十の加護を持つ元王妃は製菓に勤しむ

水瀬 立乃

文字の大きさ
8 / 89

出会い②(ルフナ視点)

しおりを挟む
事件に関わったのだから、事情聴取の必要性は理解できる。
だけど俺はさっき、自分の責任感を優先して店の前に何人ものお客さんを待たせたまま飛び出して来てしまった。

「すみません。今、母の店を任されていて、すぐに戻らなくてはいけないんです」
「そうだったのか。では私も一緒に行こう。お母上に時間をもらえるように頼んでくれないか」
「母は出店にはいないんです。今休憩に行っていて。母が戻るまでお待たせしてしまいますが、構いませんか?」
「ああ、構わないよ」

意外とあっさり許可をもらえて拍子抜けした。
急いで出店に戻ってみれば、さっきのお客さんがまだ待っていてくれて、慌てて対応する。
お客さん達は俺が女装男を取り押さえるところを見ていたらしく、皆怒るどころか称賛してくれた。
そこへタイミングよく母様が店に戻って来た。
母様は俺が来て欲しい時が予測できるんじゃないかと思うくらい、いつもタイミングがいい。

「ルフナ、どうしたの?何かあったの?」

母様は俺を見るなり、抱えてきた荷物をそっちのけにして走り寄って来た。
服が土で汚れているのに気づいて、心配顔をしている。

「大丈夫だよ、怪我はしてないから」
「…そうみたいね。よかった。また人助けをしたの?」
「うん、まあ…そんなところ」
「お兄さん、騎士団が追いかけていた犯人を追いかけていって、捕まえたんですよ!」

お客さんの一人がニコニコしながら商品を受け取る。

「相手は刃物を持ってたのに、勇敢だったわあ」
「まあ…そうだったんですか」
「自慢の弟さんね。羨ましいわ~」

村人でない彼女は、勘違いをしたままお礼を言って去っていった。
俺と母様を姉弟だと言う大人は、この村にはいない。

「弟だって。よかったね」
「…これも豊穣祭の恒例行事ね」
「仕方ないよ。母様はどうしたって年上のお姉さんにしか見えないんだから」

母様は年齢よりもずっと若く見えるから、俺より後に生まれた子ども達や、村以外から来た人達は大抵姉だと勘違いする。
それを母様も自覚していて、嬉しく思う反面、いつまでも可愛い年齢だと思われてしまう葛藤があるようだ。
二人で顔を合わせて苦笑いしていると、会話が聞こえるくらいの距離にいた騎士が目を丸くしていた。
彼も母様のことを姉だと思っていたらしい。

その後すぐに母さんも店に戻って来て、二人に事情を説明した後、俺は待っていてくれた騎士と一緒に騎士団の駐屯所へ向かった。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。 英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

病弱設定されているようです

との
恋愛
『あのようにご立派な家門にお産まれになられたのに⋯⋯お可哀想なご令嬢だそうですのよ』 なんて噂が流れているけれど、誰も会ったことがないミリー・ミッドランド侯爵令嬢。 ネグレクトなんて言葉はない時代に生まれ落ちて、前世の記憶を取り戻したら⋯⋯。 前世の記憶と共に無双します! 再開しました。完結まで続投です。 ーーーーーー 恋愛小説大賞27位、ありがとうございました(感謝) ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定。 完結確定、R15は念の為・・

処理中です...