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isc(裏)生徒会
危険な香り
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【千星 那由多】
昨日の闘いの後、三木さんも意識を取り戻したが、九鬼に連れて行かれた会長は結局帰ってくることはなかった。
フリーデルに貰った薬で傷を治すことができた俺達は、訓練施設を後にし、また明日久しぶりに(裏)生徒会室へ集まろうということになり解散した。
家に帰ると、やはりあの日の夜俺がこっそり抜け出した事をこっぴどく叱られたが、
全ての用事が済んだことを伝えると、母は少し疑っていたが安心していたようだった。
中間テストの点が悪かったことはまだ隠しておくことにした。
今言うと火に油を注ぐ結果になる。
いつかはバレるんだけれど。
その日は今までの緊張感や疲れを全て解放するように、久々に自室で泥のように眠った。
そして、何事もなくいつもの朝、いや、久しぶりの日常の朝を迎えた。
妹に叩き起こされて、朝ごはんを食べて、寝癖を直して、制服に袖を通す。
こんな普通の事が、物凄く懐かしく思えてしまった。
晴生と巽の迎えで通学は始まる。
三人で歩く久々の通学路だったが、巽がポロッと口にした言葉に、俺は朝から顔を青ざめることになる。
「今日、那由多補習じゃなかった?」
……かんっぺきに忘れてた。
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【三木 柚子由】
リコール宣言は現(裏)生徒会の勝利で幕を閉じることが出来た。
私はフリーデルさんの薬のお陰で右腕に少し違和感が残るくらいまで回復することが出来た。
いつものように授業が始まるけど、いつもと違うことが一つ。
今日から私のクラスに教育実習生が来た。
男子生徒がざわめく。
女性の私でも少しドキッとしてしまった。
彼女は大学生なんだろうけど、それを感じさせない大人っぽさが有り、髪を上で纏めていた。
更に口元にほくろが有って、それがすっごく色っぽい。
胸も大きくて思わず自分の胸を見てしまったくらいだ。
綺麗にお化粧もしていて、男子生徒からエールが飛んでいる。
不意に先生と瞳が有った。
綺麗な笑みを浮かべられたので私の心臓はドキッと高鳴った。
教育実習生から自己紹介が有った。
彼女は「長谷川優花」と言うらしい。
彼女は気さくに「優花先生って呼んでね。」と、言っていた。
授業中も何度か、分からないところがないか尋ねられた。
今日の放課後は補講を見るので空いていないが、それ以降ならいつでも聞きに来て、と、気さくに言ってくれたので私の頬は赤くなる。
先生からは甘い香りがした。
放課後、私は真っ先に(裏)生徒会室に走る。
そうすると、そこには既に左千夫様の姿が有って、私は肩を撫でおろした。
「お疲れさまです、柚子由。怪我は大丈夫ですか?」
私の方が心配なのに先に言われてしまって、小さく頷いた。
「左千夫様は…」と、返したのだけど、「僕は大丈夫です。」と、いつもの笑みとともに返されてしまう。
そして、私は今日はクラスに教育実習生の先生が来たことを話した。
いつもなら簡単に話すだけなんだけどなんだか熱が入ってしまって色々話してしまった。
イデアちゃんは壊れた武器の修理でアトリエにこもっているし、
天夜君と日当瀬君は補習の千星君を待ってからくるとメールが入っていたので、久々に左千夫様と二人で話をした。
なんだか、左千夫様の笑顔が曇った気がしたけど、気のせいかな。
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【千星 那由多】
授業が終わったその日の放課後、俺は一人国語の補習を受けることになっていた。
いや、俺一人と言うわけではないのだが、自分の知り合いは誰もいないと思っていたんだ。
が。
「なーゆゆ♪」
「……」
俺の目の前の席にいる銀髪の彼。
それは昨日あれだけ死闘を繰り広げた……九鬼、だった。
「なんでここにいるん…ですか。てか、その呼び方…」
「なゆゆと一緒で補習だヨ」
この補習には全学年の生徒がいる。
人数こそそこまで多くはないが、そこに交じっている九鬼に俺は絶句してしまった。
「リコール宣言する時期間違っちゃったネ」
それは確実にあんたのせいだろう。
俺と九鬼がざわついていると、先生が歩み寄って来る。
それは今日から来たA組担当の教育実習生だった。
どうやら国語が担当教科だったようで、俺と九鬼の間を割ってプリントを差し出してくる。
「はーい、静かにしなさい」
この教育実習生のことは男子生徒の間で噂になっていた。
名前は「長谷川優花」
大学生の色香以上の、大人の魅力満々なそのスタイルと容姿。
調度顔を向けたその先に大きな胸元が覗き、俺はプリントを受け取るとすぐさま机に目を落とした。
「…おねーさん、誰?ビジンだネ?
今度デートしない?」
九鬼は彼女が教育実習生だと知ってか知らずかニッコリと微笑みかけている。
なんつープレイボーイ発言だ。
隣にいた女子がそんな九鬼を見て顔を赤らめているのが視界の端に映った。
「さて、始めましょうか」
しかし、長谷川先生はそのまま九鬼の言葉に表情にも言葉でも反応せず、何もなかったように教壇へと向かっていった。
確かに九鬼は長身でイケメンな部類だし、こんなこと言われてドキッとしない女性はいないのだろうけれど、
さすがに教師を目指してる彼女には分別というものがつくのだろうか。
九鬼はつまらなさそうに頬杖をつきながら口先を尖らせていた。
そして補習を終えた俺は、待っていてくれた巽と晴生と合流し、(裏)生徒会室へ向かう。
…もちろん、そこには九鬼が加わっていた。
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【神功 左千夫】
(裏)生徒会へと扉が開いたところで柚子由との会話が終わる。
正直これ以上続けられるのは辛かったので助かった。
僕は彼女から他人の話を聞いたことがない。
勿論、僕も知っている人物の事は良く話すが、今回の教育実習生のことは僕は全く知らない。
いつもなら、彼女は報告だけしかしないのに、今日はその、長谷川優花先生について事細かに話してくれた。
…悪いことではない。しかし、僕は胸に突っかかりを感じる。
それも長くは続かなかった。
那由多君と一緒に来た人物のせいで。
「おつかれさ――――。九鬼、どうしてここに?貴方は副会長なのですから、正規の活動に加わる義務は有りませんよ。」
彼は呑気に手をヒラヒラさせながら(裏)生徒会室に入ってきた。
僕がそう言うと彼は唇を尖らせブーブー言い始めたので肩を落とす。
調度いい機会だし、彼の事を紹介しておこうか。
「来てしまったものは仕方がないですね。
九鬼、こちらに来なさい。
ブランダ―バッチの後話しあった結果。
彼は今度の地区聖戦『ラディエンシークルセイド』に参加して貰うことになりました。
九鬼、…自己紹介を。」
皆が定位置に着いてから僕は彼について紹介し始める。
彼は僕の言う通り隣に来て、いつも通りニコニコ笑っていた。
彼が那由多君達と一緒に来ていたと言うことは補習を受けていたと言うことなのだろうか。
イデアに勉強メニューもプラスして貰う必要があるなと思いながら彼の自己紹介に耳を傾ける。
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【千星 那由多】
(裏)生徒会室へ入ると会長と三木さん、イデアがいた。
久々なここの景色に少し笑みが零れた。
あの死闘を乗り越えて、またここに戻ってこれたのだと実感し、胸がいっぱいになる。
ただひとつ違うことと言えば…
「ギムとかケンリとか難しいこと言うネ会長は。
別にいいじゃん、好きにしてもさー」
そう、九鬼が副会長だという変えられない事実だった。
九鬼は会長の言葉にわざと怒ったような仕草を見せるが、それも自己紹介が始まるとまたころりと表情が変わった。
と言ってもいつも掴みどころの無い笑みで笑っているので、表情が変わるというのは少し違うかもしれないが。
あれだけ強くて残酷で俺達を翻弄していた黒鬼がこんな呑気でちゃらちゃらした人だとはあまり思いたくない。
この人に追いやられていた自分が物凄く悲しくなった。
そんなことを思いながら彼の自己紹介に耳を傾ける。
「えー今日から正式に愛輝凪高校(裏)生徒会の副会長としておじゃませさて貰う九鬼だヨ。
クッキーって呼んでネ!
昨日までのことはさらーっと水に流して、どんどん絡んでくれてオッケーだヨー!!
あと、会長みたいに堅苦しい敬語なんてなくてもいいから!よろしくネっ♪」
ビッとピースサインを俺達に送る。
そんな軽い彼の自己紹介に俺達は苦笑するしかなかった。
昨日までのことは水に流してと言われても、昨日の今日じゃなかなかそうもいきそうにない。
この温度差は今後埋まっていくのだろうか。
会長と副会長との性格の温度差はいつまで経っても埋まりそうにもないが。
その後俺達に飴を配ろうとしていたが、会長に止められ、俺達はため息を付きながら席へとついた。
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【三木 柚子由】
クッキー…。
彼はそう言った。そう言われると左千夫様の大好きなお菓子が頭の中に浮かぶ。
全員が席に座りなおすと左千夫様がまた話し始めた。
「昨日の今日ですが、逆怨み等はしないように。
……しかし、マフィアの御曹司が一般人に喧嘩を売りに来るなんて、 本当に貴方にはデリカシーってものが欠けてますよね。」
…左千夫様が皮肉を言っている。
しかも、表情がちょっと素だ。
珍しい表情の変化に小さく笑っていたが、左千夫様の言葉を反芻して、もう一度九鬼さんの見る。
え?マフィア?
