなら、フタリ纏めてシネ!!!」


その瞬間彼の瞼が開いた。
私達の姿を映さない瞳孔を真っ直ぐに見つめる。
ローレンツさんは氷の柱を重さを感じさせないスピードでこちらに投げつけてくる。
左千夫様は槍を盾にするように防ぎ、更に炎で融解させていく。
その表情はいつも以上に歪んでいたのできっと体がもう、苦しいんだ。 


「――――――ぐッ!!……ッ!!やれやれ、…まだこんな奥の手が有ったとは。」 


パリィィィンと音を立てて氷が破壊されていく。
左千夫様は口角を上げてローレンツを見つめた後、私を掬うように掲げ上げてくれた。
そのまま、氷のかけらと一緒に、私を抱き上げたまま着地した。

その後、私の意識は一度途切れる。
最後に左千夫様の私に向けた心配そうな笑顔が脳裏に残った。 


どうやら、作戦の第一段階はうまく行ったみたい。 


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【ローレンツ】


ワタクシの今の武器は飾りでしかない。
ジングウを拉致した時に一度壊されてから、エイドスに改良を求めた結果がコレだ。 

大体の奴はこの本を壊せば幻術が使えないと思っているだろう。
だが逆だ。武器はただのストッパーに過ぎない。
目の見えないワタクシの想像力を掻き立てるには実在するものは全て邪魔な存在なのだ。 

増幅していく幻術の力を感じながら、冷気を最大限に高め、今までとは計り知れないほどの巨大な氷柱を作り上げる。 

ジングウがミキを守るように前に立った。
自分の身体の心配を以前に仲間の心配か、笑わせてくれる。

ワタクシの作り上げた氷がジングウ達を目がけて飛んで行く。
彼はなんとか防いでいるようだったが、何度も繰り返せばどうなるかな? 
地面に降り立った彼を追う様にワタクシも地上へとゆるやかに着地した。

「さすがにモウ身体もゲンカイなのデハ?
倒れる前にワタクシと一戦交えてホシイものダ…今の状態で闘えるのかもワカリマセンがネ…」

後ろに上げていた前髪が乱れたのを、手でかき上げながら不敵な笑みを彼へと向けた。
だが、ジングウは笑みを含んだ言葉を返してくる。 


「言ったでしょ、君の相手は僕ではないと。」 


その瞬間だった。
ワタクシの精神に自分ではない存在を感じたのは。
生ぬるい気配、ワタクシが一番嫌いな輝く眩しいオーラ。

幻術師にならわかる、自分の精神に誰かが介入してきたということが。 



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【三木 柚子由】


入れた……。


私は生まれつき特殊な体質らしい。
確かに幽霊みたいなものは良く見えていた。
でも、それは本当は幽霊じゃなくて、こういった特殊な人たちの精神体だったのかもしれない。 

この体質の事を教えてくれたのは左千夫様。
そして、その力を貸してほしいと。
誰かに求められることなんて無かったのでとても嬉しかったのを凄く覚えている。 

これはローレンツさんの中。
彼は目が見えないからか、彼の中は真っ暗。

その中にところどころ混沌と色が浮かんでいる。
左千夫様と会ったときは草原のような綺麗な風景でゆったりとした風が吹いていた。
彼は目が見えないので色で判断することしかできないのかな? 

正反対のような場所だと思いながら奥へと進んでいく。 

すると、彼の精神の中の私が足を付いている場所がもこっと浮かび上がる。
それはどんどん大きくなりローレンツさんの形をなして行った。


「すいません。勝手にお邪魔しました。」


彼の眉間には皺が深く刻まれている。
追い出されない間にさっさと目的を果たそうと私は精神を統一させる。 

「精神を…破壊しに来た、とか、そういう訳ではないです…。
ただ、…貴方に現実を見せに……」 

そう言うと私の精神と彼の精神を更に深く繋ぐ。
彼の脳裏に直接私が見えているのと同じような映像を送り込んでいく。
彼は今はランダムな映像を叩きこまれている状態だけど、きっと、これで目を開けば、彼が今まで見たことも無い光景だ広がると思う。 


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【ローレンツ】


ワタクシの精神に介入してきたのはミキだった。
真っ暗い闇の精神に彼女の声が響き渡る。

そして意味のわからないことを言いだした。
大体の精神介入者は本人の精神を破壊したり、乗っ取ったりすることが多い。
ワタクシも数知れずそういう行為はされてきたし、してきた。

「現実をミセに…?」

彼女の言葉に反応すると、途端に私の闇に無数の色や景色が広がり始めた。
ワタクシにこんな光景を見せて何をするつもりだ?

