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44 5分の攻防を決意させたもの

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「5分だけおねがい!」

 その言葉を合図にするかのようにクウちゃんが飛び出していく。

 目的は時間稼ぎ。

 それが分かっているので動きもそれに適した物になる。

 突進で動きを止め、弾き飛ばす。

 足に噛み付き放り投げる。

 手足の骨を砕き弾き飛ばす。

 その動きは数を減らすではなく、動きを失った身体を障害物としてアンデッドになってしまった村の人達の動きを妨げる。

 そして放り投げた身体は進行してくる彼らの身体を弾き飛ばす事によって一石二鳥の効果を発揮するのだが、それに徹してもじわじわと詰め寄られる。

 それをカバーするようにアンジェが動く。

 歩を進めようとするグールの足に矢を放ったり、這いよろうとする物の手足や胴体に矢を放つ事でその場に縫い付けて足止めをしているのだ。

 数を減らすなら頭を狙って止めを刺した方がいいのだが、それをしないことでアンデッドをもがかせて、周囲の邪魔をさせている。

 そうすることでかなりハイペースな動きではあるが均衡を保つ事に成功している。

 それを見ながら私も儀式魔法の準備を進めている。

 杖を通して聖魔力を走らせ、魔法陣を描く。

 この杖は増幅するだけじゃなく、魔力の扱いも大きくサポートしてくれる、それは魔法陣の展開の速度も大きく向上させてくれている。

 そして今回使う儀式魔法の魔法陣は本来ならかなり緻密で微細な文字が数多く連なっている、しかし今回描くのそれではない。

 私には必要のない物を省いた形にすることで、魔法陣の形成時間を減らしているのだ。

 省いた物は調律、融合、平均化の3つの効果である。

 これが通常儀式魔法を使うときに人数に合わない威力しか出ない事の多い原因になるところでもある。

 そのロスを見ても使う必要というのはその出力は通常一人では出す事が出来ないから。

 必要な無駄というやつである。

 一人で発動出来るなら出ないが、そもそも発動出来ないのだから仕方ないと諦められていたものである。

 この杖が会って初めて実現できる短縮。

 大抵の人はそれを聞いてもそんなものだと思って受け入れてそれが無駄という事を忘れていく。

 私もそうだったのだけれど、それはあの日この杖を貰った時を契機にして変る事になったんだ。

 あの時杖をもらって嬉しかったんだ、アンジェの事を大事って言ってても私も忘れずにちゃんと大事にしてくれてるって安心させてくれて。

 だからちょっと調子に乗って限界まで頑張ったらどこまで出来るかを試したくなって。

 そうしたら皆をびっくりさせちゃったんだ。

 その時使ったのは癒しの力。

 出来るだけ高出力に全力全開でやったそれは皇宮の全てどころか、周囲の貴族の屋敷の連なる貴族街まで包み込むことになったんだ。

 その時何が起きたかの詳細は移動する馬車の中で知ったんだけど、それは出陣前に起きた神の奇跡って呼ばれたみたいで、出撃準備をしていた兵士の人達のちょっとした不調や古傷の痛みなんかをとってくれたんだって。

 それ以外にも私達の近くにいた人の中には持病だったり慢性化してしまった負傷が完治したり、骨折で皇都待機となっていた人の骨が治って私達の隊に合流できたりといった想像してなかった事態を引き起こしたんだ。

