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クリスティエラの父(ディブラン視点)
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エリス達に明言した通り、私は翌日の政務会議で早速この問題を議題に挙げた。
「クリスティエラ妃がエリス妃に傷害を負わせた件だが。ラワーヌ国に寵愛していると報告している手前、事が知れたらこれまでの信頼が揺らぎかねない。事件を公にし、厳しい処罰を下して誠意を示したいと思っている」
「おっ…お待ちください…!王妃殿下も長く陛下の訪れがなく寂しい思いをしているのです。どうか寛大なご処置を…」
「馬鹿な。私が部屋を訪れない腹いせに他の妃を、それも他国から嫁いできた王女をぶってもいいと?娘可愛さに目が眩みすぎて失明したか?自分が何を言おうとしているのかよく考えてみろ」
「も、申し訳ございません…。ですが……!」
「…ですが、何だ。この際だ、腹を割って話せ。お前がこれから何を言おうが、私は処罰しない」
強引に押し通そうと思っていたが、クリスティエラの父親・グリンフィールズ公が面白いくらいに汗を吹き出しているので、言い分を聞いてみたい気分になった。
鷹揚に命じて、背凭れに背を預けて傾聴する格好を見せる。
彼はもう高齢の域に入るはずだが、どこもかしこも贅肉で丸々としているおかげか同じ年頃の者と比べてもしわがほとんど目立たず若く見える。
膨らんだ顔から眼鏡を外し、ハンカチで汗とレンズを拭いて鼻の上に戻してから、わざとらしく咳払いをした。
「……では、お言葉に甘えて申し上げます。
今回の原因は、すべて陛下に起因するものと我々は考えております。かねてから陛下は、王妃殿下に対して無慈悲が過ぎます。レティーシア王女殿下を身籠られてから、陛下は一度も王妃殿下をお訪ねになっていらっしゃいませんね。出産の際には立ち合いもなく、労いの言葉もなかったと聞き及んでおります。それではあんまりだと私が再三進言いたしましたが全くお聞き入れにならなかった。
エリス妃との婚姻を進めたのも、陛下が王妃殿下とお世継ぎをおつくりになられないからです。王妃殿下の反対を振り切って婚姻の儀を行った時のことを覚えていらっしゃいますか?大地が裂ける程の大地震が起きました。エリス妃が身籠った時もです。皇子がお生まれになった時は、2ヶ月以上に渡る大雨で国中の至る所が土砂と水に沈み、物流に大規模な影響が出ました。その大災害の傷は未だ癒えておりません。
その原因は大地の神と天空の神、二つの神の加護を持つ王妃殿下が酷くお心を痛められたからに他なりません。王妃殿下は陛下を心から愛していらっしゃいます。それなのに、他国の血に男児を産ませ、労いの言葉をおかけになり、お部屋にも頻繁にお通いになっていると聞いて、平静でいられるとお思いですか。
感情の抑止が利かなかったことは、確かに王妃殿下の過ちでしょう。しかしこれは日頃から陛下が王妃殿下にお心を砕いていらっしゃれば起こりようのなかったことです。全ては陛下がお招きになった事態です」
数分に渡って演説をした男の顔を顔色を変えずに見つめる。
「―――そうか。それで?本当に言いたいことはなんだ」
「…これを機会に、陛下の王妃殿下への扱いを改めてくださればと思っております」
返事の代わりに、はっと乾いた笑いが零れた。
それを侮辱と受け取ったグリンフィールズ公が目の色を変えて睨め付けてくる。
こんなくだらない進言に声を上げて笑わなかっただけ、褒めてもらいたいものだ。
「それはつまり、私が聖女・クリスティエラを丁重に扱わなかったせいで災害に見舞われ、民を苦しめ、外交を滞らせる原因を作ったということか」
「然様です。聖女は陛下と同位にして、我々が崇める神々のご意思でもある。聖女を大切に守り慈しめば、ひいては国を、民を守り慈しむことに繋がります。我々から見ても、陛下のクリスティエラ王妃殿下への冷酷ぶりは目に余ります。自重なさいませ」
司祭の長子でありながら私欲の為に公の下僕に成り下がった男が彼を擁護するように進言してくるものだから、堪えきれずに口元が緩んでしまう。
