婚約破棄したら、憧れのイケメン国王陛下と相思相愛、熱烈年の差婚?!

Narian

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14月明かりの下で

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ザッハール使節団が帰国して、またいつものように、リチャード様と食事をご一緒できるようになった。
久しぶりにお父さまと朝食をとるとあって、お子さま方もとても嬉しそう。
お姿を見るや飛びついていらっしゃる。

「リア、タクト。ふたりともよく我慢したね。えらかったよ」

右手にリア様、左手にタクト様を抱え上げ、交互にキスされる。お二人ともけっこうな重さなのに、軽々と抱えて・・・リチャード様の男らしさに、めまいがしそう。

「グレイス、おはよう。今朝もとてもきれいだ」

ええっ?!
きれい・・・きれい?ええっと、きれいってなんだったかしら・・・?

「はは、相変わらずかわいいな、グレイスは」

リチャード様は余裕の表情で微笑んでいる。あの夜以来、初めてまともにお会いする私は、ドキドキして止まらないっていうのに。もう、からかわないで・・・。



その日の夜。
自室でベッドに入ったのだけど、今朝のリチャード様を思い出して眠れなくなってしまった。

久しぶりにお会いしたら、やっぱりとても美しくて、色気に溢れてて。あの逞しい腕に抱かれたんだと思うと、幸せなのに泣きたいような、不安にも似た切なさが込み上げてくる。

リチャード様、今、何をなさっているかしら・・・。

あの夜以来、二人きりにはなっていない。リチャード様はお忙しいし、皇妃でもない女のもとに公然と通うような方ではないもの。王妃様が亡くなられて6年、一度も浮いた噂のなかった方だから。

皇妃・・・。その言葉にはっとした。皇妃どころか、私にはなんの約束もない。私はこれからどうなるのかしら。
結ばれたことに興奮して、これからのことなど考えもしなかったけれど、一度気づいてしまったら止まらない。

とても眠れそうにないので、庭園に出てみることにした。
夏夜の庭園は、風が青い草の匂いを運んできて心地良い。草に舞い散った夜露が、月光を浴びてキラキラと輝く中を進む。

私はどうなりたいの?

愛妾?それはいやよ。
結婚?妃になるということ?この国の王妃に?

王妃・・・。この国の民にとって、王妃は今でも、リア様たちの亡くなられた母君、ユリアーナ様だ。優美で儚げで、けれど芯がお強くて、本当に素晴らしい方だった。
誰からも愛された。もちろんリチャード様にも。

あの方のようにはなれない。私にはなれない。
だけど私、リチャード様を愛してる。

とめどなく浮かぶ想いに揺れながら歩いていると、植え込みの向こうの人影に気づいた。

ベンチに腰掛け、ひとりワイングラスを傾けるその人影の、すらりと伸びた背筋、柔らかな茶色の髪・・・
後ろ姿でも間違えるはずはない。
リチャード様だ。

お側に行きたい。でも、こんな気持ちのまま、どんな顔をしたらいいのかわからない。
進むことも引き返すこともできずに立ち尽くしていると、月明かりに照らされたテーブルの上に、一枚の小さな絵が立てかけられていることに気づく。

優しくほほ笑む、若く美しい女性。
ユリアーナ王妃様の絵姿だった。

心臓がドクリ、と脈打つ。
ユリアーナ様に語りかけていらっしゃるの・・・?

立ち去ろう。
ここはリチャード様とユリアーナ様の空間だ。
私がいる場所じゃない。
そう思った時だった。

「誰かいるのかい?」

突然リチャード様が振り向いた。

「あ、あの、」

気づかれてしまったら逃げるわけにもいかず、立ち尽くす。

「グレイス・・・」

明らかに驚いた顔をなさって、私は苦しくなった。
やっぱり、ここに居てはいけなかったんだ。

「あ、あの、散歩してたらたまたま・・・私、帰ります」

「ま、待って!行かないで」

踵を返そうとしたとき、リチャード様が焦ったように言った。

「ここに来て、グレイス。お願いだから」

懇願するような声だった。
この方にこんなふうに言われて、振り切れるはずがない。私は植え込みを抜けて、リチャード様の隣に腰掛けた。


「・・・。ユリアーナ王妃様とお話してらしたんですね」

自分から言った。きっとリチャード様は、どう切り出そうか困っておいでだと思ったから。

「ああ、そうなんだ。彼女を亡くして以来、たまにね」

少し困ったような、悲しいような横顔でリチャード様は答えた。

亡き人の面影相手に、何年もひとり語りかけるリチャード様を思うと、胸が苦しくなる。

夜風が木の葉を揺らし、虫の合唱が私たちを包む。

・・・この方は今でも、ユリアーナ様を愛しておられるんだ。


「今夜はね、君のことを話していたんだ。
僕はまた恋をしたよ、って。彼女は明るくてたくましくて、リアとタクトのことも愛してくれてるよ、ってね」

えっ?私のことを、そんなふうに・・・。
驚く私を見て、リチャード様は静かにつぶやく。

「グレイス。僕は、何年も亡き人に延々と語りかけるような、情けない男だ。ただの不甲斐ない男なんだ」

少し悲しそうな、リチャード様の顔。
ロザーヌ王国が誇る名君、民の尊敬を一身に集めるリチャード国王陛下が、こんな切なげな顔をなさるなんて。

愛おしさが込み上げる。

「ええ。ええ、リチャード様」

もう迷わない、そう思った。行く先がどこだろうと。

「あなたを愛しています。
そしてこれからも愛します。
あなたの中にいるユリアーナ様もいっしょに」

驚いたような顔をして、リチャード様は私を見つめる。それから一度目を閉じ、ゆっくりと開いた。

「ユリアーナを亡くしたとき、僕の愛は全て彼女とともに消え去ったと思った。リアとタクトに注ぐもの以外は。
僕はそれでいいと思ってた」

まっすぐ瞳をみつめると、少し微笑む。

「でも、君が変えてくれた。
君が僕にもう一度、愛することを思い出させてくれたんだ」

そして私の手を取る。

「愛してる、グレイス。僕と結婚してほしい」

え、ええっ?!

「僕とともに生きてほしい」

信じられない・・・。

「わ、私でいいのですか?」

「君がいいんだ」

「リア様とタクト様は・・・?」

「あの子たちは君が大好きだ。大喜びするよ」

「で、でも私が王妃なんて」

「君は国民に愛される王妃になるよ。僕がこれほど参ってるんだからね」

夢みたい。
この方がこれほど思ってくださるなんて。

「・・・はい」

リチャード様の愛に、応えたいと思った。

「はい、リチャード様。喜んでお受けいたします」

「ああ、グレイス!」

答えるやいなや、強く抱きしめられる。

「よかった!断られたら、僕は抜け殻になってしまうところだったよ」

しばらくの間、そのまま抱きしめられていた。
リチャード様の温もりが心地よくて、ずっとこのままでいたいと思ってしまう。

「さ、夜が明けたら忙しくなるぞ。君のご両親に挨拶して、リアとタクトに話して、伯母上にも・・・」

夜更けに部屋に戻った。
本当は帰したくないけれど、二人きりでいたら君を抱きつぶしてしまいそうだから、と言われて真っ赤になりながら。

幸せの絶頂にいた私は・・・
この後起こる事件を、この時の私は知る由もなかった。


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