夜の遊園地

桐山密

文字の大きさ
8 / 9

夜の遊園地-8

しおりを挟む
「あの時、確か俺はメリーゴーラウンドに親父と乗ってその後クルクル回る、えっと何だっけ?」
「コーヒーカップ?」
「そうそうコーヒーカップ。それに乗った」
「お義母さんは?」
「近くのベンチに座って俺達を見てたよ。一緒に乗ろうって言ったけど激しく動く乗り物は苦手だって言って」
徹也は言いながらその風景を思い出してきた。母はニコニコしながら、ベンチに座りずっと俺と親父を見ていた。
「裕子の時さ、お袋悪阻が酷かったんだ。子供心にも覚えているよ。ずっと寝たきりでさ、ちょっと食べ物を口にしただけでげーげー吐くし」
「お義母さん、そうだったんだ」
 夏希は生前の義母の顔を思い浮かべた。徹也と付き合い始めた頃、実家に遊びに行った時初めて会ったが痩せて小柄な女性だったという第一印象がある。
 義母の葬式の時に家族のアルバムを見せてもらったが昔から痩せた人で、体力の必要な出産や妊娠中は大変だったろうなと思う。
 夏希は幸い悪阻は軽かったが、義母と同じような悪阻の苦しみを味わっている友人の話を聞くたびに、自分は本当に恵まれていると思った。
「だけどこっちに居る時はお袋が元気になってさ。階段の時もそうだったけど体が軽くなって気持ち悪さも全然なくなったって言ってた。すげー楽しそうだったなぁ。今どう?体軽い?」
「そうね、あんまり実感ないわ。でも不思議なの。あのね徹ちゃん、驚かないでね」
「え、どうしたの」
「驚かないでよ」
「う……うん」訳が分からないが徹也は心構えをした。
「赤ちゃんね、今お腹の中にいないの」

     
 大声を出そうとした徹也の口を夏希が待ってましたとばかりに抑えた。
「驚かないって言ったでしょ」
 予想してたとは言え、そのまんまの反応を見せる徹也がおかしくて夏希は笑いだしそうだった。
 徹也は夏希の手をどかそうとするが夏希は「だめ、声出さないって約束する?」と聞いてきた。
 徹也は仕方なく頷いた。夏希は手をどかした。
「お腹の中に居ないってどういうことさ?」
 緊迫した小声で徹也が聞いてくる。
「居ないんだけど、居るの。だから心配しないで」
「居るの? 居ないの?」
「居ないけど居るの」
 禅問答だった。夏希は徹也の千変万化する表情にお腹を抱えて笑ってしまった。
「夏希ぃ」
 優しい徹也の性格を知っている夏希は、これ以上徹也を不安にさせるのはあまりにも不憫だと思い、笑いを堪えて説明する事にした。
「本当に心配しないで。多分お義母さんの時も同じこと起きていたと思う。悪阻から解放された喜びもあったと思うけど、なんて言うのかな。
 お腹の中の赤ちゃんも、ここではお腹から出て行って、どこかで遊んでいるんだなって分かるの。上手く説明できないけど、そういうこと」
「そういうことって」
「これはね、母親だけが分かる特権なのです」
 夏希は腰に両手を当て胸を反って得意げな顔をした。
 徹也はその顔を見て笑ってしまった。そりゃ男親の俺は分からないし敵わないな。徹也は降参した。
「ねぇ徹ちゃん」
 また夏希が何か言いそうな顔になったが、徹也は夏希が何を言うのか大体見当がついていた。
「次は何だい?」
「メリーゴーランド乗りたい。妊娠してからずっと慎重に動いていたからちょっと刺激が欲しい」
「言うと思った」
 二人は目を合わせて笑った。
 そして手を繋ぎ人々の笑い声が絶えないメリーゴーランドが回る場所へ向かって歩いていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

【アラウコの叫び 】第4巻/16世紀の南米史

ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎日19:20投稿】 4巻は、序盤は「推理もの」、中盤から後半は「ロマンスもの」が展開されます。 ・サンティアゴで起こる「事件」と「裁き」 ・「アンデスの悪魔」として悪名を轟かせた狂気の老人カルバハルの存在感 ・ニドス家の兄妹の「行く末」 ・イネスとバルディビアとの「出逢い」と「結末」 大きく分けてこの様な展開になってます。 ------------------- 1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。 マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、 スペイン勢力内部での覇権争い、 そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。 ※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、 フィクションも混在しています。 動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。 HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。 公式HP:アラウコの叫び youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス insta:herohero_agency tiktok:herohero_agency

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...