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20. 続く夜
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「結局、役に立たなかったですね、我々は」
通話の終わった端末をしまいながら、那由の学校と護衛の先輩である美和はため息をついた。
自分たちが無能であったとは思わない。
だが、無能と同等の結果が今回はもたらされた。
さいわい、月の姫である由貴子は無事であり、那由も――情報が錯綜していてよくわからなかったが、無事であるようだ。
「結局のところ『姫』の力の前では、我々は無力だということですかね」
「かもしれんな」
上司が答えた。
「だから、なにをしても意味はない――というわけでもないだろう。失敗も敗北も乗り越えるべきものだ」
難しいがな、と黒いパンツスーツを着こなした上司は笑みを浮かべた。
それが強がりであることはわかっている。わかっているからこそ、同意の言葉を返す。
「そうですね。それであの仮面の鬼……薄影と名乗っていたあの鬼ですが、いったい誰に殺されたのでしょうね?」
「那由ではないだろうな。彼女の戦いは由貴子さまのいるあの場のみであると報告がきている。戦闘は傘を刀に見立ててのもの。で、全てを斬っている」
「あの、鬼は刺殺されていましたね。つまり……」
「――別の姫の手によるものだろな」
上司は面倒そうに頭をかくと、たばこを出した。形の良い唇に加えたところで、自分が未成年前で吸おうとしていることに気付く。
察した美和は一礼すると、そのまま引いた。
手を上げて感謝を告げると、上司は煙草に火をつけた。
うまい。
だが、まずい。
これから休みなく彼女たちは動かなければならない。雨の姫の襲撃について。そして雨の姫に襲撃という手段をその選択肢に追い込んだ存在について。
全てが不明だ。
どこまでなにを調べればいいのか。
調べたものをどのように生かせばいいのか。
白紙の紙を渡され「問題をとけ」と言われているに等しい状況で、上司は唇の端を上げた。
「今回、我々は失敗した。雨の姫の襲撃を許し、由貴子様の略取を成功させてしまった。月の姫の身が守られたのは、幸運が味方したにすぎない。だからこそ――」
次は、という言葉の代わりに、彼女は煙草の煙を吐いた。
部下の一人が、近づいてきた。灰皿を取り出し、煙草を消す。
由貴子たちが迎えの車に乗ったことが報告された。護衛と共に、すでに屋敷へと向かったとのことである。
そして陶器の欠片のようなものが差し出された。あの鬼の面の一部であるそれを受け取ると、上司は指先を夜に滑らせた。
夜の中に文字が描かれていく。
「仮面の鬼を殺し、自らにつながる痕跡を消した――つもりなのだろう」
文字が踊り、はじけた。はじけた文字は光の粒となり、彼女を導くように一対の道を照らす。
「ゆくぞ――」
いつの間にか直属の部下たちが彼女の後ろに控えていた。振り返りもせずに言葉を続ける。
「――反撃開始だ」
通話の終わった端末をしまいながら、那由の学校と護衛の先輩である美和はため息をついた。
自分たちが無能であったとは思わない。
だが、無能と同等の結果が今回はもたらされた。
さいわい、月の姫である由貴子は無事であり、那由も――情報が錯綜していてよくわからなかったが、無事であるようだ。
「結局のところ『姫』の力の前では、我々は無力だということですかね」
「かもしれんな」
上司が答えた。
「だから、なにをしても意味はない――というわけでもないだろう。失敗も敗北も乗り越えるべきものだ」
難しいがな、と黒いパンツスーツを着こなした上司は笑みを浮かべた。
それが強がりであることはわかっている。わかっているからこそ、同意の言葉を返す。
「そうですね。それであの仮面の鬼……薄影と名乗っていたあの鬼ですが、いったい誰に殺されたのでしょうね?」
「那由ではないだろうな。彼女の戦いは由貴子さまのいるあの場のみであると報告がきている。戦闘は傘を刀に見立ててのもの。で、全てを斬っている」
「あの、鬼は刺殺されていましたね。つまり……」
「――別の姫の手によるものだろな」
上司は面倒そうに頭をかくと、たばこを出した。形の良い唇に加えたところで、自分が未成年前で吸おうとしていることに気付く。
察した美和は一礼すると、そのまま引いた。
手を上げて感謝を告げると、上司は煙草に火をつけた。
うまい。
だが、まずい。
これから休みなく彼女たちは動かなければならない。雨の姫の襲撃について。そして雨の姫に襲撃という手段をその選択肢に追い込んだ存在について。
全てが不明だ。
どこまでなにを調べればいいのか。
調べたものをどのように生かせばいいのか。
白紙の紙を渡され「問題をとけ」と言われているに等しい状況で、上司は唇の端を上げた。
「今回、我々は失敗した。雨の姫の襲撃を許し、由貴子様の略取を成功させてしまった。月の姫の身が守られたのは、幸運が味方したにすぎない。だからこそ――」
次は、という言葉の代わりに、彼女は煙草の煙を吐いた。
部下の一人が、近づいてきた。灰皿を取り出し、煙草を消す。
由貴子たちが迎えの車に乗ったことが報告された。護衛と共に、すでに屋敷へと向かったとのことである。
そして陶器の欠片のようなものが差し出された。あの鬼の面の一部であるそれを受け取ると、上司は指先を夜に滑らせた。
夜の中に文字が描かれていく。
「仮面の鬼を殺し、自らにつながる痕跡を消した――つもりなのだろう」
文字が踊り、はじけた。はじけた文字は光の粒となり、彼女を導くように一対の道を照らす。
「ゆくぞ――」
いつの間にか直属の部下たちが彼女の後ろに控えていた。振り返りもせずに言葉を続ける。
「――反撃開始だ」
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