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第一章 賢者と賢者の家族
第7話 只人王、頭を悩ませる。
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只人族の国『ゴールドソウル』、その国を現在統べる王はオスカード=ゴールドソウル。
歳は40を過ぎた辺りなのだが……、苦労をし過ぎているからか金色の髪は前髪がかなり後退しきっており、つるつるりんと光を放っていた。
そして同じように度重なる苦労の結果、王にしては体系は細く、胃に穴が開いているのではと思うほどである。
その彼は、今現在頭を悩ませながら自らの玉座に座っていた。
オスカードを悩ませる案件、それはつい数時間前にこの国の学園へと姿を現した『賢者』が自身の娘の所有物である混人を一人連れ帰ったというものだった。
(はぁ~~…………、賢者よ。お前は我に何の恨みがあると言うのだ? いや、無いかも知れないが……あるとも言い辛いか……)
「……王様、お疲れでしょうが大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫……大丈夫だ……多分」
王の側に仕える30辺りの年齢であろう女性が凛々しい表情をオスカードへと向け、声をかける。
その彼女へと返事を返すのだが、どう見ても平気そうには見えない。
だから少しでも良いから休むように彼女は声をかけようとしたのだが、正面のドアの向こうから兵士の制止する声とキンキンの金切り声が響く、直後――バンと力強く開かれた。
現在の王の悩みの種のお出ましである。
「お父様! 速くわたくしのペットを取り返しに行ってくださいませ!!」
「……ビッチ、落ち着きなさい」
「落ち着いていられるものですか! アレはわたくしのペット、誰にも与えるつもりはありませんわ! ましてや連れて行ったのは女の混人だそうじゃないですの!!」
ドスドスと足で床を踏み鳴らしながら、ドレスを着た豚……じゃなくて、肥満女性がオスカードの下へと歩み寄ってくる。
それを見ながら、オスカーが彼女――3代目ビッチ=ゴールドソウルを宥める。
しかし、苛立っている彼女にはその声は届かないようであった。
それを王の隣で見ながら、女宰相ライブリー=ブックスは内心溜息を吐く。
(はぁ……、このような醜い女性が勇者の子孫で、王女だと言うのだから世も末です。けど、何とか宥めさせないと面倒なことが起こるのは確かです……)
「ビッチ様、お父上様であられる王の前ですから、一度落ち着いてください」
「うるさいっ! たかが宰相如きがわたくしに指図しますのっ!?」
「い、いえ、そんなつもりはありません……」
(あー、駄目だ……。これ絶対無理だー……、誰か何とかしてくださいよ)
まったく話を聞くつもりがないビッチ王女から軽く視線を反らしつつ、ライブリーは天に助けを求める。
というか、ビッチは王女ではあるが、とやかく言える立場では無いと言うことを理解しているのだろうか? ……絶対していない。
そんな中でまるでライブリーの願いが通じたとでも言うように、突然王の前に小さな魔方陣が現れ、周囲が警戒を露わにした。
「「「「!?」」」」
「王様、こちらへっ!!」
「「王女様、お下がりください!!」」
「な、なんなのよっ!? 一体全体なんなのよぉっ!?」
ライブリーがオスカードとの間に入り、ビッチは現れた魔方陣に戸惑っているのか悲鳴を上げながら兵士たちに手を引かれて後ろへと下がる。
そして、王は……玉座から移動しなかった。
「……落ち着け、皆の者。これは賢者からの連絡だ」
「「は? け、賢者……?」」
(正直見るのは20年ほど振りだが、呆れるほど信じられないものだな……)
王の言葉にピタリと彼らの動きは止まり、一斉に王へと視線を向かわせる。
視線を向けられている王は、この魔方陣を見たのはオスカードの父である先王が玉座についていた時代……、実に20年ぶりであることを懐かしく思いながらも、賢者からの連絡を待つ。
そして、彼らが息をするのも忘れる中でようやく魔方陣から何かが出てきた。それは、手紙だった。
「……手紙?」
