ベル先生と混人生徒たち

清水裕

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第一章 賢者と賢者の家族

第24話 3人、採取をする。

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 しばらく苔の生した巨大な木の根の下を潜ったり、木々の隙間から射し込む光によって育った花を見たりしながら、ベルを先頭に3人は森の中を歩いていた。
 時折、湿気を吸ってぬかるんだ地面にディックが足を滑らせたり、クラリスが尻餅をしたのだが特に酷いことにはならなかった。

「う、うわっ!? あ、危なかった……」
『あはは、でぃっくおにちゃんずるってころんだ~! ――はうっ! えへ~、くらりすもころんじゃった~!』

 けれどそういうのも新鮮だったようで、クラリスはとても楽しそうに転びそうになったディックや転んでしまった自分を楽しそうに笑っていた。
 そんな2人を見ながら、ベルは戻ったら2人をお風呂に入れて……クラリスの服を新しくしようと考え始めていた。

(……いっそのこと、メイド服でも創ってこの子に着せようかしら? ……幼女メイドって、何処の風俗店とか?)

 考え始めた自分の考えに苦笑していると、木々の香りの中に混ざるようにして爽やかな香りが混ざるのを感じた。
 それにディックとクラリスも気づいたようで、周囲を見渡し始める。

「ん? んん? この匂いって、何だ?」
『いいにおい~!』
「……ああ、ディックの居た魔法学園って基本的に薬草は乾燥した物だったし、ポーションになったのがあるぐらいだったものね。……かなり品質の悪い」

 首をかしげながらスンスンを鼻を鳴らすディックと、キョロキョロ見回すクラリスを見ながらベルは思い出したように言う。
 というか言ってて思い出した彼女は偶に訪れる各国のポーションなどの魔法薬の製作技術と品質を思い出しているのだが、一番は妖人のシルバーハートで、二番が只人のゴールドソウル、そして最後に獣人のアイアンボディだったのを思い出す。
 けれど彼女にとってはどれもドングリの背比べであり、アイアンボディに至っては地面に生えた薬草をそのまま齧って回復が主流であることを思い返していた。
 ……まあ、今はこの状況と関係ないのでその考えはポイ捨てをする。
 そしてベルは採取作業を始めることにした。

「2人とも、こっちに来てちょうだい」
『どうしたのベルママ~?』
「な、なに?」

 ベルに呼ばれ、2人は彼女の元へと向かうと……ベルはそこら中に群生している同じような草を指した。
 形は三角形のような形の草で、良く見れば日の光を浴びて成長していることがわかった。
 そして、先ほどから感じる爽やかな香りはその草たちから放たれていることに2人は気づいた。

「2人とも、この草はね一般的には薬草と呼ばれている物よ。まあ正式にはヒールグラスっていう名前があるんだけどね」

 ベルの言葉にこくんと頷きながら、2人はヒールグラスを見る。
 その様子を見つつ、ベルは説明を続ける。

「このヒールグラスは、若芽を使うことで回復効果が上がるから、採取するときは若芽……そうね、ここから切ったら良いわね」
「……あれ? そういえば、おれ、学園ではこばされた荷もつにこんな草を見たことがあったかも」
「ディック、そのとき運んだそれはどんな物だったか覚えているかしら?」

 そうベルが問いかけると、ディックは記憶を手繰り寄せてどんな草だったのかを思い出し始めているのか目を閉じていた。
 そんな彼を真似するようにクラリスも目を閉じているのだが、とっても愛らしい。
 そして、少しだけムムムと眉を寄せてから……思い出したのかディックは目を開けた。

「たしか、乾燥してたけど……根っこまであった」
「そうよね。ちまちま若芽だけ採らずに一気に引っこ抜いたほうが効果も良いに違いないって思っているからそうしているのよ。あの国は……」

