おじょうさまとごえい

ハフリド

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21. あとしまつ

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帰宅した由貴子はばあやに、那由は妹にたっぷりと叱られた。一人おろおろする静久にはハチミツを溶かし入れた温かい牛乳がじいやさんからふるまわれた。

お説教が終わると、三人の少女はばあやさんがわかしなおしてくれたお風呂に入り、着替え、由貴子の自室で深夜のお茶会を開き、そして眠りについた。

戦いがあったとは思えぬほど、おだやかな時間が過ぎていく――少なくともその夜は。

あたりまえだが、戦いというものがあればその後始末というのは必要となる。

翌日から那由と雨の姫は複数回にわたって聞き取りという名の事情聴取を受けた。

那由が殺されたこと。
だが、いまは生きていること。

雨の姫の生い立ち。その能力。妖魔たちとのつながり。薄影と名乗る鬼について。

自分たちが差し出したパズルのピースがどのような絵を描くのかを知らされぬまま聞き取りは終わった。

結果として。

那由のお給料は上がり、雨の姫である静久は由貴子の家で預かることになった。




誰がどのように動いたのかは不明ながら、由貴子様の護衛レベルが引き下げられた。

引き下げられたものの、由貴子様は毎朝那由の家に寄り、一緒にじいやさんの運転する車で登校し、一緒に下校している。

当然、学校内でも常にべったりとくっつくように――となってはいない。

以前より距離は近くなったが、あくまでもそれだけ。由貴子様はあいかわらず取り巻きに囲まれ、高校生である自分を楽しんでいる。

昼休み。那由は通常任務の一環として学校の屋上にいた。警戒任務の相方である小柄な先輩が横にいる。

「平和だねー」

「平和ですねー」

食事を終えた二人は足を投げ出す形で空を見上げた。青い空。白い雲。そよぐ風は気持ち良く、少女たちのにぎやかな語らいが校舎からは心地よくこぼれている。

まさに完璧なお昼休み。

「那由はさー」

美和がのんびりとした声で。

どこからどう聞いても、いま思いついたとりとめのない雑談としか思えない口調で話しかけてきた。

「気になったりしないの? 由貴子様が『月の姫』だというけれども、そもそも『月の姫』とはなんのか、とか。なんで狙われているんだろう、とか。『雨の姫』の静久ちゃんがいるんだからほかの姫とかもいるのかな、とか――本当に自分は一度殺されてから、生き返ったのかとか」

「いえ、べつに」

のんびりと那由はあくびをした。

「……あ、もしかしかて、そのあたりに興味を持てばお給料が上がったりしますか?」

「しないと思うよ」

「ならいいです」

一瞬だけ示した好奇心をあっさりと放り投げると、那由はもう一度空を見上げた。

もちろん、いろいろなことが現在進行形で起きていることはわかっている。

わかっているけれども、それらに積極的にかかわっていこうとは思わない。

「わたしの目的はお金を得ること。由貴子さまの護衛はその手段です。それ以外のことを考えてしまうと――たぶん、いろいろとブレてしまうと思うんですよね」

「ブレる……ね」

「今回のことがあって、由貴子さまの護衛にはそれなりの危険があることがわかりました。とはいえ、このお仕事のお給料は魅力的です」

ですから、と言葉をつなぐ。

「護衛をちゃんとやりとげられるようにする状況をつくっておきたいです。ほら、あるじゃないですか、アニメとかマンガとかで『敵にも事情が……』と『自分のやっていることは本当に正しいのか……』とか悩んで大切な瞬間にミスしちゃうのが。だから、余計なことは聞きません。わたしは由貴子さまを守る。それだけです」

そっか、と美和はつぶやいた。

「那由はそろそろ教室にもどりな」

「まだ予鈴まで時間がありますよ」

「うん、それはそうなんだけれどもね」

小柄な先輩は端末を取り出した。

「ナイショの話がしたいの。うちの上司と。横で聞いていてもいいけれども、那由はブレたくないんでしょ?」

「はい。それではお先に」

那は屋上をあとにした。

その背が校舎の中に消えたことを確認してから上司に連絡を入れる。

「――自分です。那由ですが、いまのところ黄泉帰よみがえりによる変化は見られません……はい、肉体的にも精神的にも。引き続き監視は行いますが、現在のところ彼女の興味は『護衛をおこない、金を得る』ということに集中しているようです」

したがって、と小さく息を吐く。

「我々の脅威となる可能性は低いと思います。由貴子さまが我々の――我々を含む全ての敵にならない限り」

引き続き由貴子の護衛と、そしてあらたに加わった那由の観察を続けるように命令が下された。

了解の返事をして通信を切る。

重い気持ちをこぼすように息を吐く。

「……とりあえず『雨の姫』の件は、『月の姫』の傘下に入ったことにより終結。薄影を通じた『夢の姫』の本体に接触することはかなわなかったけれども、差し向けられたやつらは全部叩き潰したから、しばらくは手出しはしてこない。さて、このしばしの安寧はどのようになるか――」

神のみぞ知る。
といいたところだが、現実はそうではない。

「姫のみぞ知る、か」

美和の言葉に、休憩の終わりが近づいたことを知らせる予鈴が重なった。
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