十の加護を持つ元王妃は製菓に勤しむ

水瀬 立乃

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それぞれの春

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今日のアフターヌーンティーはみんなのお祝いの会だった。
ルフナとセインが無事に試験に合格して、春から晴れて騎士になることが正式に決定した。
同時に所属も発表され、ルフナは王宮内の警備全般を担当する第一騎士団、セインは王都警備を担当する第三騎士団に配属されることになり、ひと月後には家を出て寮生活が始まる。
夢が叶って喜ぶ二人の顔を見ていると自分のことのように嬉しくなる。
リゼちゃんはレティーシア王女の妨害を躱しきって無事に3年生に進級できたし、セリウス様は貴族学校に入学される。
おめでたいことが重なって浮かれてしまい、ホワンシフォンのデコレーションケーキを人数分作ってしまった。

「すごいわね…!とっても美味しそう!」
「わあぁ~!ホワンシフォンをワンホール食べられるなんて嬉しすぎますっ!ありがとうございます、お姉さま!」

お決まりのようにエリニス様とリゼちゃんが目を輝やかせて声を弾ませる。

「こんなに作って疲れたでしょ。紅茶は俺が淹れるから母様は座ってて」
「私が淹れますよ、ルフナ君!」
「ありがとうございます。でもブライトマン様はお客様ですから、お気持ちだけ受け取ります。これからはこうしてお茶を淹れて差し上げられる機会もなくなるでしょうし」
「そ、そうですか。ではお言葉に甘えて…」
「今日どうしたんですか?なんかいつもと様子違いません?」
「そんなことないよ?!食べ切れるかなーと思ってね…」
「無理に召し上がらなくても大丈夫ですよ。ご希望でしたら持ち帰られるように箱もご用意していますし」
「そうでしたか!それなら安心しましたよ~ハハハ!」

「ありがとうございます~」と妙に明るく振る舞うブライトマン様はセインの言うとおり少し変な気がする。
もしかしたら彼も息子の成長と貴族学校への入学が嬉しすぎて落ち着かないのかも知れない。

「セリウス様、春から一緒に貴族学校ですわね。よろしくお願いいたしますわ」
「ああ…こちらこそよろしく、リゼ」
「何か不安なことがおありでしたらなんでも聞いてくださいね。あの女…こほん、レティーシア王女殿下とは学年が違いますから、校舎内ですれ違うことはほとんどないかと思いますのでご安心下さい」
「ということはリゼともなかなか会えないってことだよね。それはちょっと寂しいかな」
「えっ?!」
「でも今までより会える機会が増えると思うと純粋に嬉しいよ。僕とすれ違っても無視しないでね?」
「そ、そのような無礼はいたしませんわ!」

無意識なのだろうけれど女性を口説き落とすようなことをさらりと言えてしまうセリウス様に、他意はないと知りつつも頬を赤らめているリゼちゃん。
二人の反応が初々しくて、なんだか微笑ましい。

「どうしたの、ステア?」
「あ…いえ、みなさんが笑顔でいるのが…嬉しくて」

感慨に耽っていたら気が付かないうちに涙がこぼれていたみたい。
エリニス様がハンカチを差し出してくれたのでありがたく受け取って瞼を押さえる。

「セリウス様のご入学おめでとうございます、エリニス様。心から祝福いたしますわ」
「あの子の為に泣いてくれたの?あなたは優しいわね…」
「私がこんなことを言うのは烏滸がましいことですが、セリウス様もエリニス様も私にとっては家族も同然なのです。もちろんリゼちゃんやセイン君もよ。本当におめでとう」

いつの間にかみんなに注目されていた。
こんなことで涙腺が緩んでしまったのが恥ずかしい。
心配顔を向けてくれている兄妹に微笑みかけると、二人は照れくさそうに笑顔を返してくれた。
キッチンにいたルフナも傍にきてくれて、宥めるように肩にのせてくれた手のぬくもりに安心する。

「ありがとうございます、ステアさん。俺にとってもステアさんは家族ですよ」
「俺もセインのこと兄弟みたいに思ってる。一番最初に声かけてくれたのがセインで良かった」
「おい…そういう恥ずかしいこと真面目な顔して言うなよな!」
「まあお兄様、もしかして照れていらっしゃるの?」
「うるさい」
「リゼも俺にとっては可愛い妹だよ。セリウスのことも弟みたいに思ってる」
「ルフナさん。騎士になってもまた剣の稽古に付き合ってくれる?」
「もちろん」

「いつでも連絡して」と微笑むルフナにセリウス様が嬉しそうに破顔する。
リゼちゃんはちょっと複雑そうな顔をしていたけれど、すぐに気を取り直してルフナにデートの約束を取り付けていた。
みんなのおかげでルフナにも兄弟のような存在ができたのだと思うと心があたたかくなる。

「ふふ、こうして賑やかなのも今日までと思うとなんだか寂しい気もしますね」
「そうね。でも私は寂しくないわよ。そのぶんあなたとお話できる時間が増えるってことだもの」
「そうですね。ありがとうございます、エリニス様。これからもたくさん遊びにいらしてくださいね」
「ええ。夫が嫉妬するくらい押しかけるわ!」

手を握って悪戯っぽく笑うエリニス様につられて私も笑ってしまう。
ちらりとブライトマン様を見ると、視線を泳がせてなんとも言えない顔をしていた。
彼は嫉妬していてもそうだと言えなさそうなタイプね。
元夫(ディブラン)とは違って…。

あれから彼は家を訪ねて来ることはなくなり、代わりに毎日のように手紙が届くようになった。
初めは無視していたのだけれど、ルフナが「手紙の返事はしたの?」と毎朝聞いてくるので仕方なく返事をしている。
真面目に返すのはなんだか悔しいからほんの数行だけ。
我ながら子どもっぽいことをしているとは思う。
でも私は彼のしたことをまだ心のどこかで許せていなかった。
再会するまではどうでもいいと思っていたのに顔を見れば翻弄されてしまって、この感情は簡単に割り切れるものではないと悟った。
私がいらなくなったから捨てたと正直に認めてくれたら…楽になれるのに。
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