見たこともない風景が精神全てに広がっていく。
なぜか精神破壊されるよりも苦痛だった。
光が差し込んでくる感覚を温かく感じてしまったから。

ワタクシはそっと目を開いた。
見えるわけがない、闇しか存在しない世界が形を成し、色を付けていく。 


「……っ!」


目の前にいたのはジングウと身体を委ねているミキだった。
ワタクシは息を飲んだ。
想像通りとまではいかないが、ジングウは目を奪われる程の容姿だったことに少し戸惑ってしまい、思わず自分の手元へと目をそらした。
指が動いているのがハッキリと見え、無意味に握ったり開いたりを繰り返す。 

今まで体験したことがない「目が見える」という感動に、心が打ち震えた。 


これが、現実…。


ワタクシはすぐにクキの方へと目をやった。
遠くからでもよくわかる、銀色の髪をした男は静かに笑っていた。
それは紛れもない現実に見るクキで、更にワタクシは感動で目頭が熱くなる。

他の者の形や色などどうでもよかった。
彼が見れたことがワタクシにとって最大の幸福だった。 

……いや、感動している場合ではない。
ワタクシに現実を突き付けてなにをしたいのだ、ミキは。

ジングウの方へと視線を戻すと、すぐさま両手を付きだす。
目が見える状態での幻術は初めてだったが、片手で炎の矢と氷の矢を作り上げると、両腕を高く掲げた。
なんと美しい幻術なのだろうか。

「こんなコトしても無駄ダ……ワタクシは攻撃を止めるコトなどシナイ…!」

そのままジングウへと両手を振りかざす。
この時のワタクシは、まだ自分の中の違和感に気づくことはなかった。 


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【三木 柚子由】


ローレンツさんと直接神経を共にするのは少し難しいみたい。
左千夫様となら簡単にできるのだけど、やっぱり相性って言うのは大事。
そう言えば露呪祢高校で意識を乗っ取られた時は苦痛が無かった。

そんなことを考えながらローレンツさんと意識を共にする。
彼に見えているものは私にも見える。
と、言うよりは私に見えているものを彼の脳に直接送り込む。 

彼は左千夫様を見た後、九鬼さんを見た。
彼に取って、この人が絶対なのかな。

そう考えていると、彼は左千夫様に向かって幻術を繰り出し始めた。

作戦は手筈通り。
彼はこれで自分の作った炎と氷と言う自然現象を見てしまった。


「フフフ……どうですか?自分が起こしている幻術を初めて目で見た感覚は。
他にも見せて上げましょうか?」


そう告げながら左千夫様は私の背中の腕はそのままで足を地面に付かせるようにしてから、右手を腰元で何かを掬うかのように掌を広げる。 
左千夫様は雷を丸くした塊と空気を円形に圧縮させた塊を幾つも掌の上に浮かべると、
ゆっくりと押し出す様にして雷を炎に、風を氷にあてることで相殺していく。

どうやら、ローレンツさんはこちらの思惑には気づいていないみたいだ。
彼が次の幻術を繰り出す前に私は突然共有していた精神を切った。
また彼の中には暗闇が広がるだろう。
現実と言う爪痕を残して。 


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【神功 左千夫】


どうやら柚子由はローレンツにうまく介入できたようだ。
介入だけで言うなら僕は彼女には敵わない。
それほど、彼女は他人と同調することにはたけている。
そこから破壊や乗っ取ると言う行為には移行出来ないようだが。
なんにせよ、柚子由は優し過ぎる。

僕が攻撃を相殺した瞬間ローレンツの動きが鈍る。
柚子由が同化を解いたのだろう。
自分の腕の中の存在に視線を落とすと、彼女がゆっくりと瞼を開いていった。


「おかえりなさい、柚子由。」


彼女は胸の上で握り締めていた槍を握り直す。
そして、再び両足で立ちあがると、真っ直ぐにローレンツを見つめた。 

もう、僕の出番はこれで終わりでしょうね。 


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【ローレンツ】


ジングウが見せつけるように幻術を放ち、ワタクシの放った氷と炎を作り出した幻術で相殺させた。
軽く舌打ちをすると、次の攻撃を繰り出そうとしたが、その前に視界が再び闇へと戻っていく。 

精神に介入していたミキの感覚が無くなり、身体が軽くなった。
オーラが再び目の前のミキに宿ると、気持ちに穴が空いたような感覚が宿る。
もう少し現実を見ていたかったが、仕方がない。
ワタクシは生まれてから死ぬまで、ずっと目が見えないのが当たり前なのだから。

だが、先ほどまで目にした光景は脳内から消えることはなかった。
闇の中に灯った物がこれほどまでに刻みつけられるのは、心地がいいような悪いような、なんとも言えない複雑な気分だった。 