 ディックの思い出した言葉を聞きながら、ベルは呆れたように返事をする。
 その様子にディックは首を傾げ、真似するようにクラリスもコテンとした。

「このヒールグラスっていう薬草は若芽に回復作用が含まれているんだけど、下のほうの成長しきった物は効果はまったく無くなってしまっているの」
「それって、どういうことだ?」
『ん~~??』
「つまりね、若芽だけをきちんと切り揃えてポーションを作ったらちゃんとした効果があるのに、面倒臭いっていうのを理由にしてるのか、それとも全部を使ったほうが効果が抜群と考えてしまったのか全体を使ってポーションを作ったりすると効果が格段に落ちて品質も劣化してしまうのよ」

 要するに若芽だけで作ると品質が高く回復量も高いポーションが出来るのだが、成長しきったヒールグラス全体を使うと逆に量が多くなる代わりに品質も落ちて回復効果のある薬効も溶け出して行き……技術が駄目だと雀の涙も回復しない物となるのだ。
 ……下処理が大事という物だ。

「だから2人とも、ヒールグラスを採取をするときは若芽を手で摘むか、ハサミで切ってちょうだい。たとえば、こんな感じにね」
『ふむふむ~? ほうほう~……わかった~~!』
「わ、わかった」

 ベルが実演するように若芽を指で圧し折ったり、ハサミでちょきんと切っていく。
 それをジ~ッとクラリスは見ており、時折声に出していた。
 ディックのほうも出来るかどうか不安なのか、自信なさげに頷く。
 彼らを見ながら、ベルは口を開いた。

「それじゃあ、やってみましょうか2人とも」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「違うわディック。それじゃあ長すぎるわ」
「え、じゃ……じゃあ、これぐらいとか?」
「うん、それぐらいね。もしくはほんの少しだけ下に下げても良い……かしらね?」
「わ、わかった……――っ!?」
「ディック、少し力を入れ過ぎているわよ? それじゃあ、茎が潰れて汁が零れちゃうわ」

 手頃な長さで手折ろうとしているディックへとベルが近づくと、ディックは戸惑いつつもヒールグラスに当てた指を軽く移動させる。
 すると彼女からのアドバイスが来て、この辺りだと考え始めた。
 だが、説明にヒートアップしていたのか、それとも近づかないと教えられないからかベルはディックの背中にほぼ密着するように接近しており、それに気づいたディックは驚いた顔をしながらポキッとヒールグラスを手折った。
 その際、指に力を込めすぎていたからか、ベルが言ったようにディックの指に薬効成分が含まれた汁が滲み出たのだが……それを謝る余裕が彼には無かった。
 何故なら、近づかれたベルから漂っているのだろうか、ヒールグラスの爽やかな匂いや森の清々しい匂いとは違った……何というか形容しがたい甘い匂いが彼の鼻を擽ったからだ。

(ベ、ベベベベベッベルッ!? ち、ちかづきすぎだって思うんだけど……!? それに、なんだかいいにおいが……って、なんか変なかんじだぁぁぁ!!)
「もっと優しく茎を摘んで……ディック? どうかしたの? 具合でも悪いのかしら?」
「えっ!? あ、……その……な、なんでもないっ!」
「そうなの? 具合が悪かったら本当に言ってちょうだいね?」

 顔を赤くしながら否定するディックを心配そうに見ているベルだったが、それはクラリスによって終わりを告げた。
 彼女は両手いっぱいに摘み取ったヒールグラスを手にしてニコニコ笑顔で元気いっぱいにやって来た。

『ベルママ~、いっぱい採ってきたよ~~!』
「あら、クラリス。ご苦労様です。……うーん、こっちはもうちょっと切ったほうが良いかしら」
『ん~~?』

 差し出されたヒールグラスを見ながらベルはそう告げると、いまいち分からないようでクラリスは首を傾げるように捻る。
 そんな彼女を見ながら、ベルはディックから離れる。

「よしっ、クラリス。今度は私と一緒に採取をしましょうっ」
『ベルママとっ!? わ~い、やるやる~~!』
「ええ、それじゃあ行きましょうか。ディックも摘み取りを頑張ってくださいね」
「ふぁっ!? あ、ああ、わ、わかった……!」

 ヒールグラスを籠の中へと入れて空いた両手を天へと掲げながらクラリスは喜び、そんな彼女の元へとベルは移動するために立ち上がってディックから離れる。
 そのとき、ドギマギしていた彼は話しかけられ、体を震わせながらも返事を返した。
 そんな彼を見ながら、ベルは首を傾げながらも変な子と思っているのか微笑んだ。

(――っ!? うっうぅ……、だからなんなんだよ。この変なかんじはぁ……!!)

