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09ファティマ猛撃
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「リチャード様、こちらは我がザッハール皇国が世界に誇るルビーの首飾りでございますぞ。当代一の名工が5年をかけて作り上げた逸品じゃ」
そう言ってファティマ皇女は、豊かな黒髪をかきあげ、褐色の肌に映える豪奢な首飾りを誇示した。
大胆に開いた胸元からは、豊かな谷間が覗き、周りの男性陣は皆、一様にため息を漏らす。
「実に美しい。ザッハールの大輪の薔薇たるお方にふさわしい名品ですね」
賛辞を贈ったのは、国王陛下リチャード様。
「どうぞ、お手に取ってご覧くだされ」
気を良くしたファティマ皇女は、陛下の手を取ると、首にかかったままの首飾りの下に滑り込ませた。
ちょっと!
はっ、肌に当たってるじゃないの、陛下の手がっ!ていうかもうそこ、胸っ!
使節団が到着して1週間。
会合の合間にティルームで談笑したり、庭園を散歩したりする陛下と皇女の姿をよく見かけてしまう。しかもたいてい、ふたりきり。
美男美女のお二人は、本当によくお似合いで、結婚も間近では?という声も聞こえるようになった。
胸が痛い・・・。
皇女様と私では比べ物にならないことはわかってる。けれど、目の前で仲睦まじい姿を見せられると、どうしようもなく苦しくなる。
「グレイスぅ、つぎはおとうさまにいつあえるかなぁ」
タクト皇太子が私の膝によじのぼりながら、俯き加減におっしゃった。
そうだわ。お父上に会えないさびしさは、お子さまたちのほうが強いものね。
リア王女は何もおっしゃらないけれど、無表情で耐えていらっしゃるのがわかる。
ご自分がさびしがれば、タクト様にも伝染すると思っておいでなのだわ。
なんて、健気なのかしら。
使節団来訪中は、陛下もお忙しく、まともにお子さまたちとの時間を過ごされていない。
陛下だって、きっとおさびしいはず・・・。
「リア様、タクト様。お父さまにお手紙を書きましょう!私がお届けしますから」
「おてがみ?やったぁ!かくー」
「かくかくー!」
その夜。
王宮と迎賓室では、ファティマ皇女がひとり爪を噛んでいた。
おかしい、おかしい!
どうしてリチャード様は落ちぬのだ?
わたくしがこんなに熱烈に、愛のこもった視線を送っているというに。
今日なんか、わたくしの象牙の肌に直接触れたのに、表向きの賛辞ばかりで顔色ひとつ変えられなかった。
滞在はあと3日。
あまり猶予がない!
もう、やるしかない。
「誰か、湯浴みの支度を!
最高級の薔薇の香油を用意せよ!
髪には金粉入りのオイルじゃ!」
ザッハールの薔薇、王宮に輝く宝石と讃えられるわたくしが本気で迫れば、いかなリチャード様とて抗えまい。
今までは昼間、人目のある場だったから、押し切れなかった。
だから今夜、陛下の私室でふたりきりになる。
既成事実を作ってしまえば、こちらのものだ。
ファティマ皇女は妖しく微笑むと、一枝纏わぬ姿になった。
褐色に輝く滑らかな肌、豊かな胸、くびれた腰、すらりと伸びた手脚。
冥界の神でさえ我を忘れそうな、官能的な身体。
姿見の鏡を一瞥したファティマ皇女は、満足そうな笑みを浮かべ、バスルームへと歩いて行った。
陛下、いらっしゃるかしら?
私はリア様とタクト様のお手紙を抱えて、陛下の私室へと向かっている。
お疲れでしょうから、ひとこと返事をいただけたら、すぐに退出しよう。
そう思って、廊下の角を曲がったとき。
「ありがとう、ファティマ皇女。極上の夜でした」
陛下の声がした。
えっ、ファティマ皇女?
見ると、陛下がファティマ皇女をエスコートして、私室から出てきたところだった。
なぜ?なぜこんな時間に、陛下の私室に皇女様がいらっしゃるの?
しかも、極上の夜って・・・。
「そんな・・・。わたくし、離れがとうございます、陛下」
そういうや否や、ファティマ皇女が陛下の首に両手をまわすと、熱烈なキスをした。
?!?!?!
なんなの・・・?!
私は踵を返して、一目散に駆け出していた。
リア様たちのお手紙を渡さないといけないのに。
でも、あの場にはいられない、一秒だっていたくない!
陛下とファティマ皇女の仲は、もうあんなところまで進んでいたのね。
もう、私の入る隙なんてないじゃない・・・。
気がつくと、庭園の東屋に来ていた。
王宮に来て初めての朝、陛下とお子さま方と朝食をとった、あの東屋。
あの時の陛下のお姿を思い出し、涙が込み上げてくる。
もう、この思いは捨て去るしかないの?
陛下、陛下。リチャード様・・・!
初めて心の中で、陛下のお名前を叫んだ。
忘れたくない、離したくない。
でも、でも・・・!
