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時刻は陽が沈み一刻程、流石に領都というだけあって歓楽街や酒場といったところには明かりが溢れ賑わいを見せている。
反対に人の住むところは明かりは疎らだ。既に寝静まっている家も多いのだろう。
その明と暗を分けるのがこの川で20メートル程の川幅に石橋がかかっている。
その石橋の手摺に寄りかかり川を見下ろす。
「妹としてじゃなく、一人の女として、お兄ちゃんじゃない、ロイドさんの隣にいさせて下さい、これから先ずっと、一緒にいてください」
真剣な顔で言葉を紡ぐルイスの顔が浮かんでくる。
今まで妹だと、子供扱いして、そんな対象として見てこなかった。
無邪気に笑って、泣いて、怒って、遊んで、ずっと兄妹として仲良くしていくと思っていた。
それは血が繋がっていようといまいと変らず、ルイスは大事な妹だと、そう思っていた。
しかし実際は……
「おうロイド!湿気たツラしやがって、若えもんがそんなんでどうすんだ」
不意にかけられた声に顔をあげる。
「アルフレッドさん……」
「おう、久しぶりだな、お前もルイスも偉くなって、アランとリリーの奴も胸張ってるだろうよ」
そう言って隣で手摺に寄りかかるのはこの領の騎士を束ねる団長のアルフレッドさんである。
仕事をする時は経験豊富で冷静沈着な団の要として腕を振るうのだが。
「ふう、ロイド、お前もつきあえ」
プライベートでは酒好きなおやっさんという感じなのだ。
「いや、おれは……」
「若えもんが、そんな辛気くせえ顔してなんだ、酒でも飲んで発散しろ」
こんな事を言う人であるが、団員達からは非常に信頼が厚く、それは領民達からも同様。
要するにお節介やきのおっさんなのである。そして。
「あいつらに頼まれてんだ、それに久しぶりに返って来た弟子が妹と喧嘩してこんな辛気くせえ顔してんじゃ放っておけんわ、ほらいくぞ」
両親の友人にして俺の師匠でもある。
とはいえ彼は聖騎士なので戦い方は全く違うのだが、大本になる技術だとか訓練方針を考えてくれたのはこの人だ。
ルイスに対しても目をかけてくれて才能が開花する手助けをしてくれていたと聞いている。
そんな恩人にここまで言われては断れない。
その結果、そのままひきづられるがままに酒場に連行された。
そして酒場でエールを揚げ、根堀葉堀と聞かれること暫く。
そこから導き出された言葉は。
「かぁー情けねえ、百戦錬磨の不倒と呼ばれた男がこんなヘタレた事するとは思ってもなかったぜ」
赤ら顔を片手で覆い天を仰ぎながら嘆くアルフレッドさん、その言葉に俺は何も返せない。
「それで、お前はルイスをどうしたいんだ?袖にして他の男に渡してさよならか?」
がツンと頭を殴られたような衝撃を受ける。
「そんなの……」
「だってそうだろう?お前と一緒になれなきゃいつまでも一人じゃいられねえさ、そしたら自然と離れる、そういうもんだろ?」
ルイスが他の誰かのものに?ルイスの横に知らない誰かがいる、そんな光景が浮かぶ。
「嫌だな……」
不意に言葉が口をついて出た。
「じゃあ何で悩んでんだ」
その言葉に返す言葉が見つからない。
「心の整理とかなんとか、んなもんただの言い訳にしかならんだろ、お前はどうしたいんだ?」
そういいきると一息つくかのようにジョッキを呷る。
「ふぅ、姫さんの方は言ってる通り心配しなくても大丈夫だ、皇族だからな、その系統の事は心配いらねえ」
俺の気にしている事を心を読んだように言い当て、断言する。
「後はお前次第だ、ロイド、お前はどうしたい?」
鋭い眼光に俺の目が射抜かれる。
「俺は……」
言葉に詰まる。
ルイスの笑顔が、怒った顔が、泣いた顔が、最後に見せた切なそうな笑顔が脳裏に浮かぶ。
ハッキリと見えていない言葉をどうにかして口に出そうとした。
「あんた!またのんだくれて!」
その声に目の前のおやじがビクっと跳ねる。
「げぇ!ハンナ!?」
振り向いたと同時に叫ばれた名前。
「げぇ!じゃないよ!あら?そっちの子は」
売り言葉に買い言葉というが、言い合いにはならずにその人は俺の事に気付く。