こいつらは自分の発言が大層矛盾していることに気が付いているのだろうか。
「忠告痛み入る。聖女のくだりは私もその通りだと思った」
「では陛下、今から……」
「だからそっくりそのままお返ししよう。全ての元凶は、十の加護を持つ聖女を大切に守り慈しまなかった所為だとな」
「クリスティエラ妃がエリス妃に傷害を負わせた件だが。ラワーヌ国に寵愛していると報告している手前、事が知れたらこれまでの信頼が揺らぎかねない。事件を公にし、厳しい処罰を下して誠意を示したいと思っている」
「おっ…お待ちください…!王妃殿下も長く陛下の訪れがなく寂しい思いをしているのです。どうか寛大なご処置を…」
「馬鹿な。私が部屋を訪れない腹いせに他の妃を、それも他国から嫁いできた王女をぶってもいいと?娘可愛さに目が眩みすぎて失明したか?自分が何を言おうとしているのかよく考えてみろ」
「も、申し訳ございません…。ですが……!」
「…ですが、何だ。この際だ、腹を割って話せ。お前がこれから何を言おうが、私は処罰しない」
強引に押し通そうと思っていたが、クリスティエラの父親・グリンフィールズ公が面白いくらいに汗を吹き出しているので、言い分を聞いてみたい気分になった。
鷹揚に命じて、背凭れに背を預けて傾聴する格好を見せる。
彼はもう高齢の域に入るはずだが、どこもかしこも贅肉で丸々としているおかげか同じ年頃の者と比べてもしわがほとんど目立たず若く見える。
膨らんだ顔から眼鏡を外し、ハンカチで汗とレンズを拭いて鼻の上に戻してから、わざとらしく咳払いをした。
「……では、お言葉に甘えて申し上げます。
今回の原因は、すべて陛下に起因するものと我々は考えております。かねてから陛下は、王妃殿下に対して無慈悲が過ぎます。レティーシア王女殿下を身籠られてから、陛下は一度も王妃殿下をお訪ねになっていらっしゃいませんね。出産の際には立ち合いもなく、労いの言葉もなかったと聞き及んでおります。それではあんまりだと私が再三進言いたしましたが全くお聞き入れにならなかった。
エリス妃との婚姻を進めたのも、陛下が王妃殿下とお世継ぎをおつくりになられないからです。王妃殿下の反対を振り切って婚姻の儀を行った時のことを覚えていらっしゃいますか?大地が裂ける程の大地震が起きました。エリス妃が身籠った時もです。皇子がお生まれになった時は、2ヶ月以上に渡る大雨で国中の至る所が土砂と水に沈み、物流に大規模な影響が出ました。その大災害の傷は未だ癒えておりません。
その原因は大地の神と天空の神、二つの神の加護を持つ王妃殿下が酷くお心を痛められたからに他なりません。王妃殿下は陛下を心から愛していらっしゃいます。それなのに、他国の血に男児を産ませ、労いの言葉をおかけになり、お部屋にも頻繁にお通いになっていると聞いて、平静でいられるとお思いですか。
感情の抑止が利かなかったことは、確かに王妃殿下の過ちでしょう。しかしこれは日頃から陛下が王妃殿下にお心を砕いていらっしゃれば起こりようのなかったことです。全ては陛下がお招きになった事態です」
数分に渡って演説をした男の顔を顔色を変えずに見つめる。
「―――そうか。それで?本当に言いたいことはなんだ」
「…これを機会に、陛下の王妃殿下への扱いを改めてくださればと思っております」
返事の代わりに、はっと乾いた笑いが零れた。
それを侮辱と受け取ったグリンフィールズ公が目の色を変えて睨め付けてくる。
こんなくだらない進言に声を上げて笑わなかっただけ、褒めてもらいたいものだ。
「それはつまり、私が聖女・クリスティエラを丁重に扱わなかったせいで災害に見舞われ、民を苦しめ、外交を滞らせる原因を作ったということか」
「然様です。聖女は陛下と同位にして、我々が崇める神々のご意思でもある。聖女を大切に守り慈しめば、ひいては国を、民を守り慈しむことに繋がります。我々から見ても、陛下のクリスティエラ王妃殿下への冷酷ぶりは目に余ります。自重なさいませ」
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