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しおりを挟む深更。
雀女は〈花つづらの間〉を抜け出そうとしていた。
(広いよー、静かすぎるよー、心細いよー、天井が顔に見えるし怖くて寝れない……、月弧さんとこ行って一緒に寝ていいか頼んでみよ)
そーっと襖をあけ、足を踏み出そうとする。
「何処へ参る」
地の底から呼び掛けているような声に、
固まった。
薄暗い中で、向かいの部屋の襖もわづかに開いて背の低い影がじっとこちらを見つめている気配がする。
なぜか勝手に彼女の目的を察したようだった。
「あの女は人贄の神じゃ、気安う近寄るものではあらず、戻れ」
トン、と見えないなにかに押され部屋の中に戻されて、襖がパタンと勝手に閉まる。
フリーズが解けた雀女はあわあわと布団の中に逃げ込む。
(ナニアレ、ナニアレ?! こ、怖いよ~、
向かいの部屋は人に害がないんだ神様って言ってたのに~ッ)
震えて眠れずにいたが、幻聴かどこかから優しい歌声が聞こえてくる。
不思議と安心する声でようやくとろとろと眠りに落ちていく。
(ヒトニエ……、一煮え? ひと煮立ちってことかな。月弧さん、お料理の神様なのだろうか、夕御飯、おいしかったし)
水垣の宿の一日目はこうして過ぎた。
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