その時だった。
「グレイス・・・?」
そこには、息をきらしながら私を見ている、陛下のお姿があった。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
読んでくださってありがとうございます。
皆さんの応援がとても励みになっています。
明日より、新話の投稿時刻を夜19:00~20:00ごろに変更予定です。
頑張って続きを書いていますので、楽しみにお待ちください。
そう言ってファティマ皇女は、豊かな黒髪をかきあげ、褐色の肌に映える豪奢な首飾りを誇示した。
大胆に開いた胸元からは、豊かな谷間が覗き、周りの男性陣は皆、一様にため息を漏らす。
「実に美しい。ザッハールの大輪の薔薇たるお方にふさわしい名品ですね」
賛辞を贈ったのは、国王陛下リチャード様。
「どうぞ、お手に取ってご覧くだされ」
気を良くしたファティマ皇女は、陛下の手を取ると、首にかかったままの首飾りの下に滑り込ませた。
ちょっと!
はっ、肌に当たってるじゃないの、陛下の手がっ!ていうかもうそこ、胸っ!
使節団が到着して1週間。
会合の合間にティルームで談笑したり、庭園を散歩したりする陛下と皇女の姿をよく見かけてしまう。しかもたいてい、ふたりきり。
美男美女のお二人は、本当によくお似合いで、結婚も間近では?という声も聞こえるようになった。
胸が痛い・・・。
皇女様と私では比べ物にならないことはわかってる。けれど、目の前で仲睦まじい姿を見せられると、どうしようもなく苦しくなる。
「グレイスぅ、つぎはおとうさまにいつあえるかなぁ」
タクト皇太子が私の膝によじのぼりながら、俯き加減におっしゃった。
そうだわ。お父上に会えないさびしさは、お子さまたちのほうが強いものね。
リア王女は何もおっしゃらないけれど、無表情で耐えていらっしゃるのがわかる。
ご自分がさびしがれば、タクト様にも伝染すると思っておいでなのだわ。
なんて、健気なのかしら。
使節団来訪中は、陛下もお忙しく、まともにお子さまたちとの時間を過ごされていない。
陛下だって、きっとおさびしいはず・・・。
「リア様、タクト様。お父さまにお手紙を書きましょう!私がお届けしますから」
「おてがみ?やったぁ!かくー」
「かくかくー!」
その夜。
王宮と迎賓室では、ファティマ皇女がひとり爪を噛んでいた。
おかしい、おかしい!
どうしてリチャード様は落ちぬのだ?
わたくしがこんなに熱烈に、愛のこもった視線を送っているというに。
今日なんか、わたくしの象牙の肌に直接触れたのに、表向きの賛辞ばかりで顔色ひとつ変えられなかった。
滞在はあと3日。
あまり猶予がない!
もう、やるしかない。
「誰か、湯浴みの支度を!
最高級の薔薇の香油を用意せよ!
髪には金粉入りのオイルじゃ!」
ザッハールの薔薇、王宮に輝く宝石と讃えられるわたくしが本気で迫れば、いかなリチャード様とて抗えまい。
今までは昼間、人目のある場だったから、押し切れなかった。
だから今夜、陛下の私室でふたりきりになる。
既成事実を作ってしまえば、こちらのものだ。
ファティマ皇女は妖しく微笑むと、一枝纏わぬ姿になった。
褐色に輝く滑らかな肌、豊かな胸、くびれた腰、すらりと伸びた手脚。
冥界の神でさえ我を忘れそうな、官能的な身体。
姿見の鏡を一瞥したファティマ皇女は、満足そうな笑みを浮かべ、バスルームへと歩いて行った。
陛下、いらっしゃるかしら?
私はリア様とタクト様のお手紙を抱えて、陛下の私室へと向かっている。
お疲れでしょうから、ひとこと返事をいただけたら、すぐに退出しよう。
そう思って、廊下の角を曲がったとき。
「ありがとう、ファティマ皇女。極上の夜でした」
陛下の声がした。
えっ、ファティマ皇女?
見ると、陛下がファティマ皇女をエスコートして、私室から出てきたところだった。
なぜ?なぜこんな時間に、陛下の私室に皇女様がいらっしゃるの?
しかも、極上の夜って・・・。
「そんな・・・。わたくし、離れがとうございます、陛下」
そういうや否や、ファティマ皇女が陛下の首に両手をまわすと、熱烈なキスをした。
?!?!?!
なんなの・・・?!
私は踵を返して、一目散に駆け出していた。
リア様たちのお手紙を渡さないといけないのに。
でも、あの場にはいられない、一秒だっていたくない!
陛下とファティマ皇女の仲は、もうあんなところまで進んでいたのね。
もう、私の入る隙なんてないじゃない・・・。
気がつくと、庭園の東屋に来ていた。
王宮に来て初めての朝、陛下とお子さま方と朝食をとった、あの東屋。
あの時の陛下のお姿を思い出し、涙が込み上げてくる。
もう、この思いは捨て去るしかないの?
陛下、陛下。リチャード様・・・!
初めて心の中で、陛下のお名前を叫んだ。
忘れたくない、離したくない。
でも、でも・・・!
その時だった。
「グレイス・・・?」
そこには、息をきらしながら私を見ている、陛下のお姿があった。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
読んでくださってありがとうございます。
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