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14. 週末
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びっくりするくらいなにも起こらないまま週末となった。
あまりにもなにも起こらないため、そろそろ襲撃とかしてくれてもいいのよ、と思ってしまったくらい。
もちろん、向こうは向こうであれこれと準備をしたり機を伺ったりしてはいるのだろうが、見えないものはとらえようがない。
かくしてお泊りの日はやってきた。
じいやさんの運転する車に、由貴子様とともに学校の正門前からで乗り込み自宅へ。すでにお泊りの準備を終え、本人が一番かわいいと自負する髪型と服で完全武装を終えた妹を回収し、途中の和菓子屋でおだんごを買い、由貴子様のご自宅へ。
ばあやさんにご挨拶をし、お団子を渡し、「あらあら、ありがとう。良い親御さんに育てられたのね」というザ・おばあちゃんなお言葉をいただき、そのまま由貴子の部屋へ。
そして。
はしゃぐ妹と、いつも以上に由貴子さまな同級生の前で、那由一人がモデルとなるファッションショーが始まった。
あのですね。
なんというかですね。
いろいろなお洋服を着て、褒められるというのはすごく楽しいことだと思うのですがね。
夕飯までの間に十着近い服を着ては脱いだ那由は、由貴子のベッドへ仰向けで倒れ込んだ。
「あら、どうしたの、那由」
「……よくこれだけの服を用意しましたね」
「どれも似合っていたわよ」
由貴子も同じようにベッドに横たわった。那由の髪をさわりながら、まだ着られていない服たちに目を向ける。
「どれも似合うわよ」
「……これらの服は由貴子様が選んだのですか?」
「まさか。いろいろな服を着てもらいたい友達がいる、と話したら出入りのものが用意してくれたのよ。そうそう。その方、とても面白いのよ。わたしが知らないような服とかアクセサリーをいろいろと紹介してくれるの。とても素敵なお姉さんだから、那由もきっと気に入るわよ。こんど紹介するわね」
「……ぜひとも」
そう答えて、那由は自分が着た服たちを見た。
その素敵なお姉さんとやらに、なぜにバニーガールの服を用意したのか、一度問い詰める必要がある。
「おねーちゃーん、由貴子さまー、お夕飯の用意ができましたよー」
率先して夕食の支度を手伝いにいった妹がもどってきた。着ているものは、由貴子が小さい頃に来ていたというワンピース。クラシカルなデザインだが、この家の内装にとてもよく似合っている。
「ありがとう、香澄」
由貴子が身体を起こした。
「ばあやのお手伝いをしてくれたのね。わたし、とても嬉しいわ。あなたがわたしの妹ならばよかったのに」
「い、いえ。そんな」
普段の元気さを家に忘れてきたらしい香澄が、両手の指をからませながらうつむいた。憧れの由貴子様からの過分なるお褒めの言葉に耳まで赤くなっている。
「どうにかして香澄を妹にする方法はないかしらね……いただいてもいいのだけれども、そうすると那由が寂しいでしょうから……」
そうだ、と由貴子が明るい声と共に手を合わせた。輝いた眼が横にいる少女に向けられる。
嫌な予感とともに、那由も身体を起こした。
「那由、結婚しましょう」
「……はい?」
「そうすれば、香澄は那由の妹のまま、わたしの妹になるわ。うん、とてもいい考えね。ああ、でも、わたしたちはまだ高校生よね。さすがに年齢的にまだ早いかしら?」
なにを言い出すのかこの人は、という目をする那由の前で、由貴子お嬢様はうれしそうに笑った。そしてその提案に、妹は目を輝かす。
「そ、それ、とてもいいと思います! うわー、どうししよう、お姉ちゃん! 由貴子さまがお義姉さんになってくれるって」
なにを言い出すのだ、わが妹よ。
いちおう自分にはわからぬハイセンスかつハイクオリティな冗談の可能性を考え、二人の様子をうかがっていたのだけれども、残念ながら両者ともに本気のようである。
いかん。
このままだと明日には婚約発表をされかねない。
「あの、由貴子様」
「なに?」
「その……由貴子様のような名家の人には、すでに婚約者さんとかがいるのではないでしょうか?」
「いるわよ」
だからなに、という顔をした由貴子は、次の瞬間、すごく嬉しそうな笑みを浮かべた。手を握ってくる
「わかったわ。嫉妬しているのね、那由は」
なにもわかっていません。違います。
「でも問題はないわ。破棄すればいいのだから。そうね、明日にでもおじいさまにお話ししましょう。それで解決ね」
「そんな簡単に婚約破棄というのはできるものなのですか?」
「できるわよ。わたしがしたくないのだから」
