悪役令嬢に転生しましたが、破滅フラグが立ちおわっているので足掻きまくったら魔王になって乙女ゲーを間近で見る事になりました。

幌須 慶治

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死亡フラグ破壊の第一幕

戦いの終わりと始まりへの1歩

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 カリウスの妹のクリスちゃんが困惑した顔で口を開く。

「前世で、お兄様のお兄様ですか……?」

「ああ、信じがたいかもしれないけど、この女性の前世は僕の兄さんなんだ、前世は僕も女の子だったからね」

 困惑する妹に対して苦笑しながらカリウスは答える。

「えっと、それは本当なのですか?」

 そういって私に顔を向けるクリス、その姿は艶のある背中まで伸びた黒髪に透き通るような白い肌、藍色掛かった綺麗な瞳に睫の長いパッチリとした瞳には芯の強さが見て取れる。

 女性として成長を始めた身体つきは少女らしい手足の華奢さがあり、可愛らしさを残したその顔は、綺麗で可愛いと表現する以外にない美少女である。

 女の私から見てもそうなのだから世の中に出したら男共が放って置くはずがないだろう。

 その彼女が困ったような顔で眉毛をへの字にして私に尋ねていた。

「ええ、本当よ、それに色々事情もあるから、あなた達に危害を加えるつもりもないから安心して」

 その言葉に判断に迷ったのかカリウスに視線を向けると

「本当だよ、僕が保障する」

 との言葉に安心したのか口元が緩み目じりからも力が抜けた笑顔になる。

「とりあえず、治療を続けるわね、結構酷い怪我だったし」

『お願いします、お姉さま」

 そういって微笑むクリスの顔に照れてしまうが、私はできるだけ平静を装ってカリウスに治療の続きを始めるのだった。

 和やかな空気が流れる、小さい子達はカリウスに抱きつき、クリスが笑顔で私の治療を見守る。

 そんな平穏な時間も長くは続かない。

「~~~~!!!」

 城を揺るがすような大声が響く。

 遮蔽物が多くて何を言っているのか分からなかったが、カリウスには分かったようでその表情が変わる。

「まずい、ドランを向かわせた事を忘れてた、エリー、着いてきてくれる?」

「えっと、ドランってさっきの?」

「ああ、彼は父上の頃から僕の守役でね、忠義に厚いんだけど、厚すぎて頭に血が昇りやすくってね」

 そういって苦笑するカリウスの言いたい事を察する事ができた。

「大丈夫だと信じたいけど、ちょっと不安ね」

「そうなんだ、だから急ごう」

 そう言ってカリウスが魔法陣を展開する。

「クリス、すぐ戻るからリラとライをお願いできるかな?」

 そういうカリウスにクリスは心配そうな顔を向ける。

「本当に大丈夫なのですか?」

「うん、喧嘩を止めるだけだからね、僕以外だと危ないかもしれないけど、ドランだし」

「それは、そうですね、わかりました」

「うん、それじゃ」

 そういってカリウスは未だに抱きついている幼い二人に目線を合わせると

「お仕事に行ってくるからおねえちゃんと一緒にお留守番できる?」

 と聞くが二人は首を振る

 それに困ったようにこちらを見るカリウスに仕方ないなと思いながら幼い子供達に話しかける。

「リラちゃんとライ君、お兄ちゃんが今から面白いおじさん達をお迎えにいくからね、ちょっとお姉ちゃんとお迎えの用意していてもらってもいいかな?お兄ちゃんのお手伝い!」

 目を合わせて笑顔でそういうと子供達が食いついてくる

「お手伝い!」

「兄さまのお手伝いです!?」

 元気そうな二人の子供達は何も出来ないのが悔しいだけなのだろう。

 なんとなくそうだろうと思ったので役に立てると思わせてあげれば間違いなかったようでいい反応が返ってきた。

「そうよ、お姉ちゃんと、あそこのアリアっていうお姉ちゃんのお手伝い、できるかな?」

「「がんばる!」」

「そう、いいこね!それじゃおねがいね!」

 そう言ってクリスとアリアに目を向けると心得たとばかりに頷いてクリスが二人と手を繋いで後ろに下がる。

「それじゃすぐ戻るから、頼んだよ」

「はい!お気をつけて!」

 そうカリウスとクリスが言葉を交わして私達はカリウスの展開した魔法陣に乗って城の中を飛行していく。

「「いってらっしゃーい!」」

 元気な子供の声援を背に受けて。



 時は少し戻って

「くっ!あっちだ、入れ替わりながら後退する!」

 陽動の為に突撃を敢行してからどれくらいがたったか。

 既に仲間の半数は動くのがやっとで武器も魔力も尽き果てて走るのが精一杯な状況である。

 普段ならそうなる前に特攻をかけて仲間の負担にならないようにするのが騎士の倣いなのであるが、今回はそうするわけにはいかない。

 騎士の倣い以上の主命があるからだ。

「意地汚くても生きて逃げ切れ」

 その為に私達は剣を振り、魔力を振り絞り隊列を維持しながら道を進む。

 敵の追撃を押し返し、包囲の薄い方を探して突き進む。

 土地勘のない街を動き回り、漸く見覚えのある、突入してすぐに見た景色に行き当たる。

 そうして魔王城の城下町の門を抜ける為に全員でひた走る。

 その門を抜けて、あとは平原を走り抜けるだけ!

 そうすることで任務の完遂を成し遂げる希望が見えた!

 そう思い周囲の警戒を最大にしつつ閉じられた門を中から押し開ける。

 この先に逃げれば!!

 そう思い門の開く姿を見ながら門の先に意識を向ける。

 そして踏み出そう、そうしようとしたのだがその足を前に進める事は出来なかった。

「そん、な」

「うそだろ……」

「そんなことって……」

 口々に聞こえて来る絶望の呟き。

 しかし私はそれを叱る事はできない。

 何故なら。

「あんな数の軍勢、抜けれるわけがない」

 誰が呟いたのか分からないその言葉が理由を表していた。

 多種多様な姿の魔の者が住まうこの大きな城下町、その中には数万とも言える民と数千を数える兵士がいるのである。

 その勢力に後ろを追われて逃げ出そうとしたところで、街の外に出られると思ったところに目に映ったのは自分達の数十倍の数の戦力と、自分達の数倍の攻撃の準備である。

 そこから逃げられるものがいるのか。

 その答え等言わずとも分かっていた。

 それでも、私達は逃げなければならないのだ。

 向かって勇敢に死ぬ事は許されない。

 なんて優しくて残酷な命令なのか、そうも思うが、それでも!

「逝くぞ!我ら最後の一人になろうとも!エリザベート様のお気持ちを無駄にせぬ為に!進めえええええええ!」

 隊を鼓舞して突進する。

 恐らくこれが最後になるだろう、足も旨も、全ての力が果てるまで走れと、そう身体に命令を下し鞭を入れる。

 そうして目の前の殺気が膨れ上がり、最後を覚悟したところで、世界が回る。

「~~~~~!!!!!!」

 何が起きたか分からない。

 気がつけば身体は地面に投げ出され、手足に力が入らない。

 辛うじて顔をあげた所で何が起きたかは理解できなかった。

 軍勢が、下がっていく…?

 それは希望に見えた、だがそれと同時に絶望が目の前に降り立つ。

 圧倒的な巨体、圧倒的な重量、圧倒的な存在感。

 その全てを持った巨躯が目の前に落下してくる。

「双方剣をひけい!この場は魔王様直属守護隊長たるこのドランが預かった!」

 私達の意志の柱に皹が入る音が聞こえた。
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