おじょうさまとごえい

ハフリド

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13. 平穏な日

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「その後の襲撃はなし、ですか」

「その後の手掛かりもなし、だけれどもね」
学校の屋上で、那由は先輩兼護衛仲間の美和とお昼を食べていた。由貴子様はいつものように取り巻きの方々に囲まれ、本日は食堂にてランチ中。

建物内にいるかぎりは事前に張られた結界が作用しているため、那由はひさびさに任務ぬきのゆっくりお昼ご飯を楽しんでいた。

「襲撃がやんだのは諦めたから……ということはないですよね」

「ないだろうね」

先輩は小さくためいきをついた。

「成功率を高めるための準備を行っている、と考える方が自然だと思う」

ですよね、と答えながら那由は野菜の煮物を口に運んだ。自分で作ったものだが、正直なところ、美味しくもなければまずくもない。

「あの女の子――静久しずくさんのことは?」

「そちらも手掛かりなし。まあ、魔術系は狭い世界だから、鬼を従えている人というのはそれなりに知られているはずなんだけれども……」

先輩が空を見上げた。

「あれ、従えてはいないよね」

「ですね」

籠の中の鳥。

使い古された表現だが、それがふさわしく思える――というか。

「鬼を従えている人というのがいるんですね」

小柄な先輩はわずかに首をかしげた。そして、話し相手が、自分たちの世界についての基礎知識すらないことを思い出す。

「いるよ。鬼を従えている人もいれば、人を従えている鬼もいる。従属もあれば、対等も。契約による関係もあれば、互いの信頼に基づく関係もある――人間同士と同じだね」

とはいえ、と言葉をつなぐ。

「それらが成立するには、共通した言語を持っているとか、価値観がある程度通じているとかという部分があってこそだけれどもね」

「その辺りも人間同士と同じですね」

だねー、と笑うと先輩は飲み物に口をつけた。青い空。おだやかな風。これから月之宮由貴子をめぐる戦いが起こる予兆などまったく感じさせないおだやかな時間が流れている。

「そういえば、週末はお泊りなんでだって、由貴子様のところに」

「はい。妹も一緒におじゃますることになっています」

困ったように那由がこたえる。

「招かれたとはいえ、一晩おじゃまするわけですから、なにか手土産みたいなものを用意した方がいいですかね?」

「由貴子様を気遣ってなら不要だと思うわよ。ただまあ、じいやさんとばあやさんはよろこぶと思うし、それに……」

小柄な先輩は小さく笑った。

「あなたが『級友の家に泊まる際は、ご挨拶として手土産を用意するという心遣いができる娘』である、ということが由貴子様側の大人たちに伝わるのは良いことだと思うわ」

「そんな意味を含むほど大げさな行為ではないと思いますが……」

「信頼は小さな行為の積み重ね。そしてその小さな行為というものは、その人物の過去がすべて反映される――らしいわ。うちの上司の言葉だけれどもね」

そうですか、と那由は空をあおいだ。

やっぱり由貴子様と関わるというのはいろいろと大変だ。

正直、面倒くさい。

「そんなに考え過ぎなくてもいいよ。いまのところ、那由は由貴子様に気に入られている。気に入られているうちは、そばにいることになる。そばにいればお給料が上がる。それでいいじゃない」

「ですね。ま、由貴子様もすぐにわたしに飽きるでしょうし」

それはどうだろ、という内心をきっちりとかくして、先輩は笑みを浮かべた。

午後の授業を告げる予鈴が鳴った。
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