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2. 護衛任務、屋上にて
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「あー、それは災難だったね」
屋上で那由の話を聞いた小柄な少女は柵に身体を預けながら足を遊ばせた。
「素直に、『なんて光栄なのかしら、由貴子さまにお声を掛けていただけるなんて! 嬉しくて気を失いそうですわ!』とか言っておけば、その場でただの同級生Aに戻ることができたのに」
「正解を教えていただけて感謝します。ぜひ実践したいので、時間を巻き戻していただけませんか」
あいにく知り合いにタイムマシンを持っている人はいなくてね、と小柄な少女はまた足を遊ばせた。
「そうだ。由貴子さまご本人に頼んでみれば? もしかしたら叶えてもらえるかも」
那由はため息をつくと、食べ終えた弁当箱にふたをした。手早く包み、小柄な少女と場所を変わる。
「美和さんは、由貴子さまとお話したことはあるのですか?」
「あいさつ程度はね。でも、それだけ。存在を認識されているかは怪しいかな。お屋敷の一侍女としても、同じ学校の先輩としても」
那由の顔に浮かんだ表情を見て、美和は肩をすくめた。
「自分が興味を持つ――というか、自分が存在を認識するものを選ぶことができる。それが許されるのが由貴子さまなの」
そしてね、と代わって休憩に入った美和は自分のお弁当箱を開けた。
「那由はその由貴子さまから一緒に帰るように誘われたの。断るという選択肢はないわ。逃げるという行動をとることはできるけれども、それをすれば一週間もしないであなたはこの学校を追い出されるわよ」
「由貴子さま、そんなことをするんですか?」
「するのは取り巻き。由貴子さまの視界から不快なものを取り除くことこそ我が使命……みたいになっている子が何人もいるからね」
弁当を食べながら美和がためいきをついた。
「なんというドS集団……」
「ドMじゃないかな? 由貴子さまの一挙手一投足からその内心を推し量り、そして勝手に行動する。上手くいっても褒められはせず、下手をうてば一顧だにせず捨てられる。それでも由貴子さまが自分を見てくれたという喜びに震えるような連中だよ」
「本当に女王様なんですね」
那由はため息と共に足元に目を落とした。折りたたまれた長傘が愛想なく転がっている。空は晴天。そして今日の降水確率はゼロ。
にもかかわらず、那由はそれを手に取った。
「手伝おうか?」
いえ、と美和の言葉に首を振ると、那由は宙をにらんだ。
子供が遊びで傘を銃に見立てるようにそれを構えた。持ち手に指を滑らせる。そこに引き金があるかのように、人差し指が虚空に掛かる。
傘先がとある木の先端に向けられた。
那由の指が動いた。
次の瞬間、狙いの先にあった空間がわずかに歪んだ。一瞬跳ねるように揺れ、そしてただの空気に戻る。
「お見事」
美和は端末を取り出した。自分たちの雇い主に報告する。
「美和です。いま那由が一体駆除しました。場所は、巳ノ八―二一ノ九一四三。かなり薄いので、必要ないとは思いますが、回収するのであれば、乙以上の方を派遣してください」
報告を終えると、美和は那由の横に立った。
「あいかわらず、よくわからない能力ね、あんたのそれ」
「本当に。なんでできるんでしょうね、こんなこと」
傘を下ろすと那由は頭をかいた。
「まあいいじゃない。それができるおかげで、那由は学校に通えるし、お金も貰えるのだから。仕事の中身と釣り合うかどうかは微妙だけれども、割はいいよ、この仕事。普通の高校生が稼げる額より桁が一つ多いのだから。だから――」
美和は那由の胸を軽くたたいた。
「退学しないようにがんばりなさい。とりあえず、今日は由貴子さまと一緒に帰るのね」
那由はため息をつき、しぶしぶとうなずいた。
屋上で那由の話を聞いた小柄な少女は柵に身体を預けながら足を遊ばせた。
「素直に、『なんて光栄なのかしら、由貴子さまにお声を掛けていただけるなんて! 嬉しくて気を失いそうですわ!』とか言っておけば、その場でただの同級生Aに戻ることができたのに」
「正解を教えていただけて感謝します。ぜひ実践したいので、時間を巻き戻していただけませんか」
あいにく知り合いにタイムマシンを持っている人はいなくてね、と小柄な少女はまた足を遊ばせた。
「そうだ。由貴子さまご本人に頼んでみれば? もしかしたら叶えてもらえるかも」
那由はため息をつくと、食べ終えた弁当箱にふたをした。手早く包み、小柄な少女と場所を変わる。
「美和さんは、由貴子さまとお話したことはあるのですか?」
「あいさつ程度はね。でも、それだけ。存在を認識されているかは怪しいかな。お屋敷の一侍女としても、同じ学校の先輩としても」
那由の顔に浮かんだ表情を見て、美和は肩をすくめた。
「自分が興味を持つ――というか、自分が存在を認識するものを選ぶことができる。それが許されるのが由貴子さまなの」
そしてね、と代わって休憩に入った美和は自分のお弁当箱を開けた。
「那由はその由貴子さまから一緒に帰るように誘われたの。断るという選択肢はないわ。逃げるという行動をとることはできるけれども、それをすれば一週間もしないであなたはこの学校を追い出されるわよ」
「由貴子さま、そんなことをするんですか?」
「するのは取り巻き。由貴子さまの視界から不快なものを取り除くことこそ我が使命……みたいになっている子が何人もいるからね」
弁当を食べながら美和がためいきをついた。
「なんというドS集団……」
「ドMじゃないかな? 由貴子さまの一挙手一投足からその内心を推し量り、そして勝手に行動する。上手くいっても褒められはせず、下手をうてば一顧だにせず捨てられる。それでも由貴子さまが自分を見てくれたという喜びに震えるような連中だよ」
「本当に女王様なんですね」
那由はため息と共に足元に目を落とした。折りたたまれた長傘が愛想なく転がっている。空は晴天。そして今日の降水確率はゼロ。
にもかかわらず、那由はそれを手に取った。
「手伝おうか?」
いえ、と美和の言葉に首を振ると、那由は宙をにらんだ。
子供が遊びで傘を銃に見立てるようにそれを構えた。持ち手に指を滑らせる。そこに引き金があるかのように、人差し指が虚空に掛かる。
傘先がとある木の先端に向けられた。
那由の指が動いた。
次の瞬間、狙いの先にあった空間がわずかに歪んだ。一瞬跳ねるように揺れ、そしてただの空気に戻る。
「お見事」
美和は端末を取り出した。自分たちの雇い主に報告する。
「美和です。いま那由が一体駆除しました。場所は、巳ノ八―二一ノ九一四三。かなり薄いので、必要ないとは思いますが、回収するのであれば、乙以上の方を派遣してください」
報告を終えると、美和は那由の横に立った。
「あいかわらず、よくわからない能力ね、あんたのそれ」
「本当に。なんでできるんでしょうね、こんなこと」
傘を下ろすと那由は頭をかいた。
「まあいいじゃない。それができるおかげで、那由は学校に通えるし、お金も貰えるのだから。仕事の中身と釣り合うかどうかは微妙だけれども、割はいいよ、この仕事。普通の高校生が稼げる額より桁が一つ多いのだから。だから――」
美和は那由の胸を軽くたたいた。
「退学しないようにがんばりなさい。とりあえず、今日は由貴子さまと一緒に帰るのね」
那由はため息をつき、しぶしぶとうなずいた。
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