ワタクシは再び目を瞑ると、眉間に指をあてる。

感触だけでなく、その光景さえもリアルに浮き上がった。
そして、先ほどジングウが出したような雷と風の塊をいくつも作り上げた。 

「形を成すとイウのハ…容易いモノですね…」

不敵な笑みを浮かべながら、数度手を振りかざし素早くそれをジングウ達へと投げつけた。
それさえも目が見えなくてもリアルな光景として感じとることができた。
ワタクシは自分の想像という土台に肉付けできるようになったのだ。 



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【三木 柚子由】


「そうですね、形を成すだけなら、簡単なものですよ。」


左千夫様が意味深にローレンツさんに言葉を掛けた。

精神介入から元の体に戻ると私は再びローレンツさんと対峙する。
左千夫様の言った通りになった。
彼は先ほどと同じように幻術を成したつもりだろうけど、全く違う。 

それは直ぐに彼にも分かるだろう。

左千夫様が作った雷や風の球は私は特訓で何度も作りあげた。
その感覚を思い出しながら練っていく。

そして、私からも同じものを投げつける。
一見全く同じものが出来ている様に見えるかもしれないが全く違う。
私の雷や風の球はローレンツさんが作ったものを貫通しそのまま彼に向って飛んで行った。 

「もう、勝負はつきました。
終わりにします。」

そのまま、私は彼に向って走り出す。
これ以上彼を傷つけたくなかったからだ。 


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【ローレンツ】


放り投げた雷や風の圧縮された弾は、ミキが作り出した幻術で消滅したのがオーラでわかった。
その感覚に私は一瞬にして焦りを感じる。

何故、何故だ!!
ワタクシの幻術は完璧なはず。
こんな女に負けるはずがない!!!

こちらへ飛んでくる幻術を跳ね返すために再び想像力を掻き立てる。
眉間に指を当て、再び辺りに雷や風、炎、水、そういった幻術を全て作り上げた。
そして、再び向かって来ているミキのオーラと貫かれた幻術を消し去るように腕を振るう。 
だが、それは全て消えた。
消されてしまったのだ、ミキの幻術によって。


「ナゼだ!!!!!」


ワタクシは焦りと共に叫んだ。
何度も幻術を作りあげても結果は同じだった。
自分の力が衰えているとでも言うのか?
どうして、どうして、どうして!!!!

よりリアルを感じることで、想像と現実がリンクすれば幻術はもっとすばらしいものに…! 


その瞬間にワタクシは理解してしまった。
闇の中に広がった「現実」が、「想像」を生み出すことに長けていたワタクシに、どれほどの影響力を与えてしまったのかを。
あの感動は、ワタクシの闇に形や色を与えた。
「現実」を無残にも突きつけられてしまったのだ。


「ミキ…キサマァアアア!!!」


すぐ近くにいるミキにワタクシは巨大な炎の柱を作り上げ、酷い形相で投げつけた。 


----------------------------------------------------------------------- 


【フリーデル】


「ごめんなさい。」


そう、ミキの声が響き渡る。
私には何が起きたのか全く理解できなかったが手を出せる状況じゃなかった。
ローレンツの幻術は意図も簡単にミキに消されていっている。

巨大な火の柱すら、手で撫でるだけで消えてしまった。
どうしていきなりこんな、力量の差になったんだ。


『強奪…』


発狂するローレンツの横を擦りぬける様にして、ミキはローレンツの腕章を奪い去ってしまった。 

マズイ。
次にミキはこちらへと顔を向けた。
いくらローレンツがシッターを死に追いやったからと言っても勝負に負けるわけにはいかない。
私はそれから逃れようと数歩後ろに下がりながらポーチへと手を伸ばした。 

その時、直ぐ背後から声が聞こえた。 


「動くなと言ったでしょう?」

「―――ヒッ!!」


先ほど感じたよりも強い殺気に身が竦む。
私の背後に居たのはジングウだった。
その片手が後ろから私の喉を押さえてくるかのように伸びてくる。 

死に直結する殺気とその冷たい手に私の腰が抜けて、悲鳴を上げながらその場に跪いた。 


『強奪。』 


そう、ミキの声が響いた瞬間私の周りの景色が鏡のように割れていく。
ボロボロと剥がれおちた景色の先にはまた同じ闘技場の景色が広がっていたが、ジングウは元の場所から一歩も動いていなかった。
跪いた私の目の前には、二つの腕章を持ったミキが立っていた。

