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本編
第12話
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二杯目はさっぱりしたのが飲みたくなってレモンサワーを頼んだ。
国原は届いたばかりのビールを喉を鳴らして半分くらい一気に喉に流し込んだ。
いい飲みっぷりだなと思っていると、さっきまで笑っていた国原の顔色がだんだん暗くなっていく。
「…ここからの話は、お前にはキツイかも知れない」
「もう十分キツイから今更だろ」
「いや……お前が想像している以上にだよ」
「捺月のことか?」
国原は無言で頷いて、「気分が悪くなったら言えよ」と前置きをしてから話し始めた。
「…希未さんとお茶した後、捺月から聞いた彼女の話と印象が食い違ってたから直接確認しようとしたんだよ。会って話したいってメッセージ送ったんだけど返事がなくてさ。どうしたのかなと思ってたら、3日前くらいに夜中にいきなり電話がかかってきて呼び出されたんだ」
*
電話をしてきた捺月は相当酔っている様子で、俺のことで相談があると言ったらしい。
国原は奥さんに許可を取って指定された店に行き、相談に乗るついでに希未のことを問い質そうと思っていた。
店は繁華街のビルの地下にあるバーで、ドアを開けるとカウンターで捺月が酔いつぶれていた。
声をかけようとした時、『ゆづる君に頼んでストーカーまででっちあげたのにぃ…』と隣に座る男性に愚痴を零すのが聞こえて耳を疑ったという。
『捺月…どういうこと?』
『あっ?貴士くんに聞かれちゃったぁー』
あはは、と機嫌よく笑う彼女は大きく体を揺らしながら男性の腕にべたべたと触った。
見るからに女好きの軽薄そうな男で、捺月の腰や際どいところを触り、彼女もそれをだめだと言いながらも受け入れている。
初めて目にする蠱惑的な女友達の姿を前にした国原は、驚くのと同時にひどく落胆した。
『聞かれちゃったぁーじゃない。ったく、どんだけ飲んでんだよ…。飲みすぎだ、バカ』
友達だと言う彼に席を外してもらい、国原も1杯だけ酒を頼んで話を聞いた。
『新婚ホヤホヤの俺をこんなところに呼び出して、なんの話だよ』
『捺月ね、どうしても水城ともう一度付き合いたいの』
『それは知ってるよ。それよりさっきのストーカーを頼んだって何だよ?』
『さっきの男の子…ゆずる君っていうの。捺月に協力してくれて…』
『夜道をつけるように頼んだのか?』
『うん。毎日じゃないけど、水城に怪しまれないように2、3日おきくらいで。ストーカーに遭ってるって言ったらぁ、きっかけができるかなーって』
『いやいや…俺も水城も本気で心配したんだぞ?早く本当のこと話してやれよ。それかもう解決したって言え』
『話せないよぉ。水城に嫌われちゃったんだもん。あの子のせいでまたぜんぶだーいなし』
『あの子って、希未さんのこと?』
『そう!工藤希未!あの子ほんとなんなの?いつも私の邪魔ばっかりして…!』
捺月は豹変したように怒り出し、グラスに残っていたスパークリングワインを飲み干した。
『まさかこの年で再会すると思ってなかったし。ずーっと消えててくればよかったのに…』
『……』
『水城があの子と結婚するなんて言うから、思い知らせてやろうと思って色々したんだ。ほらぁ、3人で飲んだとき!あのとき水城のスマホをちょこっと貸してもらって連絡先手に入れたの。水城と私が両想いだってわかる画像をたくさん送ったりー、邪魔するなって何度も警告したりしたの』
『そんなことしてたのか…』
『一緒に出張に行った時はね、水城の飲み物に薬混ぜて眠らせて、えへへ…』
『まさかお前…』
『えへ…水城のカラダ、スゴく良かったぁ。筋肉とかぁ肌もすべすべで気持ち良くてぇ~。そのときのね、裸で抱き合ってる写真も送ったの!他にもいろいろ…そしたらやーっと水城の家から出ていった!』
『お前…それは……』
『だけどね…喜んでたらこんどは水城が、あの子が出ていったのはお前か国原のせいだって言うんだよ?隠してるなら許せる内に早く言えって、私に怒るの!お腹に子どもがいるかも知れないのに、ひどいよね?』
『……』
『だけどあの子は水城と私が付き合ってるって信じてるし、絶対に水城のところには戻らないはずなの。だからこのまま私と復縁したって水城には何の問題もないはずなのに…なのにどうして水城は全然振り向いてくれないのかなぁ?!昔から希未、希未って…うるさいのよぉ!あんな地味な子のどこがいいの?!洗脳されてるとしか思えないっ!貴士くんもそう思うでしょ?!』
『……』
*
「俺は何も言えなくて、捺月を店にそのまま置いて帰ったんだ。酔っててまともに話もできそうになかったし…。でも昨日ちゃんと確かめようと思って捺月に会ったんだ。そしたら俺を呼び出したことも、話した内容も覚えてないって。本当なのかどうか問い詰めたけどはぐらかされてさ。これはもう、嘘じゃないなって確信した」
話を聞いている途中で吐き気がして、俺は思わず口元を抑えていた。
今まで捺月に抱いていたイメージと信頼がガラガラと崩れていく。
彼女の二面性と計算高さに恐怖さえした。
(寝ている間に何をされたんだ?子どもがいるかも知れないだって?)