「賢者からの手紙だ。宰相、それをこちらへ」
「畏まりました」
王の言葉に従うしかないということで、ライブリーは魔方陣から出てきた手紙をおっかなびっくりと手に取り、それを王の前へと差し出した。
その様子が面白かったがそれを笑っては失礼と感じているのか、王は口角を小さく上げながら手紙を受け取る。
「…………ふむ、ふむ……、なるほど。……これは、ふむ……」
「お父様、手紙には何と書かれているのですか? というよりも、混人如きがお父様に手紙を送るなんて……!」
手紙の封を開け、オスカードが中身を確認し出し……納得するように頷く。
それを見ながらビッチが声をかけるのだが、話を聞いていないようだ。
そしてライブリーも送られてきた手紙の内容が気になっているのか、体を正面に向けながらも視線を王へとチラチラと時折向けている。
「……これは、従うしかないようだな」
「は? お父様? 今なんと仰られましたか?」
「ビッチ、我は賢者の要請に従う。今このときを持って、勇者の子孫であるディックは賢者の家族として迎え入れられた。そのため、何人たりとも彼らへの手出しを禁ずる!」
「な…………なぁっ!? 何ですのっ!? 何ですのそれはぁ!!」
一瞬、父親である王の言葉にビッチは間抜けな顔をしていたが、すぐに正気を取り戻し怒声を上げながらドスドスと玉座へと歩み寄る。
歩み寄ってくる娘を王は手を前に出しながら制止させ、口を開く。
「ビッチ、お前は理解出来ないだろうが……賢者には手を出すな。そして、彼女が家族と認めた者にも決して手を出すな。これは王としての命令でもあり、親としての忠告でもあるのだ」
「お父様、何故そのようなことを言うのですかッ!? たかが混人でしょう!? 何が賢者です! 混人なのだから、跪かせて奴隷のように扱えば宜しいじゃないで――ぶぎゃ!?」
何とも言えない表情で王であり父親でもあるオスカードはビッチにそう告げる。だが、彼女は憤慨しながら言ってはいけないようなことをつらつらと口にし――全てを言い終える前に王の平手打ちが王の間全体に響いた。
叩かれた王女はその体勢のまま……しばらく呆然としていたが、ゆっくりと王へと視線を戻した。
「お、とう……さま? い、いきなり何をなさいますの……?」
「ビッチ……、頼むからそのような賢者を蔑むような言葉を言わないでくれ。それがお前のためなのだ……だから、頼む」
「わかり……ましたわ。それでは……失礼、します……」
父親に叩かれたことがショックだったのか、呆然としたままビッチはトボトボと歩き出し……王の間から退室していった。
そして、王女が出てしばらくしてから、ゆっくりと王の間の扉は閉められた。
「はぁ……、聞かれていなかっただろうか……」
「王様? いったいどうなされたのですか?」
閉められた扉……いや、出て行った王女を見ていたであろう王は溜息を吐きながら、深く玉座に背中を預けた。
その様子にライブリーは不思議に思ったのか問いかけた。……というよりも、あんな王女との口論で疲れるわけがないと思っているのだろう。
「……我の思い違いであれば良いのだが、もしかしたら賢者は今まさに我らのこの様子を見ていたかも知れないのだ」
「は? な、なにを仰っておられるので?」
王の言葉に苦笑しつつも、ライブリーは意味がわからず問い返す。
だが王の顔は真剣なものである。
「我が放っている密偵の情報だと、他の二国で一度賢者を排そうという考えが王室の一部の者たちが言い始めていたらしい。だが、いざ決行しようとか思っているところに賢者が現れ、王の面前でその者たちをひっ捕らえ、魔法を使い消し飛ばしたとのことだ」
「そのようなこと、自分は聞いたことがありません」
「当たり前だろう。このような不祥事、外に出せるはずがないのだから……。ついでに言うならば、しばらくして我が国にも見てたのを知っているとでも言うように賢者は現れ、我らへと声をかけてきた……ただの世間話だが、どう考えてもけん制という感じの物をな……」
「……………………」
信じられない。そんな表情を浮かべながらライブリーは王を見るのだが、その表情から本当であることがわかった。
だから、宰相は何も言えないまま、その場で立ち尽くすこととなったのだった。
