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窓開けておけば逃げるからっておい鳥か?

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鞭は非常に良かった。ロングウイップなら騎士に触れないから騎士が元気になって股間が苛々することもない。
3つの立ててある薪を的にして鞭を振るい全て倒したら拍手が聞こえた。
「素晴らしい腕前です。いや、本当にお似合いになる」
直感的に敵だ、と理解した。王女という立場は称賛ばかりを浴びるものではない。高貴な血筋を前にして、征服欲を感じるのだろう。ある種の人間は私を狙うのだ。頭の高いものでなければ頭を下げさせられないから。
「何か御用でしょうか?」
「健康王国王女殿下にご挨拶を、と思いまして」
帝国の新しき花、が宮廷の修辞法として正しい肩書だ。認めない、ということか。
「挨拶を許そう」
手を差し出すのが正しい作法だが向こうはその気がないようだ。こちらもやる気はない。
「王女殿下にご挨拶申し上げます、文科事務官長のイェリネでございます」

「皇帝陛下と離縁してくださいませ」
無礼を働いたことに苛烈にあたればこちらが悪者にされる。私は興味を失った。
「そうか、下がれ」
挨拶も受けたからいいだろう。
「おお、同意したということは離縁していただけるのでしょうか?」
手を少しあげれば近衛リオネル達がが割り込み排除してくれる。
「お待ち下さい、お返事をいただいておりません! あまりにも勝手ではありませんか? 民の意見に耳を傾けてくださいませ!」
はぁ、疲れるな。あの手合は。王族は思うよりも忙しい。無限に時間があるとでも思っているのか。なぜ皇族の婚姻に文科が口を出すのか。
「元老院と文科院に先の人物の越権への抗議書面を出すようにビザステリオ様の侍従長に言ってくれ」
「かしこまりました。帝国の新しき花に平穏がありますことを」
「ありがとう」
ビザステリオ様直属の部下は礼儀正しい。リオネルは中々良い護衛だ。けれど、他はそうでもないということは雰囲気でわかってはいたが、その証明とばかりにああいう人が挨拶にくるのは面倒だ。
「面倒だから帰ろうかしら」
「いや! お待ち下さい! すいません、私がさっさと止めるべきでした! ヘーゼル様!」
ボソッと呟いたらものすごく慌てていた。皇宮の警備は手厚いが私が脱走できないほどではない。やることもあるし、帝国に長居しなくてもいい。
ただ一つ、未練なのはビザステリオ様に会えなくなることぐらいだ。

ビザステリオ様は時間を縫って謝りにやってきてくれた。
「ヘーゼル、すまない。ヘーゼルのことを良く知らないでゴネている一派が来てしまったと聞いた」
「その話は抗議文で終わりよ」
「そうか」
落ち込んでるビザステリオ様もなかなか苦労なさっているのだな。
「俺が惚れているだけなのに」
「そうでもないですよ」
この顔面で好かれていない、なんて思えるものなのか。私はビザステリオ様の頬を撫でた。
抗議文で終わり、とは言ってもささやかな外部からの悪意は私をイライラさせた。これから続くのだろうなぁ。
「俺たちの結婚式とヘーゼルの戴冠式の日取りはこれでいいだろうか? 俺の伴侶てあることは共同統治者の地位にもついてほしいんだ。その手続きで時間がかかってしまった」
「あ、そうなのですね。特に用事はないですしそれで大丈夫です」
「よかった! あんなこともあったし断られたらどうしようか考えていたよ」
「貴方の隣は居心地がいいので」
「ヘーゼル」
寄り添う体温が愛おしい。ビザステリオ様に不満はない。ないことはないが、アイツラは鬱陶しい。離縁


ビザステリオ様がいない間に、反対派が押しかけてきた。何たる無礼。
近衛たちが排除してくれてはいるけれど、私は開いていた窓から逃げ出した。
「無礼な方々、ごきげんよう」
「ヘーゼル王女、早まらないでくださいっ! ここは四階です!」
「ついてきたら死ぬわよ」
私は窓から身を投げたが私が死ぬわけはない。私が健康であるのは森羅万象に優先する事項なのだ。案の定、神の加護により靴の先が光り自由落下が緩やかなものになり地面に着地した。
「な、んと!」
「取るに足らない祭神の国の寵児だったのではないか?」
神様に取るに足らないなんて価値は存在しない。ひたすら上の存在にそういえるバカさに私は苦笑した。
「それでは皆様、ごきげんよう。しばらくお会いしないと思いますわ」
私は王女としての礼をとってから帝国を脱走した。
苛つく苛つく苛つく! 
この思いは止められない。
しかし、何事にも順序というものがある。リベンジ・リスト最上位から片付けなければ気がすまない。
「健康王国、滅ぼしてやる……!」
私は祖国に向かって駆け出した。
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