ぞわぞわと腹の底から嫌なものが沸き上がってくるような心地がして、話が終わった瞬間に俺はトイレに駆け込んでいた。
吐くものもないのに便器に嘔吐いていると、国原が追いかけてきて背中をさすってくれた。
「ごめん、水城…ごめん…」
「…お前が謝ることじゃないだろ」
「だけど…もっと慎重に話すべきだった。ごめん…」
「変に隠されるのも嫌だからいい。俺が迂闊だっただけだ…」
「捺月から聞いた時点でお前に伝えればよかった。酔ってたから妄言かもって…お前は会社で毎日あいつと会うのに…」
「最近は顔を見ることもなかったから平気だ…」
俺よりもやつれた顔をする国原を気遣って、俺達は席に戻った。
でもそれから飲み食いする気にはなれなくてすぐに店を出た。
「これ。ちゃんと食べろよ」
帰り際、食べきれずに残った料理を無理やり持たされた。
とてもものを食べられる気分じゃなかったが、断るのも面倒で受け取った。
国原は俺の背中を軽く叩いて横から覗き込むように目線を合わせる。
「食欲なくても、何か腹に入れろ。今のお前を見たら希未さんが心配するぞ」
「ああ…」
「何だって協力するから言ってくれ。俺はお前の味方だから。それを忘れるなよ」
国原は届いたばかりのビールを喉を鳴らして半分くらい一気に喉に流し込んだ。
いい飲みっぷりだなと思っていると、さっきまで笑っていた国原の顔色がだんだん暗くなっていく。
「…ここからの話は、お前にはキツイかも知れない」
「もう十分キツイから今更だろ」
「いや……お前が想像している以上にだよ」
「捺月のことか?」
国原は無言で頷いて、「気分が悪くなったら言えよ」と前置きをしてから話し始めた。
「…希未さんとお茶した後、捺月から聞いた彼女の話と印象が食い違ってたから直接確認しようとしたんだよ。会って話したいってメッセージ送ったんだけど返事がなくてさ。どうしたのかなと思ってたら、3日前くらいに夜中にいきなり電話がかかってきて呼び出されたんだ」
*
電話をしてきた捺月は相当酔っている様子で、俺のことで相談があると言ったらしい。
国原は奥さんに許可を取って指定された店に行き、相談に乗るついでに希未のことを問い質そうと思っていた。
店は繁華街のビルの地下にあるバーで、ドアを開けるとカウンターで捺月が酔いつぶれていた。
声をかけようとした時、『ゆづる君に頼んでストーカーまででっちあげたのにぃ…』と隣に座る男性に愚痴を零すのが聞こえて耳を疑ったという。
『捺月…どういうこと?』
『あっ?貴士くんに聞かれちゃったぁー』
あはは、と機嫌よく笑う彼女は大きく体を揺らしながら男性の腕にべたべたと触った。
見るからに女好きの軽薄そうな男で、捺月の腰や際どいところを触り、彼女もそれをだめだと言いながらも受け入れている。
初めて目にする蠱惑的な女友達の姿を前にした国原は、驚くのと同時にひどく落胆した。
『聞かれちゃったぁーじゃない。ったく、どんだけ飲んでんだよ…。飲みすぎだ、バカ』
友達だと言う彼に席を外してもらい、国原も1杯だけ酒を頼んで話を聞いた。
『新婚ホヤホヤの俺をこんなところに呼び出して、なんの話だよ』
『捺月ね、どうしても水城ともう一度付き合いたいの』
『それは知ってるよ。それよりさっきのストーカーを頼んだって何だよ?』
『さっきの男の子…ゆずる君っていうの。捺月に協力してくれて…』
『夜道をつけるように頼んだのか?』
『うん。毎日じゃないけど、水城に怪しまれないように2、3日おきくらいで。ストーカーに遭ってるって言ったらぁ、きっかけができるかなーって』
『いやいや…俺も水城も本気で心配したんだぞ?早く本当のこと話してやれよ。それかもう解決したって言え』
