十の加護を持つ元王妃は製菓に勤しむ

水瀬 立乃

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家族と思って(ルフナ視点)

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部隊長の部屋へ行くと、そこにいたのはコストルさんではなくグレイル様だった。
コストルさんは他の騎士から既に騒ぎを聞きつけていて、今は王女側の騎士達と話をしに行っているらしい。
「あそこに行くと誰彼かまわず色目を使ってくるから居心地が悪いんだ」と溜め息を零すグレイル様に、苦笑いで返した。
グレイル様は中性的で綺麗な顔をしているから、男女問わず人気がある。
もちろん人望もあって、騎士団に入団してからは特にそれを実感させられていた。

レティーシアの件を報告すると、グレイル様は目尻に涙を湛えながら大笑いした。
久しぶりに笑わせてもらったと言う彼は、どこか清々しい顔をしていた。

「彼女は祖父のグリンフィールズ公に甘やかされて育ってきたからな。反抗されたことなんてなかっただろう」
「慎重に行動しろと言われていたのに…申し訳ございません」
「そうだな…この件で君はしばらく注目を浴びることになるだろう。命知らずの若者だと。グリンフィールズ側も違う意味で目を付けるはずだ」
「……」
「…だが、君の行動は騎士として称賛に値する。君が庇ったのは騎士だが、あれが市井の者だとしたらどうだ?他の者に彼女を諫められたと思うか?君だからできたんだ。彼女の異母兄である君だから」

グレイル様の言う通り、俺はレティーシアに畏れも怖さも感じていなかった。
それは俺が彼女の兄だと知っていたからだ。
『脅威にはなり得ない』と彼女に言った言葉はやせ我慢でも何でもない事実だ。

「それに仲間の命を救ったのも確かだ。虫の居所の悪い王女の目に留まったのは運が悪かったが、彼らの自業自得でもある」
「…先輩方のことは、俺の未熟さであれほどひどい怪我を負わせてしまいました。もっと早く助けに入れたはずなのに…体が動かなくて」
「いいや、君のせいではないよ。君はよくやった。あと少し治療が遅ければ、騎士生命が断たれるかも知れないところだったんだ。誇りに思っていい」

こういう思いやりが慕われる理由なのだとは思うけど、上官としてもう少し厳しく注意してもいいのにともどかしく感じる。
先輩方が嫉妬するのも当たり前かと思えるくらい、特に俺には甘い気がするのは気のせいだろうか。
出会った時から何かと褒められっぱなしで、彼に優しい言葉をかけられると面映ゆい気持ちになる。
突然年の離れた兄ができたような感じだ。

「君を殴った先輩はまだまだ精神面に未熟さはあるが、騎士団に必要な戦力だ。上官としても礼を言う」
「…ありがとうございます。団の助けになれたのなら幸いです」

むずむずとした恥ずかしさを敬礼で誤魔化す。
視線を上げると、彼は何故かじっと俺の顔…顎の辺りを見つめていた。

「傷は平気か?少し切れているようだな。どれ、薬を塗ってやろう」
「えっ…いえ、平気です。自分でやりますから」

いくら目をかけられている自覚があるとはいえ、騎士団長にそんなことをさせるわけにはいかない。
だけどグレイル様は俺の言葉を無視して椅子から立ち上がり、壁の棚から塗り薬を取り出した。

「いいから、そこのソファに座りなさい。可愛い甥っ子のために私がしてあげたいんだよ」

そんなふうに言われたら断れない。
にこにこと楽しそうな彼の笑顔に圧し負けて、指示された通りに来客用のソファに腰を下ろす。
手ずから傷に塗ってもらうことなんて、母様や母さん以外にされた記憶がなくて落ち着かない。

「君はずっと父親が不在だったから慣れないだろうが、これは何も特別なことじゃない。我が子が怪我をしたら傷の手当てをするのは当たり前のことだ。もちろん私は君の父親ではないが、父親のような存在にはなれる。仕事上は上司と部下だが、家族と思っていつでも頼ってくれ」

もしかしてグレイル様は昨夜の話を気にしていたのだろうか。
彼がずっと悲しそうな顔をしていた理由がなんとなくわかった気がして、胸が熱くなる。

「後のことは上手くやっておくよ。明日からの警備も全体的に配置換えをするようにコストルに言ってある。安心して今夜はゆっくり休みなさい」

俺は素直に頷いて、大人しく薬を塗ってもらった。
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