いやさすがにそう簡単ではないだろう、と思うと同時に、由貴子様がそういうのならばそうなるのだろうな、とも思う。
さすが由貴子様。
「あら、浮かない顔をしているわね。ほかにもまだなにか心配事があるのかしら?」
「心配事というか……そもそも、わたしが由貴子さまと結婚したいと思っていないのですが」
「あら、どうして?」
無邪気かつ傲慢な同級生のお嬢様は、不思議そうな顔で首を傾げた。その横で妹が「なにアホをぬかしているのか、この姉は」みたいな顔をする。
「あなたにも許婚がいるのかしら?」
「いや、いませんが」
由貴子が眉を寄せた。それではなにが問題なのか、と本気で悩んでいるらしい。
「そもそも、わたしが由貴子様と結婚をしたいと思っていないのですが」
「どういうことかしら? もしかして、那由はわたしのことが好きではないということなのかしら?」
そうです。
と言えばいいのだろうが、別に好きではないというわけではない。ないけれども、それでは結婚をしたいのかというと、それもまた違う。
「好きですよ。でも、結婚をしたいと思っているわけではないということです」
「不思議な子ね、那由は」
手を握っていた指がほどかれ、ほほにあてられる。そのままあごにかけられた。瞳が近づいてくる。吐息がかかる距離まで唇が寄った。
妹が自分の口を手で覆いつつも、こちらを凝視するのがわかった。
「そう。ならばそれでもいいわ。でも、那由はきっとわたしと結婚をしたくなるわよ」
「したくなりますかね?」
「なるわ。だって、結婚をしたら、わたしとずっと一緒にいられるのよ」
自分に絶対の自信を持つ者だけが口にし得る口説き文句がかけられる。至近距離にある瞳を見る。感情の揺れというものはいっさい見えない。
きれいだな、と素直に思う。
首を縦に振らない自分の方が間違っているのではないか、とも思いそうになってしまう。いや、思わないけれども。
「ほかにはなにかありますか? 由貴子様と結婚することのメリットは」
「他に?」
由貴子様がこまった顔をした。
ちょっとだけかわいいと思ってしまう。
「……思いつかないわね。強いてあげるのならば、この家で暮らすから、ばあやの料理がいつでも食べられることと……あとはなにかしら……家にお金がたくさんあるから、一生そういうことについての心配はないことくらいだれども……」
「わかりました」
あごにかけられていた由貴子の手をとり、そこに自分の指を絡ませる。
「由貴子様との結婚、前向きに検討します」
月之宮家のお嬢様は、わかりやすく不機嫌になった。
あまりにもなにも起こらないため、そろそろ襲撃とかしてくれてもいいのよ、と思ってしまったくらい。
もちろん、向こうは向こうであれこれと準備をしたり機を伺ったりしてはいるのだろうが、見えないものはとらえようがない。
かくしてお泊りの日はやってきた。
じいやさんの運転する車に、由貴子様とともに学校の正門前からで乗り込み自宅へ。すでにお泊りの準備を終え、本人が一番かわいいと自負する髪型と服で完全武装を終えた妹を回収し、途中の和菓子屋でおだんごを買い、由貴子様のご自宅へ。
ばあやさんにご挨拶をし、お団子を渡し、「あらあら、ありがとう。良い親御さんに育てられたのね」というザ・おばあちゃんなお言葉をいただき、そのまま由貴子の部屋へ。
そして。
はしゃぐ妹と、いつも以上に由貴子さまな同級生の前で、那由一人がモデルとなるファッションショーが始まった。
あのですね。
なんというかですね。
いろいろなお洋服を着て、褒められるというのはすごく楽しいことだと思うのですがね。
夕飯までの間に十着近い服を着ては脱いだ那由は、由貴子のベッドへ仰向けで倒れ込んだ。
「あら、どうしたの、那由」
「……よくこれだけの服を用意しましたね」
「どれも似合っていたわよ」
由貴子も同じようにベッドに横たわった。那由の髪をさわりながら、まだ着られていない服たちに目を向ける。
「どれも似合うわよ」
「……これらの服は由貴子様が選んだのですか?」
「まさか。いろいろな服を着てもらいたい友達がいる、と話したら出入りのものが用意してくれたのよ。そうそう。その方、とても面白いのよ。わたしが知らないような服とかアクセサリーをいろいろと紹介してくれるの。とても素敵なお姉さんだから、那由もきっと気に入るわよ。こんど紹介するわね」
「……ぜひとも」
そう答えて、那由は自分が着た服たちを見た。
その素敵なお姉さんとやらに、なぜにバニーガールの服を用意したのか、一度問い詰める必要がある。
「おねーちゃーん、由貴子さまー、お夕飯の用意ができましたよー」
率先して夕食の支度を手伝いにいった妹がもどってきた。着ているものは、由貴子が小さい頃に来ていたというワンピース。クラシカルなデザインだが、この家の内装にとてもよく似合っている。
