『海色の町』シリーズ3部作

紬 祥子(まつやちかこ)

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第3話~空のおと~

彼女の婚約者(7)

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             ◇

 今日も、空はよく晴れていた。
 昼近くなるのを待って、良行は堤防へと向かう。木曜だからきっと来ているだろうと、半分確信、半分は期待で考えながら。
 あの砂浜に、やはり繭子は来ていた。これまでと同じように一人で、海を見つめ座っている。
 良行が階段を下りきる前に、気配に気づいたのか、繭子が振り返った。軽く手を振ると、微笑みながら振り返してくれた。
 再び海の方へ顔を向けた彼女に近づき、1メートルほどの距離を空けて、砂の上に腰を下ろす。
 こうやって姿勢を低くすると、波の音や潮の匂いをより近くに感じるのだと、知ったのはごく最近のこと。水平線──海と空の境界線で、それぞれの青さが溶け合った微妙な色が、鮮明に見えるような気分になるのも。
 繭子の婚約者は、この風景をどんなふうに見ていたのだろう。そんなことがわかるはずもないが、「彼」がこの海と空を強く愛していた気持ちは、今だから想像できる。そしてきっと、同じような強い想いで、彼女のことも愛したのだろう。
 ……繭子にこの砂浜での思い出を残して、空に旅立ち海に消えていった「彼」。
 「しばらく、図書館に来なかったわね。体調が良くなかったの?」
 繭子の問いかけで、はっと我に返る。そうだ、今日はそのことを話すのだったと思い出す。
 「いや、そうじゃないんだ。……実は、前の会社に戻ることになって」
 連絡があったのは1週間前の夜。総務の山辺からだった。
『調子はどうだ?』という質問に次いで、彼は、年度替わりに社内で大幅な人事異動が行なわれることを話した。
 『システムの内勤でも、何人かは外回りに移って、退職する奴も一人いるんだ。でな、奈良部課長は営業の方に行くらしい』
 奈良部というのが例の、反りの合わない上司である。
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