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番外編 リチャード編02
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国を出て3年後、僕は帰国した。
真っ先にユリアーナに会いに行ったよ。
彼女は驚いたけど、笑顔で迎えてくれた。
彼女の屋敷の居間には、僕が手紙に添えて送った品が、綺麗に飾ってあった。これを見るたびに私も世界を旅しているような気持ちになれます、と笑顔で話すユリアーナを見て、送ってよかったと思った。
待たせてごめん。今日からはずっといっしょだからと、僕は言ったものだ。ユリアーナは静かに微笑んで、頷いてくれた。
それから半月後に結婚式を挙げた。民に祝福され、ユリアーナも幸せそうだった。
しばらく経ったある日、王宮の皇太子夫妻用の居室で、たまたま独りでくつろいでいていたときだった。
探し物をしていて、ふと普段は開けないクローゼットを開けると、見慣れない服が何枚も吊り下げてあるのを見つけた。全て手縫いの服で、襟口に“Richard”の縫い取りがある。
ユリアーナは裁縫も得意だ。彼女が僕のために縫ったものだろうな。
そう思ったとき僕は、旅先で出会った女性たちのことを思い出した。
彼女たちは、気持ちいいくらい気が強くて、陽気な女性たちだった。
「街で一旗上げてくる」と出て行ったきり、何年も帰らない夫の代わりに、稼業も家事も切り盛りする、たくましい人たちだ。
「あのバカ亭主、帰ってきたって家に入れてやるもんか」という恨み節を、何度聞いただろう。
だけど季節変わりには、夫のために新しい衣を用意するのだ。いつ帰ってくるともわからない男が、いつ帰ってきてもいいように。
・・・ユリアーナもそうだったのだろうか。
旅立ったきりの薄情な婚約者を恨みに思いながら、それでも帰る日を待ちわびて、服を縫わずにいられなかったのだろうか。
ごめん、ユリアーナ。僕は、そんなこと考えもしなかった。君が待っていてくれることを疑いもせず、僕は好きなように生きてきたんだ。
ユリアーナを幸せにしたいと思った。彼女が感じた悲しみを、すべて取り戻したいと思った。
それからは外に遊びに出ることもなく、彼女との時間を大切にしたつもりだ。それで罪滅ぼしになったかは、わからないけれど。
だけど、数年後のある日、ユリアーナは天に召された。幼な子を2人も残して、その成長を見ることもなく。どんなに生きたかっただろう。どんなに無念だっただろう。
3年も旅になんか出るんじゃなかった。もっと早くからそばにいて、彼女を知って、大切にしていればよかった。
僕はユリアーナを失った時、もう誰も愛さないと誓ったわけじゃない。ただ、もう愛することはないだろうと思ったんだ。僕の愛はこれから、ユリアーナの分まで、リアとタクトに全て注ぐから。
だからタニア叔母上から、リアとタクトに家庭教師をと勧められた時、初めは断った。
僕ら親子の間に、他人が入るなんてとんでもないからね。
だけどそれが、グレイスだと聞いて心が動いたんだ。
グレイスといえばあの、戴冠式の日に裏でひっくり返ってた子だ。あの子は覚えてないだろうけど、せいいっぱい大人のふりして背伸びする姿は、なんともかわいらしかったな。
あの子なら、リアとタクトのいいお姉さんになってくれるかもしれない。
僕は、叔母の申し出を受けることにした。
真っ先にユリアーナに会いに行ったよ。
彼女は驚いたけど、笑顔で迎えてくれた。
彼女の屋敷の居間には、僕が手紙に添えて送った品が、綺麗に飾ってあった。これを見るたびに私も世界を旅しているような気持ちになれます、と笑顔で話すユリアーナを見て、送ってよかったと思った。
待たせてごめん。今日からはずっといっしょだからと、僕は言ったものだ。ユリアーナは静かに微笑んで、頷いてくれた。
それから半月後に結婚式を挙げた。民に祝福され、ユリアーナも幸せそうだった。
しばらく経ったある日、王宮の皇太子夫妻用の居室で、たまたま独りでくつろいでいていたときだった。
探し物をしていて、ふと普段は開けないクローゼットを開けると、見慣れない服が何枚も吊り下げてあるのを見つけた。全て手縫いの服で、襟口に“Richard”の縫い取りがある。
ユリアーナは裁縫も得意だ。彼女が僕のために縫ったものだろうな。
そう思ったとき僕は、旅先で出会った女性たちのことを思い出した。
彼女たちは、気持ちいいくらい気が強くて、陽気な女性たちだった。
「街で一旗上げてくる」と出て行ったきり、何年も帰らない夫の代わりに、稼業も家事も切り盛りする、たくましい人たちだ。
「あのバカ亭主、帰ってきたって家に入れてやるもんか」という恨み節を、何度聞いただろう。
だけど季節変わりには、夫のために新しい衣を用意するのだ。いつ帰ってくるともわからない男が、いつ帰ってきてもいいように。
・・・ユリアーナもそうだったのだろうか。
旅立ったきりの薄情な婚約者を恨みに思いながら、それでも帰る日を待ちわびて、服を縫わずにいられなかったのだろうか。
ごめん、ユリアーナ。僕は、そんなこと考えもしなかった。君が待っていてくれることを疑いもせず、僕は好きなように生きてきたんだ。
ユリアーナを幸せにしたいと思った。彼女が感じた悲しみを、すべて取り戻したいと思った。
それからは外に遊びに出ることもなく、彼女との時間を大切にしたつもりだ。それで罪滅ぼしになったかは、わからないけれど。
だけど、数年後のある日、ユリアーナは天に召された。幼な子を2人も残して、その成長を見ることもなく。どんなに生きたかっただろう。どんなに無念だっただろう。
3年も旅になんか出るんじゃなかった。もっと早くからそばにいて、彼女を知って、大切にしていればよかった。
僕はユリアーナを失った時、もう誰も愛さないと誓ったわけじゃない。ただ、もう愛することはないだろうと思ったんだ。僕の愛はこれから、ユリアーナの分まで、リアとタクトに全て注ぐから。
だからタニア叔母上から、リアとタクトに家庭教師をと勧められた時、初めは断った。
僕ら親子の間に、他人が入るなんてとんでもないからね。
だけどそれが、グレイスだと聞いて心が動いたんだ。
グレイスといえばあの、戴冠式の日に裏でひっくり返ってた子だ。あの子は覚えてないだろうけど、せいいっぱい大人のふりして背伸びする姿は、なんともかわいらしかったな。
あの子なら、リアとタクトのいいお姉さんになってくれるかもしれない。
僕は、叔母の申し出を受けることにした。
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