どうやら、彼は裏社会の人間のようだ。
私と同じように千星君や天夜君が目をパチパチさせていた。
日当瀬君はいつも通りで頬杖をつきながら九鬼さんを眺めていた。
本当に、怖くない人なのか、怖い人なのか分からない存在。
そう思いながら、笑顔の九鬼さんを見上げた。
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【千星 那由多】
「デリカシーが欠けてるんじゃないヨ!
みんなと分け隔てなく付き合う方がいいに決まってるでショ?
平等が一番だもんネー、ねっはるるっ♪」
九鬼が俺の横にいた晴生を呼んだ。また変なあだ名で。
晴生は自分があだ名で呼ばれたことに気づかなかったのか、九鬼の話を聞かずにそっぽを向いていたが、
みんなの視線が自分に集中してることに気づき思いっきり目を見開いていた。
今にも殴りにかかりそうだったので、背中を擦るように抑え込む。
だけどちょっと吹き出しそうになってしまった。
「ま、ボクがマフィアだとかそんなのは別に気にしなくていーし、今はボク自身も自由に暮らしてる身だからネ。
あんまり親とも交流無いし。
君たちがボク関連のことで何かに巻き込まれたりとか、そういうことにはきちんと気を配るつもりだヨ、多分ネ♪」
最後の「多分」が余計だ…。
マフィア。
また俺と無縁そうな言葉だから実感はあまり沸かない。
今後も俺には無関係な事…であって欲しいんだけどな。
その日の任務は無く、昨日の闘いでの自分達の反省点や夏に行われる地区聖戦の事を話し合った。
それからはただのお茶会。
いや、昨日までの俺達がずっと望んでいた景色。
三木さんはとても嬉しそうで、俺も彼女の淹れてくれたコーヒーに口を付けながらいつも以上の幸せを噛みしめていた。
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【神功 左千夫】
九鬼が(裏)生徒会にはいってから数日が経過した。
最近、柚子由の様子がおかしい。
(裏)生徒会室に来てもどこかうわの空で、口を開けば教育実習生の長谷川優花の事ばかり口にしている。
今まで、彼女がこんなに一定の人物の事を言うことは無かった。
これは一体どういうことなのだ。
授業中なのにそちらにばかり考えがいく。
そんなことばかり考えていると、授業が終わってしまった。
今日の朝、イデアから、最近帰宅しない女子生徒が多発していてそれを探ってほしいと言われたのだが、 その作戦も全く考えつかない。
「さちおくん。お昼いっしょに食べヨ~」
昼休みいつもの如く九鬼が僕の席に来た。
彼が来てからは他のクラスメイトに誘われることは無くなったが、これはこれでうっとおしい。
昼ぐらい一人にして欲しいものだ。
しかし、今日は好都合だ。
僕は彼の腕を引っ張る様にして余り人の居ない中庭の特等席へと連れて行く。
彼に質問するなんて、僕はどこまで追い込まれているんだ。
それでも、答えが出ないよりは良い。
九鬼は虚をつかれたようだがなぜか嬉しそうに僕の後を着いて来た。
結局彼は毎日(裏)生徒会室に居座ってる。
任務も一緒にこなしてくれるので、僕はもう関与しないことにした。
最近はまた雑用の様な任務ばかりだが。
手伝ってはいけないという規定も無いですしね。
彼が何かを話そうとしていたが、それに被せる様に僕は話し始めた。
「なに?会長!ついに、愛のこ――」
「九鬼、質問が有ります。
毎日毎日、同じ人物の事ばかり話していて、心ここにあらずって状態なんですが…
それって、どういった症状なのでしょう?」
「え!?どうしたの、急に!
んー……。よくわかんないけど、それって「恋」なんじゃないかな?」
そうか、恋か…。
恋?
恋!?
…………恋!!!!?
まさか、柚子由はあの、教育実習生に恋をしているのか…!?
いや、でも、教育実習生は女性だ。
いや、しかし、恋に性別なんて関係ない。
その後に、九鬼が何か言っていた気もするが、僕はそのことで頭がいっぱいで聞いていなかった。
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【九鬼】
いつものごとく左千夫クンを昼食に誘ったら、珍しく場所を移動したので、何かイイコトでもあるのかとちょっと期待してしまった。
が、ただ単に神妙な面持ちでボクに相談をしてきただけだった。
いや、相談されるだけでも少し驚いてしまったのだが、それもよく考えればわかってしまうような内容の相談。
彼にとっては無縁な感情なのかもしれないけれど、その答えはずばり「恋」だとボクは思う。
「恋だネ~始まってるネ~!
ね、それって誰?もしかして左千夫クン自身??
いやーまいったなーボクに惚れられても困るって言うか………左千夫クン?」
完全にボクの話を聞いていない彼の視線は完璧に動いていなかった。
手の平を目の前にかざしてみたが反応しない。
彼が食べているサンドイッチを一口食べてみたがそれでも反応しない。
心ここに在らずってのは、完全に君じゃないかと思いながら、ボクは延々独り言を喋り続けた。
にしても気になるな、彼がそこまで注目して観察してる子って…。
「ああ、ゆずずか」
ボクが小さく三木柚子由の名前を漏らしたことも、左千夫クンは気づいてなかったようだった。
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【三木 柚子由】
あれから長谷川先生は毎日私を気にかけてくれた。
先生が近くにいると落ち着くので私は大好きだ。
今日も先生は、私の勉強を見てくれた。
教え方が丁寧なのでとても分かりやすい。
放課後に皆から集めたプリントを持ってきてほしいと頼まれたので(裏)生徒会に向かう前に持っていこう。
でも、指定された場所が今は余り使われてない空き教室だった。
もしかして、先生はそこで他の子にも勉強を教えているのかな。
その教室をノックすると返事は帰って来なかった。
はやく来すぎたのかなと思ったけど、鍵が開いてるかどうか確認しようと思って力を加える。
「長谷川先生。いらっしゃいませんか?」
私の予想は外れて空き教室の扉は開いた。
目の前には目を瞠る光景が広がっていた。
長谷川先生は、露出が高い服装で女子生徒とキスをしていた。
女子生徒は服を着ておらず、ありのままの姿だった。
「あら。柚子由ちゃん、いけない子ね。勝手に入ってくるなんて。」
彼女がそう言って指を鳴らすと。
二人の女子生徒が私を掴んで中に引きずり込む、そして、扉の鍵を閉められてしまった。
「長谷川……先生?」
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【千星 那由多】
授業を終えていつも通り裏生徒会室へと向かう。
最近の任務は雑用ばかりで、あの日以降平和な日々が続いていた。
理科準備室へと入る前に声が聞こえる。
「…ちおクン…!……ぇ…って…!?」
一瞬先生か生徒かと思って三人で顔を見合わせたが、良く聞いてみると九鬼…副会長の声だった。
どうやら会長の名前を呼んでいるようだった。
てっきり会長に(裏)生徒会室へ入る扉でも開けてもらえていないのかと思い、恐る恐る理科準備室のドアを開ける。
そこには会長もいた。
いつもなら中で待って優雅にお茶でも飲んでいるような時間帯だったが、今日は少し違う。
いや、かなり違った。特に会長が。
「…みんな……さち…会長が…!」
「那由多君、どいてください。そこに居たら中に入れないでしょう」
俺は会長に名前を呼ばれて思わず反応してしまったが、明らかに俺じゃない人物…いや、物に話しかけている。
それは人体模型だった。
何が起きているのかわからなかった俺達は静まり返る。
会長は淡々と人体模型に向かって俺の名前を呼んでいた。
「か、会長…それ俺じゃないです…けど…」
思い切って話しかけてみたが、まったく俺には気づいていないようだった。
副会長にどうしたんですかコレ、と言った表情を向けると、大きくため息を吐かれる。
「なんかずっと人体模型のことなゆゆだと思ってるみたいで…入れないんだよネ…」
あの副会長ですら真顔で俺達に助けを求めるような仕草を送る。
下手に何か言うと怖いので、どうしようかと困っていたら、巽が人体模型を会長の前からどける。
「那由多は僕がどけましたよ」
「いたんですか、すいません、巽くん」
そしてその人体模型の中のボタンを押すと扉が開いた。
会長はそのまま何事もなかったように中へと入って行く。
「…………」
俺達三人は笑う事さえできないまま、会長に続いて部屋へと入っていった。
会長がおかしい…!!!
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【神功 左千夫】
おかしい。
僕がいつも一番な筈なのになぜか今日は那由多君が先に着いていた。
しかも人体模型の前に立ったまま退こうとしない。
今日の那由多君はどこかカラフルだなと思いながら話を続ける。
「那由多君?どうしてどいてくれないのですか?