 ベルの微笑みにドギマギしつつも、その湧き上がるモヤモヤとした気持ちを誤魔化すために彼は必死に周囲にあるヒールグラスの若芽を摘んでいった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 そしてしばらく経ってこの群生地で育っていたヒールグラスの若芽を採取し終えたことを確認すると、ディックは立ち上がり背を伸ばした。
 隣ではクラリスもばてたようで、疲れた表情をしているのだが……同じように背をうんと伸ばしていた。

「んぁ~~…………、からだがいたい……」
『がんばったけどつかれたよ~~……』
「2人ともお疲れさま。ちょっと待っててね」

 そんな2人に優しい表情を向けながら、ベルは空間からなめした大きな動物の皮を取り出し、地面に敷くと昼食であるサンドウィッチが載せられた皿を取り出し、同じように樹のコップを取り出す。
 続いて、彼女が作り出した温かい飲み物を冷まさずに保存出来る瓶も取り出すとコップへと注いだ。
 こぽこぽと音を立てながら、温かな湯気を上げる琥珀色のお茶がコップへと注がれ……芳醇で爽やかな香りが周囲に広がった。

「うん、良い香り。……さ、2人とも。昼食にしましょうか」
『ごはんっ!? いいにおい~~!』
「もうそんなに時間がたってたのか?」

 お茶の香りに釣られたのか、2人の視線がベルのほうに向くとクラリスは笑顔でサンドウィッチに向けられ、ディックは時間の経過に驚いているようだった。
 やはり森の中では正確な時間という物は分からない物である。

「ええ、もうお昼の時間を少しだけ過ぎてるのよ。……まあ、目安的な感覚だけどね。けど、お腹空いてるのは事実だと思うから食べましょうか」
「そういうものなのか……。いただきます」
『いただきま~すっ!』

 ベルの言葉に勧められて、2人は昼食を食べ始めた。
 今日のサンドウィッチの具材は子供が大好きな卵とハム、そしてレタスとトマトそっくりな野菜を挟んだ物だ。
 それを2人は美味しそうに食べており、ベルは嬉しいようで笑みを浮かべていた。
 ちなみに具材の味付けに使われてるマヨネーズはベルが作った物である。

「お、おいしい……」
『おいし~~~~!!』
「あらあら、食べかすが着いてるわよ。ジッとしていてねクラリス……はい、取れたわ」
『ベルママ、ありがと~♪』

 美味しそうに食べる2人を見ているベルだったが、口いっぱいに食べかすを付けたクラリスに苦笑しながらハンカチを取り出し、彼女の口元を拭う。
 拭われた彼女は笑顔でお礼を言うとすぐにサンドウィッチをサイド食べ始める。
 そんな中、ディックが取っていた食事の手を止めた。

「……あれ? そういえば、さっきまでつかれてたのに……力が、もどってる?」
「気づいたのね? 実はね、このお茶に使われている葉はヒールグラスの成長しきっているところを使った物なの」

 ディックが気づいたことが嬉しいのか微笑みながら、ベルは答えを口にする。
 その言葉に、ディックは驚いた表情をした。

「え? 成長したところって、回復こうかがないって?」
「ええ、大きな回復効果は無いけど、爽やかな香りと酸味があるから茶葉にしたら抜群なの。それに、たいした回復効果は無くても少しだけはあるって思えば良いしね」
「そういう、ものなのか?」
「ええ、そういうものなのよ」

 良く分かっていない。そんな表情をしながらディックが口にするとベルはそう返しながらお茶を飲む。

 ……こうして、3人の採取作業は終わったのだった。
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