十の加護を持つ元王妃は製菓に勤しむ

水瀬 立乃

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王都へ

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一週間後、マロアの言葉に背中を押された私は、ルフナを追いかけて王都へやってきた。
お店のこともあったし、グレイルは私の顔を覚えているだろうから、ルフナと一緒に騎士団と移動することは丁重にお断りした。
マロアの言った通り、王都は私が最後に見た時よりも様変わりしていた。
昔ながらの店や建物は相変わらずだったけれど、新しいお店や看板が増えている。
記憶にあるより人通りも多く、辻馬車の数も増えていた。
王都に不慣れなルフナでもわかりやすい場所を待ち合わせに指定したけれど、意外に人が多くて落ち合うのに時間がかるかも知れない。
そう思って馬車を降りたけれど、杞憂だった。
私はすぐにルフナの姿を見つけられたし、彼もすぐに私に気付いた。

「母様、待ってたよ!」
「お迎えありがとう、ルフナ。体調はどう?」
「平気。母様も長旅で疲れただろ?コストルさんに美味しい定食屋を教えてもらったんだ。お昼はそこで食べない?」
「いいわね!王都の定食屋さんに行くのは初めてだわ」
「それはよかった。女性と出かけたことないから、上手くエスコートできるかわからないけど…」
「まあ、エスコートなんて。どこでそんなお洒落なことを覚えたの?」

ほんの一週間前まで『女性には興味がない』なんて言っていたのに、王都に来た途端、大人の階段を一度に数段飛び越えてしまったのかと思うと可笑しくなってしまう。
くすくすと笑うと、ルフナはほんの少し頬を赤らめて拗ねた顔をした。

「コストルさんが言ってたんだよ。女性を食事に誘う時は、母親であってもエスコートするのが騎士道だって」
「ふふ、コストルさんはとても紳士な方なのね」
「うん。俺の尊敬する人だよ」

嬉しそうに笑うルフナを見ると、私も心が温かくなる。
人生の目標にできるような、尊敬できる大人に出会えてよかった。
一度ギニギル村で顔を合わせたことはあるけれど、まだしっかりお礼を言えていない。
引っ越しの手伝いまでしてくれたというし、ご厚意に甘えてすっかりお世話になってしまっている。
きちんとご挨拶をしたいとは思うけれど、コストルという名前には聞き覚えがあった。
かつて貴族学校に通っていた時の同級生に、同じ名前の弟がいたような気がする。
人違いの可能性もあるけれど、私の正体がいつどこで発覚するかわからない。
いずれ彼とは顔を合わせる時が来るでしょうし、それまではこちらから伺わない方がいいわね。

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