「ロイドです、ハンナさん、お久しぶりです」
彼女の名前はハンナ、下町の肝っ玉母さんに見えるが、こう見えてアルフレッドさんとは幼い頃から続いている間柄で、彼との間に4人の子供がいるご婦人である。
「あら、ロイド君かい、立派になってぇ、ルイスちゃんとは仲良くやってるのかい?」
彼女にも二人そろって世話になっている為こう聞かれるのは必然といえるだろう。
「ええっとそれは……」
流石に今の状態を上手く言っているとは言えずに口篭ってしまう。
それが分かってるアルフレッドさんから助け舟が出る。
「もうちょっとしたら面白いものがみれるからそれまでのお楽しみだ」
しかし横槍を入れられたら女性の口は三倍速で動くもので。
「ちょっと私はロイド君と話をしているんだよ!」
と納められた矛先が夫のアルフレッドさんに向かう。
「だぁかぁらぁ――」
わいわいがやがやと、夫婦の言い合いを見ているうちにその場がお開きになる。
「ありがとうございました、おかげで決心がつきました、やるだけやってみます」
酒場の前で頭を下げる、おかげで決心がついた、もう迷わない。
「おう、お前なら心配いらねえと思うが、きばっていけよ!」
「いい報告聞けるのを楽しみにしているよ、がんばってね!」
「はい!」
二人の激励を背に走り出す。
ルイス、待っててくれ。
少しでも早く、気持ちを伝える為に走る。
走って、走って、こうして息が切れたのはいつぶりだろうか。
そうして俺は宿舎としている領主の館に辿り着く。
さあ、一世一代の大仕事の始まりだ!
そう意気込んで俺は歩を進めるのだった。
アイ「ようやくか」
リリ「長かったーーーー」
アラ「アルの奴……頭あがんねえじゃねえかよ」
リリ「本当に、アル君のおかげねぇ」
アイ「あの臆病だったアルフレッドが立派になって」
アラ「あいつも親になって変ったんだよ」
リリ「ハンナのおかげもあるわね」
アラ「うんうん、このまま上手くいってくれるといいんだが」
リリ「貴方それ……」
アイ「フラグが立ててしまったか……」
リリ「あぁ……」
アラ「しまった……」
アイ「これで一波乱は確定か……」
アラ「ロイド、すまん……」
どんな波乱になるか、様子をみてみよう。
反対に人の住むところは明かりは疎らだ。既に寝静まっている家も多いのだろう。
その明と暗を分けるのがこの川で20メートル程の川幅に石橋がかかっている。
その石橋の手摺に寄りかかり川を見下ろす。
「妹としてじゃなく、一人の女として、お兄ちゃんじゃない、ロイドさんの隣にいさせて下さい、これから先ずっと、一緒にいてください」
真剣な顔で言葉を紡ぐルイスの顔が浮かんでくる。
今まで妹だと、子供扱いして、そんな対象として見てこなかった。
無邪気に笑って、泣いて、怒って、遊んで、ずっと兄妹として仲良くしていくと思っていた。
それは血が繋がっていようといまいと変らず、ルイスは大事な妹だと、そう思っていた。
しかし実際は……
「おうロイド!湿気たツラしやがって、若えもんがそんなんでどうすんだ」
不意にかけられた声に顔をあげる。
「アルフレッドさん……」
「おう、久しぶりだな、お前もルイスも偉くなって、アランとリリーの奴も胸張ってるだろうよ」
そう言って隣で手摺に寄りかかるのはこの領の騎士を束ねる団長のアルフレッドさんである。
仕事をする時は経験豊富で冷静沈着な団の要として腕を振るうのだが。
「ふう、ロイド、お前もつきあえ」
プライベートでは酒好きなおやっさんという感じなのだ。
「いや、おれは……」
「若えもんが、そんな辛気くせえ顔してなんだ、酒でも飲んで発散しろ」
こんな事を言う人であるが、団員達からは非常に信頼が厚く、それは領民達からも同様。
要するにお節介やきのおっさんなのである。そして。
「あいつらに頼まれてんだ、それに久しぶりに返って来た弟子が妹と喧嘩してこんな辛気くせえ顔してんじゃ放っておけんわ、ほらいくぞ」
両親の友人にして俺の師匠でもある。
とはいえ彼は聖騎士なので戦い方は全く違うのだが、大本になる技術だとか訓練方針を考えてくれたのはこの人だ。
ルイスに対しても目をかけてくれて才能が開花する手助けをしてくれていたと聞いている。