『話せないよぉ。水城に嫌われちゃったんだもん。あの子のせいでまたぜんぶだーいなし』
『あの子って、希未さんのこと?』
『そう!工藤希未!あの子ほんとなんなの?いつも私の邪魔ばっかりして…!』
捺月は豹変したように怒り出し、グラスに残っていたスパークリングワインを飲み干した。
『まさかこの年で再会すると思ってなかったし。ずーっと消えててくればよかったのに…』
『……』
『水城があの子と結婚するなんて言うから、思い知らせてやろうと思って色々したんだ。ほらぁ、3人で飲んだとき!あのとき水城のスマホをちょこっと貸してもらって連絡先手に入れたの。水城と私が両想いだってわかる画像をたくさん送ったりー、邪魔するなって何度も警告したりしたの』
『そんなことしてたのか…』
『一緒に出張に行った時はね、水城の飲み物に薬混ぜて眠らせて、えへへ…』
『まさかお前…』
『えへ…水城のカラダ、スゴく良かったぁ。筋肉とかぁ肌もすべすべで気持ち良くてぇ~。そのときのね、裸で抱き合ってる写真も送ったの!他にもいろいろ…そしたらやーっと水城の家から出ていった!』
『お前…それは……』
『だけどね…喜んでたらこんどは水城が、あの子が出ていったのはお前か国原のせいだって言うんだよ?隠してるなら許せる内に早く言えって、私に怒るの!お腹に子どもがいるかも知れないのに、ひどいよね?』
『……』
『だけどあの子は水城と私が付き合ってるって信じてるし、絶対に水城のところには戻らないはずなの。だからこのまま私と復縁したって水城には何の問題もないはずなのに…なのにどうして水城は全然振り向いてくれないのかなぁ?!昔から希未、希未って…うるさいのよぉ!あんな地味な子のどこがいいの?!洗脳されてるとしか思えないっ!貴士くんもそう思うでしょ?!』
『……』
*
「俺は何も言えなくて、捺月を店にそのまま置いて帰ったんだ。酔っててまともに話もできそうになかったし…。でも昨日ちゃんと確かめようと思って捺月に会ったんだ。そしたら俺を呼び出したことも、話した内容も覚えてないって。本当なのかどうか問い詰めたけどはぐらかされてさ。これはもう、嘘じゃないなって確信した」
話を聞いている途中で吐き気がして、俺は思わず口元を抑えていた。
今まで捺月に抱いていたイメージと信頼がガラガラと崩れていく。
彼女の二面性と計算高さに恐怖さえした。
(寝ている間に何をされたんだ?子どもがいるかも知れないだって?)
ぞわぞわと腹の底から嫌なものが沸き上がってくるような心地がして、話が終わった瞬間に俺はトイレに駆け込んでいた。
吐くものもないのに便器に嘔吐いていると、国原が追いかけてきて背中をさすってくれた。
「ごめん、水城…ごめん…」
「…お前が謝ることじゃないだろ」
「だけど…もっと慎重に話すべきだった。ごめん…」
「変に隠されるのも嫌だからいい。俺が迂闊だっただけだ…」
「捺月から聞いた時点でお前に伝えればよかった。酔ってたから妄言かもって…お前は会社で毎日あいつと会うのに…」
「最近は顔を見ることもなかったから平気だ…」
俺よりもやつれた顔をする国原を気遣って、俺達は席に戻った。
でもそれから飲み食いする気にはなれなくてすぐに店を出た。
「これ。ちゃんと食べろよ」
帰り際、食べきれずに残った料理を無理やり持たされた。
とてもものを食べられる気分じゃなかったが、断るのも面倒で受け取った。
国原は俺の背中を軽く叩いて横から覗き込むように目線を合わせる。
「食欲なくても、何か腹に入れろ。今のお前を見たら希未さんが心配するぞ」
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