僕に話があるのですか?」
そう言いながらも僕の頭は「恋」でいっぱいだ。
昼休みに九鬼から柚子由の症状の答えを聞いてから頭から離れない。
授業なんて頭に入らないし、どうやって時間を過ごしたのかも覚えていない。
多分、クラスメイトにはきちんと対処したと思う。
こんなことならば九鬼に聞かなければ良かった。
そこで数十分費やしていると漸く、巽君が那由多君を退けてくれた。
「いたんですか、すいません、巽くん」
勿論僕は自分がまさか、人体模型を那由多君だと思っていたとは微塵も気づかない。
いつも通りにボタンを押して中へと入り、自分の席に鞄を置く。
そして、いつも通りに中に編み込んでいた髪を元に戻しながら洗面台へと向かう。
鏡で自分の顔を確認すると少し疲れた表情をしていたが、それ以外はなんら変わり無かった。
そして、そこから戻ると柚子由はまだ来ていないのか那由多君が紅茶を淹れてくれていた。
「ありがとうございます。那由多君。」
いつも通りに微笑みながら礼を言う。
柚子由の到着が遅くて良かった。
僕は今、彼女の顔を見れないだろう。
はやく、自分の中で片付けてしまわないと。
応援するか、止めるか。
いや、しかし、そもそも個人の自由なのだ、僕が口出すのもおかしいだろう。
いや、ここは会長として…
そんなことをエンドレスに考えていると那由多君の紅茶に不用意に口を付けてしまった。
僕は猫舌だ。
拷問で熱湯を注ぎこまれても耐える自信はあるが、猫舌という事実は変わらない。
柚子由はそれを知っているので少し冷めてからいつも持ってきてくれる。
しかし、那由多君はその事実を知らない。
一口口に含んだ瞬間その熱さにカップを手放してしまう、それはソーサーの上に落ちると、そのまま倒れてしまい、机の上に熱い紅茶が広がった。
砂糖を入れるのさえ忘れていたので、口の中の紅茶は苦く、泣きたくなった。
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【千星 那由多】
会長は行動がちょっとおかしかったが、それ以外は特になんて問題は無さそうだった。
もしかして俺が何か悪い事をしてしまったのかもしれない。
会長が髪を解きに洗面所へと向かったので、まだ来ていない三木さんの代わりにせめても、と紅茶を入れることにした。
前に三木さんが淹れているのを見て大体のやり方はわかっていた。
が、これがもっと間違いだった。
口を付けてくれたまではよかった。
しかし、次の瞬間、会長は俺の淹れた紅茶をカップごと落とすように盛大にこぼす。
「うわあああ何してるの会長っ!!」
机や制服に浸透していく湯気の立った紅茶を副会長がすぐさまタオルで拭いていく。
巽と晴生も慌ててタオルや雑巾を持ってきた。
ま…まずかったんだ…きっとそうだ…!!!
慣れないことするんじゃなかった…!!!
俺は顔を青ざめながら、無意味に泣きそうになってしまった。
何もできずにただただ放心していると、イデアがアトリエから出てきて起伏の無い声で第一声を放った。
「ユズユからヘルプ信号がキテイル」
その言葉に室内の空気が変わった。
と、同時に会長は足元をタオルで拭いてくれていた副会長を蹴飛ばす様に立ち上がり、部屋から出て行く。
顎を蹴られて悶絶している副会長を余所に、俺達もイデアに居場所を聞くとすぐさま(裏)生徒会室を出た。
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【神功 左千夫】
熱い。
勿体無い。
甘くない。
紅茶を零してしまった僕は、那由多君が青ざめていることすら視界に入らない位放心状態だった。
色々な思いが頭を巡るが最後には柚子由に到達する。
その時イデアの声がした。
「ユズユからヘルプ信号がキテイル」
僕はすぐさま立ちあがり走り出した。
足が何かにぶつかった気がした。そう言えば僕の近く、主に下半身の辺りに九鬼が居たような。
しかもなんだかズボンが気持ち悪い。
そこまで考えて漸く自分は紅茶を零したんだと再認識した。
しかし、今はそんな事態では無い。
柚子由が危ない。
彼女の携帯には非情時に引っ張れる部位が有り、そこを引くことによってイデアに緊急信号が飛ぶようになっている。
それが行われたと言うことはただ事では無い。
僕は柚子由と繋がっているので彼女の気配を探った。
――――!?
おかしい、彼女が全くどこにいるか分からない。
こういう場合は二つ考えられる。
彼女が僕にどこにいるか知られたくない場合、もう一つは何か妨害するものが有る場合。
現状では後者だと思うが前者ならますます耐えられない。
僕は再度場所を確認するためにイデアへと電話をかけた。
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【千星 那由多】
イデアに聞いた場所は使われていない空き教室だった。
何せこの学校は広い。
こういう所で悪いことが起きていることは今までの任務でも多々あった。
しかし今回は三木さんが巻き込まれている。
俺と巽、晴生は人気のない校舎を走り、息をあげながらその教室の前までたどり着いた。
晴生が先に扉に手をかけたが、どうやら鍵がかかっているようだった。
「チッ」
晴生が舌打ちと共に蹴りの体勢に入る。
それと同時に巽も扉を蹴り込んだ。
「手伝ってんじゃねぇよ!」
「今はそれどころじゃないだろ!」
二人の口喧嘩と共に扉が向こう側へと倒れる。
酷く甘い香りがした。
なんだか酔ってしまいそうなその中へと二人が入った後についていく。
霧のようなもので部屋の中は霞んでいる。
胸やけを起こしてしまいそうな感覚で軽く口元を抑えた。
「三木さん!」
名前を呼ぶ、が返事はない。
霧がかった辺りを見回すと、すぐ正面に人の気配がした。
一瞬三木さんかと思ったが、目を凝らすとそこには全裸の女子が立っていた。
「う、えええええ!!!??」
すぐ様後ろへ避けようと思った途端、その女子は俺に抱き着く形で倒れ込んでくる。
尻持ちをついた俺の目の前には、男には無い、柔らかいものがふたつ。
それは虚ろな表情の女子の胸だった。
「ちょ、ちょっなにこれ!!!」
顔が熱い。やばい、テンパる。
視線をどこにやっていいかわからないまま、あたふたと顔を右や左に振っていると、巽の声がした。
「何か、おかしいね」
巽は女子に抱き着かれながら平然としていた。
晴生はというと、俺と同じような体勢で顔を上げられないまま俯いていた。
「わかってるよ!!つか…ど、どいて!ほんとどいて!!!」
どうしようもできない俺はなるべく女子の身体を触らないように前へと押しやったが、かなり強い力で離れる気配がない。
『……三木さんを探しに来たのかしら…?』
突然部屋に女性の声が響き渡る。
その声はどこかで聞いたことがあるような声だったが、どこから聞こえているのかわからないぐらいに反響していた。
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【日当瀬 晴生】
イデアさんに指定された場所にたどり着くまでは良かった。
しかし、そこからが問題だ。
そこにはまさかの全裸の女性が居た。
勿論俺は彼女が見れない。
服を着ていてくれたら殴れるものの。
いや、多分うちの学校の生徒だ。
殴っていいかもまだ分からねぇ。
―――やりにくいっ!!!
心の中で叫ぶ。
天夜の野郎は全く気にしてないようで女性を普通に見ていた。
本当にこいつは顔に似合わず、色々と…。
そんなことを思っていると奥から声が聞こえた。
「……三木さんを探しに来たのかしら…?」
これは、教育実習生の長谷川優花の声だ。
俺は耳が元から良いので、一度聞いた声などは忘れない。
思わずそちらを見てしまったのが運のツキだった。
その女の露出度が高い姿。
エナメル素材のミニドレスの形をしたボンテージとか言うものだ。
しかも体の中央部は透けていてもろにいろんなものが見えている。
駄目だ顔を向けれない。
「あ。長谷川先生。ずいぶんな格好ですね。
三木さんを探しに来たんですが、知りませんか?」
巽の野郎が平然と喋りかけやがる。
しかもひょっこり顔だけ起こして長谷川を直視して。
有りえねぇ!!!
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【天夜 巽】
さて。どうしようかな。
僕の上の女性は操られているのか正気の瞳をしていなかった。
無理矢理押しのけるにしても凄い力だし、へんに突き飛ばして怪我をさせるのも躊躇われた。
奥から聞こえた長谷川先生の言葉に返すと、三木さんが二人の女子生徒に抱えられる様にして運ばれてくる。
三木さんはプレジデントチェアに座っている長谷川の上に座らされた。
こちらに正面を向けられている状態だ。
どうやら三木さんは眠らされているらしい。ピクリとも動かない。
「ふふ。柚子由ちゃんはここよ。
でも、彼女にはお仕置きをしなきゃいけないの。
彼女は私の誘いを断った。だからね……」
そう言って徐に長谷川先生は三木さんの制服を肌蹴させた。
ブラジャーが丸見えになる。
流石にこれは俺も目を背けるしか無かった。
そこで三木さんは目を覚ましたようだ。
「長谷川せんせ……?…………ぁ!」
慌てて前を隠そうとしたが二人の女生徒によって両手を抑えつけられた。
そして、長谷川は三木さんの耳で囁く。
「行けない子ね、柚子由ちゃん。私の誘いを断るなんて。
この子達は皆、了解してくれたわよ、私のものになることを…。
もっと、恥ずかしいことをしたら、貴方は頷いてくれるかしら?」
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【長谷川優花】
男なんて野蛮で不潔。
身体も硬いし触ったって気持ちよくはない。
こんな生き物と触れ合わなきゃならないなんて、物ごころがついた時から意味がわからなかった。
だけど、女の子は違う。
柔らかくて、とても美味しそうなその身体をいつまでも眺めていたいし、触っていたい。
だから私は教師を目指したようなものだ。
誰にもバレなければ、あの少年ヒューマノイドに与えてもらった力でいつまでも私の元にかわいくて柔らかい女子生徒を側に置いておける。
今までそれでお気に入りの女子生徒たちは虜にしてきた。
だけど何故か今回だけは違った。
ケツの青そうな男子生徒の乱入で私は少し苛立っていた。
どうやら三木さんを探しに来たみたいだけど、彼女は今までの女子生徒とは比にならないくらい私のタイプだから、渡すわけにはいかない。
それに何故か私の幻術も効きにくいみたいだし。
そうなるとますます彼女を堕としたくなる。
目を覚まし、抑え込まれる三木さんの太腿へと指を這わせていく。
小さく震えてる身体が愛おしく、かわいい。
閉じられた足を無理矢理開き、下着のラインをなぞる様に指を這わせた。
男達は目もくれない。
どうやらこの子の事は大切にしているみたいね。
ますます三木さんのことを気に入ってしまった。
彼女がどこまで壊れてくれるかを、彼らの前で試したくなる。
「ほら、男なんてバカで単純でしょ?
