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しおりを挟む「雀女~、朝だぞ。夏雪はもう学校に行った。朝食を食べに一旦起きておいで」
割烹着姿の月弧さんに起こされる。
「つ、月弧さん~っっ」
ひしっと抱きつく。
「おやおや、どうした」
「怖かったから会いに行こうとしたら向かいの人に、一煮立ちだからダメって、トンって、それでパタンって!」
「んん? 向かいは塞の神だが、なにかしたのか? 奴は人には好意的で、いらんお節介をよく焼いていたはずだが」
「夜中に月弧さんのところに行こうとしたら、なんか見えない手で部屋にトンって、」
「ははーん」
「あ、でも忙しいからダメって意味だったのかな」
月弧さんがにんまりする。
「やきもちだな。そなたがわらわを頼ったのが羨ましいのであろ。あれは人に捨てられた神ゆえ。あやつが喋れたとはいままで知らなかった。安心しろ、あれは人に悪さはせぬ。気に障らなければ、寛大に接してやっておくれ。わらわのことは嫌いらしいが。多分、夜歩きを心配したのだろ」
「そうなんだ……、あ、歌を歌う神様もいらっしゃるんですか」
顔がしかめられる。
「……芙蓉だ。夏雪の母親。離れで臥せっておる。時々夏雪が夜中に散歩させておるのだが、うるさかったか」
「いえっ、全然。とってもきれいな優しい声だったし。ご病気なんですか」
「夫を亡くしてから心を病んでな。あれは元々気が優しすぎて、普通の人間の暮らしを望むような娘だったからな。支えを失くして、この宿が重責だったのだろう。全て投げ出してしまった」
「それは……」
わたしは、大変なところにお邪魔してしまったらしい。
月弧さんが重く吐息をつく。
「夏雪が全て背負うには早すぎる。かといって他に身内もないし、芙蓉の迎えた客もまだ残っている。宿を閉めるわけにもいかず、結局よそ者の手を借りざるを得なかった。後々、禍根にならねばよいのだが」
「あ、おまんじゅうのお寺の借金のお話ですか」
「いや、生臭どもは古くからの付き合いもあるからな、いざとなればわらわが威嚇で片付く。問題は、芙蓉の知り合いだとかいう男がしゃしゃり出てきおって、そいつがどうにも胡散臭くてな。一応、夏雪の後見人なのだが」
「えっと、悪い人なんですか?」
「普通の人間が妖怪の客を斡旋したりすると思うか? 妙な気配をさせておるし、わらわに怯むこともない。そんな人間、ろくでもないに決まっておる」
「あ、月弧さんがわたしにこの部屋を勧めたのって、」
「大口の客を紹介すると言いおってな、本来は守り神であるわらわが危険や災いを判じて迎え入れるか決めるのが筋であるのだ。あのろくでなしの口車に乗せられて、厄介が起こる前に話を潰したかった」
うーん、夏雪君、あんなに優雅で美しいのに、ものすごく苦労してるんだな………。
親も健在で、自分の進路に悩んで転がり込んでしまった自分が申し訳なくなる。
「つまらぬ内輪の愚痴を聞かせてすまんな、さ、朝食においで」
「あのねっ、月弧さん!」
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