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しおりを挟む「温まりました?」
こくこく頷く。
お風呂を借りて、濡れた制服の代わりに着物も借りた。
混乱と衝撃を静める時間はあったのに、再び脳天を直撃される。
なに、この美人。地上に住んでる男の子なの?!
天から舞い降りた天人じゃなくて?!
「楽になさって下さいね。僕は人を堅苦しくさせるとよく月弧に叱られるんです」
「甘酒があるぞ。夏雪、このまんじゅうはどうした」
「帰りに、法事の余り物だからって頂いた」
「真贋寺の生臭どもか。わざわざお前を待ち伏せて、借金の催促か」
「母にお見舞いの言葉をもらっただけだよ。内々の話をお客様の前でするものじゃない。それより、雀女さんの話を聞かないと」
「改めて。水垣夏雪です。こちらの宿の主人です。と言ってもまだ半人前で学校に行ってる間は宿もほぼ月弧に任せきりなんですけど。雀女さんも学生さんですよね」
向き直られて、のぼせそうになる。
は、破壊力……。
「あのあのあのあのっ、高校三年生、ですっっ」
「じゃあ、僕の2コ上ですね。あ、甘いものお好きでしたらこれどうぞ。ここに来た経緯はわかりますか?」
「こ、ここ、そもそもどこですか?!」
天女が化身したかと見まごう男子学生と金の目の神様がいる、ここはどこっ?
「雀女さんが今いらっしゃるのは榊県四方津市斎の水垣神社です。聞き覚えは?」
ぶんぶん首を振る。
「どのようにここにいらしたか、覚えておいでですか? 特定の場所に足を踏み入れた、怪異なものに遭遇した、奇妙な物に手を触れたなど、普段と変わったことをしませんでした?」
覚えがあった。
「──おばあちゃんの鏡……」
「鏡? 特殊なものでしょうか?」
「選ばなかった未来が見られるって、でも壊れてて、おばあちゃんの思い出が映るだけだったの。見入ってたら、鏡の中に落ちちゃって……。じゃあ、ここって、おばあちゃんの過去?」
「一応確認してみましょうか、おばあさまの旧姓と実家の場所が分かればお願いします」
唐突に現実にかえって青ざめた。
「でも、あの、落ちる時、音がしたの。ガシャン、って。割れたのかな。どうしよう、ひょっとしてわたし、もう戻れないっ?」
ここがおばあちゃんが選ばなかった過去なら、わたしはこの先も存在しない。
月弧さんに近いし力強く背中を叩かれる。
「心配いらんぞ、雀女。この宿は迷い混む者には慣れておるからな。夏雪、置いてやって良かろう、〈花つづらの間〉が空いておる」
夏雪君がふっと難しい顔をする。
「あそこは──」
「あの、ご迷惑なら、わたし、」
「いえ、そうではなくて。雀女さんは母屋の方で」
「警察のガサ入れがあった時母屋にいてはまずかろう、あそこでは人間から隠しきれん。なにも知らぬのに逮捕などされては可哀想だ」
「警察? あの、 わたし、犯罪歴はないですけど」
夏雪君が申し訳なさそう顔をする。
「すみません、雀女さん、こちらには異類法がありまして」
「イルイホー?」
「人外を排除する法律じゃ。異世から来た人間も対象になる。わらわがそなたを見つけて運が良かったのだぞ」
「政府が代わってからは異世から来た人間も取り締まり対象になったんです。そうそう見分けはつかないですけど、新しく来た巡査さんは妙に勘が鋭くて。雀女さんはできれば外には出ないようにしてください、ご不便をおかけしますが」
「ということは、宿の方に泊めてよいのだな」
月弧さんがしてやったりの笑みを浮かべ、夏雪君が仕方なさそうに吐息をつく。
「深瀬さんに迷惑をかける気はないから、いざとなったら母屋に泊まってもらうよ」
「ここって宿なんですよね、神社は?」
「人向けの体裁じゃ。歴史はあるし、ご利益もあるぞ。ここの客のなかには零落した神もおるし、宿代代わりに願いを叶えるものもいるからな。大半はもののけと呼ばれる連中やら人に関心のない精怪やらだな」
「へ? 神様? もののけ?」
「この世に住むのは人ばかりではない。排斥されて行き場のない連中は大勢おる。ここは次の落ちつき先を見つけるための一時避難所のようなものだな。物見遊山に来るのも勿論いるが。人から見れば化け物宿かも知れぬが」
「ば、化け物宿? え、でも、異類法って……。わ、わたし、ここにいても大丈夫ですか」
「人に捕まった方が良いか? 噂では、捕まったら檻の中で一糸もまとわぬ生態の有り様を映像記録で永久保存だそうだぞ?」
ひいぃ────ッ!
「ここに置いてくださいっ、お願い、見捨てないで!」
「月弧、怖がらせないで」
「真っ当な注意喚起だぞ。うっかり外に出たら一大事だろうが」
「大丈夫ですよ、雀女さん。そんなに大事になる前に元の世界へ帰る方法を見つけますから。伝だけはたくさんありますから、安心してくつろいでいて下さい。あなたをお客様としてお迎えします、ようこそ、水垣の宿へ」
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