こんなことされててもあなたを助けようとしない。
なんでかわかる?下半身が元気になっていってるのを気づかれたくないからよ」
高らかに笑った後、彼女の下着へと手をかけていく。
「ほら、楽にして。大丈夫、すぐに気持ちよくなるわ」
抵抗する彼女を余所に、無理矢理と下着を膝元へと降ろしていった。
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【三木 柚子由】
私は長谷川先生によって眠らされているみたいだった。
この部屋に入ってやっと分かった。
彼女から甘い香りがした理由が、彼女は幻術師だった。
左千夫様と一緒の。
イデアちゃんへのSOSが通じたみたいで千星君達が助けに来てくれているが裸の女の子たちに捕らえられてしまっている。
しかも、私は身動きが取れない。
前も肌蹴ているし、下着も脱がされてしまった。
幸い皆違う方向を見てくれているから良かったもののこっちを見られたらかなりマズイ。
「うふふ…駄目ねぇ。どうしても好きな子を見ると気がはやっちゃって。
こっちは最後にしましょうか?
先にお胸から…。あら、柚子由ちゃんは着やせするのね?
良いモノもってるじゃない?」
足の付け根をさするだけで指は移動していくけど、その次はお腹を滑る様にして胸に来た。
向かい合っている訳じゃないし、集中できなくて長谷川先生の精神に介入するのは難しそう。
「んっ………あ、先生…もう、やめて……」
別に見られることはそんなに恥ずかしくは無かったが、千星君達は見たくないだろうと思うとどうしたらいいか分からなくなってくる。
胸を下から持ち上げる様に揉まれて息が詰まった。
左千夫様……どうしたら、いいですか……。
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【千星 那由多】
覆いかぶさっている女子生徒の隙間から、三木さんが見える。
前が肌蹴た瞬間に別の方向へと視線を逸らしたが、そこらじゅうに裸の女子がいるので、どこにも視線を安定させることができなかった。
どうしようもできなくなったので、目を思い切り瞑る。
どうすればいい、さすがにこの状態で彼女達を傷つけることなんてできないし…。
それにしても女の子の身体ってやわらかい……じゃなくて!!!
思考が明らかに変な方向へ行ってしまうのを必死で抑え込む。
すると長谷川先生の声とともに、三木さんの声が聞こえた。
「んっ………あ、先生…もう、やめて……」
ああああああああああああああ!!!!
聞くな俺!!!聞いちゃだめだ!!
目を瞑っているせいで余計にリアルに響く三木さんの声に思わず下半身が反応してしまいそうになった。
耳を塞いで何も聞こえなくする。
それにしても女子の身体ってやわらか…ってダメだ俺!!
そんな自分の意識と押し問答していると、背後に気配を感じた。
いや、気配、というより殺気。
俺は恐る恐る顔を後ろへと向けると、そこに立っていたのは会長だった。
ありえないくらいのものすごい殺気に身が縮む。
後ろから覗き込むように副会長が顔を出したが、顔面に裏拳を叩き込まれていた。
さすがにあの三木さんの姿を見せたくないんだろう。
副会長なら絶対にマジマジと見てしまいそうだし。
けど……だけど……ひとつ気になることがある。
会長が零した紅茶の染みが、まるでお漏らしをしたようにピンポイントでいいところについてしまっていることだ。
思わず笑ってしまいそうになる声を抑え、会長からも目を背けた。
会長が来てくれたからには安心だろう、暫く目を開けないでおこう…。
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【神功 左千夫】
やっと目的の場所にたどり着くとそこには僕と同じにおいが充満していた。
扉から覗いた瞬間に僕の沸点を一気に通過した。
後ろから僕の名前を呼びながら走ってくる九鬼に裏拳を食らわしておく。
それから、携帯を解除させた。
「ふ…、ふふ…、フフフフフフ…、やってくれましたね。
僕は自分の人形で遊ばれるのが一番嫌いなんですよ。」
冷酷な笑みを浮かべながら、槍をグッと握り締める。
僕が来た瞬間に柚子由が慌てたように体を隠そうとしたので瞼を落としてやる。
長谷川優花は驚いたような表情をして、他の女性を僕に放ったが関係ない。
「貴方に悪夢と言う名の制裁を――――。」
「きゃあああああああぁぁぁ!!!!!!!」
教室内に長谷川優花の悲鳴が響き渡る。
彼女には彼女が一番苦手で有ろうものを見せていた。
そう、男に自分が犯される光景を。
良い様だ、柚子由に手を出したこいつを殺したいがそこまではやり過ぎだろう。
生徒会の仕事でなければ間違いなく殺っているのだが。
プレジデントチェアから彼女が転げ落ちる。
無残にも床をのた打ち回っていた。
繰り返し繰り返し、いろんな男に彼女は脳内で犯されているのだろう。
周りの女子生徒がバタバタと倒れる。
彼女の幻術が切れて気を失ったようだ。
柚子由はそのまま教室の床に蹲る様に座っていた。
そのまま、視線を外しながら彼女に近づくと制服の上着を掛ける。
少し、紅茶で汚れていたが…。
「……残念ですね…こうなってしまって。」
柚子由は長谷川優花の事が好きだったのだろう。
しかし、こうなってしまうと恋を続けることは出来ない。
どう言葉を掛けたら良いか迷っていると、柚子由はこちらを見上げながらきょとんとしていた。
「残念?……どうしてですか、左千夫様。」
「お前は彼女の事を………すき、だったのでしょ?」
「え?あ、そう…ですね、好きでした。
…でも、それは…左千夫様と同じにおいがしたから…
同じ幻術師だったんですね…すいません、私がもう少し早く見抜けたら、こんなことにならなかったのに…」
彼女は僕の制服に身を包みながらボソボソと言葉を落としていく。
「好きでした。」と言われた瞬間衝撃が走ったが、その後の言葉を聞いた瞬間、僕は思わず瞬いてしまう。
そうして、地に伏している九鬼を振り返った。
その間に僕の制服に確り身を包みながら柚子由が教育実習生の方へと歩んでいく。
「柚子由…?」
彼女は僕が教育実習生に掛けた幻術を解いてしまった。
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【三木 柚子由】
「……ど、どうして助けたの?…、私は柚子由ちゃんを…」
「あなたの考えも少し分かる気がしたからです…」
私は、彼女に触れている間になんとなく彼女の思考が読めてしまった。
確かに男性はちょっと怖いところもある。
彼女が女性しか安らぎを求められない理由はそこかもしれない。
「でも、そんな男性ばかりじゃないですよ。
左千夫様みたいな綺麗で凛とした素敵な男の人も居ます。
あ……、先生が女の子の方が良いっていうのを否定するわけじゃないですけど。」
こそっと耳元で言葉を告げてから、にこっと笑みを浮かべた。
「女の子ともちゃんと健全なお付き合いして下さいね、こんなふうにじゃなく。」
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【九鬼】
気づくと廊下にぶっ倒れていた。
なゆゆに揺さぶられて目を覚ますと教室内には女子がたくさん倒れていた。
なんかすごく勿体ない事をした気がする。
別に彼に殴られるのは嫌じゃないけど、不意打ちはさすがにやめてほしい。
鼻先がジンジンと痛む。
鼻血が出てないだけまだマシか。
後始末を終えてから、(裏)生徒会室であの時何が起こっていたかを聞いた。
どうやらあの長谷川という教育実習生は同性愛者で、尚且つ能力を使って女子達をはべらせていたようだった。
趣味趣向に能力が使えるのは少し羨ましいな、なんてことを言うと左千夫クンにまた殴られてしまいそうな気がしたので黙っておいた。
あと、どうやってあの教育実習生からゆずずを救ったかは聞いてない。
なんとなくわかっていたから。
「補習の時なんとなくおかしいとは思ってたんだよネ」
ボクの言葉になゆゆが反応した。
暫くここで過ごしてわかったが、一番ボクの話を聞いてくれるのはなゆゆな気がする。
後はただスーッと流されるか、本当に聞いてないか。
左千夫クンに殴られて赤くなった鼻先を、冷えたタオルで冷やしながら続ける。
「大体の女性なら落とす自信があるケド、あの人まったく無反応だったカラ。
そうじゃないなら同性愛者かなって思って。
だって女の子ってすぐ股を開く生き物でしょ?」
その言葉になゆゆは顔をひきつらせている。
言いたいことはわかる、だけどこれが今まで生きてきた中で経験した、ボクの中の女性の基準だった。
「…不潔です。」
小さい声が聞こえた。
一瞬左千夫クンかと思ったが、その声はゆずずだった。
ボクの方を睨みながらわなわなと震え、また言葉を続けた。
「汚らわしいです!!」
その言葉に目を丸くする。
この子からそんな言葉を聞くとは思わなかったからだ。
周りのみんなもボクと同じように目を丸くした後、こちらへと視線を送る。
お前が悪いんだぞ、と言いたげだった。
左千夫クンだけは笑っていたけど。
「……ごめんなさい」
思わずボクは謝ってしまっていた。
女性に謝るなんて、何年ぶりだろうか。
左千夫クンが彼女を囲う理由がなんとなくわかった気がした。
少しはこの(裏)生徒会にも慣れてきただろうか。
まぁこういう雰囲気も悪くないかもしれない。
ボクが今まであまり経験してこなかった、格差の無い「仲間意識」。
これからゆっくり楽しませてもらおうかな。
