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夜の遊園地-4
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来訪を告げると同時に、徹也はスニーカーを脱いで、どたどたと階段をあがっていった。
徹ちゃん、と呼び止める夏希の言葉は聞こえていなかった。
「ああ、いらっしゃい」
左手の居間の襖が開き、義父の雄一が出てきた。
齢七十の雄一は、グレーのセーターに黒いコーディロイのズボンを履いていた。
オールバックにセットされた髪は見事な白髪で、黒縁の丸いメガネに似合っている。
「こんばんはお義父さん。こんな時間にすいません」夏希は頭を下げた。
「いや、こんな時間に電話を掛けたのは私だ。無理をさせてしまって済まないね。夏希さん、調子はどうだい?」
「ええ、順調です」
「そうか、こんな所で何だから早く上がりなさい。体が冷えたら駄目だから」
それでは、と言って夏希は脱ぎ散らかした徹也のスニーカーをきちんと並べてから家に上がった。
「コタツは電気来てないから足を崩して楽にしなさい。何か温かいのでも飲むかね」
通された畳の居間は適度に暖められていた。
実家の居間にもアパートにあるのと同じ灯油ヒーターに火が入っていて、これまた同じく、やかんからしゅんしゅんと湯気が出ていた。
冷えた体を心配する同じ言葉と、同じ灯油ヒーターにやかん。
親子だなぁと夏希は笑ってしまった。
「お言葉に甘えます。飲み物は白湯を頂けますか?」
夏希はチェックのバッグを隣に置き、座布団に座ってコタツ布団の中に足を突っ込んだ。
「白湯でいいのかい?」
「お茶はカフェインが入っているので」
「ああ、そうかそうか。男やもめは無知で困ったもんだ」
雄一は苦笑しながら湯気を立てているヤカンを持つと、お湯を湯呑に注ぎ、夏希の前に置いた。
「赤ちゃんは今どうしてる?」
「今は寝てます。でもずっと寝てますよ」
夏希はコタツ布団でも覆い尽くされない大きさのお腹を笑って、軽くぽんっと叩きながら言った。
「そうか」
雄一は湯呑から一口啜った。そして湯呑を置いてから口を開いた。
「少し戸惑っているでしょ。意味が分からないって」
雄一の言葉に夏希は素直に頷いた。
「正直私にも上手く説明できないんだ。それに誰にも信じてもらえない。
もし他人様に話したとしたら夢でも見ているかと相手にされないだろう」
「あの・・・徹ちゃんが言っていましたけど『遊園地』が現れるんですか?」
雄一は黙ってうなずいた。
夏希は表情には出さなかったがやはりなにを言っているのか理解できない。
雄一がゆっくりと口を開いた。
「最初は裕子が生まれる少し前だった」
裕子とは徹也の妹だ。とても活発な女の子で、兄の徹也とは正反対の性格。
生まれてくる赤ちゃんも楽しみにしていて「早く伯母さんって言われたい」と夏休みに帰省した時に、笑いながら言っていたのを夏希は思い出した。
「徹也が『三階に遊園地があるよ』って私達を呼びに来たんだ」
雄一は静かに話を続けた。
「もちろん我が家には三階なんて無い。子供の言うことだと最初は相手にしなかったんだが、あまりにも徹也がしつこくてね。徹也は親の言うことを聞く子でね、私が黙りなさいと言えば黙る子なのに、あの時は全く言うことを聞かなかった。それに目も真剣そのものだった。ついに私は根負けしてね。
そこであの子と一緒に二階に行くと、あったんだよ。三階へ続く階段が」
徹ちゃん、と呼び止める夏希の言葉は聞こえていなかった。
「ああ、いらっしゃい」
左手の居間の襖が開き、義父の雄一が出てきた。
齢七十の雄一は、グレーのセーターに黒いコーディロイのズボンを履いていた。
オールバックにセットされた髪は見事な白髪で、黒縁の丸いメガネに似合っている。
「こんばんはお義父さん。こんな時間にすいません」夏希は頭を下げた。
「いや、こんな時間に電話を掛けたのは私だ。無理をさせてしまって済まないね。夏希さん、調子はどうだい?」
「ええ、順調です」
「そうか、こんな所で何だから早く上がりなさい。体が冷えたら駄目だから」
それでは、と言って夏希は脱ぎ散らかした徹也のスニーカーをきちんと並べてから家に上がった。
「コタツは電気来てないから足を崩して楽にしなさい。何か温かいのでも飲むかね」
通された畳の居間は適度に暖められていた。
実家の居間にもアパートにあるのと同じ灯油ヒーターに火が入っていて、これまた同じく、やかんからしゅんしゅんと湯気が出ていた。
冷えた体を心配する同じ言葉と、同じ灯油ヒーターにやかん。
親子だなぁと夏希は笑ってしまった。
「お言葉に甘えます。飲み物は白湯を頂けますか?」
夏希はチェックのバッグを隣に置き、座布団に座ってコタツ布団の中に足を突っ込んだ。
「白湯でいいのかい?」
「お茶はカフェインが入っているので」
「ああ、そうかそうか。男やもめは無知で困ったもんだ」
雄一は苦笑しながら湯気を立てているヤカンを持つと、お湯を湯呑に注ぎ、夏希の前に置いた。
「赤ちゃんは今どうしてる?」
「今は寝てます。でもずっと寝てますよ」
夏希はコタツ布団でも覆い尽くされない大きさのお腹を笑って、軽くぽんっと叩きながら言った。
「そうか」
雄一は湯呑から一口啜った。そして湯呑を置いてから口を開いた。
「少し戸惑っているでしょ。意味が分からないって」
雄一の言葉に夏希は素直に頷いた。
「正直私にも上手く説明できないんだ。それに誰にも信じてもらえない。
もし他人様に話したとしたら夢でも見ているかと相手にされないだろう」
「あの・・・徹ちゃんが言っていましたけど『遊園地』が現れるんですか?」
雄一は黙ってうなずいた。
夏希は表情には出さなかったがやはりなにを言っているのか理解できない。
雄一がゆっくりと口を開いた。
「最初は裕子が生まれる少し前だった」
裕子とは徹也の妹だ。とても活発な女の子で、兄の徹也とは正反対の性格。
生まれてくる赤ちゃんも楽しみにしていて「早く伯母さんって言われたい」と夏休みに帰省した時に、笑いながら言っていたのを夏希は思い出した。
「徹也が『三階に遊園地があるよ』って私達を呼びに来たんだ」
雄一は静かに話を続けた。
「もちろん我が家には三階なんて無い。子供の言うことだと最初は相手にしなかったんだが、あまりにも徹也がしつこくてね。徹也は親の言うことを聞く子でね、私が黙りなさいと言えば黙る子なのに、あの時は全く言うことを聞かなかった。それに目も真剣そのものだった。ついに私は根負けしてね。
そこであの子と一緒に二階に行くと、あったんだよ。三階へ続く階段が」
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