交際0日の略奪婚~エリート営業マンは傷心の幼馴染を逃さない~

水瀬 立乃

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本編後

第16話

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週末、俺は希未を連れて実家に帰った。
俺の住むマンションから実家までは車で30分ほどのところにある。
帰ることは事前に電話で連絡を入れたが、紹介したい人がいると言っただけで希未のことは濁したのできっと驚くだろう。
そう思っていたのだが、母親は希未が斜め向かいの家に戻って生活していたことを知っていた。

「2ヶ月くらい前かしら?偶然家の近くで会ったのよ。綺麗になってたから驚いちゃったわ。水城には黙っていて欲しいって言うから、てっきり嫌いになっちゃったんだと思っていたけど…まさか結婚してくれるなんて!」

母親は俺が希未と音信不通になったのを知っている。
あの頃のわだかまりがまだ続いていると思っていたんだろう。
驚きながらもににこにこ笑っていて、父親もどこか嬉しそうだった。
俺の両親は昔から希未を実の娘のように可愛がっていたから、何も心配いらなかったな。

「でもどこで会ったの?希未ちゃんの職場って確か…」
「はい、そこで偶然水城の友達が結婚式を挙げたんです。それで宿泊していた水城と再会して……」
「そうだったのね」

2人の会話に耳を疑った。
母親は希未の勤務先を知っていたような口ぶりだ。

「母さん知ってたのか?希未があのホテルで働いてるって?」
「知ってたわよ。お母さんはずっと連絡を取ってたんだから」
「ずっとって…いつから?!」
「ずっとはずっとよ。希未ちゃんが引っ越してからずーっとね」

残念でしたと言わんばかりににんまりされて、腹が立つと同時に脱力感を覚えた。
希未の居場所を知っていた人がこんなにすぐ近くにいたのに全く気が付かなかった。

「なんで教えてくれなかったんだよ?」
「だってあんた聞かなかったじゃない」
「そうかも知れないけど、俺が連絡取れなくなって落ち込んでたの知ってるだろ?」
「希未ちゃんが望んでないと思ったのよ。あんたったら希未ちゃんに冷たいことばかり言って…可哀想だったもの。あんたと距離置きたいんだなと思ったのよ」

その推理は大方正解だから何も言い返せない。

「こっちに戻ってきたのだって、あんたに連れてこられたからだとは思っていなかったから、いま本当にびっくりしているのよ。だけど相変わらずなのね水城。いつからお付き合いしてたのか知らないけど、恋人を誕生日に放っておくなんて母さんならボッコボコにしてるわ」

交際をすっ飛ばしてプロポーズしましたと言ったら、それはそれでまた怒られそうなので黙っておく。

「色々事情があったんだよ…」
「そのおかげで私は希未ちゃんと楽しく過ごせたからいいけどね。誕生日はお父さんと3人でお祝いしたのよ。ケーキ美味しかったわよね~、希未ちゃん?」
「あっ…はい。美味しかったです。あんなふうにお祝いされたのも久しぶりで…ありがとうございました」
「……」

希未は俺の家を出ていた間に28歳の誕生日を迎えていた。
当日一緒に祝えなかったことをひどく悔やんでいたが、まさか俺の両親と過ごしていたとは思わなかった。
状況が状況だっただけに仕方がないとはいえ、俺だけ除け者にされたようで面白くない。
悔しそうな顔をした俺を母親はおかしそうに笑い、希未は気遣うように腕に触れてきた。

「ごめんね、水城…」
「…謝るなよ。お前は何も悪くないんだから」

希未は謝ってくれているけど、彼女に非はない。
彼女に誤解をさせたのは俺が嘘を吐いていたからで、捺月がその裏で彼女にしていたことを見抜けなかったからだ。
言い合いをするより先に家を出ていかれたのは堪えたが、なかなか本音を言えない彼女の性格を考えればそれも仕方のないことだと思っている。
俺がまだ捺月に恋愛感情を持っていると信じ込まされていたのだから尚の事だ。
あの時希未が俺の言葉を信じてサインしてくれなかったら、もしかしたら今も誤解されたまま辛い日々を過ごしていたかも知れない。
彼女には感謝こそすれ、これから先何をされたって責める気持ちなんか微塵も湧かないだろう。