昨日の闘いの後、三木さんも意識を取り戻したが、九鬼に連れて行かれた会長は結局帰ってくることはなかった。
フリーデルに貰った薬で傷を治すことができた俺達は、訓練施設を後にし、また明日久しぶりに(裏)生徒会室へ集まろうということになり解散した。
家に帰ると、やはりあの日の夜俺がこっそり抜け出した事をこっぴどく叱られたが、
全ての用事が済んだことを伝えると、母は少し疑っていたが安心していたようだった。
中間テストの点が悪かったことはまだ隠しておくことにした。
今言うと火に油を注ぐ結果になる。
いつかはバレるんだけれど。
その日は今までの緊張感や疲れを全て解放するように、久々に自室で泥のように眠った。
そして、何事もなくいつもの朝、いや、久しぶりの日常の朝を迎えた。
妹に叩き起こされて、朝ごはんを食べて、寝癖を直して、制服に袖を通す。
こんな普通の事が、物凄く懐かしく思えてしまった。
晴生と巽の迎えで通学は始まる。
三人で歩く久々の通学路だったが、巽がポロッと口にした言葉に、俺は朝から顔を青ざめることになる。
「今日、那由多補習じゃなかった?」
……かんっぺきに忘れてた。
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【三木 柚子由】
リコール宣言は現(裏)生徒会の勝利で幕を閉じることが出来た。
私はフリーデルさんの薬のお陰で右腕に少し違和感が残るくらいまで回復することが出来た。
いつものように授業が始まるけど、いつもと違うことが一つ。
今日から私のクラスに教育実習生が来た。
男子生徒がざわめく。
女性の私でも少しドキッとしてしまった。
彼女は大学生なんだろうけど、それを感じさせない大人っぽさが有り、髪を上で纏めていた。
更に口元にほくろが有って、それがすっごく色っぽい。
胸も大きくて思わず自分の胸を見てしまったくらいだ。
綺麗にお化粧もしていて、男子生徒からエールが飛んでいる。
不意に先生と瞳が有った。
綺麗な笑みを浮かべられたので私の心臓はドキッと高鳴った。
教育実習生から自己紹介が有った。
彼女は「長谷川優花」と言うらしい。
彼女は気さくに「優花先生って呼んでね。」と、言っていた。
授業中も何度か、分からないところがないか尋ねられた。
今日の放課後は補講を見るので空いていないが、それ以降ならいつでも聞きに来て、と、気さくに言ってくれたので私の頬は赤くなる。
先生からは甘い香りがした。
放課後、私は真っ先に(裏)生徒会室に走る。
そうすると、そこには既に左千夫様の姿が有って、私は肩を撫でおろした。
「お疲れさまです、柚子由。怪我は大丈夫ですか?」
私の方が心配なのに先に言われてしまって、小さく頷いた。
「左千夫様は…」と、返したのだけど、「僕は大丈夫です。」と、いつもの笑みとともに返されてしまう。
そして、私は今日はクラスに教育実習生の先生が来たことを話した。
いつもなら簡単に話すだけなんだけどなんだか熱が入ってしまって色々話してしまった。
イデアちゃんは壊れた武器の修理でアトリエにこもっているし、
天夜君と日当瀬君は補習の千星君を待ってからくるとメールが入っていたので、久々に左千夫様と二人で話をした。
なんだか、左千夫様の笑顔が曇った気がしたけど、気のせいかな。
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【千星 那由多】
授業が終わったその日の放課後、俺は一人国語の補習を受けることになっていた。
いや、俺一人と言うわけではないのだが、自分の知り合いは誰もいないと思っていたんだ。
が。
「なーゆゆ♪」
「……」
俺の目の前の席にいる銀髪の彼。
それは昨日あれだけ死闘を繰り広げた……九鬼、だった。
「なんでここにいるん…ですか。てか、その呼び方…」
「なゆゆと一緒で補習だヨ」
この補習には全学年の生徒がいる。
人数こそそこまで多くはないが、そこに交じっている九鬼に俺は絶句してしまった。
「リコール宣言する時期間違っちゃったネ」
それは確実にあんたのせいだろう。
俺と九鬼がざわついていると、先生が歩み寄って来る。
それは今日から来たA組担当の教育実習生だった。
どうやら国語が担当教科だったようで、俺と九鬼の間を割ってプリントを差し出してくる。
「はーい、静かにしなさい」
この教育実習生のことは男子生徒の間で噂になっていた。
名前は「長谷川優花」
大学生の色香以上の、大人の魅力満々なそのスタイルと容姿。
調度顔を向けたその先に大きな胸元が覗き、俺はプリントを受け取るとすぐさま机に目を落とした。
「…おねーさん、誰?ビジンだネ?
今度デートしない?」
九鬼は彼女が教育実習生だと知ってか知らずかニッコリと微笑みかけている。
なんつープレイボーイ発言だ。
隣にいた女子がそんな九鬼を見て顔を赤らめているのが視界の端に映った。
「さて、始めましょうか」
しかし、長谷川先生はそのまま九鬼の言葉に表情にも言葉でも反応せず、何もなかったように教壇へと向かっていった。
確かに九鬼は長身でイケメンな部類だし、こんなこと言われてドキッとしない女性はいないのだろうけれど、
さすがに教師を目指してる彼女には分別というものがつくのだろうか。
九鬼はつまらなさそうに頬杖をつきながら口先を尖らせていた。
そして補習を終えた俺は、待っていてくれた巽と晴生と合流し、(裏)生徒会室へ向かう。
…もちろん、そこには九鬼が加わっていた。
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【神功 左千夫】
(裏)生徒会へと扉が開いたところで柚子由との会話が終わる。
正直これ以上続けられるのは辛かったので助かった。
僕は彼女から他人の話を聞いたことがない。
勿論、僕も知っている人物の事は良く話すが、今回の教育実習生のことは僕は全く知らない。
いつもなら、彼女は報告だけしかしないのに、今日はその、長谷川優花先生について事細かに話してくれた。
…悪いことではない。しかし、僕は胸に突っかかりを感じる。
それも長くは続かなかった。
那由多君と一緒に来た人物のせいで。
「おつかれさ――――。九鬼、どうしてここに?貴方は副会長なのですから、正規の活動に加わる義務は有りませんよ。」
彼は呑気に手をヒラヒラさせながら(裏)生徒会室に入ってきた。
僕がそう言うと彼は唇を尖らせブーブー言い始めたので肩を落とす。
調度いい機会だし、彼の事を紹介しておこうか。
「来てしまったものは仕方がないですね。
九鬼、こちらに来なさい。
ブランダ―バッチの後話しあった結果。
彼は今度の地区聖戦『ラディエンシークルセイド』に参加して貰うことになりました。
九鬼、…自己紹介を。」
皆が定位置に着いてから僕は彼について紹介し始める。
彼は僕の言う通り隣に来て、いつも通りニコニコ笑っていた。
彼が那由多君達と一緒に来ていたと言うことは補習を受けていたと言うことなのだろうか。
イデアに勉強メニューもプラスして貰う必要があるなと思いながら彼の自己紹介に耳を傾ける。
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【千星 那由多】
(裏)生徒会室へ入ると会長と三木さん、イデアがいた。
久々なここの景色に少し笑みが零れた。
あの死闘を乗り越えて、またここに戻ってこれたのだと実感し、胸がいっぱいになる。
ただひとつ違うことと言えば…
「ギムとかケンリとか難しいこと言うネ会長は。
別にいいじゃん、好きにしてもさー」
そう、九鬼が副会長だという変えられない事実だった。
九鬼は会長の言葉にわざと怒ったような仕草を見せるが、それも自己紹介が始まるとまたころりと表情が変わった。
と言ってもいつも掴みどころの無い笑みで笑っているので、表情が変わるというのは少し違うかもしれないが。
あれだけ強くて残酷で俺達を翻弄していた黒鬼がこんな呑気でちゃらちゃらした人だとはあまり思いたくない。
この人に追いやられていた自分が物凄く悲しくなった。
そんなことを思いながら彼の自己紹介に耳を傾ける。
「えー今日から正式に愛輝凪高校(裏)生徒会の副会長としておじゃませさて貰う九鬼だヨ。
クッキーって呼んでネ!
昨日までのことはさらーっと水に流して、どんどん絡んでくれてオッケーだヨー!!
あと、会長みたいに堅苦しい敬語なんてなくてもいいから!よろしくネっ♪」
ビッとピースサインを俺達に送る。
そんな軽い彼の自己紹介に俺達は苦笑するしかなかった。
昨日までのことは水に流してと言われても、昨日の今日じゃなかなかそうもいきそうにない。
この温度差は今後埋まっていくのだろうか。
会長と副会長との性格の温度差はいつまで経っても埋まりそうにもないが。
その後俺達に飴を配ろうとしていたが、会長に止められ、俺達はため息を付きながら席へとついた。
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【三木 柚子由】
クッキー…。
彼はそう言った。そう言われると左千夫様の大好きなお菓子が頭の中に浮かぶ。
全員が席に座りなおすと左千夫様がまた話し始めた。
「昨日の今日ですが、逆怨み等はしないように。
……しかし、マフィアの御曹司が一般人に喧嘩を売りに来るなんて、 本当に貴方にはデリカシーってものが欠けてますよね。」
…左千夫様が皮肉を言っている。
しかも、表情がちょっと素だ。
珍しい表情の変化に小さく笑っていたが、左千夫様の言葉を反芻して、もう一度九鬼さんの見る。
え?マフィア?