 それを聞いたときには流石に頬が引きつっちゃったんだよね、そんなの想像もしていなかったし。

 私達からしたら聖魔力を全力で放出して、それでクウちゃんとリンちゃんの祝福で使った体力の回復が出来た位にしかおもってなかったから。

 でもそれを聞いた時はそんなの儀式魔法じゃないって思ったんだよね。

 それを夕食の時に口走ったら、そこから話が広がった。

 お兄ちゃんが旅の途中で出会った変わり者の研究者の一人が今私がしていることを研究していたって。

 でも理論は出来ても発動出来るほどの人間が見つけられないって。

 他にも色々研究しているその道では知られている人だったらしいんだけど、それに関しては道楽だからってお兄ちゃんに色々理論とか教えてくれたらしい。

 本当にお兄ちゃんってば色んな人から変な事聞いてくるよね。

 それで聞き流さずに覚えてる辺り何者なんだろうって思うの。

 本当にびっくり超人だよね。

 それはさておき、そんな事で私はその理論と理屈を教えてもらって魔法陣を変えてみた。

 元々読めるようにってのは教会にお世話になるようになってからは教えてもらっていたから余分なものはすぐにわかったんだ。

 それを無くしてなくした所を埋める配置にして魔力の通り道だけ再構築する。

 本当はもっと効率化できるんだけど、私には無理。

 だからこの魔法陣はある意味まだ未完成。

 だけどそれは出力で押し切る。

 私の聖女としての力とお兄ちゃんにもらったこの杖と、リンちゃんとクウちゃんにもらった加護。

 一度しか試してないけど、泣き言なんてのは今は言えない。

 ただ一心に展開していくだけ。

 皆にもらった力を全開にしてひたすらに魔法を紡ぐ。

 お兄ちゃんにもらった杖のお陰で魔法陣の展開も後半分、詠唱も順調、これなら何とかなると思っていたところでアンジェの苦々しい声が届く。

「飛び道具……厄介ですね」

 アンデッドの中に武器を持つものが現れたのだ。

 その手にあるのは剣や槍といったものから弓や杖といった遠距離から攻撃するのが目的といったものまで。

 それが秩序立って進んでくる。

「さあ!これを防ぎきれるかな!?」

 そんな下品な声が響いてくるがこちらはそれどころじゃない。

 私は魔法の展開で動けないのだ。

 それを知っているのでアンジェは遠距離攻撃が可能なアンデッドに猛攻をかける。

 そうしたときに起こるのは前線への補助の欠如。

 これは仕方がない、後方に対して攻撃を加えなければ全てが瓦解してしまうからだ。

 それが分かっているのでクウちゃんは速度を上げる。

 発揮する力も、全てが今までよりも強い。

 リンちゃんもデルクにこれ以上させないように攻撃の手を更に強めている。

 それでも崩れないのを苦々しく思うのだが。

 そこから過酷な戦いが始まった。

 全員が常に全力で動くしかないのだ。

 それでも手は足りずに徐々に私達は追い詰められていく。

 後ろは最初から崖のおかげで後ろに気を配らなくて済むおかげでなんとか持ちこたえられているが、それももう長くは続かない。

 瓦解するのが先か、私が魔法を完成させるのが先か、どちらが先でもおかしくない。

 そうした状況の中で私は見てしまった。

 口元を大きく吊り上げたデルクの顔を。

 拙い。

 そう思ったときにはそれは既に始まっていた。

 後ろから響く絶叫。

 うそ!後ろから!?

 それは巨大な蝙蝠だった。

 縦1メートル横2メートルというその巨体は私に向かって高速で飛来してくる。

 焦る表情で向き直ったアンジェが弓を放つ。

 それは今まで以上に魔力の篭った連射で蝙蝠を射抜いていき、それは崖の下に墜落させる事に成功するのだが。

「チェックメイトだ」

 ニヤニヤした顔で告げるデルクの顔が絶望的な状況を語っていた。

 アンジェが攻撃することで止められていた遠距離攻撃、それの全てが私のほうを向いていた。

 防御すればあれは凌げる。

 だけどそうすれば皆磨り潰されて死んでしまう。

 それが分かっているから私は魔法を止められない。

 それを見越したデルクが口を開く。

「やれ!」

 強力な瘴気の篭った矢が、魔法が私達二人に向けて放たれる。

 それは後一歩のところで、私達の防衛線が崩壊した結果であった。

 魔法を発動しようとする私の前にアンジェが出て矢を放つ。

 焼け石に水。

 何発かは撃ち落せてもその攻撃は止められない。

 成すすべなく、私達はその攻撃に飲み込まれるのだった。
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