「誕生日に一緒にいてやれなくてごめんな」

申し訳なさそうにしている彼女の頭をいつもの癖で撫でると、その場の空気が変わった。
両親が揃って瞠目して、信じられないものを見るような目で俺を見ている。

「……なんだよ?」
「水城が希未ちゃんに謝るなんて…」
「悪いと思ったら謝るだろ」
「前はそうじゃなかったじゃない。全部希未ちゃんのせいにして…」
「あーもう、蒸し返すなよ…。思春期だったんだよ」

ばつの悪い黒歴史を遠慮なく掘り起こしてくる母親が恨めしい。
ごめんなと希未にもう一度謝ると、彼女は何も言わずに首を横に振って微笑んでくれた。
その優しい笑顔にほっとして、ありがとうのキスの代わりに目を細めて彼女を見つめる。
その時、これまで俺達のやり取りを黙って見ていた父親が真面目な表情で口を開いた。

「水城。希未ちゃんのこと、本気なんだな?」
「本気だよ」
「一時の感情だけで結婚したわけではないな?」
「…そんなふうに軽く考えたことはないし、昔の俺とは違うよ。希未にもう一度会えたら絶対逃さないって決めていた。父さんと母さんにとって希未は大事な娘なんだろうけど、俺だってそれ以上に希未を大事に思ってるよ」

父親の言葉に俺も真剣な気持ちで返すと、父親の顔がふっと和らいだ。

「それならいい。大切にするんだぞ」
「わかってる」
「希未ちゃん、水城にひどいことをされたり言われたりしたらいつでも家においで。母さんも私も希未ちゃんの味方だからね」
「お父さんの言う通りよ。希未ちゃんは私達の娘も同然だもの。遠慮しないで言ってね。私が水城を懲らしめてやるから」

俺が希未に何かする前提で話をする両親が気に食わなかったが、俺にそう思わせる過去があるのだから仕方がない。
それに希未が俺の家族に好意的に受け入れられている状況は純粋に喜ばしかった。
俺が悪者になったとしても、俺以外で希未に頼れる人ができるのは嬉しい。
はにかみながら頷く希未の笑顔が眩しくて、俺も自然と頬が緩んだ。

「ところで式はいつするの?」
「まだ決めてないけど、挙げたいと思ってはいる」

母親に聞かれて何事もないように答えたけど、内心ドキッとしていた。
俺はまだ希未と結婚式について何も話し合いをしていない。
よく純白のウエディングドレスを着た希未を想像しては鼓動を速くしているが、彼女から何も言われないので気になっていた。
希未は前と比べてよく笑ってくれるようになったけど、まだ俺に遠慮があるのか素直に甘えてくれない時がある。
式を挙げていないから夫婦になった実感がまだ薄いのだろうか。
嬉しそうに藤本希未と名前を書くのを見るとその可能性はないような気がしているが、彼女から結婚式の言葉は出てこない。
それに式を挙げる上で気掛かりなこともある。
もし国原が挙げたような結婚披露宴をするとなると当然親族を呼ぶことになるが、彼女の両親は他界しているので親族は俺の両親だけになる。
一時期希未を引き取っていた親戚――祖父母と伯父夫婦を呼ぶことも考えたけど、それ程親しくはないようで結婚の報告も彼女は電話で済ませていた。
彼女が彼らに会いたくないなら2人だけでもいいし、もし結婚式を挙げること自体を望んでいないならウエディングフォトだけでも…と考えてはいた。
でもその気持ちを一度も口に出したことはなかったから、当然彼女は目を丸くしていた。

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