どうやら、彼は裏社会の人間のようだ。
私と同じように千星君や天夜君が目をパチパチさせていた。
日当瀬君はいつも通りで頬杖をつきながら九鬼さんを眺めていた。
本当に、怖くない人なのか、怖い人なのか分からない存在。
そう思いながら、笑顔の九鬼さんを見上げた。
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【千星 那由多】
「デリカシーが欠けてるんじゃないヨ!
みんなと分け隔てなく付き合う方がいいに決まってるでショ?
平等が一番だもんネー、ねっはるるっ♪」
九鬼が俺の横にいた晴生を呼んだ。また変なあだ名で。
晴生は自分があだ名で呼ばれたことに気づかなかったのか、九鬼の話を聞かずにそっぽを向いていたが、
みんなの視線が自分に集中してることに気づき思いっきり目を見開いていた。
今にも殴りにかかりそうだったので、背中を擦るように抑え込む。
だけどちょっと吹き出しそうになってしまった。
「ま、ボクがマフィアだとかそんなのは別に気にしなくていーし、今はボク自身も自由に暮らしてる身だからネ。
あんまり親とも交流無いし。
君たちがボク関連のことで何かに巻き込まれたりとか、そういうことにはきちんと気を配るつもりだヨ、多分ネ♪」
最後の「多分」が余計だ…。
マフィア。
また俺と無縁そうな言葉だから実感はあまり沸かない。
今後も俺には無関係な事…であって欲しいんだけどな。
その日の任務は無く、昨日の闘いでの自分達の反省点や夏に行われる地区聖戦の事を話し合った。
それからはただのお茶会。
いや、昨日までの俺達がずっと望んでいた景色。
三木さんはとても嬉しそうで、俺も彼女の淹れてくれたコーヒーに口を付けながらいつも以上の幸せを噛みしめていた。
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【神功 左千夫】
九鬼が(裏)生徒会にはいってから数日が経過した。
最近、柚子由の様子がおかしい。
(裏)生徒会室に来てもどこかうわの空で、口を開けば教育実習生の長谷川優花の事ばかり口にしている。
今まで、彼女がこんなに一定の人物の事を言うことは無かった。
これは一体どういうことなのだ。
授業中なのにそちらにばかり考えがいく。
そんなことばかり考えていると、授業が終わってしまった。
今日の朝、イデアから、最近帰宅しない女子生徒が多発していてそれを探ってほしいと言われたのだが、 その作戦も全く考えつかない。
「さちおくん。お昼いっしょに食べヨ~」
昼休みいつもの如く九鬼が僕の席に来た。
彼が来てからは他のクラスメイトに誘われることは無くなったが、これはこれでうっとおしい。
昼ぐらい一人にして欲しいものだ。
しかし、今日は好都合だ。
僕は彼の腕を引っ張る様にして余り人の居ない中庭の特等席へと連れて行く。
彼に質問するなんて、僕はどこまで追い込まれているんだ。
それでも、答えが出ないよりは良い。
九鬼は虚をつかれたようだがなぜか嬉しそうに僕の後を着いて来た。
結局彼は毎日(裏)生徒会室に居座ってる。
任務も一緒にこなしてくれるので、僕はもう関与しないことにした。
最近はまた雑用の様な任務ばかりだが。
手伝ってはいけないという規定も無いですしね。
彼が何かを話そうとしていたが、それに被せる様に僕は話し始めた。
「なに?会長!ついに、愛のこ――」
「九鬼、質問が有ります。
毎日毎日、同じ人物の事ばかり話していて、心ここにあらずって状態なんですが…
それって、どういった症状なのでしょう?」
「え!?どうしたの、急に!
んー……。よくわかんないけど、それって「恋」なんじゃないかな?」
そうか、恋か…。
恋?
恋!?
…………恋!!!!?
まさか、柚子由はあの、教育実習生に恋をしているのか…!?
いや、でも、教育実習生は女性だ。
いや、しかし、恋に性別なんて関係ない。
その後に、九鬼が何か言っていた気もするが、僕はそのことで頭がいっぱいで聞いていなかった。
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【九鬼】
いつものごとく左千夫クンを昼食に誘ったら、珍しく場所を移動したので、何かイイコトでもあるのかとちょっと期待してしまった。
が、ただ単に神妙な面持ちでボクに相談をしてきただけだった。
いや、相談されるだけでも少し驚いてしまったのだが、それもよく考えればわかってしまうような内容の相談。
彼にとっては無縁な感情なのかもしれないけれど、その答えはずばり「恋」だとボクは思う。
「恋だネ~始まってるネ~!
ね、それって誰?もしかして左千夫クン自身??
いやーまいったなーボクに惚れられても困るって言うか………左千夫クン?」
完全にボクの話を聞いていない彼の視線は完璧に動いていなかった。
手の平を目の前にかざしてみたが反応しない。
彼が食べているサンドイッチを一口食べてみたがそれでも反応しない。
心ここに在らずってのは、完全に君じゃないかと思いながら、ボクは延々独り言を喋り続けた。
にしても気になるな、彼がそこまで注目して観察してる子って…。
「ああ、ゆずずか」
ボクが小さく三木柚子由の名前を漏らしたことも、左千夫クンは気づいてなかったようだった。
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【三木 柚子由】
あれから長谷川先生は毎日私を気にかけてくれた。
先生が近くにいると落ち着くので私は大好きだ。
今日も先生は、私の勉強を見てくれた。
教え方が丁寧なのでとても分かりやすい。
放課後に皆から集めたプリントを持ってきてほしいと頼まれたので(裏)生徒会に向かう前に持っていこう。
でも、指定された場所が今は余り使われてない空き教室だった。
もしかして、先生はそこで他の子にも勉強を教えているのかな。
その教室をノックすると返事は帰って来なかった。
はやく来すぎたのかなと思ったけど、鍵が開いてるかどうか確認しようと思って力を加える。
「長谷川先生。いらっしゃいませんか?」
私の予想は外れて空き教室の扉は開いた。
目の前には目を瞠る光景が広がっていた。
長谷川先生は、露出が高い服装で女子生徒とキスをしていた。
女子生徒は服を着ておらず、ありのままの姿だった。
「あら。柚子由ちゃん、いけない子ね。勝手に入ってくるなんて。」
彼女がそう言って指を鳴らすと。
二人の女子生徒が私を掴んで中に引きずり込む、そして、扉の鍵を閉められてしまった。
「長谷川……先生?」
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【千星 那由多】
授業を終えていつも通り裏生徒会室へと向かう。
最近の任務は雑用ばかりで、あの日以降平和な日々が続いていた。
理科準備室へと入る前に声が聞こえる。
「…ちおクン…!……ぇ…って…!?」
一瞬先生か生徒かと思って三人で顔を見合わせたが、良く聞いてみると九鬼…副会長の声だった。
どうやら会長の名前を呼んでいるようだった。
てっきり会長に(裏)生徒会室へ入る扉でも開けてもらえていないのかと思い、恐る恐る理科準備室のドアを開ける。
そこには会長もいた。
いつもなら中で待って優雅にお茶でも飲んでいるような時間帯だったが、今日は少し違う。
いや、かなり違った。特に会長が。
「…みんな……さち…会長が…!」
「那由多君、どいてください。そこに居たら中に入れないでしょう」
俺は会長に名前を呼ばれて思わず反応してしまったが、明らかに俺じゃない人物…いや、物に話しかけている。
それは人体模型だった。
何が起きているのかわからなかった俺達は静まり返る。
会長は淡々と人体模型に向かって俺の名前を呼んでいた。
「か、会長…それ俺じゃないです…けど…」
思い切って話しかけてみたが、まったく俺には気づいていないようだった。
副会長にどうしたんですかコレ、と言った表情を向けると、大きくため息を吐かれる。
「なんかずっと人体模型のことなゆゆだと思ってるみたいで…入れないんだよネ…」
あの副会長ですら真顔で俺達に助けを求めるような仕草を送る。
下手に何か言うと怖いので、どうしようかと困っていたら、巽が人体模型を会長の前からどける。
「那由多は僕がどけましたよ」
「いたんですか、すいません、巽くん」
そしてその人体模型の中のボタンを押すと扉が開いた。
会長はそのまま何事もなかったように中へと入って行く。
「…………」
俺達三人は笑う事さえできないまま、会長に続いて部屋へと入っていった。
会長がおかしい…!!!
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【神功 左千夫】
おかしい。
僕がいつも一番な筈なのになぜか今日は那由多君が先に着いていた。
しかも人体模型の前に立ったまま退こうとしない。
今日の那由多君はどこかカラフルだなと思いながら話を続ける。
「那由多君?どうしてどいてくれないのですか?