そんな恩人にここまで言われては断れない。
その結果、そのままひきづられるがままに酒場に連行された。
そして酒場でエールを揚げ、根堀葉堀と聞かれること暫く。
そこから導き出された言葉は。
「かぁー情けねえ、百戦錬磨の不倒と呼ばれた男がこんなヘタレた事するとは思ってもなかったぜ」
赤ら顔を片手で覆い天を仰ぎながら嘆くアルフレッドさん、その言葉に俺は何も返せない。
「それで、お前はルイスをどうしたいんだ?袖にして他の男に渡してさよならか?」
がツンと頭を殴られたような衝撃を受ける。
「そんなの……」
「だってそうだろう?お前と一緒になれなきゃいつまでも一人じゃいられねえさ、そしたら自然と離れる、そういうもんだろ?」
ルイスが他の誰かのものに?ルイスの横に知らない誰かがいる、そんな光景が浮かぶ。
「嫌だな……」
不意に言葉が口をついて出た。
「じゃあ何で悩んでんだ」
その言葉に返す言葉が見つからない。
「心の整理とかなんとか、んなもんただの言い訳にしかならんだろ、お前はどうしたいんだ?」
そういいきると一息つくかのようにジョッキを呷る。
「ふぅ、姫さんの方は言ってる通り心配しなくても大丈夫だ、皇族だからな、その系統の事は心配いらねえ」
俺の気にしている事を心を読んだように言い当て、断言する。
「後はお前次第だ、ロイド、お前はどうしたい?」
鋭い眼光に俺の目が射抜かれる。
「俺は……」
言葉に詰まる。
ルイスの笑顔が、怒った顔が、泣いた顔が、最後に見せた切なそうな笑顔が脳裏に浮かぶ。
ハッキリと見えていない言葉をどうにかして口に出そうとした。
「あんた!またのんだくれて!」
その声に目の前のおやじがビクっと跳ねる。
「げぇ!ハンナ!?」
振り向いたと同時に叫ばれた名前。
「げぇ!じゃないよ!あら?そっちの子は」
売り言葉に買い言葉というが、言い合いにはならずにその人は俺の事に気付く。
「ロイドです、ハンナさん、お久しぶりです」
彼女の名前はハンナ、下町の肝っ玉母さんに見えるが、こう見えてアルフレッドさんとは幼い頃から続いている間柄で、彼との間に4人の子供がいるご婦人である。
「あら、ロイド君かい、立派になってぇ、ルイスちゃんとは仲良くやってるのかい?」
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と納められた矛先が夫のアルフレッドさんに向かう。
「だぁかぁらぁ――」
わいわいがやがやと、夫婦の言い合いを見ているうちにその場がお開きになる。
「ありがとうございました、おかげで決心がつきました、やるだけやってみます」
酒場の前で頭を下げる、おかげで決心がついた、もう迷わない。
「おう、お前なら心配いらねえと思うが、きばっていけよ!」
「いい報告聞けるのを楽しみにしているよ、がんばってね!」
「はい!」
二人の激励を背に走り出す。
ルイス、待っててくれ。
少しでも早く、気持ちを伝える為に走る。
走って、走って、こうして息が切れたのはいつぶりだろうか。
そうして俺は宿舎としている領主の館に辿り着く。
さあ、一世一代の大仕事の始まりだ!
そう意気込んで俺は歩を進めるのだった。
アイ「ようやくか」
リリ「長かったーーーー」
アラ「アルの奴……頭あがんねえじゃねえかよ」
リリ「本当に、アル君のおかげねぇ」
アイ「あの臆病だったアルフレッドが立派になって」
アラ「あいつも親になって変ったんだよ」
リリ「ハンナのおかげもあるわね」
アラ「うんうん、このまま上手くいってくれるといいんだが」
リリ「貴方それ……」
アイ「フラグが立ててしまったか……」
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アラ「しまった……」
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アラ「ロイド、すまん……」
どんな波乱になるか、様子をみてみよう。
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