夜の遊園地

桐山密

文字の大きさ
6 / 9

夜の遊園地-6

しおりを挟む
 まだ見ぬ子との会話に夏希は思わず微笑む。

 ――この子は怖がっていない。
 
 それが分かると、重くのしかかっていた恐怖心が軽くなった。
「行こう」徹也が聞いてきた。
 夏希は、うんと無言で頷きセーターを更に強く握った。
 それが合図となり、徹也を先頭に歩み始めた。
 板張りの古い廊下は、鶯張りみたいに一歩踏むたびにぎしぎしと鳴る。
 今は使う人がいない二つの部屋の前を通り過ぎ、廊下の突き当たりに向かう。
 徹也の動きが止まった。
 二人はドアの目の前に着いた。
 夏希は徹也の肩越しにドアを見た。なんの変哲もない木製の普通のドアに、普通の銀色のドアノブ。
 徹也はそのドアノブに手をかけ右に廻した。
 かちゃっと音が聞こえる。
 そしてそのまま奥へとドアノブを押した。
 ドアの向こうには、上へと続く階段があった。

 階段は今さっき上ってきたのと同じ木製で、階段の両側も普通の板張りだった。
 あまりの普通さに夏希は拍子抜けした。
 徹也が階段へ一歩を踏み出し夏希も続く。
 数段上った所で、夏希は徹也の背中だけ見ていた視線を上に移した。階段のその先を確かめるために。
 結果はすぐに分かった。あと数十段で階段は終わり、板張りの天井になるが、その天井にはドアが付いている。
 このまま行けば徹也はドアを開けるのではなく、
 これでいいのかしらと夏希は思った。
 その時徹也が「止まるね」と言って止まった。
「夏希、赤ちゃんは今どうしてる?」
 振り向いて徹也が尋ねた。
「大丈夫よ、また寝ちゃったみたい。静かになってるわ」夏希はお腹に手を当てた。
「そう。あのね、これからまた不思議な事が起きるけど驚かないでね」
「え?何が起こるの?」
「一つはもう起きているはずだけど、俺にはあまり実感ないんだ。ねぇ夏希、体軽くなってない?」
「え?」と意外な事を言われて夏希は背筋を何故か伸ばした。
 あれ?と気付く事があった。息切れしていない。
 ついさっき上ったこの家の階段でも息切れをした。アパートの階段もやっとの思いで上っている。
 それが今全く感じない。
「お袋の時もそうだった」
 夏希の表情で、徹也は変化があった事を悟った。
「裕子ちゃんの時?」
「うん、だんだん思い出してきた。あの色の変わった階段見える?」
 徹也が指差した四段程上がった所は、そこだけくすんだ朱色になっていた。
「あそこを過ぎると不思議な事が起きる。でも心配ないからね」
「分かった」
 徹也の声には不安が無かった。夏希ももう不安は無かった。
 一歩一歩上っていく。そして朱い階段に差し掛かる。
 徹也が朱い踏み板を踏み、夏希が続く。
 
 くわぁんと不思議な音が響いた。
 
 何かが大きく変わった。
 それは分かった。
 でも何が変わったのか夏希にはすぐには分からなかった。
 一瞬の静止した時間の後、夏希はそれが明確に分かった。
 
 ――何これ?

 不思議な事にも程がある。夏希は呆れた。さっきまで上っていた階段が、今は下りの階段に変わっていた。
 そして天井にあったドアが下り階段の先にあった。
「徹ちゃん」
「ん?」
「だんだん面白くなってきた」
 徹也は笑った。「だろ。もう無茶苦茶」
 二人は残り少なくなった階段をゆっくりと下りていき、ドアの前に辿り着いた。
 徹也がドアノブを回した。
 かちり、と音が鳴る。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

【アラウコの叫び 】第4巻/16世紀の南米史

ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎日19:20投稿】 4巻は、序盤は「推理もの」、中盤から後半は「ロマンスもの」が展開されます。 ・サンティアゴで起こる「事件」と「裁き」 ・「アンデスの悪魔」として悪名を轟かせた狂気の老人カルバハルの存在感 ・ニドス家の兄妹の「行く末」 ・イネスとバルディビアとの「出逢い」と「結末」 大きく分けてこの様な展開になってます。 ------------------- 1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。 マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、 スペイン勢力内部での覇権争い、 そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。 ※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、 フィクションも混在しています。 動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。 HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。 公式HP:アラウコの叫び youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス insta:herohero_agency tiktok:herohero_agency

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...