僕に話があるのですか?」
そう言いながらも僕の頭は「恋」でいっぱいだ。
昼休みに九鬼から柚子由の症状の答えを聞いてから頭から離れない。
授業なんて頭に入らないし、どうやって時間を過ごしたのかも覚えていない。
多分、クラスメイトにはきちんと対処したと思う。
こんなことならば九鬼に聞かなければ良かった。
そこで数十分費やしていると漸く、巽君が那由多君を退けてくれた。
「いたんですか、すいません、巽くん」
勿論僕は自分がまさか、人体模型を那由多君だと思っていたとは微塵も気づかない。
いつも通りにボタンを押して中へと入り、自分の席に鞄を置く。
そして、いつも通りに中に編み込んでいた髪を元に戻しながら洗面台へと向かう。
鏡で自分の顔を確認すると少し疲れた表情をしていたが、それ以外はなんら変わり無かった。
そして、そこから戻ると柚子由はまだ来ていないのか那由多君が紅茶を淹れてくれていた。
「ありがとうございます。那由多君。」
いつも通りに微笑みながら礼を言う。
柚子由の到着が遅くて良かった。
僕は今、彼女の顔を見れないだろう。
はやく、自分の中で片付けてしまわないと。
応援するか、止めるか。
いや、しかし、そもそも個人の自由なのだ、僕が口出すのもおかしいだろう。
いや、ここは会長として…
そんなことをエンドレスに考えていると那由多君の紅茶に不用意に口を付けてしまった。
僕は猫舌だ。
拷問で熱湯を注ぎこまれても耐える自信はあるが、猫舌という事実は変わらない。
柚子由はそれを知っているので少し冷めてからいつも持ってきてくれる。
しかし、那由多君はその事実を知らない。
一口口に含んだ瞬間その熱さにカップを手放してしまう、それはソーサーの上に落ちると、そのまま倒れてしまい、机の上に熱い紅茶が広がった。
砂糖を入れるのさえ忘れていたので、口の中の紅茶は苦く、泣きたくなった。
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【千星 那由多】
会長は行動がちょっとおかしかったが、それ以外は特になんて問題は無さそうだった。
もしかして俺が何か悪い事をしてしまったのかもしれない。
会長が髪を解きに洗面所へと向かったので、まだ来ていない三木さんの代わりにせめても、と紅茶を入れることにした。
前に三木さんが淹れているのを見て大体のやり方はわかっていた。
が、これがもっと間違いだった。
口を付けてくれたまではよかった。
しかし、次の瞬間、会長は俺の淹れた紅茶をカップごと落とすように盛大にこぼす。
「うわあああ何してるの会長っ!!」
机や制服に浸透していく湯気の立った紅茶を副会長がすぐさまタオルで拭いていく。
巽と晴生も慌ててタオルや雑巾を持ってきた。
ま…まずかったんだ…きっとそうだ…!!!
慣れないことするんじゃなかった…!!!
俺は顔を青ざめながら、無意味に泣きそうになってしまった。
何もできずにただただ放心していると、イデアがアトリエから出てきて起伏の無い声で第一声を放った。
「ユズユからヘルプ信号がキテイル」
その言葉に室内の空気が変わった。
と、同時に会長は足元をタオルで拭いてくれていた副会長を蹴飛ばす様に立ち上がり、部屋から出て行く。
顎を蹴られて悶絶している副会長を余所に、俺達もイデアに居場所を聞くとすぐさま(裏)生徒会室を出た。
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【神功 左千夫】
熱い。
勿体無い。
甘くない。
紅茶を零してしまった僕は、那由多君が青ざめていることすら視界に入らない位放心状態だった。
色々な思いが頭を巡るが最後には柚子由に到達する。
その時イデアの声がした。
「ユズユからヘルプ信号がキテイル」
僕はすぐさま立ちあがり走り出した。
足が何かにぶつかった気がした。そう言えば僕の近く、主に下半身の辺りに九鬼が居たような。
しかもなんだかズボンが気持ち悪い。
そこまで考えて漸く自分は紅茶を零したんだと再認識した。
しかし、今はそんな事態では無い。
柚子由が危ない。
彼女の携帯には非情時に引っ張れる部位が有り、そこを引くことによってイデアに緊急信号が飛ぶようになっている。
それが行われたと言うことはただ事では無い。
僕は柚子由と繋がっているので彼女の気配を探った。
――――!?
おかしい、彼女が全くどこにいるか分からない。
こういう場合は二つ考えられる。
彼女が僕にどこにいるか知られたくない場合、もう一つは何か妨害するものが有る場合。
現状では後者だと思うが前者ならますます耐えられない。
僕は再度場所を確認するためにイデアへと電話をかけた。
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
イデアに聞いた場所は使われていない空き教室だった。
何せこの学校は広い。
こういう所で悪いことが起きていることは今までの任務でも多々あった。
しかし今回は三木さんが巻き込まれている。
俺と巽、晴生は人気のない校舎を走り、息をあげながらその教室の前までたどり着いた。
晴生が先に扉に手をかけたが、どうやら鍵がかかっているようだった。
「チッ」
晴生が舌打ちと共に蹴りの体勢に入る。
それと同時に巽も扉を蹴り込んだ。
「手伝ってんじゃねぇよ!」
「今はそれどころじゃないだろ!」
二人の口喧嘩と共に扉が向こう側へと倒れる。
酷く甘い香りがした。
なんだか酔ってしまいそうなその中へと二人が入った後についていく。
霧のようなもので部屋の中は霞んでいる。
胸やけを起こしてしまいそうな感覚で軽く口元を抑えた。
「三木さん!」
名前を呼ぶ、が返事はない。
霧がかった辺りを見回すと、すぐ正面に人の気配がした。
一瞬三木さんかと思ったが、目を凝らすとそこには全裸の女子が立っていた。
「う、えええええ!!!??」
すぐ様後ろへ避けようと思った途端、その女子は俺に抱き着く形で倒れ込んでくる。
尻持ちをついた俺の目の前には、男には無い、柔らかいものがふたつ。
それは虚ろな表情の女子の胸だった。
「ちょ、ちょっなにこれ!!!」
顔が熱い。やばい、テンパる。
視線をどこにやっていいかわからないまま、あたふたと顔を右や左に振っていると、巽の声がした。
「何か、おかしいね」
巽は女子に抱き着かれながら平然としていた。
晴生はというと、俺と同じような体勢で顔を上げられないまま俯いていた。
「わかってるよ!!つか…ど、どいて!ほんとどいて!!!」
どうしようもできない俺はなるべく女子の身体を触らないように前へと押しやったが、かなり強い力で離れる気配がない。
『……三木さんを探しに来たのかしら…?』
突然部屋に女性の声が響き渡る。
その声はどこかで聞いたことがあるような声だったが、どこから聞こえているのかわからないぐらいに反響していた。
-----------------------------------------------------------------------
【日当瀬 晴生】
イデアさんに指定された場所にたどり着くまでは良かった。
しかし、そこからが問題だ。
そこにはまさかの全裸の女性が居た。
勿論俺は彼女が見れない。
服を着ていてくれたら殴れるものの。
いや、多分うちの学校の生徒だ。
殴っていいかもまだ分からねぇ。
―――やりにくいっ!!!
心の中で叫ぶ。
天夜の野郎は全く気にしてないようで女性を普通に見ていた。
本当にこいつは顔に似合わず、色々と…。
そんなことを思っていると奥から声が聞こえた。
「……三木さんを探しに来たのかしら…?」
これは、教育実習生の長谷川優花の声だ。
俺は耳が元から良いので、一度聞いた声などは忘れない。
思わずそちらを見てしまったのが運のツキだった。
その女の露出度が高い姿。
エナメル素材のミニドレスの形をしたボンテージとか言うものだ。
しかも体の中央部は透けていてもろにいろんなものが見えている。
駄目だ顔を向けれない。
「あ。長谷川先生。ずいぶんな格好ですね。
三木さんを探しに来たんですが、知りませんか?」
巽の野郎が平然と喋りかけやがる。
しかもひょっこり顔だけ起こして長谷川を直視して。
有りえねぇ!!!
-----------------------------------------------------------------------
【天夜 巽】
さて。どうしようかな。
僕の上の女性は操られているのか正気の瞳をしていなかった。
無理矢理押しのけるにしても凄い力だし、へんに突き飛ばして怪我をさせるのも躊躇われた。
奥から聞こえた長谷川先生の言葉に返すと、三木さんが二人の女子生徒に抱えられる様にして運ばれてくる。
三木さんはプレジデントチェアに座っている長谷川の上に座らされた。
こちらに正面を向けられている状態だ。
どうやら三木さんは眠らされているらしい。ピクリとも動かない。
「ふふ。柚子由ちゃんはここよ。
でも、彼女にはお仕置きをしなきゃいけないの。
彼女は私の誘いを断った。だからね……」
そう言って徐に長谷川先生は三木さんの制服を肌蹴させた。
ブラジャーが丸見えになる。
流石にこれは俺も目を背けるしか無かった。
そこで三木さんは目を覚ましたようだ。
「長谷川せんせ……?…………ぁ!」
慌てて前を隠そうとしたが二人の女生徒によって両手を抑えつけられた。
そして、長谷川は三木さんの耳で囁く。
「行けない子ね、柚子由ちゃん。私の誘いを断るなんて。
この子達は皆、了解してくれたわよ、私のものになることを…。
もっと、恥ずかしいことをしたら、貴方は頷いてくれるかしら?」
-----------------------------------------------------------------------
【長谷川優花】
男なんて野蛮で不潔。
身体も硬いし触ったって気持ちよくはない。
こんな生き物と触れ合わなきゃならないなんて、物ごころがついた時から意味がわからなかった。
だけど、女の子は違う。
柔らかくて、とても美味しそうなその身体をいつまでも眺めていたいし、触っていたい。
だから私は教師を目指したようなものだ。
誰にもバレなければ、あの少年ヒューマノイドに与えてもらった力でいつまでも私の元にかわいくて柔らかい女子生徒を側に置いておける。
今までそれでお気に入りの女子生徒たちは虜にしてきた。
だけど何故か今回だけは違った。
ケツの青そうな男子生徒の乱入で私は少し苛立っていた。
どうやら三木さんを探しに来たみたいだけど、彼女は今までの女子生徒とは比にならないくらい私のタイプだから、渡すわけにはいかない。
それに何故か私の幻術も効きにくいみたいだし。
そうなるとますます彼女を堕としたくなる。
目を覚まし、抑え込まれる三木さんの太腿へと指を這わせていく。
小さく震えてる身体が愛おしく、かわいい。
閉じられた足を無理矢理開き、下着のラインをなぞる様に指を這わせた。
男達は目もくれない。
どうやらこの子の事は大切にしているみたいね。
ますます三木さんのことを気に入ってしまった。
彼女がどこまで壊れてくれるかを、彼らの前で試したくなる。
「ほら、男なんてバカで単純でしょ?
