十の加護を持つ元王妃は製菓に勤しむ

水瀬 立乃

文字の大きさ
33 / 89

母親の過去

しおりを挟む
私の外見は生まれつき童顔だからだと説明しているけれど、本当はそれだけじゃない。
『聖女』だからだなんて言ってしまったら、それだけで正体がばれてしまうので言えないのだ。
ティーズベル王国は、国に恩恵をもたらすとされている十の神々――火・水・風・大地・太陽・月・天空・時空・豊穣・知恵――を信仰することであらゆる厄災を遠ざけ、平和を保ってきた。
この国に生まれた男女は、十二歳になるとその土地土地の神殿へ行って『鑑定』の儀式を受ける。
神々は純真無垢な人間に加護を与えやすいと言われているため、子どもの頃に加護があるかどうかを鑑定する。
少しでも加護を授かっているとわかれば、男の子なら聖者・女の子なら聖女の称号を与えられ、神々の象徴として崇められる。
加護を授かるのは数十年に一人か二人の割合で、それほど多くはなかった。
聖者・聖女となった子どもには、国の定めた厳しい教育が義務付けられ、いずれ王宮に隣接する大神殿に居を移し、将来は国家繁栄に繋がる重要な役割を与えられる。
それは本人がどんなに嫌だと言っても、周りがどんな手段を使おうと、決められた役割から逃れることはできない。
役割が与えられると、どういうわけか次に代わる存在が現れるまで成長が極端に遅くなり、ある程度の年齢になると止まってしまう。
止まるタイミングは個人差があるけれど、年相応なのはせいぜい二十代後半~三十代前半までだ。
聖者・聖女になるということは、自由にありのまま、人間らしく生きる権利を取り上げられてしまう。
だからあえて子どもを神殿に連れて行かないという家もあって、私もルフナを鑑定させなかった。

過去の聖女の中でも、私に授けられたのは加護は例を見ないものだった。
王国が信仰する十の神すべての加護を持ち、それぞれの力をほとんど均等に受け継いでいた。
儀式に使用される結晶玉に神々の力が拮抗して、砕け散らんばかりの亀裂が刻まれるほどに。
その結晶玉は神々を模した像と共に大神殿の礼拝堂に飾られたけれど、まだあるのかどうかはわからない。
『十の加護を持つ聖女』と認定された私は、突然家の中にいるのに家族とは切り離された生活を強いられ、わけもわからない内に役割が確定した。
翌日から毎日大神殿や王宮に通い、朝から晩まで理不尽とも思える難解な講義を受けさせられて、ほとんど遊ぶ暇もなく課題に取り組んだ。
今ならその必要性がわかるけれど、まだ子どもだった私には孤独で辛く寂しい思いをした。
だからといって神々からいただいた加護を恨むことは全くなかった。
当時まだ婚約者だった七歳年上の夫はとても優しくて、自分も仕事や勉強で忙しいのに休憩の合間を縫って訪ねてきてくれたり、気分転換にと散歩に誘ってくれたりと、愛情深く接してくれた。
私はそんな彼のことがとても好きで、人柄も尊敬していたし、異性として強い愛情も抱いていた。
この人の妻になって傍で支えられるなら、どんなに苦手なことでも得意に変えたいと思えたし、そのために一生懸命頑張った。
だけどその彼に裏切られた時、初めて加護があることを疎ましく思った。
こんなものがあっても意味がない――そう思ってしまった。
きっとその時に、私は『聖女』としての資格を失ったのだと思う。
それ以来何をしていなくても傍に感じていた神々の気配は薄れていき、今は一般人と同じく見るか触れるかしなければ神々の存在を感じられなくなってしまった。
神々にも、愛する人からも見放されて、失意の谷底に落ちてゆくばかりだった私を救い上げたのは、我が子の存在だった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

【完結】あなたに従う必要がないのに、命令なんて聞くわけないでしょう。当然でしょう?

チカフジ ユキ
恋愛
伯爵令嬢のアメルは、公爵令嬢である従姉のリディアに使用人のように扱われていた。 そんなアメルは、様々な理由から十五の頃に海を挟んだ大国アーバント帝国へ留学する。 約一年後、リディアから離れ友人にも恵まれ日々を暮らしていたそこに、従姉が留学してくると知る。 しかし、アメルは以前とは違いリディアに対して毅然と立ち向かう。 もう、リディアに従う必要がどこにもなかったから。 リディアは知らなかった。 自分の立場が自国でどうなっているのかを。

【完結】私に可愛げが無くなったから、離縁して使用人として雇いたい? 王妃修行で自立した私は離縁だけさせてもらいます。

西東友一
恋愛
私も始めは世間知らずの無垢な少女でした。 それをレオナード王子は可愛いと言って大層可愛がってくださいました。 大した家柄でもない貴族の私を娶っていただいた時には天にも昇る想いでした。 だから、貴方様をお慕いしていた私は王妃としてこの国をよくしようと礼儀作法から始まり、国政に関わることまで勉強し、全てを把握するよう努めてまいりました。それも、貴方様と私の未来のため。 ・・・なのに。 貴方様は、愛人と床を一緒にするようになりました。 貴方様に理由を聞いたら、「可愛げが無くなったのが悪い」ですって? 愛がない結婚生活などいりませんので、離縁させていただきます。 そう、申し上げたら貴方様は―――

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

処理中です...