+ + + + + + + + + +
一応王女が3代目というのは、間違いではなく王の子供が女だった場合にのみビッチと名付けられるからです。
男だった場合は普通の名前ですよ。
歳は40を過ぎた辺りなのだが……、苦労をし過ぎているからか金色の髪は前髪がかなり後退しきっており、つるつるりんと光を放っていた。
そして同じように度重なる苦労の結果、王にしては体系は細く、胃に穴が開いているのではと思うほどである。
その彼は、今現在頭を悩ませながら自らの玉座に座っていた。
オスカードを悩ませる案件、それはつい数時間前にこの国の学園へと姿を現した『賢者』が自身の娘の所有物である混人を一人連れ帰ったというものだった。
(はぁ~~…………、賢者よ。お前は我に何の恨みがあると言うのだ? いや、無いかも知れないが……あるとも言い辛いか……)
「……王様、お疲れでしょうが大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫……大丈夫だ……多分」
王の側に仕える30辺りの年齢であろう女性が凛々しい表情をオスカードへと向け、声をかける。
その彼女へと返事を返すのだが、どう見ても平気そうには見えない。
だから少しでも良いから休むように彼女は声をかけようとしたのだが、正面のドアの向こうから兵士の制止する声とキンキンの金切り声が響く、直後――バンと力強く開かれた。
現在の王の悩みの種のお出ましである。
「お父様! 速くわたくしのペットを取り返しに行ってくださいませ!!」
「……ビッチ、落ち着きなさい」
「落ち着いていられるものですか! アレはわたくしのペット、誰にも与えるつもりはありませんわ! ましてや連れて行ったのは女の混人だそうじゃないですの!!」
ドスドスと足で床を踏み鳴らしながら、ドレスを着た豚……じゃなくて、肥満女性がオスカードの下へと歩み寄ってくる。
それを見ながら、オスカーが彼女――3代目ビッチ=ゴールドソウルを宥める。
しかし、苛立っている彼女にはその声は届かないようであった。
それを王の隣で見ながら、女宰相ライブリー=ブックスは内心溜息を吐く。
(はぁ……、このような醜い女性が勇者の子孫で、王女だと言うのだから世も末です。けど、何とか宥めさせないと面倒なことが起こるのは確かです……)
「ビッチ様、お父上様であられる王の前ですから、一度落ち着いてください」
「うるさいっ! たかが宰相如きがわたくしに指図しますのっ!?」
「い、いえ、そんなつもりはありません……」
(あー、駄目だ……。これ絶対無理だー……、誰か何とかしてくださいよ)
まったく話を聞くつもりがないビッチ王女から軽く視線を反らしつつ、ライブリーは天に助けを求める。
というか、ビッチは王女ではあるが、とやかく言える立場では無いと言うことを理解しているのだろうか? ……絶対していない。
そんな中でまるでライブリーの願いが通じたとでも言うように、突然王の前に小さな魔方陣が現れ、周囲が警戒を露わにした。
「「「「!?」」」」
「王様、こちらへっ!!」
「「王女様、お下がりください!!」」
「な、なんなのよっ!? 一体全体なんなのよぉっ!?」
ライブリーがオスカードとの間に入り、ビッチは現れた魔方陣に戸惑っているのか悲鳴を上げながら兵士たちに手を引かれて後ろへと下がる。
そして、王は……玉座から移動しなかった。
「……落ち着け、皆の者。これは賢者からの連絡だ」
「「は? け、賢者……?」」
(正直見るのは20年ほど振りだが、呆れるほど信じられないものだな……)
王の言葉にピタリと彼らの動きは止まり、一斉に王へと視線を向かわせる。
視線を向けられている王は、この魔方陣を見たのはオスカードの父である先王が玉座についていた時代……、実に20年ぶりであることを懐かしく思いながらも、賢者からの連絡を待つ。
そして、彼らが息をするのも忘れる中でようやく魔方陣から何かが出てきた。それは、手紙だった。
「……手紙?」
「賢者からの手紙だ。宰相、それをこちらへ」
「畏まりました」
王の言葉に従うしかないということで、ライブリーは魔方陣から出てきた手紙をおっかなびっくりと手に取り、それを王の前へと差し出した。
