ベル先生と混人生徒たち

清水裕

文字の大きさ
8 / 43
第一章 賢者と賢者の家族

第7話 只人王、頭を悩ませる。

しおりを挟む
 只人族の国『ゴールドソウル』、その国を現在統べる王はオスカード=ゴールドソウル。
 歳は40を過ぎた辺りなのだが……、苦労をし過ぎているからか金色の髪は前髪がかなり後退しきっており、つるつるりんと光を放っていた。
 そして同じように度重なる苦労の結果、王にしては体系は細く、胃に穴が開いているのではと思うほどである。
 その彼は、今現在頭を悩ませながら自らの玉座に座っていた。
 オスカードを悩ませる案件、それはつい数時間前にこの国の学園へと姿を現した『賢者』が自身の娘の所有物である混人を一人連れ帰ったというものだった。

(はぁ~~…………、賢者よ。お前は我に何の恨みがあると言うのだ? いや、無いかも知れないが……あるとも言い辛いか……)
「……王様、お疲れでしょうが大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫……大丈夫だ……多分」

 王の側に仕える30辺りの年齢であろう女性が凛々しい表情をオスカードへと向け、声をかける。
 その彼女へと返事を返すのだが、どう見ても平気そうには見えない。
 だから少しでも良いから休むように彼女は声をかけようとしたのだが、正面のドアの向こうから兵士の制止する声とキンキンの金切り声が響く、直後――バンと力強く開かれた。
 現在の王の悩みの種のお出ましである。

「お父様! 速くわたくしのペットを取り返しに行ってくださいませ!!」
「……ビッチ、落ち着きなさい」
「落ち着いていられるものですか! アレはわたくしのペット、誰にも与えるつもりはありませんわ! ましてや連れて行ったのは女の混人だそうじゃないですの!!」

 ドスドスと足で床を踏み鳴らしながら、ドレスを着た豚……じゃなくて、肥満女性がオスカードの下へと歩み寄ってくる。
 それを見ながら、オスカーが彼女――3代目ビッチ=ゴールドソウルを宥める。
 しかし、苛立っている彼女にはその声は届かないようであった。
 それを王の隣で見ながら、女宰相ライブリー=ブックスは内心溜息を吐く。

(はぁ……、このような醜い女性が勇者の子孫で、王女だと言うのだから世も末です。けど、何とか宥めさせないと面倒なことが起こるのは確かです……)
「ビッチ様、お父上様であられる王の前ですから、一度落ち着いてください」
「うるさいっ! たかが宰相如きがわたくしに指図しますのっ!?」
「い、いえ、そんなつもりはありません……」
(あー、駄目だ……。これ絶対無理だー……、誰か何とかしてくださいよ)

 まったく話を聞くつもりがないビッチ王女から軽く視線を反らしつつ、ライブリーは天に助けを求める。
 というか、ビッチは王女ではあるが、とやかく言える立場では無いと言うことを理解しているのだろうか? ……絶対していない。
 そんな中でまるでライブリーの願いが通じたとでも言うように、突然王の前に小さな魔方陣が現れ、周囲が警戒を露わにした。

「「「「!?」」」」
「王様、こちらへっ!!」
「「王女様、お下がりください!!」」
「な、なんなのよっ!? 一体全体なんなのよぉっ!?」

 ライブリーがオスカードとの間に入り、ビッチは現れた魔方陣に戸惑っているのか悲鳴を上げながら兵士たちに手を引かれて後ろへと下がる。
 そして、王は……玉座から移動しなかった。

「……落ち着け、皆の者。これは賢者からの連絡だ」
「「は? け、賢者……?」」
(正直見るのは20年ほど振りだが、呆れるほど信じられないものだな……)

 王の言葉にピタリと彼らの動きは止まり、一斉に王へと視線を向かわせる。
 視線を向けられている王は、この魔方陣を見たのはオスカードの父である先王が玉座についていた時代……、実に20年ぶりであることを懐かしく思いながらも、賢者からの連絡を待つ。
 そして、彼らが息をするのも忘れる中でようやく魔方陣から何かが出てきた。それは、手紙だった。

「……手紙?」
「賢者からの手紙だ。宰相、それをこちらへ」
「畏まりました」

 王の言葉に従うしかないということで、ライブリーは魔方陣から出てきた手紙をおっかなびっくりと手に取り、それを王の前へと差し出した。
 その様子が面白かったがそれを笑っては失礼と感じているのか、王は口角を小さく上げながら手紙を受け取る。