どうやら、私は彼女の幻術にまんまとはまってしまったみたいだ。


「すいません。フリーデルさん。腕章はいただきました。」


そう言って彼女は困ったような表情を零した。 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


相変わらずただ喋っている光景を見ているだけであったが、ローレンツが圧されているようだった。
言葉だけでしか大体の内容はわからなかったが、三木さんの「強奪」と言う声が響くと、俺達は顔を見合わせ喜びの表情を浮かべた。 

その時だった。 

今まで闘っている光景などは見えなかったが、不穏な殺気を感じ一瞬にして背筋が凍りつく。
闘技場の方へと目を向けると、そこには今にもフリーデルを殺しそうな会長が立っているのが見えた。 

なんとも言えない空気に俺達までも身動きが取れなくなる。
叫ぶフリーデルの声に息が詰まり、改めて会長の凄さや怖さを実感したと同時に、再び三木さんの声が響いた。 


『強奪。』


それと共に辺りの景色が鏡が割れたように崩れ去って行き、何が起こったのかわからずに目を数度瞬かせると、
闘技場の中には三木さんが二つの腕章を持って立っていた。 

…奪った…!!
この試合も、勝ったんだ!!

歓喜で先ほどまでの恐怖が吹き飛び、自然と笑みが浮かぶと興奮で鼓動が早くなった。
これで残ったのは九鬼の腕章だけ…。

俺達の喜びとは裏腹に、闘技場の中のローレンツは茫然と立ち尽くしたままだった。


『ナゼ…ナゼ…このワタクシが…女ごときに…』

ぼそぼそと喋っているであろう声がモニターから響く。

『現実など…現実など見たくはなかった…』


言っている意味がわからなかったが、途中でローレンツは目が見えたような仕草をしたのには気づいていた。
多分それがこの勝負を分けたきっかけだったのかもしれない。 


----------------------------------------------------------------------- 


【神功 左千夫】


「お疲れ様です、柚子由。さて、戻りましょうか。
ローレンツ。僕は君の考えが間違っているとは言いません。
個人の私利私欲は時に向上心となり、いい結果をもたらすこともある。
しかし、シッターの甘さが悪いとも僕には言い切れない。
―――要するに必要なのは力なんですよ。甘さをも凌駕する力が有れば、甘くとも許される。
シッターにはその力が無かった、それだけです。
そして、君にも地位を得るだけの力が無い、それだけだ。」


僕は武器を携帯へと戻す。
そうすると柚子由の武器も自然に僕の携帯の一部へと戻っていく。
発狂しているローレンツに言葉を掛けるが彼に届いているかは分からなかった。 

「また、一から幻術の力を磨くといい。
次はちゃんと、相手をしてあげますよ。」 

僕たちはローレンツと当たることになった時の為に作戦を立てていた。
それは柚子由の精神介入を使う手段だ。

ローレンツの目を見える様にする。
彼は僕の憶測通り、先天的な視覚障害者だった。
その彼に、現実、リアルを送り込むと言うことはとても意味があることだ。 

触覚、聴覚、嗅覚の印象の連続によって世界をつくりあげていた彼に視覚が加わる。
距離・広がり・大きさという認識や感覚が備わり、空間という概念が形成されてしまう。 

それを彼は自分の憶測の炎と結びつけることで幻術がより高度になったものだと勘違いしたがそれは全くの逆だ。 

彼の幻術を支えていたのは無限の想像力。
炎を視覚的に知らない彼にしかそれは出来ないことだ。
それに、視覚的な有限が加わる。
しかも、彼はそれを一度しか見たことがないとなると、経験値はかなり低いモノとなる。 

そして、彼は現実通りの炎を作り出そうとして、自分の幻術の能力を劣化させてしまったのだ。 

ここから、また努力することで彼は高度な幻術を得るかもしれないが暫くは使い物にならないだろう。
プライドが高く、傲慢な彼には御誂え向きのシナリオではないだろうか。

こちらに戻ってきた柚子由と一緒に自分の陣へと帰る。

ローレンツは出てきたディータやフィデリオによって引きずられるようにして戻って行った。
フリーデルはまだ柚子由の見せた幻術から立ち直れないようだ。
しかし、僕のシッターに対する言葉には何か思うことがあったのかこちらを見つめている。 

それにしても……。

最後にフリーデルに見せた僕の姿は柚子由の幻術だ。
幻術はリアルに近ければ近いほど効力があるし、知識が有ればある程相手を落とし入れやすくなる。
フリーデルがあれほど精神的にダメージを受けていると言うことはあれが僕に酷似していたと言うことだ。

そして、柚子由やフリーデルから見て僕はああ見えていると言うことか。 

それを考えると少し、複雑な気分になってしまったが、陣地に帰ると笑顔を生徒会のメンバーに返した。 



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