「ありがとう、香澄」
由貴子が身体を起こした。
「ばあやのお手伝いをしてくれたのね。わたし、とても嬉しいわ。あなたがわたしの妹ならばよかったのに」
「い、いえ。そんな」
普段の元気さを家に忘れてきたらしい香澄が、両手の指をからませながらうつむいた。憧れの由貴子様からの過分なるお褒めの言葉に耳まで赤くなっている。
「どうにかして香澄を妹にする方法はないかしらね……いただいてもいいのだけれども、そうすると那由が寂しいでしょうから……」
そうだ、と由貴子が明るい声と共に手を合わせた。輝いた眼が横にいる少女に向けられる。
嫌な予感とともに、那由も身体を起こした。
「那由、結婚しましょう」
「……はい?」
「そうすれば、香澄は那由の妹のまま、わたしの妹になるわ。うん、とてもいい考えね。ああ、でも、わたしたちはまだ高校生よね。さすがに年齢的にまだ早いかしら?」
なにを言い出すのかこの人は、という目をする那由の前で、由貴子お嬢様はうれしそうに笑った。そしてその提案に、妹は目を輝かす。
「そ、それ、とてもいいと思います! うわー、どうししよう、お姉ちゃん! 由貴子さまがお義姉さんになってくれるって」
なにを言い出すのだ、わが妹よ。
いちおう自分にはわからぬハイセンスかつハイクオリティな冗談の可能性を考え、二人の様子をうかがっていたのだけれども、残念ながら両者ともに本気のようである。
いかん。
このままだと明日には婚約発表をされかねない。
「あの、由貴子様」
「なに?」
「その……由貴子様のような名家の人には、すでに婚約者さんとかがいるのではないでしょうか?」
「いるわよ」
だからなに、という顔をした由貴子は、次の瞬間、すごく嬉しそうな笑みを浮かべた。手を握ってくる
「わかったわ。嫉妬しているのね、那由は」
なにもわかっていません。違います。
「でも問題はないわ。破棄すればいいのだから。そうね、明日にでもおじいさまにお話ししましょう。それで解決ね」
「そんな簡単に婚約破棄というのはできるものなのですか?」
「できるわよ。わたしがしたくないのだから」
いやさすがにそう簡単ではないだろう、と思うと同時に、由貴子様がそういうのならばそうなるのだろうな、とも思う。
さすが由貴子様。
「あら、浮かない顔をしているわね。ほかにもまだなにか心配事があるのかしら?」
「心配事というか……そもそも、わたしが由貴子さまと結婚したいと思っていないのですが」
「あら、どうして?」
無邪気かつ傲慢な同級生のお嬢様は、不思議そうな顔で首を傾げた。その横で妹が「なにアホをぬかしているのか、この姉は」みたいな顔をする。
「あなたにも許婚がいるのかしら?」
「いや、いませんが」
由貴子が眉を寄せた。それではなにが問題なのか、と本気で悩んでいるらしい。
「そもそも、わたしが由貴子様と結婚をしたいと思っていないのですが」
「どういうことかしら? もしかして、那由はわたしのことが好きではないということなのかしら?」
そうです。
と言えばいいのだろうが、別に好きではないというわけではない。ないけれども、それでは結婚をしたいのかというと、それもまた違う。
「好きですよ。でも、結婚をしたいと思っているわけではないということです」
「不思議な子ね、那由は」
手を握っていた指がほどかれ、ほほにあてられる。そのままあごにかけられた。瞳が近づいてくる。吐息がかかる距離まで唇が寄った。
妹が自分の口を手で覆いつつも、こちらを凝視するのがわかった。
「そう。ならばそれでもいいわ。でも、那由はきっとわたしと結婚をしたくなるわよ」
「したくなりますかね?」
「なるわ。だって、結婚をしたら、わたしとずっと一緒にいられるのよ」
自分に絶対の自信を持つ者だけが口にし得る口説き文句がかけられる。至近距離にある瞳を見る。感情の揺れというものはいっさい見えない。
きれいだな、と素直に思う。
首を縦に振らない自分の方が間違っているのではないか、とも思いそうになってしまう。いや、思わないけれども。
「ほかにはなにかありますか? 由貴子様と結婚することのメリットは」
「他に?」
由貴子様がこまった顔をした。
ちょっとだけかわいいと思ってしまう。
「……思いつかないわね。強いてあげるのならば、この家で暮らすから、ばあやの料理がいつでも食べられることと……あとはなにかしら……家にお金がたくさんあるから、一生そういうことについての心配はないことくらいだれども……」
「わかりました」
あごにかけられていた由貴子の手をとり、そこに自分の指を絡ませる。
「由貴子様との結婚、前向きに検討します」
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