「…………ふむ、ふむ……、なるほど。……これは、ふむ……」
「お父様、手紙には何と書かれているのですか? というよりも、混人如きがお父様に手紙を送るなんて……!」

 手紙の封を開け、オスカードが中身を確認し出し……納得するように頷く。
 それを見ながらビッチが声をかけるのだが、話を聞いていないようだ。
 そしてライブリーも送られてきた手紙の内容が気になっているのか、体を正面に向けながらも視線を王へとチラチラと時折向けている。

「……これは、従うしかないようだな」
「は? お父様? 今なんと仰られましたか?」
「ビッチ、我は賢者の要請に従う。今このときを持って、勇者の子孫であるディックは賢者の家族として迎え入れられた。そのため、何人たりとも彼らへの手出しを禁ずる!」
「な…………なぁっ!? 何ですのっ!? 何ですのそれはぁ!!」

 一瞬、父親である王の言葉にビッチは間抜けな顔をしていたが、すぐに正気を取り戻し怒声を上げながらドスドスと玉座へと歩み寄る。
 歩み寄ってくる娘を王は手を前に出しながら制止させ、口を開く。

「ビッチ、お前は理解出来ないだろうが……賢者には手を出すな。そして、彼女が家族と認めた者にも決して手を出すな。これは王としての命令でもあり、親としての忠告でもあるのだ」
「お父様、何故そのようなことを言うのですかッ!? たかが混人でしょう!? 何が賢者です! 混人なのだから、跪かせて奴隷のように扱えば宜しいじゃないで――ぶぎゃ!?」

 何とも言えない表情で王であり父親でもあるオスカードはビッチにそう告げる。だが、彼女は憤慨しながら言ってはいけないようなことをつらつらと口にし――全てを言い終える前に王の平手打ちが王の間全体に響いた。
 叩かれた王女はその体勢のまま……しばらく呆然としていたが、ゆっくりと王へと視線を戻した。

「お、とう……さま? い、いきなり何をなさいますの……?」
「ビッチ……、頼むからそのような賢者を蔑むような言葉を言わないでくれ。それがお前のためなのだ……だから、頼む」
「わかり……ましたわ。それでは……失礼、します……」

 父親に叩かれたことがショックだったのか、呆然としたままビッチはトボトボと歩き出し……王の間から退室していった。
 そして、王女が出てしばらくしてから、ゆっくりと王の間の扉は閉められた。

「はぁ……、聞かれていなかっただろうか……」
「王様? いったいどうなされたのですか?」

 閉められた扉……いや、出て行った王女を見ていたであろう王は溜息を吐きながら、深く玉座に背中を預けた。
 その様子にライブリーは不思議に思ったのか問いかけた。……というよりも、あんな王女との口論で疲れるわけがないと思っているのだろう。

「……我の思い違いであれば良いのだが、もしかしたら賢者は今まさに我らのこの様子を見ていたかも知れないのだ」
「は? な、なにを仰っておられるので?」

 王の言葉に苦笑しつつも、ライブリーは意味がわからず問い返す。
 だが王の顔は真剣なものである。

「我が放っている密偵の情報だと、他の二国で一度賢者を排そうという考えが王室の一部の者たちが言い始めていたらしい。だが、いざ決行しようとか思っているところに賢者が現れ、王の面前でその者たちをひっ捕らえ、魔法を使い消し飛ばしたとのことだ」
「そのようなこと、自分は聞いたことがありません」
「当たり前だろう。このような不祥事、外に出せるはずがないのだから……。ついでに言うならば、しばらくして我が国にも見てたのを知っているとでも言うように賢者は現れ、我らへと声をかけてきた……ただの世間話だが、どう考えてもけん制という感じの物をな……」
「……………………」

 信じられない。そんな表情を浮かべながらライブリーは王を見るのだが、その表情から本当であることがわかった。
 だから、宰相は何も言えないまま、その場で立ち尽くすこととなったのだった。


 + + + + + + + + + +

 一応王女が3代目というのは、間違いではなく王の子供が女だった場合にのみビッチと名付けられるからです。
 男だった場合は普通の名前ですよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる―― ※他サイトでも掲載しています ※ちょいちょい手直ししていってます 2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...