その様子が面白かったがそれを笑っては失礼と感じているのか、王は口角を小さく上げながら手紙を受け取る。
「…………ふむ、ふむ……、なるほど。……これは、ふむ……」
「お父様、手紙には何と書かれているのですか? というよりも、混人如きがお父様に手紙を送るなんて……!」
手紙の封を開け、オスカードが中身を確認し出し……納得するように頷く。
それを見ながらビッチが声をかけるのだが、話を聞いていないようだ。
そしてライブリーも送られてきた手紙の内容が気になっているのか、体を正面に向けながらも視線を王へとチラチラと時折向けている。
「……これは、従うしかないようだな」
「は? お父様? 今なんと仰られましたか?」
「ビッチ、我は賢者の要請に従う。今このときを持って、勇者の子孫であるディックは賢者の家族として迎え入れられた。そのため、何人たりとも彼らへの手出しを禁ずる!」
「な…………なぁっ!? 何ですのっ!? 何ですのそれはぁ!!」
一瞬、父親である王の言葉にビッチは間抜けな顔をしていたが、すぐに正気を取り戻し怒声を上げながらドスドスと玉座へと歩み寄る。
歩み寄ってくる娘を王は手を前に出しながら制止させ、口を開く。
「ビッチ、お前は理解出来ないだろうが……賢者には手を出すな。そして、彼女が家族と認めた者にも決して手を出すな。これは王としての命令でもあり、親としての忠告でもあるのだ」
「お父様、何故そのようなことを言うのですかッ!? たかが混人でしょう!? 何が賢者です! 混人なのだから、跪かせて奴隷のように扱えば宜しいじゃないで――ぶぎゃ!?」
何とも言えない表情で王であり父親でもあるオスカードはビッチにそう告げる。だが、彼女は憤慨しながら言ってはいけないようなことをつらつらと口にし――全てを言い終える前に王の平手打ちが王の間全体に響いた。
叩かれた王女はその体勢のまま……しばらく呆然としていたが、ゆっくりと王へと視線を戻した。
「お、とう……さま? い、いきなり何をなさいますの……?」
「ビッチ……、頼むからそのような賢者を蔑むような言葉を言わないでくれ。それがお前のためなのだ……だから、頼む」
「わかり……ましたわ。それでは……失礼、します……」
父親に叩かれたことがショックだったのか、呆然としたままビッチはトボトボと歩き出し……王の間から退室していった。
そして、王女が出てしばらくしてから、ゆっくりと王の間の扉は閉められた。
「はぁ……、聞かれていなかっただろうか……」
「王様? いったいどうなされたのですか?」
閉められた扉……いや、出て行った王女を見ていたであろう王は溜息を吐きながら、深く玉座に背中を預けた。
その様子にライブリーは不思議に思ったのか問いかけた。……というよりも、あんな王女との口論で疲れるわけがないと思っているのだろう。
「……我の思い違いであれば良いのだが、もしかしたら賢者は今まさに我らのこの様子を見ていたかも知れないのだ」
「は? な、なにを仰っておられるので?」
王の言葉に苦笑しつつも、ライブリーは意味がわからず問い返す。
だが王の顔は真剣なものである。
「我が放っている密偵の情報だと、他の二国で一度賢者を排そうという考えが王室の一部の者たちが言い始めていたらしい。だが、いざ決行しようとか思っているところに賢者が現れ、王の面前でその者たちをひっ捕らえ、魔法を使い消し飛ばしたとのことだ」
「そのようなこと、自分は聞いたことがありません」
「当たり前だろう。このような不祥事、外に出せるはずがないのだから……。ついでに言うならば、しばらくして我が国にも見てたのを知っているとでも言うように賢者は現れ、我らへと声をかけてきた……ただの世間話だが、どう考えてもけん制という感じの物をな……」
「……………………」
信じられない。そんな表情を浮かべながらライブリーは王を見るのだが、その表情から本当であることがわかった。
だから、宰相は何も言えないまま、その場で立ち尽くすこととなったのだった。
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