こんなことされててもあなたを助けようとしない。
なんでかわかる?下半身が元気になっていってるのを気づかれたくないからよ」
高らかに笑った後、彼女の下着へと手をかけていく。
「ほら、楽にして。大丈夫、すぐに気持ちよくなるわ」
抵抗する彼女を余所に、無理矢理と下着を膝元へと降ろしていった。
-----------------------------------------------------------------------
【三木 柚子由】
私は長谷川先生によって眠らされているみたいだった。
この部屋に入ってやっと分かった。
彼女から甘い香りがした理由が、彼女は幻術師だった。
左千夫様と一緒の。
イデアちゃんへのSOSが通じたみたいで千星君達が助けに来てくれているが裸の女の子たちに捕らえられてしまっている。
しかも、私は身動きが取れない。
前も肌蹴ているし、下着も脱がされてしまった。
幸い皆違う方向を見てくれているから良かったもののこっちを見られたらかなりマズイ。
「うふふ…駄目ねぇ。どうしても好きな子を見ると気がはやっちゃって。
こっちは最後にしましょうか?
先にお胸から…。あら、柚子由ちゃんは着やせするのね?
良いモノもってるじゃない?」
足の付け根をさするだけで指は移動していくけど、その次はお腹を滑る様にして胸に来た。
向かい合っている訳じゃないし、集中できなくて長谷川先生の精神に介入するのは難しそう。
「んっ………あ、先生…もう、やめて……」
別に見られることはそんなに恥ずかしくは無かったが、千星君達は見たくないだろうと思うとどうしたらいいか分からなくなってくる。
胸を下から持ち上げる様に揉まれて息が詰まった。
左千夫様……どうしたら、いいですか……。
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
覆いかぶさっている女子生徒の隙間から、三木さんが見える。
前が肌蹴た瞬間に別の方向へと視線を逸らしたが、そこらじゅうに裸の女子がいるので、どこにも視線を安定させることができなかった。
どうしようもできなくなったので、目を思い切り瞑る。
どうすればいい、さすがにこの状態で彼女達を傷つけることなんてできないし…。
それにしても女の子の身体ってやわらかい……じゃなくて!!!
思考が明らかに変な方向へ行ってしまうのを必死で抑え込む。
すると長谷川先生の声とともに、三木さんの声が聞こえた。
「んっ………あ、先生…もう、やめて……」
ああああああああああああああ!!!!
聞くな俺!!!聞いちゃだめだ!!
目を瞑っているせいで余計にリアルに響く三木さんの声に思わず下半身が反応してしまいそうになった。
耳を塞いで何も聞こえなくする。
それにしても女子の身体ってやわらか…ってダメだ俺!!
そんな自分の意識と押し問答していると、背後に気配を感じた。
いや、気配、というより殺気。
俺は恐る恐る顔を後ろへと向けると、そこに立っていたのは会長だった。
ありえないくらいのものすごい殺気に身が縮む。
後ろから覗き込むように副会長が顔を出したが、顔面に裏拳を叩き込まれていた。
さすがにあの三木さんの姿を見せたくないんだろう。
副会長なら絶対にマジマジと見てしまいそうだし。
けど……だけど……ひとつ気になることがある。
会長が零した紅茶の染みが、まるでお漏らしをしたようにピンポイントでいいところについてしまっていることだ。
思わず笑ってしまいそうになる声を抑え、会長からも目を背けた。
会長が来てくれたからには安心だろう、暫く目を開けないでおこう…。
-----------------------------------------------------------------------
【神功 左千夫】
やっと目的の場所にたどり着くとそこには僕と同じにおいが充満していた。
扉から覗いた瞬間に僕の沸点を一気に通過した。
後ろから僕の名前を呼びながら走ってくる九鬼に裏拳を食らわしておく。
それから、携帯を解除させた。
「ふ…、ふふ…、フフフフフフ…、やってくれましたね。
僕は自分の人形で遊ばれるのが一番嫌いなんですよ。」
冷酷な笑みを浮かべながら、槍をグッと握り締める。
僕が来た瞬間に柚子由が慌てたように体を隠そうとしたので瞼を落としてやる。
長谷川優花は驚いたような表情をして、他の女性を僕に放ったが関係ない。
「貴方に悪夢と言う名の制裁を――――。」
「きゃあああああああぁぁぁ!!!!!!!」
教室内に長谷川優花の悲鳴が響き渡る。
彼女には彼女が一番苦手で有ろうものを見せていた。
そう、男に自分が犯される光景を。
良い様だ、柚子由に手を出したこいつを殺したいがそこまではやり過ぎだろう。
生徒会の仕事でなければ間違いなく殺っているのだが。
プレジデントチェアから彼女が転げ落ちる。
無残にも床をのた打ち回っていた。
繰り返し繰り返し、いろんな男に彼女は脳内で犯されているのだろう。
周りの女子生徒がバタバタと倒れる。
彼女の幻術が切れて気を失ったようだ。
柚子由はそのまま教室の床に蹲る様に座っていた。
そのまま、視線を外しながら彼女に近づくと制服の上着を掛ける。
少し、紅茶で汚れていたが…。
「……残念ですね…こうなってしまって。」
柚子由は長谷川優花の事が好きだったのだろう。
しかし、こうなってしまうと恋を続けることは出来ない。
どう言葉を掛けたら良いか迷っていると、柚子由はこちらを見上げながらきょとんとしていた。
「残念?……どうしてですか、左千夫様。」
「お前は彼女の事を………すき、だったのでしょ?」
「え?あ、そう…ですね、好きでした。
…でも、それは…左千夫様と同じにおいがしたから…
同じ幻術師だったんですね…すいません、私がもう少し早く見抜けたら、こんなことにならなかったのに…」
彼女は僕の制服に身を包みながらボソボソと言葉を落としていく。
「好きでした。」と言われた瞬間衝撃が走ったが、その後の言葉を聞いた瞬間、僕は思わず瞬いてしまう。
そうして、地に伏している九鬼を振り返った。
その間に僕の制服に確り身を包みながら柚子由が教育実習生の方へと歩んでいく。
「柚子由…?」
彼女は僕が教育実習生に掛けた幻術を解いてしまった。
-----------------------------------------------------------------------
【三木 柚子由】
「……ど、どうして助けたの?…、私は柚子由ちゃんを…」
「あなたの考えも少し分かる気がしたからです…」
私は、彼女に触れている間になんとなく彼女の思考が読めてしまった。
確かに男性はちょっと怖いところもある。
彼女が女性しか安らぎを求められない理由はそこかもしれない。
「でも、そんな男性ばかりじゃないですよ。
左千夫様みたいな綺麗で凛とした素敵な男の人も居ます。
あ……、先生が女の子の方が良いっていうのを否定するわけじゃないですけど。」
こそっと耳元で言葉を告げてから、にこっと笑みを浮かべた。
「女の子ともちゃんと健全なお付き合いして下さいね、こんなふうにじゃなく。」
-----------------------------------------------------------------------
【九鬼】
気づくと廊下にぶっ倒れていた。
なゆゆに揺さぶられて目を覚ますと教室内には女子がたくさん倒れていた。
なんかすごく勿体ない事をした気がする。
別に彼に殴られるのは嫌じゃないけど、不意打ちはさすがにやめてほしい。
鼻先がジンジンと痛む。
鼻血が出てないだけまだマシか。
後始末を終えてから、(裏)生徒会室であの時何が起こっていたかを聞いた。
どうやらあの長谷川という教育実習生は同性愛者で、尚且つ能力を使って女子達をはべらせていたようだった。
趣味趣向に能力が使えるのは少し羨ましいな、なんてことを言うと左千夫クンにまた殴られてしまいそうな気がしたので黙っておいた。
あと、どうやってあの教育実習生からゆずずを救ったかは聞いてない。
なんとなくわかっていたから。
「補習の時なんとなくおかしいとは思ってたんだよネ」
ボクの言葉になゆゆが反応した。
暫くここで過ごしてわかったが、一番ボクの話を聞いてくれるのはなゆゆな気がする。
後はただスーッと流されるか、本当に聞いてないか。
左千夫クンに殴られて赤くなった鼻先を、冷えたタオルで冷やしながら続ける。
「大体の女性なら落とす自信があるケド、あの人まったく無反応だったカラ。
そうじゃないなら同性愛者かなって思って。
だって女の子ってすぐ股を開く生き物でしょ?」
その言葉になゆゆは顔をひきつらせている。
言いたいことはわかる、だけどこれが今まで生きてきた中で経験した、ボクの中の女性の基準だった。
「…不潔です。」
小さい声が聞こえた。
一瞬左千夫クンかと思ったが、その声はゆずずだった。
ボクの方を睨みながらわなわなと震え、また言葉を続けた。
「汚らわしいです!!」
その言葉に目を丸くする。
この子からそんな言葉を聞くとは思わなかったからだ。
周りのみんなもボクと同じように目を丸くした後、こちらへと視線を送る。
お前が悪いんだぞ、と言いたげだった。
左千夫クンだけは笑っていたけど。
「……ごめんなさい」
思わずボクは謝ってしまっていた。
女性に謝るなんて、何年ぶりだろうか。
左千夫クンが彼女を囲う理由がなんとなくわかった気がした。
少しはこの(裏)生徒会にも慣れてきただろうか。
まぁこういう雰囲気も悪くないかもしれない。
ボクが今まであまり経験してこなかった、格差の無い「仲間意識」。
これからゆっくり楽しませてもらおうかな。
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